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the third  作者: 深雪
30/83

27変態にしないで

「あーなんかもう、今死んじゃっても文句ないかもー」


背中を半分覆い隠すほどの長さを持つ鮮やかな青い髪の毛先をたくさんにわけて、そのそれぞれを可愛らしいピンク色のリボンで結んでいる、人形のように美しい顔を持った少女は大きな大きな独り言を放った。


それは見事に回廊内に響き渡り、現在その場にいる他の四人の耳に、まるで耳元で話すようなレベルの音量で伝わる。


見やると少女は、モスグリーンのボロボロのマントを白衣の上から纏った男の腕に、巻きつくようにその細い腕を回していた。


なんともまあ幸せそうな顔をしている。


トロトロととろけてしまいそうなホワイトチョコレートみたいだ。


そこに、少しだけイチゴのソースを混ぜたみたいに綺麗に赤く色づく肌はもう…この世のものとは思えないほどに美しく、魅力的だ。


触れたい、見ているだけでは耐えられない、そんな欲求にかられる。


そんな彼女の言葉はそのうちの一人に激烈なショックを与えたようで…そのものは少女の華奢な肩をガシッと掴むと、その白く細い身体を思い切り前後に揺すった。


その行動は周りからみれば予測の範疇だったが、当の言葉を放った少女からしてみると、どうも想定外の事態だったらしい。


薄青い瞳をまん丸に開き、餌を求める魚のように口をパクパク開いたり閉じたりさせている。


「ちょ、ちょっと⁉なにするのよ、アラン!」


「死んでもいい、なんて、そんなこと言わないでくださいよ。あなたが居なくなったら、居なくなったら…」


「なによ。居なくなったらどうなるわけ」


「誰に対して変態になればいいんでしょうか」


少女の肩を掴んだ手を離すと、金髪碧眼の男は優雅で、かつわざとらしく、大袈裟な動作で跪いた。


だが、その対象である少女、リリアはもはや呆れを通り越して、怒りに身を青い炎で焦がしていた。


「どうしてあんたは、いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!!そうやって軽口しか叩けないのよ!ほんっとにどうしようもない男ね!あんたは!それにあんた、誰にだって変態じゃない!今朝だって聞こえてきたんだから!」


「何がです」


「それは、その……」


少女は何故かうつむいた。


どうしたんだろ。


すごく気になる。


今朝…今朝…今朝…今朝…今朝ぁっ?!


