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  作者: 山野佐月
グリフォン編①『鋼鉄区域』
4/4

完成使い

「概念出力」

 さて、この話を機に、私のナレーションはグンと減ることになるだろう。何故なら、彼女がやっと一連の事件に巻き込まれる時が来たからだ。つまり彼女にはやっと、本当の意味で、お父さんのような、悪の味方になれる時がきたということだ。

『グリフォン』という異能。グリフォンから始まる異能達。

 そして、彼女という異能。全ての力が集まる。

 集まって集まって──彼女は大人になるのだ。



 時間経過。

「オラオラァ!どうした!ヒーローさんよ!」

「ぐっ…!」

 あれから数秒。ほんの数秒で、戦闘が開始されたのだった。血なまぐさい町であったのは前からなので彼女にはこうなることが割とわかっていたりしたのだが。

 彼女は押されていた。

 概念をそのものを切る刀なんて、到底その辺の人間に扱えるわけもないが、しかし赤髪の男は使いこなしていた。

 となると、相当の実力者ということになる。

 刀剣方面に、もしくは異能方面に。

「オラオラオラオラァ!」

 彼女は思考する。今この男は剣の性能を試しているらしい、実に楽しそうだ。この男が調子に乗ってる今なら、反撃して勝利するチャンスはある。

 彼女は先手必勝!と心で叫んで異能を発動する!

「【吟遊詩──

 ──しかし!男が、急に距離を取った!

「⁉︎」

 そして、笑っている。

「はは…やべえなこの剣。空気を切り裂くんじゃなくて、空気という概念自体を真っ二つにしてやがる」

「…クソっ」

 チャンス…は終わってしまったようだった。

「まあ真っ二つにしたところで、空気じゃ何も起きねえようだが…しかし、人体ならどうだろうな?」

 大男は少し間をおいて、

「次は斬る」

 と、短くまとめて殺害予告を済ませた。

 彼女もまた、距離を取る…取って、作戦を練る。今度は相手は完全に自分を殺すことだけを考えて突っこんでくる。そうでなくとも敵わなそうな彼にそんなことをされたら、

 死亡は確実、である。…まだ、作戦が立たない。彼女は、会話で場を繋げることにした。

「…あなた、その…神剣模造刀、だっけ?それ、どこで手に入れたの?私も欲しいな、なんちゃって」

「は、はは。残念ながら、これを作ったやつは既に死んだ…こいつを打った際に死んだ。概念をどうこうしようって思ったからバチがあたったのかもな。はは。そして、他の刀はこれほどまでに強くはない。そしてこれはお前には渡さない」

「…」

「これは俺が見つけたもんだ…お前がこの力を手にすることは決して無い。最もさっきの感じじゃあ、力を使うまでもなくお前には勝てそうだが、な」

「…そんなに、凄い力なのかしら?」

「ああ、強い強い…凄い凄い。俺も、今は落ちぶれた身だが、以前は異能を研究していてな、それなりのポジションにいたわけだが…しかし、見たことも聞いたことも無えな」

 こんな異能は。

 彼の言葉に、彼女は反応した。

「…ちょっと待って…ちょっと待ってよ、見たことも聞いたことも、無い?どういうこと?それは…『グリフォン』だっけ?…あなたの言葉を信じるなら、元研究者のあなたが知らなかったってことだよね、それってつまりは…」

「そう、これは『新種』だ」

「‼︎…」

 もはや作戦どころではない。彼女は混乱した。いや、混乱どころか、混乱しすぎて逆に頭が冴えて、思考を張り巡らせていた。彼女は思う…『異能の誕生』。

 何気にそれは、人類何千年の歴史の中で、ほんの数回しか行われなかったことではないのか、と。

「いやあ、凄えもんを拾っちまったよなぁ…魔法でもなく、超能力でもなく、なんでもない、新しい力!」

「…マジで?」

「そして、俺はそれを使って人を殺す、第1の人間になれるわけだ…お前も光栄に思えや!てなわけでさっさと死ね!」

「ち…ちょちょちょちょ!」

 彼女は思う。

 それじゃあ、本当に死ぬしかないじゃん!

「オーーーーラァ‼︎」

「ひ、ひぎゅ!」

 神剣模造刀・翼獣は突き出された!彼女はギリギリのところで避ける!だが、未知の攻撃は止まらない。

「オラオラオラオラオラオラオラどーしたよ!ちったぁ反撃してみろよ!でないと俺という伝説が…」

 輝かねえだろーが!

 乱撃からの、横薙ぎ!彼女はまた避ける!

 だが、しかし!

「⁉︎」

「あ、兄貴…やっちゃってくれ…ヒャハハハハ」

 先ほど拘束したはずの薬物中毒者が、彼女の左足首をがっしりと固定している!

 彼女の顔から血の気が引く──

 ──先ほど、吟遊詩人の能力を使おうとした時に、重力使いとしての効果が消えてしまったのだ!

