31ツアー『夕暮れ時』?No.2
足を、時たま口を、散々動かし続け、目の前にようやっと新しい部屋があるであろう扉が見えてきた。
こちらからみると、壁に埋め込まれているように見えるその扉は無駄な装飾の一切ない、木製の地味なものだった。
その扉が見えた途端ふと思い立って後ろを振り返って見た。
一体どのくらい歩いただろうと。
少なくとも一時間以上は歩いていたはずだと予測を立てる。
まあ、それが辛いとか言うほど僕は運動不足なわけではないんだけれど。
そうではなくて…
振り返った回廊の長さとその幅広さから想像し、思った。
「この組織って、すごく広いんですね」
「そうですー。このくらい広くないと九千人も住めないですー」
前を歩くロボがすぐに答えてくれる。
ああ、確かに。
忘れかけていたけれど、ここには約九千人のハーフが住んでいるのだ。
それならこれだけ広くても足りないくらいだろう。
まあ、だからこそ先があるのだけれど。
不意に黙っていたスノウが僕の横を歩くスノウが口を開いた。
「ロボさんっていつからここで働いてるんですか」
「そーですねー…物心ついた時にはもうここに住んでたんですーって、かんじなのですー」
ロボは少しだけ遠い目をして何か考え事をしたあと、答えた。
物心ついた時から、か。
うん、待てよ、それってつまり…
スノウが土足で入り込もうとしているロボの過去がおそらくかなり重たいであろうことに気がついた、いや、感じ取ったといってもいいかもしれない。
きっとそれは重石のように彼女の足に巻きついて、ずるずると暗闇の底に引きずりこんでしまうだろう。
そんなの、ダメだ。
だから僕は思わず口を開いていた。
「そういえばロボさんって、ロボットって呼ばれたりしたことってありますか」
とっさに口から飛び出した言葉。
それはどうやら効果は抜群だったようで、ピキッという音と共に彼女の顔はみるみる赤くなって、その大きな瞳は半眼になり、口元が拗ねた。
あれ…なんか、すごく嫌な感じだな。
絶対押しちゃいけないスイッチ押しちゃったみたいな?
「だぁれがロボットだとぉーこの野郎ーですー!!」
ロボは叫ぶと、目にも留まらぬ速さで僕のお借りしているTシャツの襟をぐいと掴み上げてしまった。
その動作から、自発的に頭の中に吹き飛ばされた時の場面が回想される。
小さな身体をより攻撃的にするために特化した効果的な構え、そこから繰り出された絶大な威力を誇る掌底。
そしてなにより、壁に身体を打ち付けられた時の全身を竹刀で打ち据えられたような痛みがじわじわと帰ってくるのを感じた。
悪寒がして、掴まれたまま、身体を震わす。
それと、怒った時も口癖は治らないんだ…。
「え、あの…ちょっと、待ってください、質問しただけなのですが…」
「そうやって人のこと馬鹿にしやがるんですか!ですー」
「ああー、すみません…気を悪くさせてしまったのなら謝ります。だから、離してください」
僕はさとすように言った。
そうして言ってしまってから気がついてしまった。
さとすように言った…、彼女は幼女のような見た目を気にしてる…、子供扱いされるのが嫌い………。
ああ、まずいな…なんか現状で最も踏んではいけない地雷に思い切りかかと落とししちゃったよ。
ロボの小さく可愛らしい顔を見下ろすと、そのこぼれ落ちそうに大きな目と僕の目が合った。
でも、その目はもう、普通じゃない。
以前も見た、あの目だ。
オレンジ色の瞳が奥の方から赤々とした炎に照らし出されて、ギラギラ光る。
そこに浮かぶ感情は純粋な怒りだった。
いや、もしかしたらその他の感情も混在していたかもしれないが、あまりにその怒りが前面にですぎていて目には入らない。
だけれど、彼女はただうつむいただけだった。
「あたしは…あたしは…造られたんじゃ、ないです…要らなくなったから捨てられたんじゃないです…ただ、ここにいたくて、ここのみんなが認めてくれたから…」
「………」
やはり、ロボは見た目とは程遠い高さの精神を持っているようだ。
あまり人の感情を掴むのが得意でない僕にだって、ロボの目に浮かんだ感情の炎を感じ取れた。
