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the third  作者: 深雪
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56暗い森の奥深く

カイ…私は、少しだけあなたを過大評価しすぎてしまっていたようです。


あなたの心が、言動が、あんまり美しくて、純粋で…だから、私の目は狂わされてしまったのです。


心の奥底まで見えるはずのこの私の瞳を、あなたという存在が無意識にぼやかしたのです。


騙したのです。


とても、巧妙に、一枚岩のように、隙間なくね。


だから、私は見事に騙されてしまいました。


きっと、あなたを本当に理解するというのは、私の能力を使ったとしても、到底たどり着くことの難しい境地だったようです。


今のあなたは暗い、どす黒い、うす汚い、たぎるように熱い。


その痩身を内側から黒々と燃え盛る灼熱に焦がしているかのように。


私は決してそんなあなたを見たかったわけでも、そんな風に作り変えようとも思ったわけではありません。


ただ、信じたかったのです。


たとえ、すべてを知ったとしても、そのすべてがあまりに残酷で生きていることすら辛くなるようなほとに辛辣な事実だとしても、あなたなら…あなたなら…耐え切って笑って見せると思いたかったのです。


私の理想を叶えるためにね。


そして、あなたは結局、俗物でした。


まるで、ダイヤモンドのように輝いていたあなたは、もう見る影もない。


一般のそれが暖炉にくべられたあとのように、黒々としたすすのようになってしまいましたね。


あなたはダイヤモンドのような輝きを持っていたかもしれませんが、石炭のように強くはありませんでした。


さて、それじゃあ今度は、あなたが不死鳥のように、その身を焦がす業火をも糧として蘇ることを願いましょうか?


ねえ?カイ?




「一月っていうのは、どうやら、人を変えるには十分な時間みたいですね」


組織の中でも、一級に背が低く、かつ一級に必要な人材である、ロボロ・フロマージュ。


一見、小動物系というより、イコール小動物と考えた方が妥当な顔つきをしている彼女はその性質の中でもかなりの割合を占める、明るさを、おおかたその顔から失っていた。


彼女は生来のムードメーカーであり、彼女がそんな表情を浮かべていれば、皆がみなその湿っぽい空気に包まれ、場がどんよりとするのは必然なのだが、今は、例外なく皆がみな彼女に関係のない原因のためにその表情を陰らせていた。


がっくりとうなだれている。


その、皆とは、ここ数日ですっかり仲の良くなった5人組である。


カイを先頭に、スノウ、アラン、ロボ、リリア、そしてレイピア。


だが、そのうちの一人は、今日も一人、修練場に入り浸っていた。


カイ・ルートである。


彼は、変わった。


それは、まだまだ親交の足りていないであろう、ロボからしてもひらがなを読むよりもずっと容易に掴み取れる状態だった。


彼とアランとスノウ、その面子で地上に出たのは知っていた。


なんともまあ突然のことだとは思ったが、まさか、それだけでなにもここまでの変化を人間に起こせるとは思えない。


何が起こったのか、問い詰めたい。


しかし、問題としては当事者である、他二人がなにも言わないという点から、ことの重大さがわかってしまうところだった。


その変化の要因たり得る問題が、あまりに大きすぎるということはままある。


変化なんて、時のながれより、ずっと、外部要因によるものが多いとロボは経験足から理解していた。


ある友人はそれなりに尖った性格で、協調性があまりないタイプだったが、ある時にいじめを受けた。


それから、気がつけば温厚で、おとなしい女の子になっていた。


またある友人は、落ち着きがなく、とにかく、いつでもしゃべっていなければ気が済まないようなタイプだった。


おかしくもないことで笑い、どうでもいいことで盛り上がる、どうしようもない子だった。


それがある日突然、落ち着き払った雰囲気をまとい始め、やがてそれはだんだんと拭い去れない影のようになり、彼女に一つの陰りを持たせた。


訳を聞くと、両親が同時に交通事故でなくなったらしい。


なんとまあ、本当に、人生何が起こるかわからないものだ。


そして、その「起こってしまったこと」がその当人をどう変えてしまうのかもまた、大きな話。


そういった話はたいてい、話すことで楽になるというが、話せる相手が目の前にいるというのに話さないのは…まあ、そういうことなのだろう。


にしたって、一体何があったのか?


