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07話 サプライズは突然に

 そこはまるで自然公園のような場所だった。

 目の前に広がる緑には一切の人工物がなく森や小川、そして小鳥のさえずりがノアをどこか遠くに連れて行ってしまったようにさえ感じた。

 しかし見れば、何人か等間隔に黒いローブを着た牧師風の男たちが森を囲んで立っていた。


「彼らは――」

『見るからに教会の使い走りのようだな。見ろ人間。あの首に下げた紋章をよく覚えておけ、もしかしたら今後世話になるかもしれん』


 それは銀で出来ているのだろうか。二重の円のなかに色付きの赤い球が浮いているように見える。

 どういう原理で浮いているのかはノアにもわからないが、まるで地球のマントルのように赤く燃える紋章は男たちの胸の上で煌々と輝いていた。

 ジェイはその男に話しかけ、何かカードのようなものを提示すると恭しく道を譲らた。

 おそらく身分証のようなものだろう。素早くそれを胸ポケットにしまうと、


「ついてきたまえ」


 そう短く言って歩き出した。ノアの歩幅を全く考えずズンズン独りでに進んでいくジェイ。

 慌ててジェイの後ろについていけば、そこは無痛の森とは違う匂いがした。

 爽やかというより、どこか懐かしいと思わせるような匂い。

 まるで一ページごと本をめくるような間隔に自然と胸が高鳴っていくのがわかる。それに人工物や、豊かな町並みを見慣れてきたノアにとっては、こういった自然豊かな土地は久しぶりだった。

 思わず、辺りをきょろきょろと観察していくと、明らかに踏み慣らされた草むらが道を作って伸びているのに気付いた。どうやら先に来たのはノアたちだけではないらしい。

 一向に目的地を口にしないジェイだったが、五分ほどして獣道は唐突に姿を消した。


 照り付ける太陽に顔をしかめ、ゆっくりと目を開ける。

 するとそこは建設中と言わんばかりの工事痕が広がっていた。


『森が切り開かれているな。まるで突貫工事を思わせる雑なやり方だ』


 ノアの心を代弁するように魔王さまの声にノアは大きく頷いた。


 あれほど自然に満ちた森が雑に開拓されているさまを見て、ノアはあからさまに顔をしかめた。

 木々は横に切り倒され、森の端に積み立てられ、ぼうぼうと生い茂っていたであろう草花は無残に刈り取られて大地が素肌を曝している。

 そこに住んでいたであろう動植物を荒らす姿に、少なからず不快感が胸の内に滲みだすなか、十人ほど入れるような古びた祠に、目視しただけでも三十人ほどの人間がたむろしているのに気づいた。


 おそらく、教会が依頼した企業の人間なのだろう。

 皆、すでに地下専用の装備で身を固めており、シルバーフェイスの十字の刻印の入った聖騎士もいれば、鈍色の甲冑で全身くまなく囲ったものまで様々だ。


「我々が最後のようだな。どれ、私も準備してくる。君はここで待ちたまえ」


 冷たく言って、ジェイは首を絞めていたネクタイを緩めると、教会のものだろう。黒いローブに身を包んだ初老のもとにまっすぐ突き進んでいった。

 何かを話しながら、一度こちらを一瞥してから、再び会話を再開しているのが見える。


『おそらく、自分が下等な生物を護衛しに来たことを知られたくないのだろうよ。権力を持った者ほどああいうプライドは謙虚に表れる』

「それは激しく同意しますけど、そうなると魔王さまも同類になっちゃいますけど」

『私か? ――ふん、私ほどの権力者ともなればそれこそ何もせずともよい。なにせ向こうが勝手に跪くのだからな。……まぁ、それゆえ手にできなかったものも多くあったが。――それより後ろに注意だ人間』