そのくらい強い感情を一瞬で抑え込んでうつむくなんて真似はできない。
彼女にもなにか、あったのだ。
僕が欠陥品と呼ばれ、蔑まれ、嘲られ、虐げられていたように…。
ロボの紡いだ言葉はとても読み取りづらい意味を含んでおり、それすべてを把握するのは無理だと思う。
だが、その言葉に一番に含まれていた意味は読み取れた。
僕もそれで苦しみ、それに悲しみ、それに悩み、それに振り回されて生きてきた。
それゆえに、伝わってくる。
痛み、悲しみ、苦しみを含んだ過去、それゆえの現在への感謝と喜び。
「だから、それだけはやめて…です…」
ロボの目から惜しげもなく大粒の涙がホロホロとほおを伝って顎から地に落ちた。
ああ、女の子を泣かせてしまった。
父さんに見られたら大変だ。
一つ、決して人を傷つけたり不快にな気分にさせてはならない。
一つ、利己的な行動は慎み、常に人を気遣え。
っていつも言ってたっけ…今頃、どうしてるだろう…僕のこと心配してくれているのかな、探してくれているのかな。
はぁ…どちらにしてもこの立場とこの現状は変わらない。
「はい…本当にすみませんでした」
罪悪感にチクリチクリと刺される胸をそのままに頭を下げた。
心から謝る。
それを実践した。
そういえば、久しぶりかもしれない。
人と向き合うことを避けてきた、僕にとって、心のこもった謝罪なんてした覚えも何もない。
今みたいに相手を気遣うことも、自分の失態を恥じ入り、頭を下げることもだ。
だから、いい気分と言ってはおかしいかもしれないけれど、清々しかった。
澄みきった冷たい水を頭からかぶって足の先まで清められるかのような気分だ。
もちろん、それで罪悪感が消えてしまったわけではないけれど、ただ、新鮮な感覚に突き動かされて自分の中の何かが目覚めてくるようなそんな気配を前に、薄れてしまっていたのかもしれない。
ロボの返事を聞くまえに胸を刺し貫く自己嫌悪の念は少しずつゆっくりと引き抜かれ始めていた。
「はいですー。こちらこそ申し訳ないですー。なんだか取り乱してしまったみたいですー」
ロボの顔に弱々しい笑みが浮かび上がる。
今にも消え入りそうで、あまりに儚げで、見ている側に同情を禁じ得ない表情がそこにはあった。
「カイ…あんた、何がしたかったの」
スノウは言った。
これにはさすがの僕も憤りを覚えた。
これだから、何も知らないやつは…なんて思ったりするけれど、結局は僕のお節介なわけで…。
ああ、いつから僕はこんなにお節介な性格になってたんだ?
思わず頭を抱えた。
「それじゃあ、入りましょうか」
ロボが少しだけ赤くなった目をこすりながら、言った。
「はい」
ロボはとても切り替えが早い人だ…いや、本当はいい意味で嘘つきなのかもしれない。
他人に心配をかけないためにつく嘘、他人をきずつけないためにつく嘘。
いまさら追及しようなんて思わないけれど、本当は僕なんかよりずっと歳上なのではないか。
と、結論を出してから気がついた。
ロボがすっかり涙の乾いた顔に笑みを咲かせてこっちをみている。
よくみると、もうすでに彼女との間には数メートルの距離があった。
「おいて行っちゃうですよー」
「ま、待ってください。ロボさん」
そういいながらスノウが追いかける。
まあ、追いかけると言っても数歩の距離なのだが初めて入る場所に一人では行きたくないのだろう。
もちろん、僕も同じなわけで…
「わわ、待ってください!ロボさん」
慌てて足を踏み出した。
少しだけ、砂埃が立って、ズボンの裾と靴の中にパラパラとした気配があるが、そんなものは気にしない。
ロボが目の前の扉のノブに手をかける。
さっきは気がつかなかったが、ノブはなかなか豪華なものだった。
鈍い金色の光を放って地味な扉を装飾すると言うより、ただ、自己主張しているだけのようにも思えたそのノブが、ロボの白い手の中でガチャリと回される。
少しずつ開いていく扉から、僕とスノウは文字通り目を離せなかった。
だんだんとその姿を現す新しい世界。
そこは…生活感に溢れた、あまりに普通で間違いがない、そして、非常につまらない世界、いや、部屋だった。
うーんと、なにしにどんな部屋に入ったんだっけか?