「あの、リリアさん?ももももしかして、それって…」


思わず口を開いていた。


まさかね、そんなはずないよな。


だけれど、少女はうつむき加減をさらに押し上げて、どんどん頭と首と背中でできた角度を鋭くして行った。


その耳は赤い、すごく赤い、触ったら火傷しそうなほど熱いのではないだろうかというほど。


「うわぁ!アランさんの嘘つき!音はもれないっていってたのに…」


もう、終わりだ…これでは男色家と思われても無理はない、声だけならどんな風に勘違いされても文句は言えない状況だったし。


あぁ、やだよ。


また、嫌なレッテルが貼られて、みんな離れて行くんだ…また僕は…


「へ?なんのこと?音がもれないって、なんの?」


リリアの反応は考えていたものとは九十度くらい違った。


純粋に疑問符を浮かべて首を傾げている。


気になるのか、うつむいていた美しいかおはちゃんと首の上に元通りのっかっていた。


「はい?だからその、今朝のことでしょう?」


「そうよ、今朝…その、アランが、ね」


ロイ・ハワードの太い腕から何時の間にか離していた手をしたの方でモジモジと反対の手の指を弄んでいる。


うん?やっぱりこの反応は違うな。


なんというか、明らかに他人事に対しての反応ではない。


これは…恥じらってる。


それも他人に対してではなく、自分の何かに。


それから、アランへの今朝も、という言葉。


そこから察するに、今朝、アランは僕にだけでなく、リリアにも同じような変態行為を働いたということだ。


まあ、僕に対しての方は男同士であるからスキンシップと言えば問題はそれほどないといっていいけれど…彼女にもし同じことをしていたとしたら…。


想像してしまう。


彼女の白く透き通るようなきめ細やかな肌を濡れた白いタオルで撫で回す。


彼女の口から漏れるであろう吐息、恥らい、紅潮する身体…。


「ずるいですよ。どうやったんですか!」


「お前も変態か!」


「⁉いったぁ…。す、スノウ…なにするのさ」


右隣にいた存在感の薄い女の子から殴られた。


グーで思い切りだ。


相変わらず手加減を知らない。


殴られた後頭部がジンジンと痛む。


ていうか、なんで殴られたんだろう。


殴られた痛みや突然のことへの怒りではなくて、浮かんでくるのは疑問符のみ。


首を傾げてスノウの方へ向き直るしかなかった。


どういうわけかその顔はかなり不機嫌なもので、ほおがリスみたいに膨らんでいた。


突っついて空気を吐き出させたくなる可愛さだが、多分それをやったらきっと今度こそ必殺技が出てくるだろうから、ぐっと堪えて置いた。


「だいたいの流れであんたが何考えてるか予測できたのよ。昨日と今日見てて思ったんだけど、あんたって実は本当に変態なんじゃないの」


「どうして僕はこうやって証拠もないのに何度も変態扱いされなきゃならないんだ?」


はぁ…独断と偏見で人を決めつけるなっての。(ああそうそう、ハーフだけどね)


「しょ、証拠って、あ、あれよ…あれ…あんたの部屋から…その、聞いちゃったのよ…その…」


「わかった!もういいよ、スノウ」


そこで彼女の言葉を遮った。


おそらくこれ以上言わせては本当に僕に変な、いや、変なんてものじゃないほどのラベルが貼られかねない。


もしそうなったらそのラベルの成分表には『変態』とか『男色家』とか書かれているんだろうなぁ…。


まあ、その事態を回避できたのはいい。


一時的だが、なんとかしのげた。


だが…。


アランに一つ伝えなきゃならないことがある。


もちろん、これだけ強く願っているのだからきっとアランの方も意識することなく読み取っているのだろうと思う。


でも、口にしなけりゃ済まない。


「アランさん…あなたはどこまで人を騙すのが好きなんですかッ!!護衛するどころか、危うく僕の人間的尊厳とか立場とかをぶち壊しかけてるんですよッ!わかりますか?」




「…ええ、それはまあ」


「いいですか、まず、謝ってください」


「すみませんでした。これでいいですか?」


見事な棒読み。


口元には余裕の笑みと人を化かす狐みたいな仮面が張り付いていた。


全く、反省の色がない。


「いいえ、今後一切そんなふうに勘違いされるような行為をしないと誓ってください!」


「それは難しい申し出ですね」


「いいから誓ってください!せめて、せめて僕が被害を被らないように」


「ふむ、それも不可能に限りなく近いです」


「何故ですか?」


「私はそもそも、冗談と変態でできた、変態行為と冗談を言うために生まれた存在なんですよ?それがどちらもなくなってしまったら、なにもない、空虚な、粗大ごみになってしまいます」


「どうしてそんな風に清々しいまでの嘘がつけるんですか。呆れて言葉もでないレベルですよ…じゃあもう粗大ごみにでもなんでもなってください」


「ダメですよ、無駄にゴミを増やしては」


「例によって言葉遊びみたいなこと言わないでください」


「そうでした。私を構成する成分の中に言葉遊びも含まれてます」


「言葉遊びは成分じゃないですよ」


「うーんと、では行動パターンの方ですね。さすがはカイ。私のことをよくわかってくれてます」


なぜだろう。


怖いことにこの流れに慣れてしまったのか、全然初めて話した時ほどの面倒臭さや呆れ、怒りなどが湧いてこない。


むしろ、このなんともいえない会話を楽しんでいる自分すら心の中に見つけられそうである。


なんともまあ恐ろしいことだ。


人の慣れとはここまでのスグレモノだったとは…(まあ、ハーフですけど)


