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1話 ~キノコスープと魔法を添えて~

2話目です。

少ない時間で書き上げたので、不備があるかもです。

1人の女性が、ボロボロに傷つきながら倒れ伏す。

真っ白なドレスを着ていて、とても狩りをしていた様子ではない。

ならば…瞬時に考え、彼に話しかける。


「お客様を二階に運んでも宜しいでしょうか」


呼吸は正常。脈を確認しながら彼を見る。

彼は満足そうに微笑み、頷きながらメリアに答える。


「構わないよ。重篤な怪我だ。丁重に運んでくれ」


「はい!」


ゆっくりと、かつ早足で階段を上る。

すぐに濡れタオルで顔を拭いて汚れを落として差し上げると、心做しか表情が少しだけ和らいだ気がする。

骨折している可能性があるので、重量のある布団はかけない。

額に額をつけ、熱を確認する…少し熱い。


左肩に脱臼と、腕に骨折が見られる。

できる限り丁重に素早く応急処置をする。ドレスも、腰周りを締め付けるので、多少強引だが………裂く。

そして代わりに自分のタオルケットを被せる。

あの時に彼が私を拭いてくれたものだ。

ここは私の部屋なので、彼も勝手に入ってくることは無いが、念の為ということもある。


荒かった呼吸が収まってきた頃合を見計らって、部屋を後にする。


1階に降りると、彼が机に置かれた何かを見つめている。

どうやら帳簿をつけているようだ。


顎に手を当てて、何やら長考していたが、思い切ったように「よしっ」と短く呟くとこっちを向いた。


「メリア、先程のお客様の事もあるし、今日は休みにしよう。これから買出しに行くけど、メリアはどうする?」


「かしこまりました。私はお客様の看病をしております。どうかお気をつけて」


「分かった。何かあったら、店を頼むよ」


会話が途切れるなり、彼は光の粒子となって消えていった。

それを見届けた後、再度自室に戻る。

少女は変わらぬ姿勢でまだ眠っているようだ。

枕元に座ると、優しく包み込むように手をにぎる。

常時脈を確認するために、と彼は言っていたが、追って彼は、相手の心を落ち着かせるため。

とも言っていた。


そういえばさっき彼が使用したのは、位置指定式の【上位転移魔法】だ。

やはりここまで精密に、かつ詠唱も行わずに大魔法を使うとなると、彼の魔導師としての才能や実力が伝わってくる。

しかも、だ。彼は魔導師などではなく、生粋の料理人。

誰かに教えを受けた訳でもなく、また魔導書はこの店には置いていない。

どこで知ったのか、何故学んだのか、どうやってその深淵に至ったのか、この事だけはまだメリアも知らない。

1度聞いたことがあるが、その時はっきりと拒絶されたのだ。


「教えたこと以外は聞くな」

と。


その時の顔はいつもの微笑みすらなく、厨房に立った時の真摯な瞳もない。

正しく、絶望に堕ちた眼。とでも言うような()()()であった。


その時、握っていた右手がピクリと動く。

気づいたメリアは優しく問いかける。

頭を打っている可能性があるので、下手に揺らすことは出来ないが。


「もしもし、聞こえますか?」


「う、うぁ」


「お客様、無理をなさらないでください。痛むのでしたらそのままで構いませんので」


ごく小さな動作でコクリと頷き、深呼吸をすると、また落ち着いた様子で眠りに就いた。

しかし、意識はあるようで、ありがとう。と何度も告げてくる。


あぁ、あの時の私と似ているな…と、メリアは思った。

もしこの子が何かに追われ、大切な何かを奪われたのならば、私は寄り添ってあげなければならない。

憎しみを、恨みを受け止め、優しく包み込んであげなければならない。

そんな使命感にも、強迫観念にも似たものが、メリアを駆り立てる。


「私が守ってあげないと」


「…優しいのね」


「あっ」


ひっそりと心の中で決意したつもりが、口に出ているとは、さらにそれを聞かれていたとは思わず、営業用の笑顔を崩し紅潮する。


「そういえば、なにか食べたいものなどはありますか?」


「え?」


「実はこちら、料理店をやっておりまして。ですので、ご注文を頂ければお持ちします。こちらメニューです」


「あ、でも、今は持ち合わせが…」


「お気になさらず、病人はお客様の中でも特別待遇。が、我が師の言葉ですから」


少し語気を強くして告げた。

その時のメリアの表情は、彼の微笑みを想像して、見事に緩みきっていた。


「そう…いいお師匠さんなのね」


「はい、とっても。」


なかなか見せなかった満面の笑み、それも大破顔で。

師を褒められて悪い気持ちをする弟子はいない。

メリアもまた例外ではなく、ご機嫌でニッコリ笑い、首のチョーカーをさする。


「それじゃあ、スルムキノコのスープ…を1つ、お願いできるかしら?」


「かしこまりました、ご注文は以上で宜しいでしょうか?」


「えぇ、よろしくね」


「ただいまお持ちしますね、少々お待ちください」


上機嫌になっていたためか少し敬語が崩れてしまっていたが、レイシアは彼ほど手厳しくはない。

笑顔で手を振ると、天井を眺める。


(あぁ、あの魔族の溢れていた森の奥でもこんな幸せがあったなんて……。私の国もこうなればいいのにな…)