ロボはただ、沈んだ気持ちの中に、埋もれてはいるものの、消えはしない好奇心と戦っていた。


「ええ、本当に」


長い金髪が特徴のアランは微笑む。


どうやら、彼だけは周りの空気に流されるという状況にはいないようだった。


いつでも、マイペース。


それが彼のスタンスとも言えた。


ロボはそんな彼にかなりの好意をいだいているのだが、同時にどうしてそんなことができるのだろう?という疑問に常々悩まされている。


とはいえ、この笑顔は反則だ。


ロボはさっと顔をうつむかせた。


もう、すっかりアランの能力のことなんか忘れてしまっている。


それに、たとえ意味がないと思ってはいたとしても、反射的にそうしていたはずだ。


そのくらい、アランの笑みはすごかった。


一級の芸術品と並ぶ美しさでありながら、その皮下には自分と同じように血が流れている。その事実がまた、さらにその魅力をます。


…まあ、当然のことなのですが。


意識せずとも改まってしまうほど、か、かっこいいです~…はぁぁ…つりあわないですよね、そうですよね、月とハムスターですもんね…って、なんでこんな事態でこんなことを⁉


「……ゴホン!え、ええとですね、ここに集まっていただいたのは他でもありません、彼、カイ・ルート少年を元気付ける会を開こうというものでありまして…って、あれ?皆さーん、聴いてますですか?」


ロボはあまりの反応のなさに不安になり、みなを順々に見る。


…こりゃ、ダメですね…そもそも本人たちに元気がないんじゃ…


「確かに、そうですよね。でも、この時分に元気がある方がおかしいという話ではありますが」


アランは苦笑した。


いい感じにえくぼができて、少しだけ柔らかい金髪がゆれて、普段かくれている形の綺麗な耳が垣間見れて…って!ちっがーぅ!


「そ、そうなんですよね…」


誰に相談できようか?


好きな男は心が読めてしまうんだ…なんて…。


とはいえ、心を読まれるというのにも、利点はある。


自分の本当の意味の好意を受け取ってもらえているということになるのだから。


いつかはかなう!…なんて、甘っちょろいかもしれないですけれど、そう信じるです!


「あ、今、叶いそうですよ?」


「う、嘘!ついにあたしの恋が叶っちゃうですか!嬉しすぎです~!!」


反射的にアランに飛びつこうとしたロボの体は宙を舞い、たたらを踏み、もうすぐで倒れこみそうになるというところで、背中と首元に支えが入る。


「うぅ…また、冗談ですかぁ!」


「いいえ、本当に一瞬だけかなっていたんですよ。ロボさんの赤い顔があんまり可愛いから…フッ」


彼は言い終えると同時に、ロボの耳元へと口を寄せ、吐息を吹き込んだ。


甘く、柔らかく、温かく。


「ふぇっ?!…にゃひぃ…ぃぃ」


そのまま、ノックダウン。


ロボは心臓バクバクなんていうレベルではなくて、意識が体から離れたり戻ったりを繰り返すほどの衝撃に何度も何度も襲われた。


そして、その後、ひどく惨めな気分になった。


あんまり虚しくて、情けなくて、体に力が入らない。


なんだか、こんなことが前にもあったような?


………っは⁉あたしとしたことが!すっかり本題を忘れてたです!


「ええーと、それで…あの、もう大丈夫です」


ロボが一声かけると、すうっとアランの身体が離れた。


一瞬の動作なのに、しっかりと定まり切っていなかった、ロボの重心を中央に戻すことも同時にやってしまう。


器用な人だ、と思う。


本当に、器用な人だ。


どうしてこんな風に完璧にこなせるんだろう?と言う疑問と同時に、もう一つだけ、疑問符の混じったフレーズがロボの頭をよぎる。


そんな風に気を遣っていては…神経が持たないのでは?


