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08話 探索の道のり

 その初老の長ったらしい名誉を省略するなら、入り口を見つけた者に多額の報奨金と探索優先権を与えるというものだった。


 死んで生まれて生まれて死んで。

 

まるで決められたように生と死を何度も繰り返すあの奇妙な世界は、ノアが見たどの衝撃より異様で恐ろしく、そして未知に満ち合溢れていた。

 新しい資源や鉱物といった遺物が際限なく溢れでる場所なのだ。

 教会はあの『災禍』を神の御業というが、あながち間違いでないかもしれない。あんなことが人為的に行われているとしたら、それはもはや災害ではない。命を弄ばんとする人間のエゴだ。

 それでも、そんな危険な場所に潜りたがるのは、ひとえにそれだけ奈落に潜む遺物が魅力的な証拠だろう。現に地下で暮らしたノアも慣れさえすれば生活には困らなかった。


 それだけ、地下大地は恵みに満ち溢れている。

 

 そして、そんな魅力的な理想郷の探索優先権を一か月得られるとしたら、地上でどれだけの利益を上げられるかなどわかり切ったものだろう。

 言葉を締めくくり、それと同時に勝鬨や雄たけびを上げる大人たちの声は、森と大地を震わせるにまで至った。


 いくつかの班分けがなされたらしく、五人一組で行動することとなった。

 こればかりはジェイも納得しておらず、当初は話が違うと教会側の初老に抗議していたが、頑なに認められなかった。そして最後には役職持ちとは思えない表情で初老の男性を睨みつけ、いまはノアの隣で不貞腐れた顔をしていた。


 全員でいっぺんに入るには祠が小さすぎるための措置だろう。くじ引きの末、シオン、トール率いる第二部隊が最期に出発することとなり、ノアとジェイ率いる第一部隊が『先遣隊』となった。


「では、準備はよろしいかな? 先ほども説明しました通り、第一部隊全員が下に降りましたら十分後に次の組を地下に向かわせます」

「ふん、何度も言わせるな。早く進ませろ」

「よろしい、では聖神のご加護があらんことを」


 約二十組。シオンたちが出発するのは約三時間後。

 初老の落ち着きを払った声に古い祠の扉がゆっくりと開かれた。

 

 中に入ると、祠というよりかはどこか神社に近かった。

 正面には何かの神様を祀っているんか、顔のない銅像が放置された月日を思わせるようにさび付いている。一応ほこりなどは取り払われているが、本来建物に『あるべきもの』がそこにはなかった。


「床が、抜けてる」


 後ろにいる誰かが口にしたのだろう。

 それでもその驚きかたは納得できるかもしれない。なにせ、銅像の前の床が抜けているかと思ったら、三人並んで入れるか入れないかというような天然の石階段が続いていた。

 階段の奥は暗い闇で全く見えず、いったいどのくらい下まで続いているのかわからない。


『なるほど隠し部屋か。この地下に様々な道が続いていると見た』

 

 感心した魔王さまの声に被せるように、ジェイが時計を見ながらイライラした様子でノアを叩いた。


「何をしている。さっさと偵察してこい」


 ジェイの落ち着きのない声に、他の三人も当惑した顔で顔を見合わせている。

 どうやら後ろの三人はまだまともらしい。それでもジェイの言葉はもっともなので、ポーチから取り出した携帯型ランタンををかざして階段の奥に進んでいった。


 魔王さまの推察した通り、階段の続く先は大きな洞窟だった。

 暗闇で全体を把握しきれないが大きなトンネルや、坑道を思わせる造りだ。まっすぐと続く洞窟は明かりの灯る周辺を拒むように洞窟の先を隠しているようだった。


「魔王さま一つ質問いいですか」

『なんだ? ……ああ、言わなくても分かった。なぜ組を分ける必要があったかだろう』

「ええ、ここまでの広さだったら別に組み分けしなくてもいいような……」


 すると頭のなかで大きなため息をつかれた。

 もちろん、頭の悪い生徒を見ているような呆れた声だ。しかし、それでもきちんと答えてくれるのが魔王さまのいいところでもある。小さく前置きを口にしたあと、ダメな子でもわかるようにかみ砕いて説明してくれた。


