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the third  作者: 深雪
75/83

69 使命と反逆

また、遅くなってしまいました…すみません。


今回はまたしても、わかりづらい話になってしまいました…すみません…そもそもこの小説自体がわかりづらいのではという話ではあるのですが…。


と、今回は作者としては気に入っている、あの二人の話です。


なんだか、戦争が始まったのに、それ以外のことばかり書いている気がしますが、楽しんでいただけたら幸いです!

第三ブロック。


通称、隔離区画。


そこは残留魔人のコミュニティ。


残留魔人とは人族と婚姻関係を持っている、あるいは人族の養子として引き取られた魔人たちのこと。


そんな彼らのほとんどは人の社会に馴染むことができず、人の当たり前にもらえる権利ももらえず、生計などできようもない。


彼らはいわゆる、排除された人々。


社会に居場所を持つことを許されない者たちだった。


しかし、人間もそれをほうっておくほど、無情ではなかった。


そうした人々やもともとの保護者であった人族のものと別れてしまった人々を集め、その人々だけのコミュニティーを作ることを許した。


それが、第三ブロックなのである。


街並みも中心部である第七ブロックとは打って変わって、一歩踏み込めば一世紀前に戻ったような感覚を覚える。


眼前に広がる木造建築の群れの物珍しさにヒューと口笛なんか吹いたネロ。


「なんか、いいね。こういうのさ」


そう言って指差した先にあるのは、廃墟。


なにゆえ、そのような状態に至ったのか定かではないが、とても、痛ましい光景だった。


崩れ落ちた角材の表面は焦げ切り、支柱を失った床下はところどころ、穴が空いている。


割れたガラスが溶けたのか、角材に点々と張り付き、ちょっとした現代アートにさえ見えた。


そもそも、そんな光景が外からわかってしまう、それ自体が異常な状況。


そんな中で、二人はなんの変哲もなく、会話を続ける。


「全く、あいかわらずお前は趣味が悪いな。これ、悲惨な状況以外の何物でもないだろ」


はぁ…と両手を振りながら、呆れたように言うのは隣に立つドラン。


しかし、その表情に動揺はない。


平然とネロの横でその廃墟を見、あらかじめ筋書きでも決められていたかのような、ありきたりな言葉を発するのだ。


「まあ、まあ、いいじゃない。救世主に変わりないわけだしさ。それとも、やっぱり慈愛の心ってやつがないと人助けってしちゃいけないの」


「まあ、そういうわけじゃないんだけどな…。それにしても、何かあったのにはちがいないな、こりゃ」


呆れたように両腕を持ち上げ、ドランは言う。


「うん。それに、例の兵器の仕業じゃないね。二次的な被害が大きすぎる」


対するネロは冷静な分析を続けた。


何もかもを透過し、見透かしてしまおうと言わんばかりの眼光で鋭くあたりを見渡す。


「それで、なにが起きたと?」


そんなネロを眺めつつ、ドランが問う。


「まあ、さしずめ、パール政府がここに気づいて、軍事行動ってのが一番妥当な線だけど…彼らはここまでやらないよね」


事実上、二人の目の前にあったのは木造建築の群れではなく、廃屋の群れ、もしくは倒壊寸前の建物の群れと呼ぶべきものだった。


破壊が破壊を生み、まるで伝染病のようにそこに存在するものすべてを終わらせようという工程の最終段階のようだった。


「ああ、それに、主戦部隊は戦場だろうし、そもそもこんな反乱自体が予測もされてなかったんじゃないか」


「うん。僕も同感だ。そうなってくると、あとは一つだけだよ。この中で、内乱が起きてるってこと」


「でもなあ、さっきまでの歩いてきたブロックを見た限りだと、ずいぶん計画的な反乱計画だろ?準備にだってかなりの時間がかかったはずだ。そんなたいそうな計画を実行段階で反対する奴なんてなんているのか?」


ドランは心底わけがわからないという顔をする。


そんなドランへチッチッチと顔の前で人差し指を振るネロ。


彼らのこんな状況を見たものはかなりの違和感を覚えたことだろう。


首を傾げながら質問を続ける中年の男とそれにスラスラと答える青年。


それは、とても異質な光景だった。


「おじさんは鈍いなあ。要するに、おじさんみたいな人もいたって話さ」


ネロがいたずらっぽく笑う。


しかし、ニタリと引き上げられた口角は妙に思えるほど邪悪に歪んでみえた。


「はあ?俺みたいな?…って、いうかいつまでおじさんおじさんいうんだよ…ったく」


不満そうに地面を踏んづけるドラン。


その動作は年齢をうかがわせない…言い換えれば、とても、子供っぽいものだった。


「まあまあ、聞きなよ。いくらたいそうな計画が決まったとしても、総意による決行には決して至らないんだ。すべての計画やら企てやらはその規模が大きければ大きいほど、反対派の規模も大きくなる。その条件下で、その反対派が少数の場合に限り、彼らを切り捨てることで成り立ったのが、それなんだ。なんといっても、みんなが復習に酔えるわけじゃないからね」