「ご心配なく。その気遣いだけで、元気になりますよ」


ふふっと気持ちの良い笑みを浮かべたアランの表情は完璧。


惚れちゃうくらいに、いや、まあ惚れてるわけですけどね…。


でも、と否定する。


何を?


その完璧さを。


どうして?


知っているから。


完璧な人間なんていないって。


「あのう…ハーフですよ?私」


「そういうことじゃありませんですよ!」


人でもハーフでも、おそらく魔人でも、考え方や価値観、そして性格は外的要因によって歪められ、あるいは、正される。


それは、ある種の法則だ。


決して、一定で平等なわけではないけれど、誰しもその法則に逆らうことはできない。


どんなに強固な精神を持っていても、外からの刺激に耐え忍ぶことができたとしても、それを無傷ではねのけることは不可能。


誰もがなんらかの快楽か痛みかを受け取ることとなり、それは必ずなんらかの変化をもたらす。


不変であることはできないのだ。


つまり、完璧なものがいたとすれば、それはそう見えるように巧妙に作り込まれたもので、そう振舞うようになった要因がある。


ロボはそう考えている。


だが、人を、完璧に見せるように、変える…そんな要因があり得るのだろうか?


だとすれば…。


そこまで考えて、ロボは身震いした。


深く考えれば考えるほど、その要因が負のものに思えてくるのだ。


明確な手がかりも根拠もないくせに、嫌にリアルに訴えかけてくるマイナス。


それは、あらゆる種類の負の要素の特に苦く暗い部分を混ぜ合わせ、負の連鎖によって出来上がった、おぞましく視界の片隅にもいれておくことのままならないようなオブジェ。


ああ、なんて、恐ろしい…。


果てもない想像。


根拠のない、現実味のまるでない妄想。


しかし、ロボにはそれを無視することはできなかった。


そして、もしそんなものがアランの過去にあるとしたら、今もその痛みが彼を襲っているとしたら、と考えると、心が痛んだ。


「ロボさん、それ以上妄想はやめてください。だだ漏れですよ?そんなことを考えていては、人を元気付けるどころか、逆にその気分を落としてしまいます。…ですから、ね?」


「………はいですぅ」


アランは優しく諭すように言った。


しかし、その瞳は、空の一部をそのまま切り取ったような薄青色のそれは、笑っていなかった。


少しも、微笑んではいなかった。


そこに浮かび上がった色をロボにはうまく形容することはできなかった。


ああ、あたしにも心を読む力があったら…。


そっと、心の奥底で囁くように出てきた言葉。


「楽しいものじゃありませんよ。絶対に、絶対に…」


見つかってしまった。


やっぱり彼の前には何もかもが白日の元にさらされてしまう。


そして、読み取った彼は言った。


楽しいものじゃないですよ。


絶対に。


そして、もう一度、絶対に。


彼の表情は歪んだ。


それは彼の美貌、彼の魅力の全てをそこらへんに捨てられた紙屑のように、くしゃくしゃにしてしまっていた。


「…あ…の…」


ロボは見つけることができなかった。


言葉を。


今の彼にかけるべき言葉を。


それは、彼がロボの言葉を必要としていないという事実を表しているのかもしれなかった。


「………ない」


ロボは首を振る。


「…わからない…ですよ…」


何度も何度も。


何もわからないです。


友達は変わってしまった。


四日後には戦争が起ころうとしていて、目の前で愛すべき人は何かに苦しんでいた。


どうしたらいい?


自分はなんの役に立つ?


なんの役に立ちたい?


わからない。


友達を元気付ける方法どころか、自分が何をすべきかもわからない。


ロボはしゃがみ込む。


その頭の動きは止まらない。


溢れ出した感情も止まらない。


何時の間にか地面にこぼれ落ちていた涙も、止められない。


そして、嫌というほどわかっていた。


こうすれば彼が、彼自身の感情なんか欲望なんかほったらかしにして、優しく微笑んで、頭に手を置いてくれることを。


その少しだけ骨ばった感触も、それから伝わる温かさも、それの優しい撫で方も、全て全て、知っていた。


それが自分でも信じられないくらいに好きで、でも同時にそれがどう見たって逃げであることも、知ってる。


今すぐ泣き止まなきゃいけないのも、


知ってる。


今すぐその手を拒まなきゃいけないのも、


知ってる!