 自嘲気味に笑う魔王さまの言葉のあとに、気配もなく肩を叩かれて飛び上がった。

 後ろを振り返れば、もう一度驚く羽目になる。

 なにせ、してやったりといった顔のシオンが立っていたからだ。


「ふふ、少しだけ驚かせたくてね。お姉ちゃんに黙ってついてきちゃった」

「ついてきちゃったって――、確か仕事があるんじゃなかった」

「あら、わたしが仕事を放り出して市場に走るような人間に見えるの? ちゃんと終わらせてきました。もちろん、お姉ちゃんには連絡をやったわ、この仕事が終わってからつくように」


 ふふん、と得意げに笑うシオンはその小さな体を逸らせて得意そうに微笑んだ。

 しっかりしていると思ったが、どうやら彼女はクローディアの姉妹らしい。意外とお茶目だ。

 そして――


「久しぶり、こんなところで会うとは思いもしなかった。君もこの任務に?」

「はい。ぼくもまさか、こんなところで再開するなんてね夢にも思いませんでした」


 差し出された右手を固く握りしめ、ノアは『少年』を見上げた。

 一見、少女と見間違うほどのメイドさん。

 ノアも初対面の時に騙されて恥ずかしい思いをしたが彼は男だ。

 今回は帽子をかぶっていないのか、濃い青藍色の髪に右耳の後ろから頭の形に添うように立派な角が一本だけ生えていた。

 華奢な体を隠すように身に着ける黒を基調にした肩だしゴスロリメイドスタイルは相変わらずだ。白いフリルと喉仏を隠すように巻かれた白いレースのチョーカーが『彼』をより少女たらしめている。

 

 意外そうにシオンがノアとトールを交互に見つめた。


「あら、あなた達知り合いだったの?」

「はい、妹君さま。ノア君は二週間くらい前に『モドジューヌ』の店で出会いましてね。」

「え、妹君さま?」


 不思議そうに首をかしげると、トールはノアの様子を見て声を上げ「申し遅れました」と改めて恭しく礼をした。


「こちらにおりますシオンお嬢様にお仕えする。メイド長補佐のトールと申します。以後は同僚としてよろしくお願いしますノア君」

「あ、はい。そのこちらこそよろしくお願いします」


 イタズラっぽくウィンクし、深々とお辞儀するトールの仕草に続いてノアも慌てて深くお辞儀をした。

 なんだか知人にこんな他人行儀な格好をさせるのはなんだか変な感じだ。

 それをみておかしそうにクスクス笑うシオン。そして簡単な挨拶を交わしたあとで向き直るトールに彼女は詰め寄るように顔を近づけた。


「それで、わたしは誰にも告げずにここに来たんだけど、どうしてあなたがいるのかしら? トール」

「はいクローディア様から伝言が預かって参りました。ええっと――『勝手についていくのは構わない。――が、くれぐれもノアの仕事の邪魔はしないように』だそうです。クローディア様も心配しておられましたよ? なにせ任務の帰りがけのぼくに連絡を飛ばすくらいですし」

