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 放課後の教室は空席ばかりが目立ち、どこか寂しげに見える。その一角で制服姿の男女六人が残っていた。

「あー、まじ今日も眠気と戦った」

 茶色い髪をトゲのように立てた小柄な青年、武井大輔はシャツをズボンから出して行儀悪く机の上に腰を下ろしている。

「午後ほとんど寝てたやつが言うか、それ」

 その正面に居る、やせ気味の青年、拝島は規則通りに制服を着ている。背筋をのばして椅子に座っていた。

「拝島みたいに勉強好きじゃないし」

「俺も好きなわけじゃないよ」

「その割にはテストの点数いいよなあ」

 二人は去年の冬までテニス部でペアを組んでいた。そろって初心者で、経験者ばかりの部活では浮いていたし、馬鹿にされることも多かった。楽しさを見つけられず、相談して一緒に部活を辞めた。

 二年に進級し、放課後の教室であまった時間をつぶしている内に、自分たちのように部活動からはじき出されたクラスメイトがいることに二人は気づいた。そうして寒さから身を寄せあう野良猫のように、いつしか約束もなしに集まるようになった。

 武井の目の前にいる女子、飯田美春もその内の一人だ。茶色く髪を染めていても、どこか野暮った印象を受ける。丸顔で鼻は低い。

「しかも武井さ、ゲームやってたでしょ? 後ろから丸見えだよ」

「ゲームでもしないと寝るからな。眠気対策だよ」

「まじバカだよねー」

 仲睦まじげに二人が語り合うのを見て拝島は微笑む。この空間が好きだった。クラスの中でも地味な自分らが、この時だけは教室の支配者になれたから。

 小さい頃から拝島は習いごとばかりに束縛されてきた。高校生になり放課後の自由を与えられ、ようやく意味もなく友人と語りあう楽しさを知った。特別な友達、仲間、そういった響きは彼にある充足感を与えてくれた。

「しっかし、金内は相変わらず貧乏ゆすりしてたわ。前にいるからウザくてさー」

「うんうん。分かるー。イライラしちゃう」

 けらけらと馬鹿にするような笑みを浮かべて、この場にいない他のクラスメイトについて武井と美春が語りあう。

「俺は特に気にならないけどな」

「拝島くんは勉強好きだから集中できるんだね。ウチなんてただでさえ気がそれちゃうからさ」

「そういうもんかな」

 金内は一ヶ月前まで一緒につるんでいた男で、拝島は何度か家に遊びに行ったこともあった。だから、陰口をきくのはいい気分ではなかった。

 この集いではクラス内の地位というものが重く見られた。昼間は何食わぬ顔で友人と語らい、集めた弱みを発表する。自分を高く見せるために他人を蹴落とした。拝島もまた親交の薄いクラスメイトを馬鹿にしてきたので、武田を咎める気にはなれなかった。

「ねえー。そういえば見た? 渡部が現文の時間に泣いてたの? あれって小説に感動しちゃったのかな?」

 次の標的にその人物が選ばれると思いもせず彼は不意をつかれ固まった。

「まじで? 授業中に泣くかねー。ふつー」

「拝島くんは隣の席だから気づいたよね?」

「あー。うん、そうみたいだね」

「ぶっちゃけ、ちょっとひくよね」

「うん」と拝島は同意すべきだった。否定して彼女をかばえば同レベルのものと扱われ、彼の地位は渡部と同じまで下げられる。地味なやからはオタクや運動音痴と一緒くたに最下層の人々とされていた。

「どうしたんだよ、黙って」

 武井は机から降りて拝島に顔をよせる。丸い鼻を膨らませ、太い腕でわき腹をつついた。

「おい、言えよ」

 みじめな友人を拝島は思い出す。球技大会で運動音痴という醜態しゅうたいをさらし金内は没落した。この集いから外され、たまに話しに上がろうと笑いものにしかならない。

 自分がそうなった姿を想像して口の中につばがたまる。それを喉に押しこみ、拝島は口を開く。この時間を壊したくなかった。

「……いいや。ちょっとって言うか、だいぶ引くよな」

 五人ともにげらげらと笑う。拝島の地位は守られる。珍しくも無い、いつものやり取り。だが安らぎは訪れず、彼は後ろめたさに胸が苦しくなった。その原因は分からなかった。

 武井たちの言葉は拝島の耳を通りすぎていく。夕陽が落ちる。明かりに照らされた部屋のすみがとても暗く見えた。友人に囲まれているのに彼は無性に寂しかった。

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