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the third  作者: 深雪
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26ブラックコーヒー

組織『夕暮れ時』における階級は四つだ。


下から隊員、小隊長、幹部、そして元帥である。


約九千人のハーフのうち小隊長や幹部になれるものはごくわずかである。


小隊長は百人、幹部とはさらに選りすぐられた一握り、九千のものたちの一握りのうちのさらに選び抜かれた生粋の強者である、十人がその地位を持つ。


小隊長という地位はいわば組織内でのエリートをさし、働かずともある程度の生活が約束された者たちを指す。


しかし、幹部ともなればその待遇は隊員とは比べ物にならない。


高額な収入、豪奢な住まい、そして上層会議の参加権などの様々な特権が与えられる。


それはこの組織において、一生遊んで暮らせることを約束されたことと同義である。


それゆえ、皆が目標とし、追い求め、渇望する。


だが、幹部になるための明確な基準が存在しないため、権利の奪い合いが流れとして、暗黙の了解として根付いていた。


それは弱肉強食という太古からの獣の習慣がごとく、弱いものを引き下ろし、強いものが権利を得るというものに近い。


つまり、今、幹部として君臨する者たちは数々の決闘により、他者を退けてきた、強者たち。


その中の一人、アランは自室で一人、思い悩んでいた。


天井にはシャンデリアが少々華やかすぎるまでにその色とりどりの光をこれでもかと主張している。


床はフローリングとなっており、虹色の光を眩しそうに反射していた。


壁紙は落ち着いた灰色、そのどこにも剥がれ掛けていたり傷んだところなどなかった。


部屋の広さはだいたい十六畳ほどで、一人で住むには少々広すぎるほどのものだ。


これでもあてがわれた際に遠慮したものなのだが、散々交渉した挙句、こちらが折れることとなった。


部屋が広い、その空間に一人でいるという時間は贅沢であり、それでいて、思考をいい具合に助けてくれる…だが、同時に寂しさや憂いはより一層心に響く。


だから、アランの価値観の上でこの部屋はとても難しい位置にあった。


便利であり、良い点も多いが、好きにはなれない。


そんな部屋で頭を悩ませていると、不意に、ポツンと自分だけしかいない世界に投げ出されたような気分に襲われる時がある。


今がそうだった。


いつもなら他人の心しか見えない瞳が、自らの心を暴こうとする。


忘れ去ったはずの過去、自らを進行形で悩ます疑問、自らの欲望や焦り、自らの欠点や嫌な部分。


そのすべてをこの部屋の天井に輝くシャンデリアのように鮮やかに照らし出す…少々明るすぎるほどに。


ふぅ………


アランは深いため息と共に、部屋の中央に置かれたフローリングの床とよく合うデザインの木製のテーブルに置かれた、コーヒーの入ったカップのとってにそっと手をかけた。


テーブルに備え付けられた椅子に腰掛けていたアランはそのままカップを口元まで運ぶ。


手にとったカップの温かさに少しだけホッとしたあと、口に含んだ熱く黒い液体の苦味に顔をしかめる。


ブラックだ。


アランはブラックしか飲まない。


と言っても特別甘いものが苦手だとか、ミルクを体が受け付けないとかそう言った理由はないのだ。


ただ、この苦味に顔をしかめる瞬間が好きなだけ。


苦味という感覚で自らを襲う嫌悪感や不安、焦り、悩みから気を逸らせてくれるから。


でも、それは本当に一時だけだ決して目の前の問題を解決できるわけでも、自らを好きになれるわけでもない。


しかし、これがなかなかの中毒性を持っており、気がつくと、こうしてコーヒーの入ったカップを傾けている。


恐ろしいことだ。


わかってはいても、やめられない。


そうこうしてるうちに、また悩みが、思考のかけらが、不安の塊が戻ってきた。


「ボスの不在と、死んだはずのハワードの帰還。これが、何を意味するというのでしょうか」


自分に言い聞かせるように、静かに、誰かの耳元に秘め事を囁くようにそっとつぶやいていた。


何故か、大変なことを見落としているような気がしてならない。


そもそも、ロイ・ハワードという男と過去にあったことは一度もない。


昨日はリリアの心から発せられたあまりの驚愕に当てられてあのように反応してしまっただけ。


でも、何故か懐かしい感じがした。


会ったはずもない人間…まあハーフか…からそのような感覚を覚えたことは今まで一度もなかった。


だから、引っかかる。


懐かしい人にあって嬉しいではない、ただただ、引っかかる。


何を見落としている?


どこに問題点があった?


何が起ころうとしている?


わからない…わからないことだらけだった。


この状況に恐怖すら感じる。


昔から身の周りで起こる事象とそれによって発生する結果は全て他者の心のうちにすでに予測されており、その予測を知ることのできた自分は結果をほぼ正確に理解し、それが自分に害をなすならば予測された結果から逸らすことができた。


だから、自分にとって周りで起こる事象とはシナリオ通りに演じられる演劇のようなもので、自分はいつでもそれを捻じ曲げることのできるシナリオの編集者だったのだ。


それゆえに、現在起こっている、この状況、それがなす結果が全くわからないというこの事態は、アランを不安と恐怖の底に突き落としつつあった。


もう、コーヒーも六杯は飲んだ。


薄れては戻り、また引き伸ばされては戻る現実にアランの精神は削られつつあった。


「カイでもからかってやりますか」


何時の間にか結論が出ていた。


結論というより、論題からかけ離れた逃げの策だ。


でも………


もう、ここからでた方がいい。


そんな気がした。


飲みかけのコーヒーの入ったカップをそっとテーブルの中央に置くと、アランは逃げるように扉へと向かった。


開けた途端、流れ込む地下の冷たく湿った空気が火照ったからだを心地よく涼ませ、こんがらがった頭の中の糸を少しだけほどいてくれたような気がした。


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