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07話 逃走と決着

『ならばノア。ノア=ウルムでどうだ人間ッ!!』

「なんだろ、今までの候補を聞いてると一番まともに聞こえるのはッ!?」


 本人も会心の出来だったのだろう。ふんふんと鼻息を荒くして近づいてくる所を見ると自信ありげなのがなんか癪だ。

 いや、別に悪くはないけどね。それにちょっとカッコイイと思ってしまったのも事実だ。


 でも、そんな事より今は――ッ


「ちょ、食われる食われる食われるッ!!?!?」

『そらそら、さっさと身体を動かせ。おっもう一匹増えたぞ』


 悠長な声が耳元で響き、面白がっていは囃し立てる声がいまはただただ恨めしい。


 現在、森のなかをあてもなく全力で逃亡中。


 なにあのバケモノ。体長一メートルくらいの狼とでもいえばいいのか。

 まるで剣山のように鋭く、それでいて黒い体毛を鈍く光らせ周囲の草木を切り倒していく様はまさに怪物だ。

 おそらく体毛自体が鋭い剣のような構造になっているのだろう。身体をこすりつけた分だけ草木がえぐれていく様は正直恐ろしい。


 鈍色に輝く瞳はまさしく獲物を狩る獣のそれだ。


 一匹相手だと思ったのが運の尽きだった。

 とっさに退路を塞がれて森の茂みに入ったまではいいが、続いてやってきた『そっちはやばいな』という魔王さまの声に、狼の群れが大名行列でやってくるのだから適わない。


 ふざけんな!! という叫びはむなしく森のなかへと消え、こうして食うか食われるかのデスレースに興じる羽目になった。


 黒い毛皮の狼は群れで動いているのか、岩や木の上などを飛んでは移動している。

 それでも一定の距離を置いて、こちらに近づいてこないところを見ると警戒されているらしい。


『応戦しなくていいのか人間』

「数が多すぎる。なによりこっちは丸腰だ勝てるわけがない」


 当然の疑問に、ノアはとにかく叫んで返事を返す。


 一瞬、石や木の棒を拾って応戦するかとも考えたが、この複雑に絡み合う樹海を難なく移動しているところを見ると奴らに当たる確率は低そうだ。

 子供の声で叫んでも迫力に欠けるだろうし、なにより相手は獣だ。この程度で逃げるような弱い相手ではないだろう。それに感情もないぶん一切の情け容赦なく追い立ててくるにちがいない。


 そして、いまも聞こえる獣の息づかいは決して遠くない。

 生前は車いす生活で立つことすらままらなかった身体だったが、いまこうして全力逃亡できているだけ奇跡に近いのだ。


 平時であれば喜び勇んでスキップしていただろうが、いまそんなことをすればたちまち狼たちのご飯になってしまう。


 身体を動かすたびに、火傷にも似た鋭い痛みが身体をなぞるがそんなことを気にしていられる状況じゃない。

 とにかく体を動かして逃げることに専念する。


『明らかに誘導されているな。ここで迎え撃たねば面倒なことになるぞ』

「無理無理、無理だって」


 情けないという言葉が頭に響くが、そんなこと言われたって無理なものは無理だ。


 誘導? そんなもの知るか。いまは逃げるのが精いっぱいじゃ!!


 一切の減速を許されず、ノアは目尻に涙を浮かべ、鬱蒼と生い茂る雑木林をひたすら縫うようにして駆けていく。


 横倒しになった樹木の下を潜り、頭上から飛び掛かってくる狼を勢いを殺さず転がって避けた。

 それでも狼たちの動きは一切の無駄がなく、確実に獲物を駆狩りたてるようにスムーズに動いていく。


『人間。そこの獣道を右に曲がれ』

「いや無理だって、めっちゃいるじゃん。あっちからめっちゃ狼の大群が迫ってきてるじゃんッ!!」

『いいから、さっさと行けッ』


 そう命令されるなり勝手に動き出すこの身体。

 どうなっているんですか魔王さま。この子勝手に動いちゃうんですけど!?