不吉な未来を予知したが、逃げるように頭を振り、片腕で不器用に布団を被った。



◆◆◆



ゆっくりと階段を降り、メリアは普段は彼のいる厨房に立つ。

彼の神格的なまでの美しい手つきを思い出し、メリアは器具と食材を揃える。


「スルムキノコのスープ…1つ」


注文の内容を確認すると、メリアは見様見真似で動き出す。

棚からスルムキノコを三本取り出し、抗魔水で洗う。

1本目は具材となるため、気持ち大きめに十字に切る。

2本目は、出汁をを取るために細かくに毟り、湯に漬ける。

3つ目は切らずにそのまま石づきを取って放置する。


スルムキノコとは、ここベムトスの森に自生する食用キノコで、衝撃を与えたり、熱すると魔力を持つ猛毒を噴射する。

この猛毒は、聖水以外の薬品による解毒が出来ず、聖職者に解呪してもらうしかない。

実際、スルムキノコは、冒険者組合では発見次第魔法などで冷凍し、ギルドで焼却処分するようになっている。

が、しかし、メリアは魔法に対してかなりの知識を持っている。

スルムキノコの毒素は、抗魔水と強く結びつく性質を持っている。

つまり、スルムキノコに抗魔水を振りかけると、毒が綺麗に分解され、ちゃっかり抗魔水仕立てというご利益がありそうな肩書きにも出来る。

さて、湯につけて出汁を取るのも、こんな短時間では出来ない。

彼はユニークスキルで何とかしていたが、私にはそれは出来ないので、不本意ながら加熱し、出汁などが取れたものから、あくを魔法でこそげ取る。

そこに牛乳、塩、胡椒を入れ、先程のスルムキノコをいれ、また煮込む。

香ばしい匂いが漂ってきたら完成。

メリアは匙を使い味見をして、満足そうに頷くと、木の器に盛り付けて二階へ運んでいった。


「お待たせ致しました、スルムキノコのスープでございます」


レイシアはノックの音に答えると、明るい表情を繕った。

木製の扉が開く音と共に、メリアの持ってきた椀から包み込むような塩の香りが漂ってくる。

心を落ち着けるような暖かい乳白色。

特にベムトスの森の凍える冬にはたまらない逸品。


「容態はどうでしょうか、お客様」


「ありがとうございます。おかげ様ですっかり…っっ!!」


笑顔で左腕を持ち上げようとしたが、笑顔は凍りつき、途端に苦痛に歪む。


「すっかりなんて事は無いでしょう。どうか安静にしていてください」


「…何から何まで…本当にごめんなさい」


「お気になさらず。二日酔いのお客様を泊める事もありますので」


「そう…なのね」


少々複雑な顔をした後、すぐにぱっとした顔に切り替える。

偶然、感の鋭いメリアにもその表情は見えていなかった。


「そういえばお客様、お名前は?」


「…レイシア。レイシア=アルン=イントルスク」


「レイシア…様ですね」


「えぇ」


レイシアは短く答えると、すこしだけ手足を動かしたりしてから、スープに手を出す。


「熱くなっておりますのでお気をつけてお召し上がりください。」


「えぇ、わかったわ」


少し冷ましてからスープに手をつける。

左利きなのか右手ではふるふると覚束無い。

何度かスープを口に運び、気が和んだのを見計らって、メリアは疑問を口にした。


「このようなお店にいらした目的は?」


「…それは」


「あ、いえ、言えないのでしたら無理にとは…」


「追われてるの」


「…そうでしたか」


やはり、なにか自分に近しいものを感じる。

こんなこと、滅多にあってはならないのだが、それでも、運命的な何かを感じた。


誰に…と言おうとしたところで、階下の扉が乱暴に開く音がする。

もはやそれは破砕音。

きっと扉は見るも無残な姿になっているだろう。

入店の挨拶はノック。

これは常連も新参も、従業員すらも変わらない(ルール)

