ネコノキエルana
私はその日ふらっと夜の外を歩いていた
時間帯はだいぶ暗く
辺りはわずかに春の空気を含んではいたが
私の腰より高いくらいの雪が
辺り一面に敷き詰められ
歩道と車道のみ
取り残されたように雪が積もっていない
そんななかを
去年にかったモッズコートを着て私は歩くのである
誰もいない村中
その中を私は長靴であるいている
歩く度に
溶けた雪が長靴をシャリシャリと言わす
私はふときが付くと
わずかな集落をでて
豚小屋がある
田圃道を歩いていた
冬場そこに網目状にある
農業用道路は
一本真ん中に通っている車道を残して
全てが雪の下になる
そのもっともたる物は
雪の中に誰もとおらない遮断機が埋もれるように立っている風景を見れば分かる
私は今その唯一と言っていい
車道を歩いている
転々と続きようにたてられた電信柱の上に光る電灯
それが向こう側まで続いている
私はその日最近家に籠もりっぱなしだと気が付き
そとに出たのだが
しかし
大した物もなく
そろそろ帰ろうとしたとき
私の目に、下水処理場が目に留まった
それは普段なら豚小屋という建物の端に
ひっそりと建てられているせいか気にもしていなかったが
その日はなんとなしに気になった私は
その建物に近づいてみることにした
と言うのも
その建物に
わずかな柄に明かりを見たのだ
それが、非常用の明かりなのか
それとも何時もついているたぐいの物なのかは分からない
しかし暇な私はその少し高いところに建設された建物へと一歩
また一歩と近づいた
しかし私はそこであることに気がつく
そのしかくい建物の反対側に
なにやら声が聞こえるような気がする
それは風の音がそう聞こえるのだろうか
私は足音を忍ばせて
そちらの方へと行く
そして私は妙な物を目撃した
それは黒い布を頭からかぶり
目の部分だけくり抜いてあるもので
それをかぶった物が
手にてにかい懐中電灯のような物を持って話している
果たして彼らは何をやっているのだろう
それが男かどうかは知らないが
身長と体格からそんな気がする
しかし
どちらにしてもこんな真夜中に
「だれだ」
いきなり彼らは私の方に向かってそんなことを叫ぶ
私は何も考えずただひたすら走った
それはその日の夜
結局私は無事家まで帰れたのだが
しかし問題はそこではなかったのだ
いつの間にか私の影が黒い猫のシルエットに変化していた
これは一体どのようなことなのだろう
私は誰かの夢なのだろうか
それともこれは私が自分で見ている夢
どちらにしてもこの現状は、物理的にありえることではない
どういうことだ
私は思いっきり時分のおなかを殴ってみることにした
しかし酷くいたいだけで時に変わったことはない
ただむなしさと
そしてどこか青ざめているじんぶんが居るだけである
「どうしよう」
どうすることも考えも浮かばないのにそんな言葉が私の頭を巡る
そうだ、誰かに相談すれば
しかしそんな相手はどこにもいない
私はそれでも色々と考えてみる
しかし考えても巡る血流は
結局同じことを同じように伝えているようにもう
別段いくら考えたからと言って
赤い血が青くなるわけでもないだろうし
私は、とにかくその影が実は幻覚ではないことを確かめるべく
実際に触って、見ることにした
しかし実際に影を触っても
それに異変があるとも思えず
大体影を触っても異変が起きないのが通例だろうが
しかしだ
今夜は妙に、そしてどうも奇妙なことが起きている
それは、プリントを忘れたと思ったら
実は宿題が出ていなかったという位の
恐ろしいほどのラッキーである
しかし
しかしなのだ
今現在置かれている状況は、実にその逆の匂いがするが
しかし
それはつまり同等のおかしな偶然があっても何らおかしくないほど
今はおかしな状況だ
結局あのとき逃げられたのも
私が雪道の雪の中に身を隠したからであり
その隠れていたのが見つからなかったというのも
実に奇跡的な物とも言えなくもない
だからこそ私はその影を触る行為さえも
実におっかなびっくりしたのであるが
結果から言えば
その通りであった
すなわちそれは異常の序章に漏れなく入っていたことになる
私はその猫の影にその右手を軽くふれるようになでてみる
しかしなのだ
私はその行為をする前に何か気が付いていた
その影が微妙に揺れていることを
その様子が
妙に生々しく
ただ単にそこに映し出されている影ではなく
それは一個の生命のような
私はしかしそのカーぺットに映し出されているそれに手を触れた
「ニャー」
その声が紛れもなくその影から泣いているように思うのだが
どうしても信じることが出来ずにいる
どうしてこんなことが起こっているのか