『説明はあとだ。――おッ、見えてきたな』、


 まるでそこに何かあると知っているような口調。

 複雑な『森』の地形を潜り抜け駆けた先は――、一つの小さな盆地だった。


「止まれ止まれ止まれ止まってぇぇぇぇええええええええええッ!?」


 まさかのアイキャンフライ。

 ぐるぐると両腕を回すが掴める所などどこにもない。

 下を見れば、ぽっかりと空いた盆地には地面があり、そこまで深くないのが見て取れた。

 けれども、若干トラウマになった奇妙な浮遊感が遅れてやってきて、ノアはもがくようにして身体を動かした。


「たぅぁああすぅううけぇええてぇえええッ!!?」


 まるでドップラー効果のように顔面に風が吹きつけ、言葉がぶれていく。

 迫りくる地面。

 このまま頭から落下したら無事では済まない。かといって空中に掴めるものなど存在しない。


 すると脳裏に、とあるアニメのワンシーンが浮かんだ。

 いま現状と同じような境遇に陥った主人公がとっさに取った行動。


 ゆえにノアは抵抗することをあきらめた。


「――ッ。ええい、ままよッ」


 一か八かの思いでノアは腕を振りかぶる。

 そして、両腕を振り下ろすようにして身体に勢いをつけると、身体は慣性に従ってすんなりと空中で一回転した。

 伸びた枝でもあればまだクッションになったかもしれない。


 まったく減速できずにノアは両足を使って着地した。


 激突する衝撃。バウンドする身体。それでもこの身体に傷はつかず、骨が折れた形跡もない。

 けれどさすがに痛みは遅れてやってきた。

 足から背骨にかけて走る火傷のような激痛に転げまわっていると、後を追ってきた狼たちも躊躇う素振りを見せず一匹一匹と盆地に飛び込んでくる。


 器用に崖を使って、減速してから着地する狼たち。


 身体を抱えて転がるノアを取り囲むようにして総勢に十匹の獣が、中央にいる獲物ににじり寄った。


 立ち上がってから囲まれたと認識するまで約三秒。


 警戒して唸り声をあげるだけの狼たちが一斉に牙を剥き始める。

 途端、周囲の狼たちから殺気のようなもの視線が集中して、空気が胎動するように震えだした。


「ちょっと追い詰められたじゃないですか魔王さま」

『馬鹿者。あのまま誘導されたらこの数の倍のケダモノを相手せねばならなかったのだぞ』


 えっ、そうなの?

 以外にも冷静な声に、魔王さまの声に耳を傾けていると呆れたため息が耳朶を打つ。


『当たり前だ。群れ全体で狩りをするには少なすぎるし、なにより見ろあのケダモノの悔しそうな顔を。おおかた目論見が外れて焦っているのだろうな』


 獣にそんな知性があるとは思えないが、それでもそう言われてみればそんな気がする。

 追い詰めたつもりが逆に追い詰められたということか。


 しかし、何もできないのはこちらも同じこと。

 マント一枚にあとは素っ裸。実は武道を覚えてるんですーなんてご都合主義は存在しないので襲い掛かってこられたら間違いなくアウトだ。


 牙で噛まれてもアウト。

 かといってあの黒い体毛に触れてもアウトだ。


『スリーアウトチェンジと言うやつだな』

「またそんな、どっから引っ張ってくるのその知識ッ!?」


 こんな漫才みたいなことをしている暇はないとわかってはいるのだが、恐怖値がカンストしたのかなりふりなど構っていられない。

 生唾を飲み込むノアは堪らず、姿の見えない魔王さまを探すようにして助けを求めた。


「……それで監督、この後どうすればいいと思います?」

『それはお前次第だ人間。戦いたいというのなら少しは力を貸してやるし、逃げたいというのなら知恵を貸してやる』


 それはありがたい。ならさっそく――


『だがいい機会だ、せいぜい自力で頑張ってみることだな』


 このサディスティック魔王さま。いい笑顔で言いおってからに。


 唸り声をあげる狼の集団。取り囲むようにして近づいてくる輪は時間が経つにつれてだんだんと小さくなる。

 