『やはりお前の頭はまだ平和ボケしているようだな。……考えてみろ、巨万の富を得られるかもしれないチャンスをみすみす逃すような奴らか? どうせ全員で言ったら騙し合いやら足の引っ張り合いやらで面倒なことになるに決まっているだろ』


「ああ、なるほどだから教会は無駄な争いを避けるために組み分けしたんですね」


『まぁ教会の目的は入り口が探索であるというのも一つだがな』


 そういうと突然耳元で軽快な電子音が鳴り、目の前でジェイと表示されたパネルが現れた。

 どうやらまだ地上に繋がっているらしい。どういった原理で通信できているのか知らないが、とりあえずパネル押すと苛立ちげに声を尖らせるジェイの声が聞こえてきた。


『遅い。……それで下はどうなっている。安全か?』

「はい、見たところただの洞窟です。生き物は……いまのところ見られません」


 するとすぐブチっと通信が切れて、しばらくして恐る恐るといった様子で四人が上から降りてきた。

 眼鏡を掛けたジェイを先頭に、たまたま人数があぶれてしまったという他の若い青年たちがゆっくりと下りてくる。

 どうやら時間を潰す間に、マウンティングを終えたらしい。何を言われたのか知らないが、彼らの間で明らかに上下関係ができている様子だった。

 そして実質的なリーダーを勝ち取ったジェイが、携帯用ランタンをかざしてあたりを観察していた。


「ふむ、見たところ本当にただの洞窟ではないようだ。どれ、時間もあまりない。さっさと行くぞ」


 各々の返事も待たずに、勇み足で進むジェイの前をノアは慌てて進み出で、警戒して歩いていく。

 明かりが五つもあれば、洞窟の全容もある程度分かってきた。一つ言えることはここはどうやら天然で出来た洞窟ではないらしい。明らかに人の手が加えられているのか、粗削りに掘られた跡がある。

 ごつごつとした岩場は不安定で、相当昔に使われた経路のように思える。 


 ということは当然、地下の入り口があるのは確かなわけだが、こんな数十メートル下りた地点にあるわけはない。そうなると道中になにが待ち受けているのかわからないことになる。

 一応、魔王さまにこっそり周囲に生き物がいないか聞いてみると、


『今のところは見られない。わかるのはなだらかな道なりをゆっくり下っていることぐらいだろう。まぁ一日で目的地にたどり着くのは無理そうだな』


 とのことだったし、それに関してはノアも同意見だった。

 ノアのいた『最果ての森』ですらどのくらい地中深くにある世界だったのかわからなかった。千メートルかもしれないし、もっと深いかもしれない。ただ少なくともいえるのは、あの奈落がこの世で一番浅いところであり、ましてや昇降機が必要になってくるほど深いという事だけだ。


 入り口と言ってもどういう形なのかわからないノアにとっては、ただジェイの指示された道を進んでいくしかできなかった。

 深度計を見やれば、すでに一キロは潜ったところだろうか。

 分かれ道を右に、左に。時には中央にまっすぐ進んでいく。そのたびに立ち止まってポーチから取り出した地図を広げ、不慣れながらも歩いたルートを書き綴っていくを繰り返した。


 そうしてかれこれ一時間潜っていくと、何もないという状況が周囲全体の空気を緊張から解き放つようになる。

 緊迫した様子の男三人も、少しだけ余裕が生まれたのか後ろから何かを語らう声が聞こえてきた。

 横を見やれば、未だに鬱陶しそうに後ろの男たちを一瞥するジェイの姿が見える。煩わしそうに首を振るが何かを言う気はないのか、すぐに視線を前に向けズンズンと目的地に向けて歩を進めていた。

