音黒さんは思い出す
この6話はかなり前に書き終えていたのですが、投稿することをすっかり忘れてました。しかも6話投稿時既に7話が書き終わってたりww
それにしても、音黒家の出番少ない.....。
2月5日 午前2時
一人、二人、三人、四人.....。目の前にある死体の山で死体の数を数えていると殺し屋の自分でも吐き気が込み上げてくる。
ただ、それを愉しむ自分もいる事は確かだ。矛盾している。この矛盾はきっと自分だけでは到底解消しきれない。
自殺しようとしてももう一人の自分がそれを許すことは無いだろう。人を殺せないから。
いっその事、宇宙の彼方へ消え去りたい。
でも、それももう一人の自分が許さない。人を殺せないから。
この先、待っているのは地獄か、それ以上の地獄。死よりも恐ろしく、悲しい。
今日もまた、人を殺してしまうのだろう.....。
誰か......僕を..............殺して。
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2月5日 午前10時
結局、母さんを殺した奴を見つけられなかった。桂助の弟、小郎も見つけられなかった。
という訳で。今日は街を一通り偵察して敵の情報を集める事にした。特に母さんを殺した奴は許さない、必ず見つけてぶっ殺してやる!あと俺はマザコンじゃねえ!
今日は鳥すら飛ばない快晴で、季節外れの猛暑日だ。
こんな日に運動なんてしたら熱中症で倒れてしまうだろう。情報収集にしてある意味正解かもしれない。
「やっほー、蔵人」
よく通る快活な声。この声はきっと安澄だろう。え?安澄?
「お前...学校はどうしたんだよ!?」
「休んじゃった。てへ」
後ろに立っていた安澄は軽く舌を出し、ちょっと野暮な用事でね、とつけ加えた。
「そういう蔵人はどうして休んだの?」
「ちょっと家庭の事情があってな。それじゃ」
振り返って立ち去ろうとした時、背中激痛が走り、同時に足の力が抜けた。
「全く、無粋な命令してくれるわねぇ、友達を殺せ、だなんて」
まさか、安澄に刺されたのか。命令?一体なんのことだ。スパイか何かなのだろうか。
「いろいろ考えてる顔だね。でも無駄だよ。ごく普通の一般人なんだから」
「ごく普通の一般人が人を刺すわけが無いだろう、安澄。あんた、一体何者なんだ」
彼女は俺の問いに答えることは無かった。
「じゃあね」
再び、俺の背中に深々とナイフが突き立てられる。今度は全く痛みを感じず、ゆっくりと意識が遠く離れていった。
「あまり苦しんでない。やっぱり神威さんが調合した毒は凄いなぁー」
少女は無表情に感心した。
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2月5日 午前9時
蔵人礼次。空手使いで判明しているスキルは高速移動のみ。手先が異常に器用らしいこととハーフであること以外は普通。
加農彼音。遠距離主体のスタイルで空も飛べる。念動力はまだ未熟。過去にイジメっ子を病院送りにしたらしい。
斜道暮望。強力な念動力と身体能力強化を行える。前科持ち。
白井戸糸哉。空中浮遊しか判明していないが、何らかの方法で香真厘胴を殺した。危険思想を持っているらしい。
江内乱太。炎を操作でき、念動力と身体能力強化も出来る。既に二度死んでいる。
風間小郎。多くの刀剣を作り出し、自在に使いこなせるため、剣術のスキルも有している可能性が高い。元暗殺者で生き別れになった兄がいる。
歌烏藍。罠を作成できる。日本人にしては珍しい地毛のブロンドで巨乳。便利屋をやっているらしい。
「私達も合わせて九人....まあ全員の情報が入るのも時間の問題でしょうね」
彼女は資料に一通り目を通すと紅茶を軽く口につけ、ため息をついた。
今日は晴れが好きな彼女でさえ鬱陶しくなる程の快晴で、ほかの者は全て情報収集に出て行っている。
彼女はふと過去の記憶を反芻した。まだ何も知らなかった頃の記憶。
十二年と四ヶ月前、八月の中頃。今日のような鬱陶しい快晴で、ただ一つ異なるのは蝉が啼いていない事ぐらいだろうか。とても不思議な体験だった。
