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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

隣の美少女がどうした

作者: 田口田

多くは語りません。

 

「あんたもいい年なんだから一人暮らししなさい」


 あたしが学生の時はね……。なんて昔の人間から言われたが為に、俺、新島ノゾミは高校2年の春からアパートに飛ばされることになった。ウチは一人っ子で金は余ってるからと追い出され、今日から自炊をしなければならないと思うと憂鬱である。

 別に運動部でも無いし、飯抜きの日があっても困りはしないが、毎日食事の風景を親に報告するという地獄のような制度のため、手抜きは許されないのだ。


 ともあれそんな一人暮らしが今日から始まるため、まずはお隣さんに挨拶をしなければならないだろう。


 親父の故郷で名産の和菓子を携え隣の部屋のインターホンを鳴らした。


 ガチャリ。


「あ」

「あれ?」


 果たして扉を開いて現れたのは、我が学年1の美少女と名高い、高島ハルカさんだったのだ。






 ◇ ◇ ◇






「あれ? 新島くん?」


 扉から顔を出した高島さんは美少女だ。サラリと流れる黒髪は日光を反射して煌き、顔は可愛さを散りばめながらその奥に言いようの得ない妖艶さを醸し出している。特に口周りとか。

 体格も小柄ながらに出るとこは出ていて、見るからに柔らかそうである。


「あ! もしかして新しいお隣さんって、新島くん?」


 そして何よりこの愛嬌が彼女の持ち味だ。大体の女子は可愛く振る舞うその裏でドス黒いものが蠢いているらしいが、彼女にはそれが無いのだと、俺の友達が豪語していた。

 俺も高島さんとそんなに交友関係が深くはないが、学校での様子を見るには確かに友達の言う通りな気がしている。


「そう、だけど……。ここ、高島さん住んでたんだ」

「あはは……。親に一人暮らししてみなさいって、言われちゃって」


 苦笑しながらそう言う高島さん。頬を掻きながら苦笑するなんて2次元だけの仕草かと思ったら、やっぱ美少女がやると違和感が無い。

 まあ、玄関先で話し込むのも良くないと、俺は土産を高島さんに渡す。


「わあ。これ貰っちゃっていいの?」

「そりゃ、まあ。とにかく、これからよろしくお願いします、ってことで」

「ふふっ。そうだね。よろしく! 新島くん!」


 と、眩い笑顔を向ける高島さんに殺されかけながら、俺の新生活が始まったのだった。






 ◇ ◇ ◇






 そんなこんなで既に1月経ってしまったのだが……。


「えへへ。お邪魔しまーす」


 何故か俺の部屋に高島さんが入り浸る状態になっていた。いったい何てラノベなんだ。俺、なんかやっちゃいました?


 という具合に不可思議な事になっていた。

 別に学校でよく話すようになった訳でもなければ、部屋が隣だからよく鉢合わせるという訳でもなく。いつの間にか、高島さんが俺の部屋に居座るようになっていたのだ。


「新島くん、新刊ある?」

「あるけど……」

「わ、やった! じゃ、ちょっと読ませて〜」


 という風に高島さんは俺の持っていた漫画に夢中になっていた。あれはバチバチの不良漫画なのだが、高島さんはそういうのから遠ざけられてたらしく、むしろ興味があったのだとか。


「お金使うと親に何買ったか教えないといけないからね」


 とのことで、一人暮らしと言えど俺と同じように親の束縛に悩まされているようだった。


 そして、彼女が集るものは漫画だけじゃない。


「高島さん。今日はどうする」

「あ、えっと……。ハンバーグ、とか?」

「ん、了解」


 そう、このお嬢様は飯も集りに来ていたのだ。

 高島さんは女の子女の子した外見を裏切るように、家事が出来ないのだった。1度彼女の部屋を訪れたのだが何だか凄いことになっていた。足の踏み場もないほど服が散らかされ、ゴミ袋は許容量の1.5倍は詰め込まれていた。しかもゴミの大半がコンビニ弁当。高島ペアレントはこれを容認しているのかと、戦慄したのを覚えている。高島さんも悪いと思いつつ、しかし染み付いた生活習慣から抜け出せなかったために、このような有様だと言う。