と見兼ねたネロは言った。


「なるほどな。で、少数とはいえ、そいつらもみんなここに住まう残留魔人なわけで、対立がひとたび起きれば、『闇』使って大混乱、と」


「ご名答。よくできました!」


「よくできましたって…あのなあ… 」


ドランが本気で凹んだ声を出す。


普段から低い声がさらに聞き取りづらいものになった。


「それじゃ、どうしよっか。この様子だと、なんか僕たちの出番ないみたいだし、やっぱり、戦場に遊びに行く?」


ネロはドランなどお構いなしの様子で思いついたように、ブロック内の視界にはいる地点のうち、一番建物の密度の高い場所を指差す。


「いやいや…」


そんな風にかぶりを振りながらもドランはそれに従い、その方へと首を動かす。


おいおい、できすぎだろ…。


そこで広がっていたのは、まるで現実感のない、だが、正真正銘、本物の戦場だった。


数十人、数百人、もしくはそれ以上の人々、皆がわしのような大きな翼を背に持ち、地上も空中も関係なく、ぶつかり合い、押し合い、へし合って、その羽を散らしている。


その中で、まるで雪みたいに降り積もった黒い羽の群れがより一層その光景から現実感を奪っていた。


「これは…」


初めて目の当たりにする戦場になにか思うところがあったのか、単純にその強すぎふ刺激に当てられたのか、ドランは息をつまらせた。


口をパクパクさせ、胸元を自らの拳で叩き、どうにかして、身体を正常に保とうとする。


また、それに成功し、ほっと胸を撫で下ろすてから、これ以上ないくらいに目を細め、ネロの方を見る。


「やったね。僕の予感当たっちゃったよ。それじゃ、戦場、いってみよー!…って、なに?おじさん?そのあまりに不信感丸出しの視線は?」


ネロがおどけた笑いで顔をいっぱいにする。


内心やら中身やらがどうあれ、その外見ゆえに、純真無垢な少年にしか見えなくなる。


そのまま芝居がかったセリフと共に、ドランへとまっすぐ視線を返す。


ドランはまだ険しい顔でその一つ一つの動作を見ていた。


騙されはしない、少しの情報も見逃さないといった風に。


だが、それは一瞬のことで、すぐに普段の腑抜けづらが戻ってきた。


「なあに、まるで未来が見えてるみたいだなと思ってな」


「変なこと言うなーもー。未来が見えてたらこんな風にバカみたいにおじさんと歩いたり、話したりしないよ」


ネロがドランを小馬鹿にするように笑いながら言った。


ムッとしてドランは叶うはずもない、論争へと走りだそうとする。


「いや、だが、逆に、見えた未来を気にいって、そこにたどり着きたいがために、時の流れに身を任せている場合もあるかもしれない」


「そんなこと考えたってさ、もし見えてたって、本人が教えてくれなかったらそれまでじゃないか」


頭の後ろで腕を組みながら、退屈そうにネロが突き返した。


そんな二人の会話の間も、遠くで、人と人とがぶつかり合う嫌な音が続いていた。


ネロもドランも気がつくと先ほどの光景へと目がいっていた。


戦争…か…。


果たして、ここよりもさらに大きな規模で行われている、対魔戦争の方は…もっと悲惨なはずだ。


そんなことを思いながら。


「そういうおじさんだって、過去でも見えてたんじゃないの?」


そんな、ネロの不意打ちのような言葉に少し感傷的になっていたドランはギョッとした。


「な、なんだよ、それ」


その驚きのあまり、見事に声が上滑りになる。


「ほうら、声がうわずってるよ?さっきの公園から、ずっと考えてたんだけどさ、やっぱり、あの程度で泣くようなおじさんじゃないなと思ってさあ」


あの状況で、そこまでの分析を…まさか、それであんなに時間をかけて見てたのか。


「そう…かよ…もし、見えたら、どうなんだよ?」


馬鹿が、これでは自分から教えているようなものだ。


だが、ネロの向き直った表情があまりに真剣だったせいで、どちらにしても、ごまかせそうにはなかった。


「いやね、いろんなことがわかっちゃうんだろうなあと思って。僕のことも…とかね」


「知られたくないことでもあるのか?」


ドランはもう隠すこともせず、会話を続ける。


よく考えたら、隠す必要もなかったことに思い至る。