久しぶりに従兄の音黒貴慶が遊びに来た。それは音黒亜杏という少女の楽しみの一つであった。
少年は屈託の無い、楽しそうに笑う。
「やあ、あきょうちゃん。久しぶり!」
少女も同様に笑い返す。
「久しぶり、たか!」
少女達は何も知らない、これから何が起こるのかを。周りの大人達も知らない、二人の待つ運命を。
少年は海へ出かけようと言った。少女はあまり乗り気ではなかったが、家に居るより楽しいと勧められ、仕方なくついていった。
海には白波が立ち、子供が遊ぶには丁度よかった。だが、二人の目的はそれではなかった。
少年はおもむろに棒きれを拾い上げ、砂浜に何かを描き始めた。それは魔法円の様でもあったし、都市伝説でたまに聞くミステリーサークルの様でもあった。
描き終わると右に同じものを一つ。波打ち際にはより複雑なものを一つ描いた。
少年は描き終えると波打ち際から離れた円に入り少女を手招きした。少女は少し怯えていたが、ようやく円に入った。
「ここに集いしは地の血脈。汝を崇めしは海を崇めし者。我を守りしは地霊の精なり.....」
少年は何やら呟き始めた。少女はなんだか不思議な気分になってきた。
やがて波打ち際の魔法円は淡く光り出し、その光が収束して何らかの形をとった。その時だった、少女は視界がぼんやりとして魔法円に奇妙なものが見えた。
それは獣の様だった。獅子のようなシルエットで尻尾が異常に長い。たてがみと尻尾の先、瞳孔だけが灰色であとは真っ白だった。
獣はゆっくりと近づき、二人の前でしゃがみ込んだ。
少年は大層驚いていた。
「この精霊はマナ選ばれた者にしか頭を下げないんだ。亜杏には才能があるよ」
少女はゆっくりと手を伸ばした。獅子は更に頭を下げた。少女の手が顔に触れた瞬間、獅子は消え去った。目の前には黒い外套を羽織り、フードを目深に被った男がいた。
「君たち、もう家に帰りなさい。こんな事は子供のする事じゃない」
男の口調こそ優しかったが二人に有無を言わせぬ程の迫力があった。それこそ、楯突いたら殺されそうな位には。
二人はしぶしぶ邸へ戻った。
いま思い出しても、あの生物が一体何だったのかは未だに謎で、貴慶も答えてはくれない。文献にも載っておらず、もはやお手上げだった。
あの男が誰だったのかも分からないが、何となく知ってる人物な気がした。
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2月5日 午前10時
あのジジイ一体何が目的なんだ?昨日からずっと独房に閉じ込めやがって。飯はウマイからいいけどよ、何よりゲームができねえ。あとちょっとでラスボスなのにぶっ壊れやがってあのクソハードめ!もっと頑丈にしやがれっつうの。
とりあえず暇潰しに檻をぶっ壊してみよう。
「来い!ミョルニル!」
硬い床を殴りつけてハンマーを作り出す。ミョルニルと言っても形だけで本来の力は無い。原理はよく分からんが蹴るか殴るかしないとダメらしい。
「オラァ!!」
目一杯の力で鉄格子を殴りつける。普通の鉄格子くらいなら余裕で粉々になる一撃だ。しかしこの鉄格子は軽く火花を散らせただけだった。
「無駄ですよ、薬座さん。その檻は核でも壊れないし放射線も防ぐらしいので多分あなたじゃ無理でしょう。もっとも、弱点を知っていれば別ですがね」
俺の同僚だ。とても狡猾な奴で俺もコイツのせいで死にかけた事が何度もある。いちいち俺を殺そうとしてくるのだ。
コイツがいなければどれだけ楽しかっただろう。
「って思ってるでしょ。クハハハ、図星だねぇ?いや〜やっぱり先輩は面白いですねぇ。それこそ殺すのが惜しいくらいに」
同僚はニヤリと笑った。とてもウザい。
「死ねッ!お前死ねッ!二度と来んな!」
「やだなー先輩、そんなに照れないで下さいよ」
「こっから生かして帰さねえぞテメェゴルァ!!」
鉄格子に全力でタックルした。だが結果は同じ、ここから出ることは出来ない。
誰かが部屋に入ってきた。
「調子はどうじゃ?」
昨日の白いヒゲのクソジジイだ。威圧感や威厳はあまり無い。確か霊堂って名だ。相変わらずガリガリでヒョロいじじいだ。