「まだ出会ってから二日目ですから、全然わかりませんよ」


「私は知ってますよ。あなたがどんなところをいじられるのが…」


「ああーもう!それはダメ!」


ぎりぎりのタイミングでアランの口を塞いでやった。


危ない危ない、半分くらいラベルを貼られかけた。


全く、自然な会話の流れで人を貶めようとは、食えない、というかもはや食べたくない男である。


「ねぇねぇ、なんでこの二人ってこんなに仲いいの?」


不意にリリアが首を傾げて、いやもう、肩にペタンとつけた感じにしていった。


なんか、すごく可愛いんですけど、やめてください。


反則です。


「そうなの。なんか、あの二人、すでに昨日からあんな感じなのよね。なんでなんだろ?」


スノウもまた、同じように首を傾げているが、癖なのかその口元に細く長い人差し指を押しあてている。


なんかもうすみません、この挟み撃ちには叶わないです。


思わずそんな言葉を声に出してしまいそうになるくらいの絶景だ。


こんなのなかなか見られるものではない。


癒されるというより、見ているだけで、自制心と闘わなければならず、そのせいで精神力を早くも使い果たしてしまいそうである。


「うーんとね、私、聞いたことあるよ。友達って意外と自分に似てない人との方が仲良くできるらしい」


「ふーん、確かにあの二人、似てないわね。髪の長さも色も。アランさんの方がずっと大人っぽい顔してるし」


「え、いや、それ違うよう。私がいいたいのは性格の方の話だよ」


「あ、そういうこと?なら良かった~。つまり、あの二人が仲良くなればなるほど、性格は全然違うって証拠みたいなものなのね?」


「うん、まあそういうことなんだと思うよ。あ、でも良かったっていうのは?」


「だってそれならカイがアランさんみたいに変態じゃあないってことになるじゃない」


「うん、なるほど。確かにいらんみたいなやつばっかりだったらこの組織終わっちゃうもん」


なにやら、二人で頷き合っている。


そちらもそちらでかなり仲良くなれているようで、微笑ましい。


スノウは学校には馴染めなかった。


僕はそれを馴染むことができるのにしないのだと思ってた。


でも、違ったんだ。


学校にはたくさんの人がいる。


彼らはある程度まで共通の、考え方、常識に縛られていた。


彼らは、外見だとか、行動でその常識から外れてしまったものを受け入れず、排除しようとするのだ。


排除されるものにたいする扱いや仕打ちは本当にひどい。


今まで仲間であったり、ある程度まで関係を持ったものでさえ、簡単に排除する側に回る。


それはもはや抗うことのできない法であり、染み付いた慣習だった。


僕はその残酷さを身をもって知った。


それだから僕は人が嫌いだ。


大嫌いだ。


自らを光を持った聖なる種族とする、傲慢な者たち。


自らの残忍さに見て見ぬふりをしている。


そんな中にスノウが馴染めるはずがなかった。


スノウは排除する側にいることのできたものだ。


だけれど、それを拒んだ。


そうなるくらいなら、排除される側でいいと考えた。


だから僕は彼女のそばにいるし、彼女は僕のそばにいる。


排除されたもの同士で排除された側で話をして、触れ合って、自分たちが決して価値がないものなどではないと実感できた。


彼女がどう思っているかはわからないけれど、少なくとも僕はそんな彼女に救われた。


それと同時に、彼女はもっと他のものともコミュニケーションを取るべきだとも思っていた。


こんな彼女を僕だけのものにして置いたら罰が当たる。


でも、人なんかとは馴染んで欲しくなかった。


だから、今、目の前に映っている光景は僕にとって非常に喜ばしいことだ。


ハーフだから変わるとか、ハーフだからいい、なんていう偏見は持っていないけれど、これは彼女にとってきっといいことだ。


そんな気がしたから。


良かったね。


スノウ。


「あの、なんか感動的な感じになってますけど、私、すっごい惨めな気分なんですよ。ちょっと、無視しないでくださいよ!」


良かったね。


うん、本当に良かった。


「それに、まだハワードさんなんか腕しかでてきてないんですよ?あ、あとマントか」


めでたしめでたし。


なんか、雑音が聞こえるけど、気のせいだろう。


回廊内は音が良く響くし。


不意に冷たい風が回廊ないを吹き抜けた。


借り物のTシャツの裾が風に揺られている、心地よい冷たさに身を預ける。


少しだけ興奮したり、考えたりしていたせいか微量ながら発生していた頭の熱を冷ましてくれる。


でも、時折思う。


この風は、どこから吹いてくるのだろう。


ここは地下世界。


自然な風など、起こり得ないはずの空間だ。


であるのに、朝の新鮮な空気をそのまま伝えるような心地よいこの風は、どこから吹いてくるのだろう。


「ふむ、それは我にもわからんな」


「え、ちょ、ハワードさんも心読めるんですか⁉」


「私が伝えただけですよ!」


「もう、無理やり出番作らないでください!」


「いやはや、やはり私の存在感をしっかりここいらで示しておかないと…」


「十分ですよ。ハワードさんはともかく、アランさんはもはや僕より目立ってますから、ご心配なく!」


「我は無駄口を叩くのは苦手だ。どうも、自らを軽薄なものたらしめているような気分になる」


「ごもっともです。さすが英雄です。アランさんも見習ってください」


「では、そろそろ時間ですね。ハワードさん、案内をよろしくお願いします」


「うむ、待っていたぞ」


ハワードが厳粛な雰囲気を少しだけといて、喜びの表情を露わにした。


うわあ、なんか、違うような。


じゃなくて!


「時間って…決まってないですよね?」


「まあ、そろそろということですよ。スノウさん、リリア嬢もそろそろ行きましょうか」


「わかりました」


「そうね」


二人は返事をするとともにすでに歩き出したハワードのあとをついて行く。


「あ、ちょ、待ってくださいよー!」


僕は慌てて四人のあとを追いかけた。




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