35ツアー『夕暮れ時』?No.4(アランVSロイ・ハワード?)
洞穴の壁を加工して作られた回廊の中央で、金髪碧眼の男とボロボロになったモスグリーンのマントを羽織った男とが対峙していた。
マントの男の傍には、青い髪の少女が険悪なムードにあわあわと手足をばたつかせていた。
「わざわざ三文芝居まで用意してこの状況を作り出したわけを話せ」
マントの男が口を開く。
その声は深く、腹の方に響いてくるような重さを持つ。
あたかも、彼こそが王で、今まさに臣下である自らが命を受けたかのようだ。
その場の空気が異様なものに変わる。
それでいて、彼からはまだ底がしれない感じを覚えた。
器があまりに違う存在であると判断するには十分すぎる要素だった。
彼の風格は見るものに一刻の王を、千の時を生きた仙人を感じさせる。
だが、それは決して誇示されたものなどではなく、コップから溢れた水のように彼から自然に流れ出ていた。
そんな男に対峙する金髪碧眼の男はその端正な顔に少しの恐怖も怯えも浮かべず、果ては怯みさえしなかった。
ポーカーフェイスという言葉だけではとても表し切ることのできない、風のない水面のように平坦で静かな表情で答えた。
「ええ、私はどうも好奇心が常人よりも幾分か強いようでして、気になることは徹底的に突き詰めて解き明かさない限り、おちおち夜も眠れないのです」
「ほう、してその好奇心のベクトルはどこに向いているのか」
「無論、あなたです。ロイ・ハワード。あなたの出現とボスの失踪、それがほぼ同時期に起こった。これが偶然と言えましょうか」
「確かに偶然には見えないかもしれぬ。だが、これらは決して誰かの意図ではない。たとえ、そのうちの一つや二つが誰かの手によるものだとしても、おそらくそれらは大いなる意思によって動かされているわけではない。貴様の言ったとおり、『偶然』に起こったとしか言いようがない」
「そんな馬鹿なことがありますか。それに、あなたは死んだと散々私は聞かされてきました。ロボさんなど、その現場に居合わせたと言っていたではありませんか。それに、あなたはボスと同じ戦争経験者のはずであるのに、あなたの見てくれはとてもボスと同じ年齢には見えません。少なくともふた周りはあなたの方が若い」
「質問攻めか」
「お嫌いですか」
「好きなものはいるまい。まあ、いい…だが、我の覚えているところまでで良いか?正直なところ、我には貴様の言う死んだ時点の記憶も『生き返った』瞬間の記憶もないのだから。それどころか、さらにたくさんの記憶がかけている。かろうじてここについての記憶は残ってはいるが、かなりあやふやなものだ」
「…わかりました。あなたは嘘をついてはいないようです」
「貴様は人の心を読み取る力を持っているのか」
「ええ、ですから本来ならこのような場面をわざわざ作らずともあなたの心を探り取ればそれで良かったのですが、あなたの心は確かに表面上の感情の変化は読み取れるものの、その先の記憶部分に入り込もうとすると、これ以上はならんと言うように霧がかかってなにも見えなくなるのですよ。封心術でも身につけられているのですか?」
「なんだ、そのフウシンジュツとやらは?」
金髪碧眼の男は首を振った。
「いいえ、なんでもありません。少し安心しました」
と、そこで言葉を切ると、本題に入りましょうかとマントの男に話すよう促した。
「ふむ、いいだろう。しかし、リリアには席を外してもらおうか」
マントの男は隣に佇んでいた少女に向き直るとその深い声を発した。
対する少女は少しだけ不機嫌そうに顔をしかめたが、男のことをよくわかっているのか、変に追求したり、文句を口に出したりはしなかった。
「………わかったわ」
と静かに要領のいい返事を返すと、ロボたち一行が進んだ方へと足を傾けた。
その足は少しだけ重そうだ。
きっと話の内容が気にはなるのだろう。
だが、同時にそれを知ることはできないこともわかっていた。
その葛藤が彼女の足に重りのようにのしかかっていたのだろう。
とマントの男の目には映った。
愛おしい少女の青い髪揺れる後ろ姿を、少しだけ後ろめたそうな光をたたえた漆黒の瞳で見つめていた。
そうして、少女がすっかり視界から消え失せてしまってから、その表情を固めると、男は語り出す。
真実を。
それがことの根本的解決につながるかはわからない。
だけれど、知っておかなければならない。
金髪碧眼の男はその晴天の空のように澄み渡った瞳を半眼にし、情報をもれなく見つけ出し、記録できるよう準備した。
そこにはいつものおちゃらけた空気など微塵もありはしない。
ただ、好奇心という名の空腹感を満たすために、貪欲に情報という餌を今か今かと待ち構える獣が一匹いるだけだった。
回廊にロイ・ハワードの声が響く。
そこにあるものすべてに浸透していくかのごときその声は、その言葉は、アランを大いに動揺させ、ある感想を抱かせた。
「…そんなことがあり得るのですか⁈もしそれが事実だとしたら…あの少年は…」
「ああ、まだ推測にすぎないが、おそらくそういうことになるのだろう」
「『天の誤り』…」
不意にアランの口からこぼれ落ちた言葉。
その響きはハワードのそれとは違う色を持ち、回廊にこだました。
回廊の一面灰色である壁を塗りつぶすかのようにその色は広がって行く。
だが、おそらくその色を認識できるものは皆無だ。
その変化はあまりに微弱で貴重なものだった。
「『天の誤り』…この世に手違いで生まれ落ちた…世界には重すぎた者。世界の法則だけで縛ることのできないはぐれ者」
アランはさらに言葉を紡ぐ。
自分自身の頭の中を確かめるかのように慎重に、間違いのないように言葉を選び、発した。
そうして、自らの口から漏れ出たその事実の重さに言葉を失う。
「………」
地下世界にもまた、地上世界に吹き荒れるものと同じか、それ以上の強さを持った大きな大きな変化の嵐がすぐそばまで迫ってきていたのだった。