「ああ、コイツのせいで最悪だ。とっとと追い出してくれよ」
ジジイは首を横に振った。
「それはならん。彼こそがこの祭りの、ひいてはお主が勝利する為の鍵となる。時が満ちるまで待たれよ」
まあいいか、勝てるならそれで良い。
俺は床に寝そべって大きなあくびを欠いて眠った。果報は寝て待てだ。
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2月5日 午後1時
かなり古めのビルが西の外れに立っている。そこは所謂お化け屋敷と人々の間で噂になり、誰も近づこうとする者はいない。
「お化け屋敷ですか。随分と酷い噂ですね。まあ、似たようなものですから否定はできませんがね」
四階建てビルの最上階に彼はいた。名は寺田神威。民間警備会社コーマの人事部長で、社内での信頼は厚い。
窓が少なく薄暗い部屋の壁に、テレビ画面を縦長にしたような形の鏡がかかっている。鏡には十二分割でビルやその周囲の状況を映し出している。
「魔術というのは実に便利ですね。電力に頼らずに管理されずに物事を遂行出来る」
男は糸目で黒髪猫毛で背が低い。下手をすれば中学生にも見えるが、彼の貫禄がそうさせない。
右下の画面に黒いベンツが映った。
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2月5日 午後1時
暑い。異常に暑い。何故私は外に突っ立ているのだろうか。天罰、試練、逆境....これらの何一つにも当てはまらない。もしかすると理由なんて無いのかもしれない。
「いやいや、仕事だろうよ。さっきからブツブツどうしたんだい?」
私はハッとしてあたりを見回したあと、風邪で休んだおかげで爆破事件に巻き込まれずに済んだ同僚の林さんの顔を見た。不思議そうな顔でこちらを見ている。
前までは他の所属だったが、私がいた第十三警備隊は一昨日のモール爆破事件で全滅し、かわりにこの第八警備隊に異動した。
ちなみに今回の事件は国内外のマスメディアで大きく報道された。
「いえ、昔から暑さに弱いもので、気にするほどではありませんよ」
「そうか。それにしても、こんな所を警備する必要あるのか?」
林さんは建物を見上げながら言った。かなり昔の古くて小さなビルで一見すると幽霊が出そうな雰囲気だ。
それにしては、耐震性や耐火性、堅牢性は完璧だ。それこそ核が来てもこの建物だけは大丈夫何じゃないかと思えてしまうくらいには。
そこへ一台の黒いベンツがやって来て、中から黒い一張羅を着込んだ大男が四人出てきた。全員サングラスを掛けていて無表情だった。
「お宅らどんな用事で?」
林さんが近づいて話を聞きに行った。だが大男は何も答えなかった。かわりに大男の拳が林さんの心臓を貫いた。
「ぐほァッ....!?」
別に驚きはしなかった。しかし悲しみもしなかった。何も感じない。しかし、無意識の内にやるべき事を理解した。
車とビルの入り口までの距離は駐車場と歩道を挟んで約七m程度。
私は警棒を引き抜き、最短距離を駆け抜け、剣道の要領で膝を打った。本来ならば反則だが、これは試合ではないし、そもそも剣道に対する誇りはなく、一つの戦闘手段として捉えているため効率の良い攻撃をするのが重要だと考えている。
大男は微動だにせず、こちらに向き直った。マルバスのスキル、怪力を使ったため持っていた警棒はひん曲がって使い物にならなくなっていた。
両側の大男の手がこちらに伸びてくる。咄嗟に躱し、距離をとった。
合気道は一応使えるが、実践では使い物にならないほどへっぴり腰だ。長くて頑丈なものがあればこの窮地を脱せるのだが生憎そんな物が都合良く転がっているはずも無い。拘束のスキルで動きを封じられるが決定打にはならない。だがその間に考える事は可能。
剣道の要領で踏み込み左手から不可視の糸を垂らし、右に跳ぶ。当然追いかけて来るので車道側に躱し、背後に回る。左手の糸を緩めて輪を作り、右手からも糸を飛ばして穴に通す。そのまま大男の体を輪に通して締め上げ、右手の糸ををうまく絡ませれば拘束完了。
パチパチパチパチ。