「バカヤロー!オマエラ!アケンナ!」
唐突に怒声を受けて怯んだ僕の手をロボが掴みそのまま中に引き入れた。
明らかになった部屋の全貌はなんともつまらないとしか言いようのないものだ。
別段高そうにも見えない木製の丸型テーブルが中央にある、二十畳ぐらいの部屋。
テーブルの脇に添えられたイスも木製で、これと言って形容すべき点もないようなテーブルと同じ丸型の背もたれのないイスだった。
ちなみに僕は背もたれのないイスをイスだとはあまり認めたくない。
なぜなら、座っていて疲れるし、というより、寄り掛かって座るという行為こそ本当の意味での座るということだと言いたい。
まあ、それはともかく、その部屋の家具はほとんど部屋の隅に追いやられていて、絨毯(これだけは高そうだ。見ているだけで手触りの良さが伝わってくるし、色あいも鮮やかで、それでいて気取っていないセンスのいいものだった。)の引かれた床の上にはなにやらたくさんの記号が描かれた正方形やら長方形やらの紙が散在していた。
そこに、むさ苦しい顔の男が一人。
その男は作業着をはためかせ、こちらにドカドカとわざと大きな音を立てながら歩いてきた。
とても小柄な男だ。
なんと、ロボよりも背丈が低い。(かなりレア。でも、この男を小動物的とは思わない)
ちなみに男と言ったのは顔が髭やら産毛やらでもしゃもしゃしていたからである。
「アケルナトイッタ!ナニシニキタ!」
とても、変わった話し方だ。
なんだか片言に聞こえる。
そういえば、歴史の授業で習ったな…確か、パールの考えにどうしても合意できずに離れて行った人々は違う言語を話していたんだっけ。
まあ、それを習ってもいない僕が理解できるわけもないので、従って今目の前にいる男は僕と同じ標準語で話しているんだろうけれど、なんだか違和感がある。
「すみませんですー。今、新入りさんをちょっくら案内してるところなのですー。よければ見学させてもらいたいのですー」
「フン!ワレワレノスンバラシイシゴトップリヲソンナニミタイカ!」
「はいですー」
「シカタナイ!スコシダケダ!」
「はいーありがとうですー」
「うわぁ…なんかすごいあっさり…ていうか単純」
スノウがまたもなんにも考えない発言をする。
それは予測通りの展開を招いた。
「ソコ!オバアサン!ナニカイッタカ!」
男が怒りに震える声で叫ぶ。
『夕暮れ時』の人は基本的に皆短気なのではないだろうか…そんな風に思えるほど子供っぽい反応だ。
この男、よく見ると昔読んだ絵本の挿絵に載ってた小人にそっくりである。
確か、『ナントカ姫と七人の小人』とかなんとか言うような題名だったっけ…もう、何年も昔だけれど、怖い魔女が出てきたような…もう、憶えてないや。
「おばあさん…?」
スノウが首を傾げる。
だけれど、僕には男の言いたいことがわかった。
まあ、確かに白髪って言ったらあれだけれど…こんな可愛いくて若々しい婆さんがいるかっての…て、僕はなに考えてんだ!
慌ててブンブンと首を振る。
うん、別にこれは本心じゃないし、別にそんなこと思ってないし!