何で私はこんなことになっているのか
そんなときまたしてもいやなことが起きる
その起きる少し前に
家のチャイムが鳴っていた
何かいやな予感がする
私は「はーい」
そう返事をして下の階へと降りる
階段を下りてすぐに玄関があるのだが
そこに私は信じられない光景を見ることになる
あの覆面の男が三人
私を見ている
明るい中で見たの初めてだ
しかし
その異様な光景
親は何とも思わないのか
しかし狂ったように愛そう笑いを浮かべ
まるで先生が家庭訪問しに来たような態度である
何とも思わないのだろうか
私はもう一度親の顔を見る
お面のようだと思った
「さあ返して貰おうか」
その人間のような物は私に言う
しかしその声はどこまでも無機質であり
ロボットよりも何か別の次元で冷たい物に思えた
「かえせって何を」
私はその言葉にききかえす
すると男たちの中の一人が厚手のコートのポケットに手を突っ込んで
その中から紙を一枚取り出すと私に渡した
私はそれを受け取り
恐る恐るそれを裏返すと
そこには真だ猫の写真が写っていた
「・・・何よこれ」
私は男に言うでもなく言う
「お前はこの猫に影を食われたのだ、早くその猫を返して貰おう」
「どういうことよ」
私は意味がわからないので再度聞く
「物わかりの悪い奴だ、お前は悪魔に影を食われ
その影と入れ替わりに
質量を交換されてしまったのだ」
「質量」
「今お前の影には悪魔が居る・・少なくとも半年もせずにお前は死ぬだろうな」
「何でそんなことをになったのよ」
「お前が神聖な儀式をのぞいたせいで
結界が破れ
その宗式と悪魔が混ざり合い
お前の質量を壊すまでの存在へと変わってしまったのだ」
「あんたたちは何でそんなことをしてたのよ
だいたい誰なのよ」
「私たちは意味の無いものだ、それよりも早く影に変わった悪魔を返して貰おう」
「もし返さなかったらどうなるの
だいたい返したらえ私の影は元に戻るの」
「お前は死ぬだろう、しかしそこには何の質量も変わらない現実しかない」
「何の話よ」
私は怒鳴る
一体どうすればいいのか
「わたしが死なない方法はないの」
「そんなのいくらでもある
だから今からお前が私たちを見た場所に行くぞ」
男はそう言って私の腕を掴もうとした
私はその手をはじき返してやろうとしたが
それは素早く私の腕を握る
「熱い」
一瞬私はそこに熱量を感じた
しかしそれは間違いであり
物事は
冷たすぎると逆に熱く感じるように
その手は酷く冷たかったのを
脳が間違えて認識したのだ
「あなたたちは何者なの」
私は絶えきれずそう言う
狭い玄関に三人の男が
丸で箱詰めされたように立っている
しかし男たちはそれに答えない
そしてそれが男かどうかもわからない
しかし私はその背丈や体格からそう思ったのだ
「本当に私は助かるの」
田舎の道を歩く私と男
その背の高く
まるでトランプの兵隊を縦に二つ並べたようなその生物は
陽炎のように細長い足を動かし歩く
しかしその私の答えに誰も答えることなく
ただ黙々とその足を進めるのみなのだ
「付いたぞ」
男の一人が言う
そしてその光景は先ほど私が見た光景によく似ていた
私は何が始まるかはわからなかったが
しかし
ふとそのとき影が気になりのぞくと
その影の中で二つの目が私を見ていた
それが一体どのような生物の目なのか私はわからない
しかし確実に影以外の何かが私を見ていた
「それでは始める」
男の一人が私に言う
そのとき男たちは正三角形のように
私を囲み
そして徐々に右側に回り始めている
私はその男達を目で押いながら
何も出来ずにそこにいた
ぐるぐると回る中で
私は男達とは別の声を聞いた
それは酷く金切り声であり
また酷く低くも思え
実に要領をえないが
しかし
その声は私を絶えず呼んでいた
私の名前を叫ぶように啜るように
一体誰なのか
「起きろ」
私は目を覚ますと
そこには見慣れた世界が広がっていた
青い空
地面
家々
田圃
しかし問題なのは
私はなぜが地面で寝ていることにある
一体どうしてこのようなことになったのか
私はそのとき昨夜の記憶を思い起こし
結局あの後私は冬の寒空の中寝てしまったのかと思ったのだが
しかしどうして
全く寒さを感じない
それどころか何も感じることがないのだ
一体
私は辺りを見渡そうとしたが
どうしても体が動かない
・・・どういう事なのだ
私はそんなときある物が目に入った
それは私とは反対側に寝ている少女
それはつま先だけが合わさっているようであり
そしてその人物は紛れもない私だった
「何で」
声を出そうにも声がでない
逃げだそうとしても足が動かない
私はただそこに寝そべっているしかないのである