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とんかつ少年バサコジャンーシリーズ第二回ー実際 俺のオフィスはラーメン屋ー

作者: 村川葵

俺の右鼻には、とんかつが突き刺さっている。ちなみに、俺が笑うと左鼻に薔薇が咲くのだ。今日も朝飯だ。俺はかつ丼を食らう。昨日の朝飯は食パンだったからな。今日はかつ丼と色んな意味で贅沢よ。自由を気にするな。自由を気にするな。さて、学校へ行こう。俺は中学二年生。母校である東中へと歩く。何故だか俺が歩いていると、爆笑が起きるのだ。自由を気にするな。自由を気にするな。このどうにか、俺の右鼻に突き刺さっている、とんかつを、何とかしなくてはいけない。俺は、意味もなく、大声で叫んだ。叫んでしまった。「こんな俺も生きてんだ」と。また、同級生に馬鹿にされるように笑われた。何故、俺の名前はバサコジャンなのだろうか。親父に何度、たずねても、おふくろに、幾度となくしつこく、聴いても、教えてはくれない。その前に、コーヒー牛乳だ。学校の前にある、売店、正田のおばちゃんが経営に勤しむ「ショーダ屋」で67円(税込み)のコーヒー牛乳を購入。正田のおばちゃんは俺に言ってくれた。

「バサコジャン。ありがとう。頑張りや。おばちゃん、バサコジャンの味方やからな」

俺もさりげなく、この京都府出身の正田のおばちゃんに言ってみた。

「ああ、わかっているさ、ポジティブにね」

「おおきに」

さて、俺の左鼻にも、薔薇が咲いたことだし、堂々と校門をくぐろう。俺が笑っている、そのスキに二十代の白人だと思われる男女二人がお揃いの赤いTシャツを着こなし、俺に言った。

「オーユア、バサコジャン。アメリカで人気者。ワタシにサインしてください。とんかつ少年ねえ。出前、ゴクロウサンです」

俺は気軽にサインに応じた。こういったことは時折ある。スマホで「とんかつ少年バサコジャン」と検索をしても、書き込みが多くある。俺は、このとんかつのおかげで人気者なのか。さあ、下駄箱だ。靴を納めたその時だった。沢山のテレビカメラに囲まれ、俺にマイクを向ける、どこかで観たワイドショーのリポーター。

「バサコジャンさん。小泉さんとの不倫が報じられていますが。本当なのですか。それから、今度の参議院選挙に出馬されるのは、本当なのですか」

俺が途方に暮れていると、堤先生という学校一人気者の美人音楽教師が、フォローしてくれた。

「とんかつくんは私達の生徒です。お帰り下さい。お願いします。お帰り下さい。とんかつくん、もう大丈夫よ。さあ、私と一緒に保健室へ行きましょう」

俺は、堤先生におんぶされ、「大事な話があるの。とんかつくん」とささやかれ、保健室で、コーヒー牛乳を飲んだ。堤先生は、一度、目を瞑り、俺の背中を押して、

「とんかつくん。とんかつくんはとんかつのことで悩んでいるでしょう」

「まあ。はい」

「今度、私の知り合いにお医者さんがいるの。とんかつの摘出手術を受けましょうか」

俺のとんかつが無くなる。なんて、素晴らしいことなんだ。ちょっと待て。俺の鼻のとんかつが無くなると俺は、「少年バサコジャン」になってしまう。これでいいのだろうか。いいに決まっる。俺はコーヒー牛乳を飲み干しては堤先生に愛を感じた。


そして、とんかつ摘出手術の日がやって来た。親父が言う。

「よかったな。バサコジャン。これからは親子楽しくやって行こう」

おふくろが言う。

「よかったね。バサコジャン。これからは親子楽しくやって行こうね」

病院へ向かうバスの中。俺はとんかつを触る。触りに触る。そうこうしているうちに「次は岡田病院前、岡田病院前です」とアナウンスが流れた。下車のボタンを押す。

「ありがとうございました」

バスの運転手さんは笑っていた。そうだ、笑顔の世の中だ。俺は、運転手さんに思わず頭を下げた。


「はい、血圧ね。それから、脈。うん。異常ないよ」

何故だかパンチパーマの男性看護師に笑われ、俺は、手術室に、麻酔をされ、運ばれた。寝てしまおう。ぐったりと、寝てしまおう。痛いのは、もう、イヤだ。


「はーい。バサコジャン君。鏡を見てもらえるかな」

髭の白衣の男に言われ、鏡を見た。すると。。。とんかつのない、俺の顔が鏡の中にいた。いいことじゃないか。嬉しくて、笑った。そうすると、左鼻に薔薇が咲いた。白衣の男は言う。

「今度、薔薇も摘出しなくてはね。頑張るんだよ。バサコジャン君」

俺は途方に暮れ、コーヒー牛乳を、病院の売店で、購入する羽目に。

俺はバサコジャンなのだから。世界にひとりしか存在しない、俺という名の個性を持った、この俺なのだから。さて、帰ろう。俺のとんかつよ。長い間、ありがとう。

また、俺の、左鼻の薔薇が咲いた。




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