「バカヤロ!オマエダロ!シラガ!」
「し…しら…白髪…?」
あ、まずい…。
男のでかい声でなんとか自分の世界から帰ってくると、スノウが少しずつうつむき加減になっているところが目に映った。
それから、ちょっとずっとスノウの身体が小さく小さく収縮し始める。
もう、ダメだなこりゃ…わるいけど、ここまできたらもう止められないよ。
あーあ…残念だけど、もうあの小人さんここで人生終わりだよ。
スノウに白髪と言うのは禁句なのさ、小人さんよ。
せめて、ハクハツとかギンパツっていやあ良かったのによ。
よりによって、婆さん呼ばわりしたあと、シラガとはな。
あばよ、小人さん…て、あれ?
「あの…スノウさん…なんでこちらに体を向き直していらっしゃるのでしょうか?」
白髪ポニーテールの美少女が小人からターゲットを僕に移し替える。
いや、なんかもう慣れてきてるんだけれど…これはまずい。
スノウは現在、『溜め』の状態だ。
身体を極限まで縮小し、体内に溢れかえる怒りのエネルギーを一点に集めている状態。
これから始まるのが『練り』、体内で一点に集められた怒りのエネルギーを直接的に筋力へと換算できるように加工する。
最後に『放出』、集められ、練り上げられた怒りのエネルギーを身体の成せるギリギリのラインまで筋肉へと供給し、その高められた筋肉から最凶最悪の威力を秘めた一撃を放つ。
どうしたらいい?
退路はない。
きっとあの一撃は部屋のどこにいても避けることはできない。
かといって、あとからこの部屋に入ったスノウは現在扉付近に位置するため、部屋から出て行くという選択肢は残されていない。
どうする…?
そうこうしてる間にスノウが『練り』に入ってしまった。
どうする?どうする?
経験上、あの一撃を喰らえば、病院送りは逃れられない。
いや、実際のところ、僕は直接あの一撃を受けたわけではなくて、以前にあれを見た時は、学生カバンが犠牲となったのだ。
その時はあれを食らう直前に机のそばにたてかけてあったカバンを投げつけたところ、間一髪でターゲットをそのカバンに移すことに成功し、なんを逃れたのだ。
で、その命の恩人であるカバンさんの末路は…消失…。
いや、焼失といった方が正しいか…僕の目の前で命の恩人は跡形もなく、焼き消された。
一瞬で燃え上がり、なにもあとには残らなかった。
投げ上げられたカバンは二度と地に戻ることはなかったのである。
思い出すだけで全身鳥肌が立つ。
あの時ばかりはスノウが化け物のようにも感じられた。
そして今、ついに練りが終わってしまった。
あとは放出を待つばかり…。
ここには投げるものはない。
逃げ場もない。
もう、ダメだ…八方ふさがり、手も足も出ない。
こんなところで終わりだなんて…。
うわぁ、こんなことならもっと好きなことやれば良かった。
頭にきた時とか、遠慮とかしないで思いっきり言いたいこといえば良かった!
………そう頭の中で叫んでから気がついた。
僕って、ちっちぇええ…もう嫌だ。
こんな自分、この世にいても何にもできないんじゃね?役に立たないんじゃね?だったらいいじゃん、一瞬で消えられるんだぜ!最高じゃん!こんな恥だらけの生なんか終わらせてもらっちゃえよ!
頭の中がたくさんの自分の喧騒に一杯一杯となった。
少なくとも、五人は居て、好きなことを好きなように言ってる。
それでいて、誰も自分についての長所を言わない。
いや、言えないのか…どうせ僕なんてここで死んで当然の短所の集まりみたいなものなんだ…。
そんな時、六人目の僕が現れた。
なに言ってるんだよ!君のいいところをたくさん知ってるよ!君は常に人のことをよく見て、なるべく傷つけないようにと懸命に生きてるじゃないか!役立たずなんていうな!それは狭い視野でしか物事を見ていない奴らの戯言だろ!現に今君はこの組織の中で必要とされているじゃないか!だから、胸張って生きろーーーー!
なんか、すごい力でてきた。
なんだよ、この僕…まるで神様みたいだな。
後光さしてるっていうか、もう雲にのっちゃってるっていうか、この世を創造しましたとかそんなレベルのオーラだしてるよ!