「はぁ、どうやらぜんぶお見通しみたいね。……じゃあ、あなた。屋敷に帰っていないの? たしか他の奈落の護衛任務だったはずだけど……」

「問題ありません。この通り無傷で帰ってきましたし、ノア君のことを聞けば居てもたってもいられず」


 恥ずかしそうに笑うトールに、もう一度シオンは大きくため息をついて肩を落とした。

 およそ二週間も地下大地にいて、再び新しい地下に潜るとはタフネスすぎる。

 それを良く思っていないのか何度も首を振るシオンだったが、ノアにしてみれば嬉しい援軍だ。

 それでもジッとトールを見つめるシオンの横顔はどこか拗ねた様子だった。


「で、それだけじゃないでしょうトール。あの子のことだから、もっと他に意図があるんじゃないの?」

「え、ななななんで妹君さまがそれをッ!?」

「いやそれ自分で言っちゃいけないでしょ、それ」


 ノアの突っ込みにますますしゅんとなるトール。

『モドジューヌ』で子供を助けたときはもっと自信に満ち溢れていた気がするが、どうやらアドリブは苦手みたいだ。

 それでもたいして気にしていないのかいつも通りのシオンはひらひらと手を振って、続きを促した。


「えっと、はい妹君さまのおっしゃる通り、クローディア様がぼくに言いつけた指示は妹君さまの護衛だけで、ノア君を補助しろとは一言も言っていませんでした」

「やっぱりね。……まぁ、ちょっと前にあんなことが起こったんじゃさすがに護衛もつけなきゃまずいわよね。まぁ確かにあの時はノア君がいたから事なきを得たけど」


 それはきっとノアとシオンが初めて出会った時の事件のことを言っているのだろう。

 あの時は本家の命令で雇い主であるシオンを襲ったと言っていたが、やはり信用のおける人物に護衛してもらうに越したことはない。ノア自身、手伝ってくれるのはありがたいが、彼女らにけがをされるのはそれはそれで申し訳ないのだ。

 すると気を取り直したように柏手を打つシオンが、ゆっくりと周囲に視線を走らせた。


「それで? 貴女の護衛対象はどこにいるの? 一言あいさつしたいのだけれど」

「それがさっき教会関係者の所に言って以来どこにも――」

 

 周りの探索者と距離が離れているとはいえこの人ごみだ。特定の人間を見つけるのは難しいかも知れない。そう思っていると、人混みをかき分けてジェイがやってきた。


「おや、何をしているのかね君たちは?」


 つかつかと歩いてくる足音に、三人が一斉に振り返る。

 引き締まった筋肉でも強調するように細い身体に光沢のある銀の鎧が付けられていた。

 腰には四振りの短剣を差しており、いくつか携帯用ポーチが下げられている。何かを調節するようにして厳つい形態の銃を弄んでこちらに近づいてきた。


「――それでノア。私はここで大人しく待っていろと言っていたはずだが?」

「はい、きちんと待っていましたが? 何か問題でもありましたか」

「……はぁ、これだから無学な子供は困る。大人しくという意味を君はよく理解しておらんらしい。まぁいいそれで、『彼女ら』はいったい何かね?」

「こちらに派遣したノアだけでは不十分と判断して、急遽私たちが増援に来ました」


 不快そうに顔をしかめるジェイに対して、一歩前に進み出るシオンの言葉に男は面を喰らった。

 眼鏡のレンズの奥で、目を見開きあからさまに距離を取る。

 そして言葉の意味を理解して、眉根を寄せるようにして苦い声を吐き出した。


「クローディア殿が? そんな話は聞いてはいないが、……名前は何というのかね?」

「こちらはクローディア様の妹君、シオン=ティタノエル様です。ぼくはその専属メイドを仰せつかっておりますトールと言います」


 いきなり話に入り込んで不機嫌そうに顔をしかめるジェイだったが、その表情もつかの間、シオンな名前が出てきてからはジェイの瞳が明らかに媚びいるような色を放った。

 ノアを突き飛ばして駆け寄ると、ジェイは恭しい声で深々とお辞儀をした。


「これはこれはかの名高き妹君とはつゆ知らずに、鎧姿でのあいさつをお許しください。ご存知の通り、わたし創薬会社『ラフィエル』の係長を務めておりますジェイ=キシュハルトと申します。以後お見知りおきを」

「ええ、噂はかねがね聞いてるわ。最近では新薬を発明したとか、姉が喜んでいましたよ。あれがあればこれからも多くの子供たちが救えると」

「ははっ、さすがはお耳が早い。ええ、巷ではよくない噂も流れているようですけれども、苦心の結果がようやく実を結びました」


 そう言って軽い握手を交わし、シオンの言葉に演技めいた顔で何度も頷いた。

 自分の時とあからさまに態度が違うことに当然気づいた。もしかしたらシオンが彼の嫌う劣等種だという事を知らないのかもしれない。それでも、わざわざそんな不利益な情報を漏らす必要がないことくらい心得ているので、黙って成り行きを見守っていると、ジェイが唐突に思案の表情を浮かべた。