いったい、俺はなにをそんなに焦っていたのか。


ドランは考えようとするが、うまく頭は回らなかった。


隠し事なんて、この状況下において、あまりに無意味なのに。


「いや、逆だよ。教えて欲しいんだ。僕の生い立ちをさ」


「生い立ち?そんなのが今更なんの役に立つんだ?」


「いや、やっぱり気になるでしょ。おじさんだって。だから、最近ずっと気がつくと僕のことを見てる。それは、僕ら『天の誤り』の秘密を僕から見出そうとしてたんだと思ったんだけど、違う?」


突き刺すような視線。


研ぎ澄まされた観察力。


そして、あまりに正確な情報処理能力。


それらに圧倒され、ドランは頷くことしかできない。


「あ、ああ」


事実、そうだったのだ。


同じ光景を直視し続けると、だんだんと視界にセピア色のもやがかかりだし、あたかも映画のワンシーンのように、目の前の光景が一変する。


そんなことが、この一ヶ月の間で頻繁に起こるようになった。


「でも、うまくいかなかったわけだ」


「そ、そうでもないんだが…」


「へ?そうなの?教えてよ!おじさん。一体…」


ネロは普段のふざけた態度なんか何処へやらでドランへと真剣な眼差しを向けた。


そこに、必死なものがあるのは間違いなかった。


しかし、


「ごめんな。どうやら、年代は選べないみたいなんだ。気まぐれで五十年前のが見えた時もあれば、千年も昔の場合もある」


ドランは申し訳なさそうにいった。


「そっかあ…残念…。でもさ、どうしておじさんは自分の見た過去の年代がそんな風にわかるの?その言い方だとずいぶん確信持ってるみたいだけどさ」


「目ざといな。だが、なんとも言えないんだけど、なんとなく、わかるんだ。なんか、頭の中に年表があるみたいな感じで、俺の目の前でそこに並ぶ年代の中から一つランダムで選ばれて、クローズアップされて、その映像が始まる、みたいな?」


「うん。よくわかんない」


「要するに、まあ実証はできないけど、わかるんだよ」


「それで、そんな確信につながるもの?」


「俺は割と信心深いほうだからな」


「そう言って、全然宗教とか興味ないくせに」


「まあ…な」


「それじゃあ、おじさんが正直になってくれたから僕も言うよ。すごい偶然かもだけど、僕はその、おじさんの言うとおり、未来が見えるようになっちゃったみたいなんだ」


ドランはなぜかもう驚きはしなかった。


過去が見える自分がいるのに、未来が見えるやつがいておかしいなんてこともないだろうと。


「…そうか…」


どんな未来が見えたんだ?


とは聞くまい。


過去を見るのと未来を見るのとはしかして、その重みが違う。


いくら重い過去を改めてみてしまって絶望したとしても、どこかで、かすかに、ほんのちょっぴりだけでも未来に期待しているはずなのだ。


だが、うまくいかない未来を見てしまったら、明日への希望も何もあったものじゃない。


それに、変えようと気張ったところで、それが確定しているのかもしれないと言う疑いは消えず、事実、その可能性の方が高い。


それは、時間の観念にもよるが、もし、ドランと同じように年表が現れて、そこから、映像が見えていたとすれば、確定してしまっていると言わざる負えない。


だから、二人は黙り込んだ。


未来と過去。


その両方を見ることができるようになってしまった二人。


彼らはしかして、神がいるとするならば、自分になにをさせようと言うのかと考えた。


答えなど、見つかるはずもないのに。


見やると、戦争は終わらない。


人々はあの混乱の中で、本当に、自分が求めていたものを覚えていられるのだろうか?


友が殺され、親が殺され、妻子が殺され、復讐に燃え、衝動にのり、誰かを殺す、それでもなお収まることのない怒りに身を任せ、飢え渇いた肉食獣のように、次のターゲットを探す。


やがて、そんな病のようなスパイラルが伝染して行き、戦場には最後、立ったの一人さえ立ってはいないのかもしれない。


戦略、なんて二の次だ。


これはよもや戦争と一言では言えないものなのかもしれなかった。


ドランは横のネロに目をやる。


お前はここになにを求めてる?