ありがとう!六人目の僕。
僕は生きるよ!
生きて必ず…
「…はぁーーーー!!!!」
僕の思考は、とてもではないが普通じゃあない掛け声によってかき消され、それと同時に僕は現実に引き戻され、そして…インパクト。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
か、身体が…焼けるように、熱い…内側から焦がされて、跡形もなく消し去られそうだ…ジリジリと細胞の一つ一つが確実に消されて行って…
激痛で思考が止まる。
もう、目からも鼻からも情報が頭に入ってこない。
頭の中が真っ白になったり、真っ黒になったり、はたまた真っ赤になったりする。
喉が焼け付き、身体が水を切望する。
身体中から水が抜かれて、ミイラにでも、なってしまいそうだ。
いや、ミイラは内臓を処理されてるんだっけ…?
…て、あれ?
僕は今、考えてる?
いたいけど、耐えられてる?
思考が戻ってきた。
生き…てる…。
僕、生きてるんだ!
「良かったぁ…」
僕は胸をなでおろした。
目を開けると、僕の溝うちに入りそうになっている白く艶かしい女の拳があった。
止まっている。
その格好で時間が止まってしまったように、ピクリとも動かない。
え、じゃあ、今のはまさか…寸止めの余波だとでもいうのか?
「ふぅ、なんとか抑えられた…ごめんなさい…カイ。また同じことを繰り返すところだったわ…」
「う、うん…だ、大丈夫だ…よ…」
そうフォローしていると、緊張が溶けたせいか、両足から力が抜けて、情けなくもその場に尻餅をついてしまった。
口から漏れたるはから笑い。
「は…ははは…はははは…あっはっはっは…」
それから、どれぐらい時間が経っただろう?
その状態のまんまであった僕はなんとか精神を奮い立たせて、その壊れた人形のような笑から抜けだして思った。
絶対スノウのことを怒らせないようにしよう…でないと、本当に死ぬ…あの時とは比べ物にならないくらいに強化されてる…。
「さてと、そろそろ行きますですー」
え?
僕は耳を疑った。
「ソウカ!ンジャ、マタキナ!」
あれ?
何か、おかしい。
「はーい。でも、こんどバアサンなんていったら、怒りますからね?」
怒ってたよ!
紛れもなくな!
「アア!キヲツケル!ジャアヨ!オラ!ニイサンモホレ!イッタイッタ!シゴトノジャマダヨ!」
だからなんでそんなに気さくになってんだ!
おっさん…僕なんかあんたの名前すら聞けてないよ!
てか、兄さんって僕のこと?
しかもちょっと僕だけ扱いがひどくないか?
「はーい、連れて行きますですよー」
ロボがなかば放心状態の僕の腕をつかみ上げる。
「ちょ、ちょっと待ってください!僕はまだ…」
「いいから、行くですよー時間がなくなりますですしー」
「ああーもう…ひきずらないでくださいー!」
こうして『加工屋』の見学は終了した…あ、そうだ!
今のは加工屋の本部だったんだっけ…なんか、思ったより普通だったな…
引きずられつつ、思い出し、別段感想を抱くこともなかった。
ただ、一言言いたい。
この見学会ってなんかかなり危険度高いです!
はい。
だが、始まってしまったものは止められない。
進むしかない。
ただ、先に広がる組織『夕暮れ時』の全貌を知るまで、この旅は続くのだ…まあ、今は後ろ向きで引きずられてるけれど…。
そんな僕を哀れむように規則正しく揺れたランプが赤やオレンジの淡い光で優しく僕を照らし出していた。
と同時にその光はまた、この先に潜む秘密を暴こうとしている弱い僕自身を表しているのかもしれなかった。
僕はそんなランプを見上げて言い聞かせる。
「たとえどれだけ弱くても、もう僕は誰も泣かせたくない」
だから、スノウが泣かなくて良かった。
そう考えたら、自然と顔が緩むのがわかった。
見上げていたランプの炎が少しだけ明るさを増した…そんな気がした。




