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主人公の男の子は少し悩みがあります。
ということで、友達に電話で相談することにしました。
ぷるるる、ぷるるる。
「…はい、もしもし」
「もしもし、ドナルドです」
「光速でバレる嘘をつくな」
「あ、じゃあやり直していい?」
「いや待てやり直すって何を」
ブツッ
ぷるるる、ぷるるる。
「…もしもし」
「あぁ母ちゃん?俺だよ俺俺、俺だって!」
「誰だよ!?」
「ドナルドです」
「道化師帰れぇぇぇ!!つーかケータイどうしなんだから誰かちゃんと分かってるからな!?」
「そうか、うん。それもそうだね。盲点だった」
「眼科と精神科をハシゴして来いこのカメムシが」
「あーごめん、悪かったよ」
「…それと、時間帯ってのを考えろ。今何時だと思ってる?」
「夜の七時だと思い込んでる」
「お前の主観は聞いてねぇよ!!夜の二時だよ!!」
「君にとってはそうかもしれない。しかしそれは君だけの思い込みじゃないのかい?」
「悪いがお前以外の日本人全員の総意だ!…で、何の用だ」
「人がゴミのようだ!」
「切るぞ、おやすみ」
「あぁ待って待って!明日学校で靴舐めるから許してください!」
「お前は俺を何だと思ってるんだよぉぉぉぉぉ!?」
「じゃ、本題に入るけど」
「この流れで!?」
「何か文句でも?」
「文句と恨み言だらけだよ!!」
「明日吉野家奢るからさ、許してよ。ね?」
「さて、要件を聞こうか」
「君も大概だなぁ。……えっとね、恋愛相談なんだけど」
「あぁん?」
「何でそんな恐い声出すの…?」
「…何でもない。続けろ」
「う、うん…まあ、好きな子がいるんだよ」
「はぁ」
「で、恥ずかしい話なんだけど…告白のセリフを考えて貰いたいなぁ、と…」
「…このヘタレ草食系、いや草系男子が。ヤギにでも食われてしまえ。自分で考えろそんなもん」
「肉食系女子にすら食べてもらえないのか…。いや、自分でも考えたよ?でもどうもしっくり来なくてさぁ、頼むよ」
「…そもそも、その相談役をどうして俺に任せようと思ったんだ?この彼氏いない記録百戦錬磨の俺によ」
「んー、まず君は一応女でしょ?」
「一応だと…?」
「凛としてれっきとした全ての女性の羨望の的である女の子でしょ?」
「白々しいわ!」
「どうしろと…で、こういう話は女性の目線から知りたいから、唯一仲良しの女友達の君に電話した次第だよ」
「…仲がいいって言っても、小学校が同じだっただけだろ」
「『小学校が同じだっただけ』の友達がそもそも君しかいないんだよ。頼むって…」
「あーあーわかったよ。さっさと解決してさっさと寝るぞ俺は」
「ありがとう。…ていうか、いつもこんな時間まで起きてるけど何してるの?」
「ゲームだ」
「さすが城垣、僕に出来ないことを簡単にやってのける。そこに痺れる憧れるぅー」
「はいはい」
「流された!?」
「そういやお前の方はこんな時間まで起きてるのは珍しいな。何かあったのか?」
「君の事を考えていたら夜も眠れなかっただけだよ」
「…ハッ、そりゃどうも」
「鼻で笑われた…いやいや、話が風の強い日に投げたティッシュみたいに逸れたな。話を戻そう」
「斬新すぎる喩えだ」
「…ツッコミ疲れてきた?ええとさ、告白のセリフだよ」
「あぁ、そうだった」
「告白されたらもう落ちちゃう!みたいな百発百中成功間違いなしで『二人は最期まで幸せに生きました。めでたしめでたし』ってなれるようなセリフを頼むよ」
「ハードル高っ!!」
「あと、君が言われたらオッケーしちゃうようなセリフでお願いしたいんだけど」
「? それでいいのか?」
「何が?」
「だってお前の好きな子と俺の価値観は違うだろ?俺が言われて嬉しくても、その子はあまり心に響かないかもしれないぞ」
「別にいいよ。いや、むしろいいよ。それがいいんだ」
「やけに強く言うんだな?…お前がいいならいいんだが…その子も俺みたいな性格だってことか?」
「うん、まぁ…そうかな」
「ふーん…じゃあ考えていくとするか」
それから二時間ほどに渡って、僕と城垣はセリフを考えることになった。
「…まとめるとこんな感じかな?まず『君が好きだ』みたいなセリフでインパクトを与えて、『○○な君が好きだ』を数回言って動揺させ、最後に『付き合ってくれ』で絞め落とすと」
「絞め落としてどうする。プロレスか」
「恋は戦争って言うじゃないか」
「一人一人絞め落としてる暇があったら撃てよ」
「ごもっともだね」
「……こんな無駄話してないで早く寝たいんだが。もう空が明るいぞ?」
「そうだね。本当にわざわざありがとう」
「あぁ、じゃあな」
「あ、ちょっと待って最後に一つ!」
「…何だよ」
「君が好きだ」
「………は?」
「男らしい口調の君が好きだ」
「えっ、なっ」
「ぐちぐち文句を言いながら相談に付き合ってくれる君が好きだ」
「ちょ、ちょっと待て!」
「僕のボケに的確にツッコミを返してくれる君が好きだ」
「おお、お前、まさかこのためだけにっ……」
「突然の告白に戸惑う君が好きだ」
「こっ、これ、は、その」
「付き合ってくれ」
「あ…う……」
「愛してるよ」
「あああ、ああアドリブ入れてんじゃねぇよっっ!!」
ブツッ。ツー、ツー…
…ふむ。
「わりと上手く行った…のかなぁ?」
どうなんだろう。学校に着いたら確かめなきゃいけないな。
いい線行ってるとは思うんだけど…断られたら、その時はその時か。
でももし、もし…もし付き合ってもらえるなら。
「……うへへ」
気持ち悪い笑みが漏れた。
親が起きて見にきたりしたらどうするんだ、とは思っても、ニヤつきが止まらない。
もし付き合ってもらえるなら。
それを考えただけで、笑顔にしかなれない。
こんなに学校に行くことが楽しみなのは生まれて初めてだ。
「…さて、シャワー浴びるか」
そう言えばまだ浴びていないんだった。城垣に会うんだから、体くらい洗っておかないとね。