そう、思った。


なにゆえに、戦場に行きたがる?


「いいね、いいよ。なんか、盛り上がってきた」


ネロがやがて、つぶやくように言う。


そんな彼を見つめても、答えはでない。


見えたのは悠久の記憶だけ。


なんて、不都合な力だろう。


必要な時に必要なものが見えることがない。


こいつは一体なにを俺に求めていると言うのか。


相変わらず道は定まらない。


いや、下手をすれば、到達点を伝えられていないだけで、すでに決まったレールの上を勝手に走らされているのかもしれなかった。


戦争がお楽しみだなんて言っていた自分が懐かしい。


そう、思ったドランだった。


二人は、ただ、気まぐれに、遠方で舞い落ちる羽の雨が、熱を持った血の雨となるまで見守っていた。


完全に、どうすべきかのその指針をなくしていた。


一体俺たちは…いや、俺はなにをするべきか?


先の見えない闇の中に飛び込むしかない。


いっそ、ネロのように、こんな光景を楽しめたらいい。


しかして、ドランは楽しめないと同時に、同情の念も見出せなかった。


そもそも、なぜ、俺たちは、自らの正体を知っただけで、人とは違った生き方を選びたがった。


磁石の極同士のようにひかれあっていた。


そのことに疑問を持たずにここまできた。


しかし、今思えば、なぜ、永遠の命を得ただけで、白い翼を扱えるようになっただけで、隣に立つ半ば悪魔のような少年と共に行動することになったのか。


なにか、大きな力が動いている。


それも、この戦争に直接的に、何よりも深く、関わっているなにかが。


そして、その何かは、求めるまでもなく不意に現れたのだ。


「呼んだかしら?」


ドランの視界を遮る存在。


予期も、退避もできず、ただ、目を見開くしかドランにはできなかった。


そして、ネロはドランの比ではないほど、恐れおののいていた。


まるで、この存在を知っているかのように。


そいつは声すらも出せない二人に向けてウインクなんかをした。


その時、ドランは逆説的だが、不死の身体でありながら、死の瞬間を予期していた。


それだけ、圧倒的な存在だった。


人間・魔人・白翼人…そんな次元を抜け出してしまった。


しいていえば、ヒエラルキーの頂点として君臨するものだ。


横のネロも同様なことを覚えているのか、青年らしく、体が震え出している。


なんとか動かしたのか、片足を少しだけ引いている。


今すぐ、逃げ出さんとばかりに。


「あらあら、いい大人が二人、そんな情けない顔でどうしたのかしら」


ふふっと、笑うそいつは、女だった。


それも、どれだけ飾り付けて語った言葉さえも彼女の前ではなんの意味もなさない、そんな美しさを備えた、女だった。


「会いにきちゃったわ。ネロちゃん」


何かが崩れ落ちる音が、その言葉と共に二人の頭の中に深く、響いていた。


「あんまり、遅いんだもの」


女が右手の人差し指を唇へと、そっと添えて、身を前に乗り出し、その優美な瞳を細めて言った。


それから、ドランはいつの間にか、過去の記憶へと視界が切り替わるのを感じた。


端に火をつけられた新聞紙のように、だんだんとセピア色が視界を冒して行く。


そして、現れたのはあまりに大きなサイズの本。


それが不意に開かれたかと思うと、バラバラと音を立ててページがめくれて行く。


めくればめくるほど、過去へ遡って行く。


そして、彼がたどり着いたのは…




『戦記千一年』


一度だけ、神の定めた永遠の戦争が停止された年。


天上界はどよめいていた。


人を作り出した神が堕天してしまったため、不都合が続いていた天上の他の神たちはどうにかして、創造神である彼を再び復帰させようと躍起になっていた。


しかして、千年の時を経てなお、神の力は戻らなかった。


神は堕天してしまったがゆえに、地上界により強い影響力が持てるようになった 代わりに、天上からの無限の加護を失ってしまい、そんな状況下の中で人と魔人を創り出し、魔女に力を与えてしまった神はほとんど無に近かった。