「しかし困りましたな。私としましてはここにいる彼だけで護衛は十分なのですよ」

「ですが彼はまだ地下大地に入るのは初めてです。恥ずかしながら彼一人であなたを守れるとは――」


 あえてへりくだるように言うシオンだったが、ジェイもそのことを承知の上だったのかわかり切ったような顔で何度も頷いた。 


「ええお気遣い大変痛み入ります。――が、これでも私は一人で奈落へ探索したこともあります。そこら辺のずぶの素人よりは使えると自信がありますので。……それにこれ以上大人数で探索に赴くとなると教会側になにを言われるか分かったものではありません。ですから――おいッ」


 そう言って後ろに声をかけると三人の男が突然ジェイの後ろに現れた。

 皆、同じフルプレートのマスクで顔を隠し、銀色の甲冑に身を包んでいるが、胸に入った十字の刻印はジェイのものと同じだった。


「彼らは私の部下です。なにぶん、探索に赴いたことのない素人でして。私の盾として連れてきたのですが丁度いい!! 今回は二組に分かれて捜索するというのはどうですか?」

「……正気ですか?」

「ええ、そうすれば入り口探索の効率も上がりますし、なにぶん我々の目的は教会が掲げる新たに発見された『奈落の探索優先権』です。二組ともなれば教会の報酬を得る確率もぐんと上がる。ですからベテランのお二方は彼らの護衛をお願いできますか?」


 ジェイの顔の下から小さく舌を覗かせているのがわかった。

 こいつ、わざと言ってやがる。

 シオンもジェイの意図を察したのだろう。しかし理由も正当なものだし反論するればそれこそ姉の顔に泥を塗るような行為だ。ここで市場を挟むべきではないと理解しているシオンは、悟られぬように歯を食いしばるようにして大きく頷いた。


「よかった。……では、教会側にもう一度人数が増えたことを報告してまいります。手続きは私どもの方でやっておきますので妹君さまはどうぞそちらでお待ちください」


 わざとらしく胸を撫でおろすような仕草をしてジェイは、付き添いの鎧たちを三人連れて行って、耳元で何かを話し合って、去っていった。

 四人の消えた人ごみを確認していると、後ろから項垂れたような声が聞こえてきて、ノアは慌てて振り返った。

 目の前で勢いよく柏手を打つ音が聞こえた。かと思ったらとシオンが申し訳なさそうに頭を下げいた。


「ごめんさい。少しでも役に立てると思って着いてきたのにまさかこんなことになるなんて」

「そんなに落ち込むことないって。……元々一人で片付けるつもりだったし、何よりあんなに人を引き連れているとは思わなかった。おかげで守りやすくなった」

「――でも。……普通なら護衛対象をたった一人で守らせることなんてしないものよノ。あの鎧の人たちはジェイって人の護衛なんでしょう? それをわざわざ割いてまでわたし達を引き離すなんて何か裏があるとしか――」

「で、ですが妹君さま。こうは考えられませんか? 先ほどのあの男が言った通り、本当に教会の報酬が欲しいから戦力を分散させたと……」

「いいえ、それならわたしはともかくトールまであの人の護衛から外すなんてありえないわ。何か企んでる。そう考えた方が自然ね」


 油断ならない。その言葉が胸の奥でのしかかる言葉にノアのなかで何かが軋む音が聞こえた。


『死ぬ覚悟はできているんだろう? 何を迷う必要がある』


 確かに数十分前まではそうだった。

 しかし、いまはノアの命より大事な人たちが危険に晒されようとしている。

 なにか企んでいるともなればその危険はノアでなく彼女たち二人にも降りかかるのだ。自分の見えていないところで大切な人たちが危険に晒される。それが何よりも怖かった。


「大丈夫よノア君。これまでもこんなこと沢山あった。それに私たちはベテランなんだからあなたが心配するようなことはないわ。あなたはあなたの命だけを心配していればいいの」