それを破るものは客ではない、礼をもってもてなす必要は無い。

ふとレイシアを見ると、表情が曇っていた。

なにか彼女と関係があるかもしれないと思い、対象の確認をするためにベッドから立ち上がったと同時に、大音声が鳴り響く。


「ここにレイシアとかいうガキはいねぇか!?」


「奴らだ…!」


腕の痛みを堪え、ベッドから立ち上がろうとするレイシアを宥め、メリアは無造作に歩き出す。


「店内では不法な行為を禁じております。それと、彼はお客様ではございませんので、話が通じないようであれば排除します」


それを聞いて安心し、続いて不安を顕わにする。


「だめ、貴女みたいな女の子が、奴に勝てるはず…」


「お気遣いありがとうございます。では」


「あっ…」


その時には、先程彼が飛んだように、光の粒子だけが残っていた。

その様子を目撃したレイシアは、驚愕に目を見開くと、ゆっくりと優しい表情に戻った。


「…そう、あなたもなのね」


レイシアは1人呟くと、不自然なまでに落ち着いた様子でまた眠りに就く。


◆◆◆



短距離専用の【下位転移魔法】

階段を降りてくると居場所が特定されてしまうので、1階の部屋の奥に突然現れるようにメリアは降り立つ。


(4名様…ですか)


「おうおう、小娘に用はねぇんだよ、痛い目見たくなかったらとっとと去りな!」


賊どもは突然目の前に出現したメリアに恐怖することも、魔法を使用したことへの疑問すらもなく、ただ堂々と挑発する。

この程度…私の相手ではない…そう思ったメリアは、できる限り穏便に済ませようと努力する。

強者故の余裕…まさにそういった様子で賊に問いかけ用としたその時、異変に気づく。

賊どもの長らしき者がズカズカと中に入ってくる。


(彼らの頭…賊の割には中々派手な装備…それだけでなく、部下にもかなり質の良い装備を着せている…?まさか)


「ハッ、俺はドラス王国騎士団の分団長、イヴァナ様だ!こいつらの言う通り、俺らはただの賊じゃねぇぜ。自分の身が惜しいなら、とっとと情報を吐くってこった」


「情報…とは?」


「おいおい、惚けるつもりか?レイシアというガキは見なかったかって聞いてんだよ!」


惚けている訳ではない。

彼女は語学には厳しく教育を受けた為、下手な言い回しや、服芸は苦手なのだ。


「申し訳ございません、その件に関しての情報なのですが、こちらに提供出来るものは御座いません、どうかお引取り下さい」


丁寧に言ってはいるが、つまり…お前らなんかに教えることはねぇとっとと帰れ。と暗に告げているのである。

流石にそれを理解できない訳でもなく、イヴァナは激昂する。


「チッ!この小生意気な(ガキ)は俺が殺る、テメェらは2階を探せ!」


「ハッ、分団長」


どうやら分団長は一応本当のことなのだろう。

メリアにとってはどうでもいいことなのだが。

しかし、今奴らを二階に行かせる訳にはいかない。

メリアの部屋にはレイシアが寝ているし、タオルケットを取り出した時に下着用の引き出しも開けたままになっている。

メリアは疾風のように部下達の前に立つと、体格差を無視して人差し指と中指を額に当てる。


「【眠れ(ジャック)】」


兵士の全身がビクンと震える。間もなくして、兵士は崩れるように地に伏した。

まるで心臓を抜き取られたかのように、呆然とした表情で。

当の本人は、なにをされたかすら分からないだろう。


何が起こっか分からずに突っ立っていた2人目も、1人目と同じ道を辿る。

3人目は両手用のロングソードを振り回したが、未熟な剣筋はメリアの腰まで伸ばした髪にかすることも無く、また同じく無力化された。


「お、お前、一体…!」


分団長と名乗った男もほかの兵士と変わらず、今や小鹿のように震えていた。

大振りの槍を完全に防御用に構えている。


「その程度ですか…どうなされますか?このままご退店なさるのであれば、そちらの部下はお持ち帰りくださいね」


メリアは相手に選択権を与えただけのつもりだが、これは完全に相手を挑発していた。

先程の異様な光景や、部下達の末路を馬鹿のように忘れ、イヴァナは額に青筋を浮かべ、怒りを滾らせる。


「このクソガキが!!」


イヴァナは槍を構えると、余裕の表情でスカートの埃を払うメリアに切り掛かった。


瞬間、コマ送りのように素早く的確にメリアの指先が動く一

お気に召しましたら、ブックマーク、感想等お待ちしております。

まだまだ至らぬ点が多い故、指摘やアドバイス、苦情等も快くお受けしたいと考えております。

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