 すると――。


「ねぇ君――」


 後ろから突然肩を叩かれて、ノアは飛び上がって後ろを振り返った。

 そこには茶髪の青年が立っていた。

 

「あ、驚かせてごめん。その、ちょっといいかな」

「えっと、なんでしょう?」


 ノアの驚いた顔に驚いているのか、小さく苦笑したのちに青年はノアにもう一度話しかけてくる。すると、立ち止まって振り返るジェイが青年を見て不快そうに眉をひそめた。


「……わたしの護衛人に何か用かな。ローナン君」


 ローナンと呼ばれた青年はあの男たちのなかでは一番若そうだった。実際に見れば確かに若い。二十代前半だろうか。クシャクシャの癖っ毛を軽く掻き、ジェイを見ると申し訳なさそうに腰を折った。


「あ、いえ。地下に潜ってそろそろ一時間たちますし。司祭様のお話ですと長期間の任務になりそうなんで、そろそろ休憩してはどうかと思いまして」

「ほう、休憩を……君たち『ディアハート』は自分たちがどれほど暢気なことを言っているのかわかっているのかね? いいかね。これは競争だ。長期間の探索になるからこそ少しでも早く進んでおく必要があるのだよ」

「ですが――」


 そう言って、ローナンの視線が数十センチ下に向けられる。

 その視線をジェイも察知したのか、今度は呆れたように鼻を鳴らし、わざとらしく小さなため息を吐き出した。


「『これ』に気を遣わなくても結構だよローナン君。この髪を見てのとおり彼は劣等種だ。この程度の長距離で疲れるような珠じゃない。そうだろう?」

「え、あ、はい――」


 思わず話を振られて曖昧に頷いてしまった。

 確かに疲れてはいないが、それでも流されて返事をしてしまったのはなんだか癪だ。

 しかし、それを良く思わなかったのか、後ろで狼狽える二人の同僚の顔も気にせず、ローナンの口から明らかに不満のある声が上がった。


「でしたらなおさら休憩するべきです。探索は常に連携が命取りになると聞きます。彼が劣等種だから平気と言っても、我々の方がばててしまってはそれこそ本末転倒です」

「それでは君は、たかだか一時間程度の散歩に疲れてしまったと?」

「ええ。慣れない武具なんか着るもんじゃありませんね。足腰が震えちゃって仕方ありませんよ」


 ジェイの嫌味をまったく気にしていないように言い放ち、造り笑顔を見せるローナン。

 しばらく何かを考えるように顎に手を当てるジェイだったが、後ろの二人を一瞥したあと小さく舌打ちして、周囲を見渡した。


「確かに、君達にここで足手まといになられては私も困る。幸い周囲に化け物の姿は見当たらないようだ。後々の探索に支障をきたす前にここは君の提案を呑むとしよう」

「ありがとうございます!!」


 そう言って、「弱小企業が」と小さく悪態をつくのノアは聞き逃さなかった。

 それでも見えないように小さくウィンクするローナンを見て、ノアはどこかおかしくて小さく噴き出した。



 十五分間の休憩という事で、それぞれは荷物を下ろして小さく息をついた。

 明かりを灯すのは携帯用ランタンではなく、探索者御用達の小さな『火種石』だった。

 火を起こせばたちまち半日燃え続けるという代物で、水をかけて乾かせば何度も使えるとシオンが力説していたのを覚えている。


 人工物ではない明かりが洞窟を満たし、温かい熱風が洞窟に吹き荒れる。

 

 バチバチと爆ぜる音共に、太陽が出ていないぶん洞窟内の気温が地上より寒いことにいまさらながらに気付いた。

 輪を囲むようにして暖を取る三人組。その輪のなかには当然ジェイは含まれておらず、少し離れたところで持参したドリンクに口をつけている。ノアは護衛という事もあり、マントを深々と首元に寄せ周囲に異変がないか目を光らせていた。