崩れ落ちた膝をまっすぐに伸ばさなきゃいけないことも、


知ってる!!


でも、でも、でも、弱くて弱くてどうしようもないあたしにはそのどれ一つとしてできなかったです。


ああ、変わりたい。


彼のように、カイ・ルートのように、強く、強く、強く。


そんな思いは、男の冷ややかな声に打ち消された。


それは不完全で、むき出しの負の感情をいっぱいに含んだ声という状態を間借りしたナイフ。


「彼は強くなったんじゃありませんよ。その弱さゆえに、外面だけを堅く、厚くしようとしているだけです。痛みが怖くて、怖くて仕方がないから」


…返す言葉もなかった。


あまりの言葉に、そこに含まれたカイへの侮蔑にも近い調子に、戸惑った。


ただ、だらしなく空いた、ふさがらない口と目をそのままにしているしかできなかった。


“このままじゃあ、何もかも壊れてしまう”


ロボはそんな不吉な考えが何かの予言のように、漠然と頭の中央に浮かぶのを感じた。


何処かの誰かがグラスにワインを注ぐ音がする。


こういう時、不思議と余計なことばかりが意識に入り込んでくるのだ。


ロボは何処かの誰かが回廊を歩く軽快な足音に耳を傾けたままアランの言葉を待った。


とてもではないがそれしかできなかったのだ。


バーテンダーの手の中で何かがシェイクされる音がする。


その時、初めて自分がバーにいることを思い出した。


ほぉっておけば、ただただ痛い沈黙の中、その薄青色の瞳を見つめたロボはどこか深い森の中に、迷い込んでしまったような気分に陥った。


森の中には暗色しかなかった。


日が落ちたのではなく、いつだってそこは暗色が広がっている。


見渡す限り、光はどこからも差し込んでいない。


…ように見えた。


どこに自らがいるのかもわからない。


ただ森の奥へと誘われ、どこにも抜け出せない。


そのうち、抜け出したあと自らが何をしようとしていたのかも、どこに帰ろうとしていたのかもわからなくなるのだ。


しかし、ロボには見えていない。


森には光が全くないのではないことを。


木々の天井の先にいつだって日が出ていることを。


そして、なにより、光があるからこそ、暗色だとわかるのだということを。


わからないから、面白いようにはまりこむ。


抜け出せないほど奥へ奥へと誘われる。


その時、何かが呼び止めた。


暖かな木漏れ日が一筋差し込んだ。


やはり、頭上には日が出ていたのだ。


「すみません、忘れてください。取り乱してしまいました」


森の主が、森全体がその身を折り曲げ、詫びた。


なにを?


なにを?


なにが?


なにが?


なにに?


なにに?


もうすっかり奥まできてしまったロボには、もう手遅れだった。


変える場所も、目的も、とうにわからなくなっていた。


ああ、ただ、彼女にわかることがあった。


“このままじゃあ壊れてしまう”