 美少女にまさかのギャップ。しかもネガティブ方面。

 俺はいたたまれなくなって、ついつい世話をしてしまったらそのままに懐かれてしまったという訳だった。


 今となっては晩ごはんを一緒に食べるというか、食べさせるというか。そんな関係になっていたのだ。


「ん〜、美味しぃ! 新島くんは良いお嫁さんになれるね」

「はいはい、こぼさず食えよ」

「もう、流石にそこまでじゃないよ!」


 と言いながら、たまにポロポロと飯をこぼすのを見て、もはや学年1の美少女と言うよりは手のかかる子供みたい印象に変わっていった。


「お嫁さんって言うより、お母さんかな?」

「ok、もー飯食いに来んな」

「わー! ごめんなさいぃ!」






 ◇ ◇ ◇






 更に季節が過ぎて6月も終わりかける頃。俺は高島さんから辱めを受けていた。


「ひゃ〜、想像以上に似合ってる! 可愛いよ! ノゾミちゃん!」

「……もう、殺してくれ……」


 どうも高島さんはオタク的趣味を持っておられたらしく、なまじっか俺もそういった知識があった為に、グイグイと迫られた。いろいろ幻滅したとは言え、美少女に迫られて断れる童貞は居ない。居ない!

 ので、あれよあれよという間に今度開催されるコスプレイベントに参加しようという、訳の分からない事になっていたのだ。


 しかも何故か女装。

 高島さん曰く、とあるアニメの主人公の友達が第6話で変身する前の格好らしい。流石に履修しておりません。

 が、絶対似合うよ、と押しに押され言われるがままになっているのだ。ちなみに高島さんは主人公が2期でサードフォルムに変身する時の私服の格好だそうだ。


「ねぇ、ノゾミちゃん……。ホントに私のお嫁さんになって?」

「っ!……もっと、TPOを弁えてからそういう事を言え! あと、何で俺が嫁なんだ……!」


 俺の手を取り指を絡めてのこのセリフ。この状況で言われなかったらラブコメだったのに、これはもはやギャグコメディーだ。

 好意を向けられるのは嬉しいし、何なら相手は学年1の美少女だ。吝かでないどころか、こっちからお願いしたいくらいではあるのだが、色々とおかしい。


 てかホント何で俺が嫁なんだ?

 実は女装自体は少し前から強要されていて、その度によく分からないプロポーズを受けているのだ。で、その状態で鏡を見たことが一度もないから、俺がどんな見た目になっているのかを把握できていない。

 実は俺の女装は美少女を凌ぐのだろうか? ただ、一般男子高校生的にはかわいい女子の前では、男でありたいのだが。


「あぁ……。じゃ、ノゾミちゃん。あのセリフを言って下さい。お願いします……。それで、満足だから……」

「う、それでもう終わっていいんだな?」


 あのセリフ。高島さんが大好きだという名シーンは、俺も何度も見せられた。


 窮地に立たされた主人公を颯爽と助けた友人が、適役を撃破した後に主人公に放った言葉。一人で生きてきた友人に他人の温もりを教えた主人公への、恩返しの名シーン。


「『あたしの隣には、貴女だけが居て欲しいの。お願い、ハルカ』」


 恥ずかしくて泣きそうで、声も震えていた。しかし、幸か不幸か原作でも友人が涙ながらに放ったセリフだったのだ。思わず完全再現をしてしまったがために、オタクハルカの琴線に触れてしまったらしい。


「……うわぁぁぁ! ノゾミぃぃぃっ!」

「うわっ!」


 感極まって高島さんが抱きついてきた!

 思ったより強い力で抱きつかれて身動きが取れず、俺はただ美少女の柔らかい体に拘束されるだけだった。それだけなら男として役得だったが、高島さんの様子を伺うとそうも言ってられない状況だった。


「んんん! ノゾミぃ! 私が、幸せにしてあげるからねっ! 可愛い、可愛いよおっ! ノゾミぃ!」


 俺はただ心の中で泣くしかなかったのだった。






 ◇ ◇ ◇






「ごめんね、取り乱しちゃって」


 と、あれからしばらくして高島さんが満足したらしく、今日はお開きとなった。俺としても、嬉しいやら恐ろしいやらで色々疲れてしまったので、今日はもう休みたくなっていた。

 コスプレを脱ぎ、なんてことの無い普通のパーカーの安心感に包まれながら、一呼吸置くと──。


 ピンポーン


 と、インターホンが鳴らされた。

 疲れてた俺は思考停止して玄関へと向かう。


「あ、待ってノゾミちゃん! お化粧がまだ──」


 高島さんが声をかけたのと、俺が扉を開けたのは同時て、気づいたときには遅かったのだ。


「はじめまして、今度隣に越してきた……。って、もしかして新島!?」

「あ」


 扉の先には、自称平凡こと篠崎ダイキという、学年1のイケメンが立っていだった。



 体育祭ではノゾミとのデートを賭けて、ハルカとダイキが決闘したりします。

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