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the third  作者: 深雪
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72なんてこった

千年もの長きに渡る戦いを経ても、なお飽き足らず、この五十年の平和を打ち破りまでして引き起こした戦争。


それが、こんな形で…この程度で…終わりだと言うのか…?


オール・ブラッドリー、パーツ・ブラッドリーの二人は…片や返り血にまみれたその手で、片や緑色に光り輝くその手で自らの視界を確保せんとばかりに目をこすった。


現実は、甘くない。


それがどんな意味を持ってきたか、二人はとことんなまでにわかっていたつもりだった。


だが、これは、その逆だ。


真逆と言っていい。


ふざけるなっ!


と叫びたくなる。


かくも情報というものは大切なのだと気づかされた。


この戦争は、何のためにあったというのだ。


ここが、終わりだとでもいうのか?


二人の見つめる先、そこに広がっていたのは、もはや何もないと言っても過言ではない、あのかつての戦争と共にもたらされた荒野そのものだった。


草木は死に絶え、そこらに住む動物すらもほとんどない。


目にはいるのは、耕されたあとのある、死んだ土地と、そこらに生えているオブジェのような枯れ木だけ。


かろうじてある民家はボロボロで、数もいようなまでに少ない。


それは過疎という文字では表しきれないほどのものだ。


二人にすれば、目的到達。


しかし、何をすればいいというのだ?


戦争には、大勝利。


だが、俺たちの手に何が残った?


二人は珍しく揃って自らの手を見つめた。


何もかもが、砂のように抜け落ちてしまったその手のひらを見つめた。


ふざけるな。


一縷の砂さえ、残っていない。


何をえられた?


ふざけるな。


目の前に広がる荒野だけが彼らの徒労に払われた対価だった。


こんなことがあっていいはずがない。


彼らは一様にそう思い立ち、目についたすぐそばの倒れかけの小屋へと駆け寄った。


だが、取れかけ、ひん曲がってしまったドアの向こうには、餓死したであろう魔人の白骨遺体だけがそこにあった。


その頭蓋の目の前に、食べかけのからっから干からびたパンの小さな小さなかけらが落ちていて、その白骨遺体全体は黒い羽の群れに覆われていた。


不思議とその黒翼だけが何も変わらず、綺麗であるのがひどく気味が悪かった。


「なんて…ことだ…」


オールはその赤黒く汚れた腕で、変色してしまった自らの頭を抱えた。


「僕たちは…なんてことをしてしまったのだ」


そのまま地べたに座り込み、拳を叩きつけた。


ひどく、痛かった。


「はは…ははは…これはちょっと予想外でしたね…兄さん。まさか、敵を皆殺しできてしまうとは…」


さしものパーツも笑うことしかできていなかった。


計画成功どころではない。


大成功のはずなのに、二人にとってそれは喜びへとつながるものではなかった。


ただの空虚だ。


自分たちは仮にも同じ地上に生まれた種の一つを滅ぼしてしまったのだ。


二人を嘲り笑うように、ものすごい風が吹き、誰もいなくなった民家の群れをけたけたと鳴らした。


これが現実。


厳しい、現実。


そうか、これこそがその真髄とでもいうことか。


人の情まで切り捨て、何もかもを切ってまでやらねばならなかったことの先に、用意されたものは、その選択自体が間違えだったという解答だけだというのか。


やりきれない。


とても、やりきれるものではない。


万では足りない数を殺した。


途中、自分でも信じられぬほど光が力を持ち、気がつけば、毎秒二人三人…いや、下手をすれば十人くらいの割合で命を奪っていた。


それはもはや殺傷能力のある兵器ではない。


殺戮するためだけの、恐るべき新兵器。


「本当だ。俺たちは何のためにあれだけのものを投げ捨ててしまったのか」


後味に砂が滲むような後悔だけが残る。


容赦のない苦味が、痛いくらいのじゃりじゃりとした感触が口いっぱいに広がる。


「復讐ってうまくいってもいかなくても後味悪いですね」


パーツは嘆息した。


深い深いため息が口はしから漏れだして、まるであたりの空気に浸透して行くようにかき消えて行く。


残るのはやはり変わらぬ荒野だけ。


「しかしっ!わからん。わからんぞ!なぜ魔人どもは交渉も持ちかけなかったのだ?非があるゆえに不利にはなるかもしれんが、種が滅びるよりずっといいはずだった」


「兄さん。そもそもなぜ魔人たちが復興できないままなのかということの方が謎ですよ」


「………っは⁉そうだ。いや、違う。俺たちは根本的に間違っていた。そもそも初めから奴らに復興などできるはずがないのだ」


「どういうことです?」


パーツが心底わけがわからないという顔をする。


珍しくさっしがついていないようだった。


「僕らは何を使って、ない資源の代わりとし、技術を発展させてきたと思ってる?」


「光…ですね」


「魔人どもは代わりに何を持ってる?」


「闇…です…ね…」


「それが何を意味するかを僕らは見逃していたのさ」


オールが大きく息を吸い込んだ。


からりとした空気が肺に入り込む。


あの苦い砂の味がした。


「復興など、できるはずもなかったのだ」


「それじゃあどうして彼は戦ったのでしょう?」


「わからない。わからないさ。何もわかっていなかった我々に今更何がわかるというんだ?」


「少しでも考えないと…むなしいじゃないですか。ほんと、なにもかも…」


パーツが珍しくシュンとして答える。


とても、人斬りには見えない仕草で肩をすくめ、やりきれないとばかりに目の前の魔人の残骸から顔を背けた。


少し隙間風が吹いて、綺麗に並んでいた黒い羽が宙に舞った。


あるじをなくした、または忘れてしまったそれらは何のためにこの世に存在するのだろう?


もう、大空高くへは飛べないだろうに。


風に任せるしかないだろうに。


「考えたところで…」


かわらないよ。


オールもまた、顔を背け、その隙間風に身を

任せた。


黒いコートがはためき、髪の毛はボサボサと統率を失う。


「帰りますか?」


だいぶ間を開けてから、パーツが呼びかけた。


「…ああ…そうだな…帰ろうか」


帰ったところで、なにが変わる?


だが、帰らなければなにも始まらない。


二人は身を持って戦争の無意味さを思い知った。


なぜそのようなものにここまで自らが興じることができたのかももうわからなくなっていた。


しかし、二人が感じ取ったもの、それはこの世界すべてへの答えと言ってもよかった。


何せこの世は、現在の世は…ある神の手によって、その神の生み出してしまった魔女の手によって、ごちゃごちゃに作り変えられてしまった、誤りの楽園なのだから。


いや、違う。


楽園などではない。


ここは…


「地獄みたいだな」


オールが歩をもときた方へと戻しながら言った。


「何もかもが死に絶えた、この世の果てにきたようだ」


「そうですね。でも、帰ったって地獄ですよ」


早めに踵を返したパーツが小高い丘の上に立って見下ろした景色は、今尚戦い続ける魔人の残党と人・ハーフ軍だった。


闇。破壊の力。


それが魔人に与えられた力だった。


それは、争うためだけのもの。


言い換えれば、なにも生み出すことのない力だ。


いや、生み出すことができるものも多少はあるか。


憎しみと怒りと悲しみ。


そんな負の遺産しか残すことができない。


そんな種を一体なぜこの世の作り手は創り出したのだろう?


世界の果てからは箱庭のように見えたこの世がオールには、いや、パーツにも無意味でしようがないものに見えた。


争いという名の赤黒く醜い花が彩る、こんな世界は。



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