誰かの叫び声のように、それは森を徘徊していたのだ。


何度も何度も何度も。


こだまし、広がり、響き渡ったのだ。




その時、彼がやってきた。


黒髪黒眼のほっそりとした美青年…カイ・ルート。


今もってみると、本当に整った顔立ちをしているですね、なんてロボはついつい考えた。


本当に、そうなのだ。


その上、アランの言い切った、弱さの壁が彼の印象を少しだけ変え始めている。


その顔は大人び、幼さがだいぶ抜け落ちていた。


それは、そこに浮かんだ疲れた表情のせいもあるかもしれないが。


それに、ほっそりとしたという表現だが、以前の印象だったら、はっきり言って痩せぎすだったのだ。


しかし、今は痩せぎすとは言えない。


見る影もなかった腕力やら馬力やらが少しだけ想像できる身体になっているのだ。


それは、修練場での訓練が一因してるとしか考えられない。


しかし、それにしても…とロボは信じ切れていなかった。


遠目から見ただけではわからなかった変化を今、目の前で大写しにされたのだから、無理もない。


それだけ彼は変わったのだ。


少しではない。


かなりだ。


客観的に見ればそれはそんなに悪い変化には見えないかもしれない。


だが、真実としてはきっと、悪い。


それもかなり、あまりに悪い。


ねえ、どうしてそんな顔しているの?そう、問いたくなる表情を貼り付けた顔。


変わってしまったその雰囲気の中に、ロボはさっきと同じような感覚を抱く。


わからない、わからない、わからない。


かつては眩しいくらいに希望とか期待とかがあったわけではないけれど、いくらかのささやかな光がちゃんとあったその瞳はなにを写しているかもわからない。


人形の瞳のように、ただ見せつけるために、人としての造形を成り立たせるためだけにそこにあるように見えた。


口元には何の感情も浮かばない。


ただ、顔全体で疲れを表している。


でも、それはただの肉体的な疲れではないと思われた。


いく度もいく度も行われた、内蔵をすり減らすような精神の葛藤の末に出来上がったオブジェのように見えたのだ。


それは、いびつで、穴だらけで、ひどく煤けている。


ただ、見つめるだけで負の感情に満たされてしまいそうなもの。


だから、なにも言えずにその顔を一瞬だけ観察したロボはすぐにそこから目を逸らした。


でないと、喰われてしまいそうだったのだ。


なにに?


わからない。


本当にわからない。


仲間の、想い人の心情どころかこれから始まる戦争という言葉の意味でさえ、うまくつかめていない。


わからないは怖い。


でも、抜け出しようがないじゃないですか。


誰も、何も、ヒントをくれないんですから。


ああ、とため息とともにロボは深い森の中で木々たちの枝の成長の現れの一つであるその緑と暗色で構成された天井を見上げた。


そして、


「元気付けるどころか、あたしが元気なくなってきちゃいました…ですぅ…」


とつぶやきながら、出口を探す。


光はない。


木々に誰かがつけた目印なんてどこにもない。


でも、諦めるわけにはいかないです。


だって、あたしが諦めたら、誰がこの空気を変えるですか!


ロボは心を奮い立たせた。


そして、声をだす。


「おはよう!カイ!」


元気に、明るく、はっきりと。


「………おは、よう」


ロボの発したものとはまるっきり反対に位置するような声で彼は返事をした。


それだけで、ロボは光を感じることができた。


かすかな、本当にわずかな光。


少しでも意識をそらしてしまえば、わからなくなってしまうような光。


でも、見逃さない、見逃すもんですか!


この先に光ある世界が待っているです!




ロボさん。


あなたは本当に良くやっています。


他人のことを考えに考え抜いて、前に進もう、状況を良くしようと、奔走している。


でもね、人の心ってのは、そんなものじゃないんです。


これは、うわべだけの言葉ではありません。


だって私には見えるんですから。


あなたが感じた光なんて幻です。


行きすぎた妄想に基づいた希望的観測の産物ですよ。


彼がなにを求めているか、あなたにはわかりようがありません。


結局あなたはうわべだけしか見れていないのですよ。


彼が求めるのは光ある場所に行くことではありません。


彼が求めるのはもっと暗く、黒いものだ。


ちょうど彼の目や髪と同じように、どこまでも暗く、救いのないものだ。


その先になにがあるのかもわからないような、救いのないもの。


でも、求めずにはいられない。


それが心理だ。


彼が求めるものは根本的にあなたが提供しようとしているものではありません。


それは森の外にはありません。


それにあなたは重大な勘違いをしている。


彼はあなたの声が届くところになんかいないんです。


あなたが奥だと思っているそこは、せいぜい入り口から数歩歩いた程度の場所でしょう。


彼がとっくに通り過ぎた場所だ。


そして、彼の求めるものはその最深部にあるんですよ。


もう帰ってくる方法なんてどこにもないようなほどに深く暗くじめじめした場所に。

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