 周囲に視線を飛ばせば、周りは申し訳程度に茂った森とその奥に続く絶壁と言ってもいいほどの十メートルほどある崖のみだ。

 今にも飛び掛からんばかりのこの狼たち相手に、背を見せるのは得策ではない。


 とにかく周囲に注意を払いつつ、いつでも動けるように準備する。


 この身体はたとえ見てくれが小さな子供と言えども、魔王さまの転生体だ。

 どういった性能なのかまだ詳しくは聞いていないが、それでもこんな狼たちには比肩を取らないくらい強いはずだ。

 それは、狼との逃亡劇で十分理解している。あの速さならもしかしたら逃げ切れるかもしれない。


 そんなことを考えていると、突然頭のなかで魔王さまの場違いな声が響いてきた。


『そういえば、人間。結局お前は答えなかったが、あの名前どう思う』


 唐突に飛んできた場違いな問いにノアは思わず素っ頓狂な声をあげた。


 そんな悠長な質問に答えている暇などないし、死ぬか生きるかの瀬戸際なのだ。

 雑談なら無事生きていたらにしてくれと思いつつも、恐怖で発狂するよりかはいいかもしれないと思い直して、ノアは周囲に気を配りつつ魔王さまの質問に答えた。


「いいんじゃないですか呼びやすくて、魔王さまにしてはセンスいいと思いますけどね」

『よしッ!! ならば『私たち』は今日からノア=ウルムと名乗るとするか』

「――ん? 私、たち? 僕のじゃなくて?」


 途端に意識が魔王さまの会話のほうに向いてしまった。


 馬鹿野郎。いま命の瀬戸際って自分で言ったばかりだろうが。

 なんでこう興味を惹かれると、自分の言ったことすら忘れてしまうのだろう。


 その一瞬のスキを逃さぬように、一匹の若い狼が先陣を切るように爪を立てる。


 慌てて横に飛び退き、臨戦態勢を整える。腰を低くして追撃を拒むようにじっと狼を睨みつけた。


 狼は依然としてこちらを警戒しているらしく、円陣を維持したままこれ以上近づいてくる気配はない。


 ……ところで、『私たち』とはどういう意味ですかね魔王さま?