突如として鳴る拍手。その音7はビルの屋上から聞こえてくる。逆光で顔はよく見えなかったが青のジャージを着ていて少し痩せている。
「いやぁ〜お見事。トドメは僕が刺すから君は下がっていてくれ」
二本の指で大男を指差し、手を握った。ムググッという音がして大男の体が少し動いた。そのまま手を下に下げるとゥオーンという音と共に三人の大男の四肢が消え去った。
「契約者がなんの用ですか。という質問は少し野暮でしょうか」
ジャージの男が降りてきた。よく見るとモールの爆破事件で私を殺したの男だった。私は反射的に身構えた。
「そう邪険な態度をしなさるな。まずは私の考えを聞いてくれ」
闘いにきたようでは無いらしい。だとすると手を組もうという算段しか考えつかない。
「まずはモールでの一件は申し訳無い。だがそこで君のカードと僕のカードの番号が隣り合わせだと気が付いた」
どうせハッタリだろうが一応試す事にした。
「信用出来ませんね。では、カードを見せて貰えますか?」
男は少し躊躇ってカードを出した。私のは二番、彼のは一番だった。
「という訳だ。僕と手を組んではくれないだろうか?」
右手を差し出してきた。
「断る理由に見当がつきませんね」
私はその右手を握り返した。
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2月5日 午後1時
暗くだだっ広い部屋に並ぶ光を帯びたガラスの筒。その中には大きな人型が一つずつ入っていた。
その一つを白衣を着たメガネの男がカルテに何かを書き込みながら眺めていた。
男はここの研究員でこの部屋の管理を任されている。
「これが本当に亜杏さんの助けになるのだろうか」
「なるさ、絶対に」
彼の問いかけに答えたのは赤いリクルートスーツを着た赤髪の女だった。スラっとした体型で髪を首のところで切り揃えている。
「いや、ならなきゃいけない。それが私の夫が願った事だ。フェアリーストラグルの先にある物を」
メガネの男はキョトンとしていた。
「悪いな、今のは忘れてくれ」
女は部屋から出るとポケットからラムネを出し、口に放り込んだ。悲しそうな笑を浮かべて遠い目をしている。
「やっぱりラムネは旨いな...厳」
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2月5日 午後1時
ゴミが散乱し砂も汚れていてかつての美しい砂浜は二度と見れないのだろうか。工業化の進行と共にこの砂浜は汚れ、市民の反発の声も大きかった。が、何故かその反発は程なくして収まった。
ここは召喚に最適で、今でもやろうと思えば確実にできる自信がある。でも、やらない。家は元々魔術の家系で僕は分家だった。本家は亜杏だが彼女は召喚術を死ぬ程嫌っている。
父は優秀な召喚師であると同時に学者であり、経営者だった。
十二年前の、つまり前回のフェアリーストラグルで父は契約者に選ばれた。父は奮起しありとあらゆる手を尽くして完璧な布陣を作り上げ、あと一歩のところまで生き残った。
音黒家の召喚術では、地脈と呼ばれる地中に流れるマナを通して制御していた。だが最後の最後で予期せぬ地脈の変化で魔力が乱れ、召喚された魔獣が反旗を翻し、父を喰い殺した。
それ以来音黒家では召喚術は禁忌とされ、封印された。そして父が立ち上げた音黒産業開発研究所は妻の音黒杏子が受け継いだ。
父が死んだ時、誰もが驚愕した。母の動揺ぶりは尋常ではなく、危うく僕を殺しかけた程だ。別に僕は母を恨んでいないが、母を引け目を感じているようだ。
それ以来母は献身的な人格がすっかり変わり、男らしい性格なってしまった。髪も父が好んでいた赤に染め、スーツもYシャツも持っている衣服を全て赤に染めた。
僕は母の執念に畏怖すら覚えた。
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2月5日 午後4時
さて、私もそろそろ駒を動かしましょうか。この魔術がある限り私は負けない。勝てるとは限らないが少なくとも負けることはない。
でも今回は史上最高の布陣です。負けるはずはないでしょう。
そして、魔術師、寺田神威は動き出す。