とうの昔にこの戦争しかない世界をもとに戻したいとの考えに至ったものの、永遠の闘争とそのための駒を自らの余力から生み出してしまったがゆえに、それを果たせずにいた。


どちらかが気がつき、和平へといざ持っていけるとなった途端に、その代表者たちはみなかの魔女の手により、葬られてしまった。


そんな中にあって、神にはまだ、世界を救う唯一の望みがあった。


それは、神降ろし。


堕天してもなお、神であった彼は自らの力を人へと降ろすことにより、そのものと同じ力を得ることができたのだ。


神降ろしをしてしまえば、その者は神と同格とみなされ、地上界において、絶対の力を有することとなる。


かの魔女もまた神の力を多大に受け取ったせいで神格化をすでに果たしていた。


それにより。神同士はいかなる手段を持ってしても、争うことはできないという大原則が発動される。


つまり、戦争を止める力を持つものへ神降ろしをしてしまえば、魔女を出し抜き、戦争が止められるというものだった。


そのようにして、選ばれた男がロイ・ハワードだった。


神がその旨を伝えたところ、彼は二つ返事で了承し、万事がうまく行った。


そうして、神は呪いの通り、代わりの青髮の娘を立てることが出来たものの、事情は大きく変わっていた。


神格化した魔女は地上において、散々人を食い力を蓄えたおかげで、よもや、神の呪いの条件である、人食いさえこなしていれば、神格が解かれないようになってしまったのだ。


そして、青髮の少女の方も呪いの条件が半分しか満たされなかったがゆえに、中途半端な存在となってしまっていた。


青髮の娘こそが、神のかけられた唯一の保険だったのだ。


そこで、そんな絶望的な地上界をみかね、ついに天上界が直接的な鑑賞をすることを決めたのだ。


そして、生み出されたのがネロだった。


しかして、神々は魔女を出し抜くために、様々な条件を立て記憶のズレを引き起こすことに成功した。


あたかも、その時代から生きてきた。


その時代から誰彼と関わってきた。


そんな錯覚とも言える記憶を貼り付け、地上へ送り込んだのだ。


彼は対戦中のことも、なにもかも、でっちあげた記憶を持ちながら、生きて行くこととなった。


また、神々はもう一つ、青髮の娘の記憶のズレを引き起こすことにも成功した。


それにより、魔女を惑わすことにもうまく行った。


そして、ついにネロが魔女を消し飛ばすことに成功したと思われた。


が、やはり、神格化した魔女には力が及ばなかった。


しかし、ネロを神格化させるわけにもいかず、神々は息詰まる。


それから、ネロと同じように四人のものが遣わされた。


ドラン、アラン 、スノウ、そしてカイ。


彼らは新たな条件として、魔女からの干渉を受けないという、条件を得た。


しかし、今度は記憶のズレを施すことができなかった。


ゆえに、常に魔女から監視されることとなった。


だが、彼らはやがて力をつけ、今度こそ魔女を倒し、平和を取り戻す。


そんな希望的観測と共に、神々は地上界を見つめていた。




「あ…ま、まさか…そんな…」


ドランは気が付くと、あのクソッタレな現実世界へと戻っていた。


そして、自分を確かめた。


顔中をベタベタと手で触れ回り、ようやく、帰ってきたことを確信する。


と、同時に、先ほどまでの映像が現実に起きたことであったことを確認した。


「残念ながら、本当なのよね。だから、あなたと私は敵同士なの。わかるかしら?」


女が惜しみない妖艶さと共にひらひらと手を振りながらいう。


そして、ドランはようやく、自らの使命を知ることとなった。


「お、お前は…ずっと知ってたのかよ…」


「へ?なにを?ていうか、おじさん…状況わかってる?これ、かなりまずい方だと思うんだけど」


ネロが珍しく緊張感をさらけだしている。


それは、ドランの意識をようやく、この状況の再確認へと連れて行った。


ああ、そうだった。


俺だけが、見ていたんだったな…。


ネロは…条件について知らないのか?


いや、だが、そのこと自体が条件を立てるための制約なのか?


回らない頭を必死に動かし、ドランは最善の行動を選ぼうとした。


「とりあえず、逃げるか」


「やっぱり、そうなるよね…でも、どこへ?」


魔女の方を恐れ半分、だが、ありったけの観察力と共にネロが睨みつける。


隙など、どこにある?


そんな声が聞こえた気がしたドランはもどかしい思いにかられた。


そいつはお前に手出しはできないんだよ…と言えたらいいが、言った途端、神罰が下るなんてことになるのは避けたい。


「お前の散々行きたがってた戦場へ…ゴーだ!」


いうが早いか、一気に白翼を展開し、電光石火を体現した風な速度で、空を駆け出すドラン。


飛行は何度やっても慣れない…と弱音をはきそうになる割には、一介の鳥のように器用にに翼を操り、第四ブロックの『継ぎ目のない壁』へと向かう。


数分経った頃合いでドランは頭だけ後ろを振り返る。


そのくらいは待たないと、何かと言及されそうで怖かった。


幸い、従順なしもべのように、ネロはドランに張り付いて飛んでいるし、あの魔女の姿はもう、なかった。


いや…魔女じゃないか…


神格化したそれをもう、なんと呼べばいいのか?


