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the third  作者: 深雪
49/83

45長い長い夢のあとに

「…ン!」


ん?


「…レン!」


な…んだ?


「シュ…レン!」


う、ううん…。


「シュンレン!」


「は、はいっ⁉」


少年はガバリと夢の世界から帰ってきた。


部屋の中を探すまでもなく、声の主は彼の起き上がったその視線の先に立っていた。


「なんだ、おじさんか」


「シュンレンッ!!」


「……ッ⁉」


少年はその声に驚いてベットから危うく身を落としかけた。


「おお、起きたか」


「お、おじさん!何するのさ!」


少年はムッとして目の前に立つ小柄な男を睨みつける。


「いやいや、せっかくお前の大好きなおじさんがきてやったってゆうにによ、お前があまりに反応薄いからまだ寝てんのかと思ったぜ」


「ったく、冗談もほどほどにしてよ。危うくベットから落ちるところだったじゃないか」


「大丈夫。ベットから落ちても死にゃあしないぜ」


「ああ、でたでた。老人の口癖だ。おじさん、かなり老け込んだんじゃない?」


少年が目の前にいる男を観察する。


40くらいだろうか?


白髪の割合が高めのせいか、ちょっと老けて見える髪の毛は、禿げたりとか薄くなったりはしていなかった。


けれど、それは少年のそれよりずっとまともだった。


観察しながら、少年は『真っ白な』自らの髪を寝起きの瞬間だけに、軽くかくと、またつまらなそうに、まるで夢の中の方が良かったと言わんばかりの表情だ。


そうして、再び目を向けられた男は、今時珍しく、髪の量が多すぎて持て余してるという感じにさえ見えた。


背丈は結構高い。


ベッドから身を起こした少年の座高のはるかに高いところから、その少しだけくたびれた細面が見下ろしていた。


割に整ったその顔には、現在、年齢不詳のイタズラっぽい笑みが浮かんでいる。


「なあに、言ってるんだよ。お前が老け無いだけだろ。まあ、その分頭の発達が遅いみたいだがな」


「なんてこというんだよ!僕はいつだって絶賛成長中さ。今なんて身長に倍キャンペーンまでやってるんだよ?」


「ふん、まあいいけどな」


「ねえねぇ、やっぱり同い年なのにおじさんって呼ばれんのはやなの?」


「いや、大丈夫だ。慣れてるからな」


「なにせ、お前に会う前から、ずっとおじさんだからな」


「うん、大変だよね。僕はこの通り、もう何年前からか忘れちゃったけどさ、それから歳ほとんど食ってないけど、おじさんはついこないだからだもんね」


「ああ、ちなみにお前の嘘を見抜くのも時間がかかったぜ」


「まあ、あのまま親戚みたいな関係でも良かったとは思うけどなぁ。さすがに、それも飽きたしね」


おじさんと呼ばれた男の顔が不意に真剣な表情に切り替わる。


「で、お前、なにかあったのか?この二日、寝続けてたんだぞ?」


「ちょぉっと、過去の記憶がね。なんとか早送りしたんだけど、それでもこれだけかかっちゃったんだ」


「ふぅん。で、どんな夢なんだ?」


「からっからに乾いた荒野でさ、すっごい悪趣味な夢を見てた夢だよ」


「夢の中で『夢』か、そいつはあの魔女を思い出すな」


「あれあれ?おじさん、もしかして面識あったの?あの性悪女とさ」


「いいや、噂を聞いたことがあるだけさ悪趣味な夢の中にいる間、その中を自由に作り変えられるんだよ」


「ふぅん、まぁ、いっか。それでさぁ、その夢の中の『夢』だと、僕はネロって名前でその魔女ベティと一緒に暮らしてるんだ」


「おかしな夢だな。もちろん落ちはあるんだろ?」


「いいや、落ちに行く前におじさんが起こしちゃうから、わかんなかったよ。まあ、実際にあった過去の記憶だとおもうから、『再生』すれば問題無いはずなんだけどね」


はぁ、と少年は深くも浅くもないため息をはいた。


「でもさ、面白かったなぁ。その『夢』の中だとさぁ、魔女の方は僕とかもう一人の『来訪者』をさぁ、完全に普通の少年少女と勘違いしててさぁ。少女の方は少女の方で自分の存在意義わかってないし、僕の正体に気づかないし、笑っちゃうよ。全くさぁ」


「少女?」


「ああ、そうそう、一緒にベティの『罠の夢』に巻き込まれてた子だったんだけど、めちゃくちゃ可愛い子だったよ。僕のお嫁さん候補の一人さぁ。でもねぇ、僕らがどれだけ『重要な存在』で、どれほど『希少な存在』かわかってないなんてねぇ、頭悪いし、もったいないよ。その点は最近までの君も同じだけど」


「仕方ないさ。俺だって下手したらずっと気がつきはしなかったよ、『証』がでてくるまではな」


男は苦笑する。


「まあ、夢の話はそれくらいにしてさ。僕らはもっと楽しいものを見に出向くことにしようよ」


「ああ、そうだな。今となっては逃げようとした自分が馬鹿みたいに思えてくるぜ」


男はおもしろくなさそうにボソッと言うと、後ろ手でドアノブをつかむ。


そんな男を見て、少年は答える。


「いやいや、まだ待って、いま、出て行っちゃうとややこしくなるから」


「『ややこしくなるから』?」


「うん、今はまだダメだよ。せっかくこれから、一対一の対決が二対一のさらに楽しい戦いに変わるんだからさ」


少年は邪悪な笑みに口元を歪めた。


男は一瞬目を見開いてから、また落ち着いた表情に戻ると、ドアノブから手を離した。


「シュンレン、お前って奴は本当に変わっちまったな。昔は可愛いやつだったのによ」


「違うよ。僕の名前はシュンレンじゃないし、僕が変わったんじゃなくて、おじさんが気づいただけさぁ」


そう言うと少年は口元を歪めたままクツクツと笑った。


「ああ、それから、おじさん。僕の本当の名前教えとくよ。ネロって言うんだ。よろしくね」


「わかった。だが、俺の名前はおじさんじゃない」


「いいやいいよ。呼びやすいし…」


とここで男がネロの言葉を遮った。


「バァカもん!名前ってのは其れなりに重要なんだぞ。で、俺はドランだよろしく」


「えぇー、ドラゴン?」


「ドランだ!」


「ドラム?」


「ドランだ!って言ってるだろうが!」


「うーっんと、ドラム缶?」


「缶をつけるんじゃない!なんかちょっとだけ想像して笑っちまったじゃねえかよ!ドラム缶風呂とかはいってみてえ、とか思っちまったじゃぁねえか!」


「ふーん、ドラム缶風呂ってそんなに気持ちいいの?」


「いやぁ、そりゃそうだろうよ~、そもそもドラム缶って奴はなかなか味があっていい…て、なに、ドラム缶で話題変えようとしてんだよ、おい」


黒々と夜に染まり切った雲は月明かりを遮り、部屋の中には真性の闇が立ち込めていた。


目の前に誰が立っているのかもわからない闇の中で、二人の会話は後を絶たずに続いて行くのだった。


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