 動けない。そして、能力を使っている暇もない。もっと、用心するべきだったのだ。夢見る少女。夢見がちな少女。ゆめゆめ忘れるな。それは幻想だ。

「ち…ちょっと待って!タンマ!」

「待つかよ…死にやがれ!死は平等に訪れる!」

 振り下ろされる、神剣模造刀・翼獣。

 それがもし、彼女という概念を真っ二つにしてしまえば、当然彼女は死ぬ…刃渡彼方、落命。バッドエンド。主人公不在でこの物語は終わってしまう。次回からはチンピラ共が主人公代理を務めるか、それとも更新停止になるか、だ。

 それだけは避けたい。だがしかし。

 この時点で、彼女は全く、作戦どころか、一ミリも対抗手段を持っていなかったのである…悲しきかな、彼女はいくら強くて経験を積んでいても小学六年生、元のスペックが弱過ぎる。

 子供なのだ。大人とは違う。

 …もっとも。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それについてはまた今度のお話で…それはともかく。

 その『彼』が来たようだ。


「そうだな。戦場じゃ誰も待ってくれない。

 俺が実際に戦地に行って痛感したことだ…お前がヒーローになるって言った時ぐらいに、すぐ教えるべきだったな。

 いやいや、失敗失敗。しかし、良かった良かった。

 お前が助かってくれて…本当に良かった。この失敗は、家族で力を合わせて埋めていこうな、彼方。」

 神剣模造刀の概念切りを眼光のみで受け止め、そして、異能の効果を『枯れさせ』、剣を弾いたその男は。

「て、てめえ何もんだ!」

「刃渡紅──初代悪の味方。」

 前作主人公。これは、最初で最期の出しゃばりだった。私と同じく…いや、彼は娘を助けただけか。

「お、お父さん!なんでここに!」

「なんでここにじゃないだろ、なんでかここにいなければ死んでたんだぞ、まずお礼を言えお礼を」

「…お前、その顔どこかで…」

「ん?なんだ?俺は高校卒業以来結構インドア派だったから、あんまり人には存在が知られてないはずなんだがな」

「…!お、思い出した!お前『クリムゾン』か!」

「ん〜?」

 彼はニヤッとする。いい思い出でも思い出したかのようだ…クリムゾンというのは、彼の中学時代までの二つ名である。

「それ、久しぶりに聞いたな…まあ、そうだ。俺が元クリムゾンだよ」

「知ってるぜ…負荷能力者!」

「ふふ、その若さで知ってるってことは、お前が元異能の研究者というのも本当らしいな…それ、新種の異能なんだって?本当に?適当な嘘ついてんじゃないだろうな」

「‼︎…」

 歴戦の戦士の割に、刃渡紅から凄みというものは感じられない。しかしその代わりに、余裕が感じられる。

 まさに、大人になったという感じか。

「ええ?どうなんだ?」

「それは本当だよ…こいつは、魔法でも超能力でもねえ…その他のどれでもねえ。これは完全に新しい物だ」

 赤髪は歯をギリギリさせてから、さらにこう言う。

「なのになんで!クリムゾン!お前には効かなかった!新しい異能の対抗策なんて、あるはず無いだろ!」

 彼は答える。

「いいや、異能が新しかろうが関係ないね。ただそこにいるだけで、俺はそれをゼロにするんだよ」

「⁉︎…」

「【完成】。これは完全に異能ではない、異能の遥か下に立つ力だ。…正体不明の、まるでルールみたいな力だ。

 要するに君の足を引っ張るのさ。これは。概念が切れるほど強かろうが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()無効化できるって寸法さ。…だから良かったな」

 彼は言う。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そのセリフの後、静寂が訪れる。

 その中で1人、心でツッコミをいれる娘が。

 〔いや、かっこつけてるけど、「もし俺が能力者だったなら、君は今頃存在していない」って、要するに攻撃は出来ませんって弱点晒してるようなもんだよね…?〕

「…チッ」

「あ、兄貴…引きますか…?」

「引く!構ってられるか!早く来い!」

「は、はい!」

 …というわけで、お父さんの登場により勝負は終わったようだった。彼らが引くのと同時に、刃渡親娘も退散したのだった。

 そして。

「痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!」

 ほっぺたをつねられる娘。つねる父。

「何してんだお前はーっ!」

「ぎゃぁあーっ!」

 娘はとても怒られていた。そりゃ当然だ。

 つねるのをやめても、説教は続く。

「実力差がある相手に会ったら即座に逃げろというのは、前にちゃんと教えていたはずだーっ!」

「そんなこと言われたってーっ!」

「あのな、彼方。父さんはいつも言ってるじゃないか。この世には想像もつかないチートみたいな奴らがいるんだって…あの剣だって、その一部だ。それぐらい見抜け」

「…でも」

「でもじゃない。実際にお前は負けてたじゃないか」

「でも!格上だからっていって逃げてばっかりじゃ、いつまで経っても成長出来ないじゃん!」

「あのな、それは大人の話だ。子供であるお前とはまた話が別なんだよ。つまりは無理に下剋上をすることはない」

「…じゃあ、下剋上じゃなかったらいいんだよね」

「ん?」

 この時点で。彼女は決意したのだった。

 もう、父親に迷惑はかけないと──

 ──というか、父親に良い所を取られまい、と。


「お父さん、教えてよ。誰よりも上に立つ方法を。誰よりも強くなったら、下剋上なんて出来ないでしょ」


 刃渡彼方、どこまでも父親似であった。

 続く。

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