部活日誌
うるさい音に起こされた僕はゆっくりと目を開け、目覚まし時計を手に取って時刻を確認し飛び起きた。
「やばい、遅刻する」 僕は急いでパジャマを脱いで、制服に着替えると急いで階段を駆け降りた。顔を洗うために洗面所に行くとそこには呑気に鼻歌を歌いながら髭を剃っている兄がいた。「兄ちゃん、ちょっと洗面所使いたいからどいて」というと兄は笑いながら、「どうした明、初日から遅刻か」と言った。僕は答えるのを面倒くさがりつつも頷くと、兄が「もしあれだったら、車で送ってやろうか」と提案してきたので、僕は即座に「ありがとう」とお礼を言い兄の軽自動車に乗ることにした。
車に乗ると兄が話しかけてきた「しかし、明が寝坊するなんて珍しいね」「中学の時と同じ時間に目覚ましをセットしていただけ、だから明日からは大丈夫」「あんな山の上にある高校じゃなくてもっと近くの高校にすれば、もっとゆっくり眠れたのに、どうしてあの学校を選んだん?」「いろいろあるんだよ」「そっか、同じ中学の友達とかはいんの?」「いない」「大丈夫か、ちゃんと友達できるか」「うっさいな」どうも兄は僕のことを小学生みたいに思っている節があるので可愛がってくれてありがたいのだがうっとうしい。そんなことを話していると学校の校舎が見えてきた。知り合いがいるわけではないが登校初日に兄に送ってもらっている姿を見られるのが恥ずかしい僕は「ありがとう、ここで降ろして」と言った。兄は校門まで送りたそうにしていたが、なんとか説得して降ろしてもらった。「頑張れよ」と一言残して兄は大学に向かった。「いわれなくても頑張るよ」と内心で思いつつ、僕は「おう」と答えた。
車で送ってもらったので予想以上に早くついてしまったらしい。通学路には上級生らしい人達が新入生歓迎の準備をしていた。部活の勧誘をするつもりらしい彼らはそれぞれのユニフォームを着てベニヤ板の看板をたてかけて新入生をどう勧誘するか相談していた。「野球部」「サッカー部」「水泳部」「硬式テニス部」「陸上部」など書いてある。やっぱり、体育会系の部活が多いなと思いながら、勧誘されないように遠巻きに眺めていると、一つ不思議な集団を発見した。他の部活は統一した格好をしているのに、その不思議な集団だけ統一感がなくバラバラで勧誘のやる気もなさそうなのだ。どんな部活だろうと思って近づいてみるとすごくやる気のなさそうな文字で「研究部」と書いてあった。何を研究する部活なんだろうと僕は思いつつ、新入生オリエンテーションの時間になったので僕は急いで体育館に向かった。
体育館の前にある掲示板をみると、どうやって座ればいいかが乗っていた。どうやら、この1列が1クラスになるみたいだ。周りでは「やった一緒だ」「同じ中学のやつがいない」とか一喜一憂が聞こえてくるが、あいにく僕は同じ中学の人がいないのでハズレも当たりもないのである。自分の名前である「足立明」を探すとどうやら自分は3列目すなわち三組になったらしい。列は出席番号順に並ばないといけないらしくあ行の宿命として僕は先頭になった。オリエンテーションでは校長先生が何やらどこでもやるような同じ長い話をした後、ジャージを着た厳しそうな学年主任の先生が担任を発表する時間となった。「一組の担任は佐藤先生、二組の担任は田所先生、三組の担任は鈴木先生、四組の担任は宗田先生、五組の担任は近藤先生になります」と言われた。僕の担任の鈴木先生は髪を後ろでまとめているスーツを着た女性だった。僕らは新入生なのでいい先生かどうかわからずとりあえず拍手をした。「それではこの後はそれぞれの先生について行って各教室に向かってください」と学年主任の先生がいい。みんなで体育館を出て教室に向かうことになった。体育館を出ると上級生に囲まれて様々な部活のチラシをもらった。ただ、もらったチラシの中には研究部のチラシはなかった。
鈴木先生は教壇の前に立つと淡々と、「鈴木里子です。担当教科は数学です。皆さんと一緒に成長していけたらいいなと思っています。」と自己紹介をし、「みなさんのことが知りたいので、自己紹介してください。今日は4月3日なので4かける3で12番の佐藤さんからお願いします。」と言った。僕はこの先生は自己紹介を出席番号順に始めなかったのでちょっとだけ好きになった。クラスの真ん中の席から背の低い女子が立ち上がり「私の名前は佐藤圭です。東中学出身です。映画が好きです。気軽に圭ちゃんと呼んで欲しいです。」と早口で言い座った。佐藤さんは人前が苦手なのか顔を真っ赤にしていた。僕は佐藤さんは小さく小動物のようなので人気が出るだろうなとぼんやり考えた。それから、様々な人が自己紹介をして行った東中学出身の人が多いみたいだ、僕の番になった。「足立明です。南中学出身です。中学では陸上をやっていました。よろしくお願いします。」と僕は毒にも薬にもならない無難な挨拶をした。そうして、全ての自己紹介が終わると、鈴木先生は細々とした注意をした後に「うちの高校は部活のどれかに所属しなければならないから4月の後半までに決めるように、それでは解散」と言い出て行った。「ねえ、どの部活にするか決めた?」と後ろの席の人から話しかけられた。たしか、彼は佐藤さんと同じ東中の「上田涼太」君だ。「まだ、決めてない」「陸上していたなら、陸上部に入らんの?」「高校では別のことをしたいと思って、上田くんは決めたの?」「呼び捨てでいいよ、野球部に入ろうかなって思ってる。」「練習大変じゃない?」「甲子園に行きたいんだ」と上田くんは真っ直ぐな笑顔で言った。僕は上田くんが夢を持っていることがすごいなと思った。「あのさ、研究部って知っている?」と東中学出身の上田くんなら知っているのではと思い聞いてみた。「研究部 聞いたことないな、野球部の新入生練習が始まるからいくわ、また明日」「うん また明日」結局、研究部のことはわからなかった。