 …………あれ? 何かおかしなことを言ったのだろうか。

 なんか渋い顔をされてしまった。終いには額を抑えてヤレヤレという声が聞こえてくる始末。


 というかなんで立体映像もないのに『渋い顔された』なんてわかったんだ。

 胸の内に沸いた唐突の疑問に、魔王さまは今度こそはっきりとため息をついた。


『なんだ。本当に鈍い奴だな。ここまで言っても気付かないのか? ……仕方がない、自分の中に意識を移してみろ』


 鈍い鈍いと言われても、わからないものはわからない。

 それにそんな精神統一じみたことなど生まれてこのかた一度もやったことのないのだ。

 いきなり、そんなこと言われても困惑するのは仕方がないじゃないか。


『いいから、さっさとやってみろ。狼どもは私が見ておいてやるから』


 そう急かされて、瞑想の原理だろうか? とりあえず魔王さまを信じて、目を閉じてジッと自分の中に意識を集中させる。


 黒く沈む意識の中、自分の隣に何かがいるような気配がある。

 大きくて、妙に生温かい。

 命脈する『それ』は『僕』に寄り添うようにして存在し、それははっきりと形を伴い、変化し、そして見知った白い髪の女性へと姿を変えていった。


 すると、頭の中、いやもっと奥の方から、聞き覚えのある声が響いてきた。


『私はお前と共にいるといっただろう? 私はまだこの身体のなかさ』


 ハッと目を見開くと、そこにはニッコリと笑みを浮かべる魔王さまが――見えた気がした。


 しかし実際には狼に囲まれ退路を塞がれているだけの現状しか見えず、そこに魔王さまは存在しない。

 それでもここまで身近に感じられるということは。


『まぁそう言うことだ。一蓮托生、……いや、この場合は二人三脚という言葉がふさわしいのか? とにかく私とお前は二人で一つというわけだな』


 呆気にとられて、開いた口が塞がらない。

 共に生きようというのはそういう意味だったのか。


 てっきり遠い辺地ですでに復活していて、二人目の身体を用意してくれていたのだとばかり思っていたのだが。

 この声もてっきり念話みたいなものかと。


『そうすることもできたが、あいにくここには文字通り道具や素材もないのでな。なによりこっちのほうが面白い』


 そんな基準で決めちゃうんだ。まぁ確かに面白さは重要だけどさ。


『それにこうでもしなくてはならない『理由』があったんでな――来るぞ』


 そう言われるなり、ノアは無意識に腰を重心を落として身構えていた。

 牙を突き立てんばかりに迫りくる狼、体毛を揺らし飛び掛かろうとしたところで突然、急停止する。

 かと思えば時間差で後ろから飛び掛かってきた狼をノアは半身をずらして躱した。


 完全に死角を突いた連携。まるで意識がつながっているのではと疑うような攻撃に生唾を飲み下す。


 そしてそれ以上に、見えてすらいなかった攻撃を自然に躱せた自分に、ノアはただひたすら驚いていた。

 武道の経験などない。それどころか喧嘩もしたことがなかった。

 それなのに、身体は考えもせず勝手に動き、反応する。


 鋭い体毛を擦りつけるように三方向から飛び掛かる狼たちを引いて躱し、唸るようにして身を低くして飛び掛かってきた獣の牙を跳び越すようにして回避する。


 まるで曲芸だ。

 後ろから迫りくる狼たちも、その連携の仕方も全てわかるように情報が頭の中に流れ込んでくる。

 自分の身体ではないような不思議な感覚に襲われていると、胸の内側から魔王さまの声が響いた。


『まぁこれもいい経験だが、この感覚を覚えておけよ。そして、ぼぉっとしてると喰われるぞ……身体に異常はないな?』


 魔王さまの気遣うような声が心を落ち着かせる。

 だからだろうか、自分の体の状態も素直に報告することができた。


「身体に所々訳の分からない痛みが走る以外は特に、あと、身体が勝手に動く」

『なら問題ない。あとでおいおい説明してやるが、まずは鬱陶しいこいつらを始末してからだな。――よし、少し身体を借りるぞ』


 そういうなり、突然。身体中の力が抜けていくような感覚がノアを襲った。

 それに対して魔王さまは『いい子だ』とまるで子供をあやすような口調で呟き、周囲の狼たちに意識を向けた。


 途端、狼たちの動きが唐突に止まった。


 あれだけ息もつかせぬ連携を繰り出していたというのに、いまはただこちらの様子を窺うばかりで襲い掛かってくる気配すらない。

 いいや、これは――。