そんな言葉は知りようもないのだ。


しかし、あんなものを一体どのようにうち倒せばいいというのだろうか?


ドランの心持ちは重く、その向こうで待つ戦争はもっと、重みをましていた。


なにか大きな力が動いている。


そりゃそうだ。


そう思ってしまうのが、当然だ。


まさか、俺たち以上の化け物が蠢いている戦場だなんてよ…。


ドランは嘆息するが、後ろについて来ているネロを思うと、そんなことも言っていられない気がした。


そうだ、こいつは…何を思って、これまでやってきたのだろう?


それから、ドランは首を振った。


馬鹿か…俺は…そんなの、決まってる。


あいつは…この世界を、憎んでる。


だから、平気で人が死ぬのを見ることができた。


そして、彼が散々戦場へ行くことを渇望したのは、やはり、彼の救世主としての血が騒いだのだろう。


すべてが繋がった頭の中で、ドランはまたため息をつく。


やはり、この世界は腐ってるのか。


継ぎ目のない壁の開いている部分を突っ切り、その先に広がるフィールドオブグレースへとついに飛び込んだドランとネロ。


それぞれが異様なまでに身体に力がみなぎるのを感じていた。


あの魔女を打ち倒す。


そのための剣を集めなければいけない。


それも、斬れ味がよく、頑丈で、血の通った、剣が必要だ。


さぁて、とにかく、ようやく見つかったわけだ。


俺たちの居場所がよ。


ドランは考えるのをやめた。


ただみなぎる本能のまま、感じるままに、任務を遂行する。


ああ、わかりやすくて、いい。


俺は今、生きている。


それが、実感できる。


横で、ネロもそんな風に感じられていれば、いい。


だが、ドランはそちらを向かなかった。


第二の救世主と第三の救世主。


チームは組めども、考えまで共有する必要はない。


それは、強要するものでもされるものでもない。


自分のみが抱くべき、ものだ。


だけれど、ドランはまた、こうも思った。


こいつなら、たとえ、記憶のズレによって狂わされた生の中でも、きちんとした答えを見つけられたのではないかと。


それは、彼の未来を見る力による力かもしれないし、何か他の生来のものによるものかもしれない、もしくは、努力による改革かもしれない。


人の心うちなど読めない。


まして、神の使いの心持ちなど、誰が読めるというのだろう?


だが、人は、人の心が読めないからこそ、他人と関わろうとするのではないか?


それも他人を知るためというだけではなくて、他人を通し、自分というものを見つけて行くのではないか?


そう、ドランは思った。


お前や他の奴のおかげで俺は見つかったよ。


ドランはかすかに口元に笑みを浮かべ、ネロの方を向かずに言った。


「人探し、だろ?」


「ううん、神の使い探しだよ」


よく、わかってんじゃねえかよ。


ニヤッと笑うネロの顔が目に浮かび、ドランは一緒になってその笑みを真似た。


そんな二人の立つ、フィールドオブグレースでは未だ、対魔戦争が繰り広げられているというのに、二人の足とその背の翼は軽かった。


まるで、どこまでも飛んでいけるような歩いていけてしまうような気がした。


まんざら、嘘でもないけどな。




二人の救世主は今度こそ自らの使命のままに進んで行く。


その先に、一人、待ち構えたものがあった。


丁寧に右手で被ってもいない帽子を取り去るような動作とともに深くお辞儀をしながら、男は言った。


「待って居ましたよ、お二人とも」


金髪碧眼の男はその後、たっぷりと時間をかけて顔をあげた。


その存在とタイミングのおかしさに面食らった二人へ彼は続けた。


「使命感に燃えていただくのは大変結構なんですが…私、少しばかり前に、寝返ってしまってですねぇ…早速ですが、あなた方のお相手となろうと思うんですが」


どうでしょうか?とニヤニヤ笑いながら男は言った。


その表情は彼の異様なまでに整った顔とあいまって、とても現実とは思われない雰囲気を醸し出す。


いや、もはや、彼を含んだ情景自体をも取り込み、まるで幻想の中に閉じ込められたかのような、感じさえ、ネロとドランは感じていた。


男の背中には二人と同じ、白い翼。





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