 すると、後ろでノアを呼ぶ声が聞こえた。どうやらさっきの若い青年のようだ。ノアが気付いたことを知ると、何度も招き寄せるように手を振っている。


「こっちおいで」


 しかし持ち場を離れるわけにはいかない。困ったように一瞬だけジェイに目配せすると、ジェイが顎をしゃくって合図した。

 どうやら行ってもいいらしい。


 ローナンに招かれてノアは三人の小さい輪に加わった。

 やはり、体が冷えていたらしい。火の前にあたると緊張していた身体がほっと緩むのが分かった。 

 そして促されるままに手頃な岩に腰かけると、ローナンのポーチから携帯食料を差し出され、唐突に頭を下げられた。


「ごめんな!! 余計なこととはわかってたけど放っておけなくてついお節介を焼いちゃった」


 なんのことだかわからず目を瞬いていると、横に座る毛もくじゃらな男が小さくせせら笑いノアの正面に座るローナンを軽く小突いた。


「なぁローナン。おめぇの気持ちもわかるがあの人に目ぇつけられた面倒なことになるってさっきいったばかりだろうが。こんな子供にまで気を遣わせやがって、見ろ困ってるじゃねぇか」


「……でもセンバスさん。あなただってこの子の不当な扱いに腹を立ててたじゃありませんか」


「いや、ファッジそりゃそうだけどよぅ。何もあんな食って掛からなくたっていいだろう。あいてはあのラフィエルさまだぜ? 社長が聞いたら泡拭いて倒れるんじゃねぇか」


「そりゃ見ものでしょうよ」


 そう言って、ローナンが笑い後に続いて、やや年を食った二人が豪快に笑った。

 どうやら、会話が聞かれているとは考えていないらしい。

 一瞬だけジェイの方を一瞥してみれば、まるで聞こえていないようにしているが額に浮かぶ青筋は隠せていなかった。


 会話に置いてけぼりのノアは、ただその成り行きを慌てたように眺めることしかできず、その状態に気づいたのか、豪気な口ひげをたわわと蓄えた男がノアに向き直った。


「おっとすまねぇ。年寄りの愚痴に付き合わせっちまった。俺の名前はセンバス=ローリング。このなかでは一番年上になるのか? 一応『ディアハート』の探索リーダーってことになってる。そんでもってこの小太りの中年が――」


「ファッジ=レジスラーです。まぁ普段は製鉄担当なんかをやらせてもらってます」


「で、こっちの若ぇ無鉄砲がうちの新人のローナン=バクチダって言うもんだ」


「ちょっ!? 無鉄砲って何ですかセンバスさん!! それじゃあ印象最悪じゃないですか。……あー、迷惑だったらごめんね? つい見てられなくて、センバスさんが言ってたけど俺の名前はローナン。えっと、君の名前は?」


「ノアです。ノア=ウルム。『アルセクタ』から派遣された新人です。まだ見習いなんで皆さんに迷惑かけると思いますがよろしくお願いします」


 そう言って差し出された右手を握り返すと、三人に動揺が広がった。

 隣に座るセンバスが目を丸くしてノアを見ているのがわかる。その深い栗色の瞳はノアの心を覗くように見つめ、携帯食に噛り付き、ゆっくりと飲み下した。


「なんだ、おめえさん。クローディアの嬢ちゃんとの子か。――はぁ、つうことはあの兄ちゃんの雇われってことな。なんとも面倒な客に捕まっちまったなぁおい」


「いいやそんなこと――それより、クローディアさんをご存じなんですか?」


「ん、まぁな。それよりなんでお前さんみたいな子供がここにいる。――たしか嬢ちゃんは年長組以外に護衛の仕事なんざ任せなかったような気がしたが」


「あ、それは――」

 