 ノアの考えを看破するようにノアの肩に手を置くシオンの言葉に、トールも大きく頷いた。


「そうです。クローディア様からノア君の活躍を聞いています。確かに、恩恵を得られない途中までは危険ですが――」


 そう言って、大きなカバンをノアに預けると、内ポケットに手を突っ込み『それ』をノアに差し出してきた。手を開いて『それ』をつまむと、横からシオンの「あっ!?」という言葉に驚いた。


 一つはクローディアが後ほど届けると言っていた装備一式だろう。しかし――


「これは?」

「契約の指輪です。クローディア様からノア君に初任務のお祝いだそうです。言ってしまえば身分証明書みたいなものです。これを人差し指に付けて軽く振れば、パネルが出てきます」


 そう言って、指を軽く振るような仕草をするとトールの目の前にウィンドウのような半透明なパネルが現れた。

ノアもそれに倣って、素早く手を振るが何も起こらない。


「えっと、頭で念じるようにして振るの。そうすれば出てくるわ」


 横から同じような仕草をしてパネルを出現させるシオン。そのアドバイスに素直に頷きノアはもう一度指を振るった。

 パネルよ出でよ。

 そう念じると空中に複雑な文字が描かれたパネルが現れ、すぐに点滅したのちに鍵らしきものが空中に現れた。


「鍵をカギ穴に差し込んで、そう!! 右に回すの。そうするとあなたの基本情報が自動的に指輪に取り込まれるわ。そして、契約完了を押して――」


 シオンの言葉に従って次々に契約を結んでいく。

 要約すると――


 再発行は認められない。

 地下大地で死んでも文句なし。

 地上での扱い方注意

 

 といった所だろう。要はスマホの契約みたいなものだ。形が指輪になっただけで無くす心配も壊れる心配もないのはありがたい。

 全てを同意して一瞬だけ横を見やれば、誰にも見えないように実体化した魔王さまが注意深く契約内容を見つめている。


 どうしたんですか? と心のなかで問いかければ、眉根を寄せる魔王さまから苦い声が返ってきた。

『いや、この契約内容。どこかで見覚えが――転生の際に記憶をいくつか欠如していたが……ああ、おもいだせん』

 記憶を欠如していること自体初耳なのだが今はそんな事どうでもいいらしい。

 契約内容に不満を言わないことからそこまで怪しいものでもないようだ。


 全てに同意すると、軽快な音と共に画面がいくつもの項目に分かれた。


「じゃあ、さっそく連絡先を登録しましょう。そうすれば少なくとも私たちの安否だけはわかるわ」


 異論を口にするものは誰もいなかった。操作に慣れないおばあちゃん並みに使い方には苦労したが、二人の連絡先を無事に登録し終え、使い方まで簡単にレクチャーしてもらった。

 使い方に関しては不安が残るが、そこは魔王さまに何とかしてもらおう。

 もう大丈夫と頷くと、シオンは安心したように顔をほころばせた。


「これで良しっと。――いいノア君。奈落への入り口を見つけた時の特徴を教えるからよく聞いて」

 

 時間がもうすぐ差し迫っていることを確認して、シオンは改めてノアに向き直る。


「奈落に近づけばあなたの視界に透明なステータス表が勝手に表示されるわ」

「ステータス表って?」

「口では説明しにくいけどとにかくステータス表よ。これは他人に見えないものだけれど指輪の力を通して共有することもできるの。要は地下専用のオプションみたいなものだと考えていいわ」


 要は、指輪の設定仕様ががらりと変わるイメージでいいのだろうか。

 そのことを伝えるとシオンは大きく頷いて、語調を強めた。

 

「そう!! だから、もしステータスが表示されたらすぐに周囲を探して。この恩恵は奈落でしか使えないの。だからその周囲を探せばきっと入り口が見つかると思うわ」


 言い含めるようにシオンはノアの肩を揺らすと、金属の銅鑼を震わせたような音が三回長く響き渡る。

 周囲の視線が古い祠に集中した時。

 一人の黒いローブに身を包んだ初老が壇上に立ち、大声で「静粛に」と声を荒げた。

 その横にはなぜか鎧姿のジェイが誇らしげに立っていた。

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