清明様の憂鬱 特別篇 青龍と天使 ⑥
「お前というやつは・・・・」
葛の葉がわなわなしながら言った
「いや何にもしてないぞ おまえの思ってるようなことは何もない」
ぶんぶん首を振る
「なんなの 何もしなかったの 馬鹿じゃないの あんなすごいイケメン見たことないわ
それを前にして何もできないなんて、っもう」
あ?怒っていたのはそっちか
「まあ本番はただじゃこまるけどね」
「なんでだ?」
とにかく酔っぱらってるのであまり相手にしないようにしなければでも言うべきことはことは言っと
かないと
「いいか 俺は遊女じゃないし花魁とか目指してないからな変なプロデュースとかするなよ
それでどこ行ってきたんだ」
「買い物とバー 隣からですどうぞなんてカクテル渡されちゃって飲み放題
ついでにボトルも入れてもらちゃった うひゃひゃ」
「ふーん」全然うらやましくない
俺はさっきの柔らかいハグを思い出していた
あれはいいな 母親から 兄弟から 恋人から あんな風にそっと守ってもらうように抱きしめられ
て育つんだ
で大人になってああいう紳士的な態度ができるんだよな
眉毛にかかった金髪を思い出した 色の違う目 ちょっと神経質そうにチーズをつまむ指
控えめな笑い
人が感傷に浸っていると 突然酔っ払い狐が 「お前 そ、それ」と言い出した
我に返るとガウンの前がもっこしとしている
「なんでだー」 俺は叫んだ
「わしに聞かれてもしらん」狐が下を向いて笑いながら言った
「おまえなにかやっただろう?」 「何もしとらんぞ」狐がまたくすくす笑った
(俺はやましい気持ちなんてなかったぞ 断じてなかったぞ ああでもあんな病院にいたから
魂が腐ったんだ 優しいハグの代わりに爺に五寸釘をもって追いかけられたり
大体あの仏頂面の清明様ハグ なんてとんでもないし 白虎のアナコンダみたいな腕に巻きつかれるだけ
でぞっとするしキッシーなんかにやったら完全に誘ったと思われてひどい目にあった挙句
全部俺のせいになるんだ いつもそうだ
女どもは企んでばかりいるし暴力的だしましてや小豆洗いやスマシなんかはとハグのやり方すらわか
んないし ひゅうひゅうと心の中に冷たい風が吹いた 俺は汚れたのか? )
心無い狐はまだ笑っている