「ふん。この程度の小物相手に逃げ回っていたとは、こんなことでは先が思いやられるな人間」


 小さなため息が、ノアの意思とは関係なく漏れた。

 まるで拍子抜けとでも言いたげな視線は、明らかに狼を見ておらず、逆に周りの植生に意識が向いているような気がする。


 あくまで『そんな気がする』という根拠もない感覚なのだが。これが最もしっくりくるのだから不思議だ。


 まるで二人羽織を着て、相方の動作を心配しながら見守っているという奇妙な心境。

 先ほどまで動かしていた身体が突然自分のものではなくなるような感覚に、胸の奥が寒くなるような感じがした。、


 じりじりと距離を測るような狼たちも、一度睨みつけてやればその都度、硬直したように動きを止める。


「これは、一体」


 訳の分からない状況に、ただ頭が混乱していると、魔王さまの言葉に合わせてノアの口が勝手に動いた。


「わからぬか。まぁそうだろうな。……ならばその疑問を一つ応えてやろう」


 自分の声なのに、自分の言葉ではないみたいだ。

 勝手に動いた口を押え、唐突に痛みが走る腕に顔をしかめる。


「そう心配するな。あとできちんと説明してやるから今は私に身をゆだねろ」


 命の危機に瀕していたはずなのになぜか落ち着いている自分がいた。


 もう大丈夫。もう焦ることはないのだという根拠のない感情が胸を満たす。


 だからこそ、こんなにも魔王さまの言葉に耳を傾けていられるのか。

 すると、脳内で再び魔王さまの声が響いてきた。


『――言っただろう。私が視覚を弄ってこの立体映像を見せていると、……少しは変だと思わなかったのか?』

「確かに違和感はずっとあったけど、やっぱこう、魔力的な何かでこうふわっとしたんじゃないかなーと」

『当たらずとも遠からずというか、説明へたくそかお前は。……その程度のことに魔力など使ってられるか』


 へ? とノアの口から不思議な声が洩れる。

 

 なんだか話の雲行きが怪しくなっているように聞こえる。

 悪い予感がする。

 というか絶対当たっている。

 まだ短い付き合いだが、こういった悪ふざけに走る彼女の言葉はいつもろくでもないものばかりだった。


 自分の顔が引きつっていくのがわかった。そして、その反応だけですべてを察したのか、ありもしない魔王さまの唇が悪魔のように怪しく持ち上がった感じがした。


『――ああいいぞ。その考えは的を射てるな』


 言うなり、ノアの身体は『僕』の意思とは関係なしに勝手に動き出した。

 迫りくる狼の牙に対して、ノアは右の拳をきつく握りしめた。


 何かが爆ぜる音と共に、真っ赤な飛沫が前方に飛び散る。


『お察しのとおり私は視覚のみならずあらゆる五感を操作することができる。そしてそれは神経に限った話でもない。例えばこんな風に』

「うおッ、腕が勝手に!! というかなんでこんなことを!?」


 『僕』の意志で動いているのではない。明らかに別の者の意志が介入しているのが伝わってくる。

 そして、唐突に脳の奥、いや魂の奥で魔王さまが自身とまったく同じような動きをしていることに気が付いた。


 身体の内側で、形を伴った魔王さまの魂。

 その動きは戦闘慣れしており、応戦しようと牙を立てる狼の群れに対し、躱し、拳をねじり込み、そして蹴り上げる。


 その瞬間、全ての攻撃が一匹、また一匹と狼の身体にねじり込まれていった。


 全てが一瞬ではないかと思えるような連撃。一秒にも満たないその打撃は応戦した三匹の狼を一瞬で肉塊へと変えていった。

 はじけ飛ぶ臓物と血肉。

 殴った拳から生き物の骨肉を潰し、えぐる不快な感覚が後から遅れてくるようにやってきた。


「……さて、獣畜生の諸君。お前たちに何を言っても無駄だろうが、私の友人をいじめた罪。ここで支払ってもらおうか」


 その血しぶきを払うように右手を振るうノア=ウルムは、その鋭い眼光を残った狼たちに向けた。


 静かに語られる言葉に、殺気が乗る。

 ある者は後退り、ある者は毛並みを大きく逆立て威嚇する。それでも捕食者の矜持なのか、それとも逃げられないと悟った故の行動なのか。

 全ての狼が、ほとんど同時にノア=ウルムに牙を突き立てた。


 そして――。


「……逃げればいいものを」


 それはおおよそ戦闘とは呼べない、蹂躙だった。


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