 なんと言えばいいのかわからず言い淀むと、センバスが耳に顔を近づけて「楽になっちまえよ」と楽しげに脇を小突いてきた。

 どうやら話の関心がそっちの方を向いてしまったらしい。観念して、クローディアの顔に泥を塗らない程度に、任せられる人がいなかったという話を掻い摘んで口にすると、センバスは神妙な顔で頷いた。


「なるほど人手不足ねぇ。まぁどこも同じようなもんだ」


「はぁーそれにしても、幼いのにしっかりした喋り方だ。ローナン君もノア君を見習うといい。こういう慎重さが君には足りないような気がするからねぇ」


「――ちょ、ファッジさんまで俺を無鉄砲扱いするんですか? そりゃあ、確かに取引先でいろいろやらかすけど」


 ちょっとじゃないよね、と言われてさらに落ち込むローナン。

 ノアの周辺にはいなかった類の人種だ。おどけるようにしてもきちんと周囲に気を配っている。

 こういう他人の空気を読める人だから年代が違う二人にも好かれているんだな、と思いつつ、ノアのなかで妙なひっかりがあることに気付いた。

 

 そして小さく声を上げると、三人の視線が一気にノアに集まった。もう何か口にしなければいけない雰囲気になり、ノアは恐る恐る顔を上げた。

 

「あの、一ついいですか」


「なにかね?」


 愉快そうに禿げた頭を撫でるファッジがその焦げ茶色の瞳をノアに向ける。

 一瞬言っていいのか迷い言い淀んでいると、促されるようにノアの肩に大きな手が置かれ、あれほど詰まっていた言葉がすんなりと口から零れた。


「あなたたちは僕のことを怖くないんですか?」


 それこそ驚いたように三人は目を見開き、三人が三人顔を見合わせた。 

 そして憐れむような表情は微笑に変わり、最後には苦笑へと姿を変えていく。

 その表情の意味を解りかねて思わず腰を浮かしかけると、後ろで準備の整ったジェイの声が飛んできた。


「時間だ。そろそろ先を急ぐぞ」


 ジェイの苛立ちげな声に、各々は立ち上がって荷物を肩にかけた。

 「さっさと来い」というジェイの声がノアを叩き、慌てて立ち上がるとその動きを引き留めるように、ノアの肩に薄く皴の寄った手が置かれた。

 見上げればそれはファッジの手だった。

 ノアを見下ろす焦げ茶色の瞳が、火種石の炎を反射して柔らかい光を放っている。


「ノア君。確かにこの世界では君達をそういう眼で見るような人がたくさんいる。……けど、みんながみんなそうだとは思わないでくれ」


 その口から零れる言葉も温かいものだった。

 そう言って小さく微笑み、前に進んでいくファッジのあとを追って、センバスがノアの背中を勢い良く叩いた。

 あまりにも唐突だったのでバランスを崩すと、しってやったりという子供っぽい表情がセンバスの顔に刻まれている。蓄えた口ひげをもごもごと動かし、ファッジの言葉を繋げるように豪快な笑い声が響く。


「まぁつまり、そんな細けぇこと俺たちは気にしねぇってこった。ほらさっさと行くぞ。あのうるせェ兄ちゃんを黙らせなきゃいけねぇ。あれでもリーダーだからよ」


 不格好なウインク見られて、吹き出すローナンの頭を思い切り小突くセンバス。

 どうやら照れているのか下から灯るランタンの光に映し出される顔はどこかほんのり赤かった。


 それでも、ノアは彼らの言葉を咀嚼するように、心のなかでかみ砕いていた。

 

 ……そういう人もいるのか。

 

 自分の固定概念が内側からバラバラに砕け散るのを感じ、それと同時に、胸の内側に灯った炎が身体全体に広がり、燃えるような思いが駆け巡るのを感じた。


『新たな世界を感じたか? 人間』


 慈しむように語る魔王さまの言葉に、身体が勝手に震えだした。

 これはきっと喜びだ。

 床に置いた携帯用ランタンを掴むと、ノアは彼らの後を追った。

 その足取りは不思議と軽かった。


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