21不可解な再会
「ボスー、ボス~!あれあれ?いらっしゃらないんですかあ~…?」
「ボス、仕事の報酬をもらいにきたんだけど~…?」
金髪碧眼の男と海のように青い目とおんなじ色の髪の毛先をピンクのリボンで結んだ女が同じタイミングではてなマークを浮かべた。
「なんでリリア嬢がここに!?」
「なんでアランがここにいんのよ!?」
そして男の方は女を嬉しそうに見つめ、対する女はたいそう不機嫌な雰囲気でその瞳を鋭く尖らせた。
とまあ、状況を説明すると…天秤の間での検査?を終えた僕たちはとりあえずボスに結果を報告するため、ボスの住まう灰色の蛇龍が描かれた巨大な赤い扉の前まで戻ってきて、たった今ボスを呼び出そうとしていたのだった。
なんでも、この扉は僕がどれだけ力を入れても開けられなかったのは当然で、中からしか開かない仕組みになっているらしい。
だから、ボスがいなければ中にはいることはできないのだ…あれ?それってつまりボスも中にはいることができないんじゃないか?と冷静な人なら気がつくだろうと思う。
アランの話だと、ボスは外出のためにこの扉からでてくることはないのだという。
例の会議室の中に外に抜け出せるトンネルが隠されており、そこからパルディアの好きなブロックへ外出できるらしい…なんとまあ便利なつくりだなあ会議室…。
「もうこれは運命ですよ!私たちは出会うため!愛し合うため!子供を作るために生まれてきたのですよ!リリア嬢!」
アランがまた愛の告白をしている。
なんかもうさすがにアランの人格は理解できてきたつもりだけれど…わかればわかるほどこの人は謎である…まあつまりこの人は理解することなんてできない人種なのだということだ。
しかもなんかもう運命感じすぎちゃって、はしたないことに、子作りにまで話が発展しちゃってるし…もうダメだな…この人は…。
「なっ!?ちょ、ちょっと…こ、子作りって…変態!この変態男!」
リリアは明らかに動揺している。
腕をブンブン振り回しながら、アランを変態呼ばわりした。
その顔は恥ずかしさからか紅潮していた。
見てる方から言わせてもらうとその通りだと思うけれど…ていうか女性を目の前にして子作りって単語はもう失礼も度がすぎてるとしか言いようがない。
「そうです!変態です!あなたに対してだけは!でなければあなたへの想いを抑えることができず…あんなことやこんなことまでしてしまうかもしれませんよ?」
やばい…もはや脅迫だ⁉
アラン…あんたもう完全な犯罪者だよ…はぁ…。
「わ、私を脅そうったってそうはいかないんだから!しっかし、一組織の幹部だってのにどうしてそんなにふざけてられるのよ?あんたは!」
リリアは肩を怒らせ、ものすごい目力でアランを睨みつける。
見ているこちらからすると、とても怖い。
ていうか、そもそもこの人自体が怖い。
初対面で暴力振るわれたし…。
で、対するアランは睨まれているにもかかわらず、余裕しゃくしゃくと言った表情だ。
「私はいつでも本気です!…まあ、それよりも、ボスがどこへ行ったのかわかりませんか?リリア嬢?」
切り替え早っ⁉
あんなに熱弁ふるってたのに…飽きちゃったのか?この人は…
「切り替え早っ⁉え、ええと…て、わからないわよ!だからこうしてここにいるんじゃないの!」
と言いながらバンバン扉を叩く。
もちろんピクリともしないが。
それにしても、僕からするとかなり恐ろしい存在であるリリアを相手にしているのになんだか完全にアランのペースである。
アラン恐るべし!
「ところで…」
扉を叩く手を止めるとリリアが腰に手を当ててこちらに振り向いた。
「結局あなたも入ることになったのね?」
視線を向けられたのは僕ではなく、スノウだった。
だけれど、スノウはリリアを前に完全に怯えている。
肩が小刻みに震え、今にも崩れ落ちそうで、もともと色白の顔は死者のように青白くなっていた。
それもそのはずだろう。
階段から蹴り落とされたのだから。
そう考えるとなんだかリリアに対する怒りがフツフツと湧き上がってきた。
よくもスノウをあんな目に!
だが、次に取られた行為は予想の範疇を超えていた。
リリアは意外なことに深々と頭を下げた。
その角度は九十度以上。
しっかりと誠意が感じられるレベルだ。
「私…人と魔人にその…恨みがあって…あの時はあなたが人だと思ってたから…つい…言い訳にしかならないけれど…ごめんなさい」
その声は本当に申し訳なさそうで、少しだけ震えていた。
「………⁉」
スノウはリリアの豹変ぶりに驚いたのか、目をまん丸に見開いてリリアの下がった頭から地面に垂れた長い髪を眺めていた。
それから、数秒後我に帰ったスノウは…
「頭をあげて下さい。」
と静かに言った。
その身体はもう震えてはいなかった。
ほおにはいつものように健康的な朱色が戻っている。
「で、でも…」
リリアは渋っている。
罪悪感が強いのだろうか?
彼女の態度の潔さになんだか好感を覚えてしまった僕は浅はかだろうか?
「じゃないと、許そうにも許せないじゃないですか」
「へ?」
リリアは驚いたように顔を元の位置に戻した。
そんな彼女にスノウが続けて口を開く。
「過ぎたことですよ。それにあなたには事情があったのでしょう?その、恨みとか…。でも、結果的には私達仲間になったんだから、水に流して仲良くしましょうよ!私はスノウ・ラクサーヌっていうの。あなたは?」
「リリアよ」
リリアは驚いて口を開けっ放しのまま声を発した。
「これからよろしく。リリアさん」
スノウがにこやかに笑うと右手を差し出した。
リリアはその手を見てさらに驚いたようで口を開く面積は二倍になった…もうちょっと間違えたら顎が外れるレベルである。
「よ、よろしく…」
おかしな顔のままリリアはスノウの手をとった。
それから、照れ臭そうに笑ったあと、
「あなたって本当にいい人ね!これからスノウって呼んでもいい?私のことはリリアでいいから!」
「いいですけど…偉い方…なんですよね?」
「気にしない気にしない!私だってあなたに借りがあるんだからおあいこでしょ?ていうか、もうこれは命令よ?ね?」
「わかりました。これからよろしくお願いします。り、リリア」
スノウは何故か言い辛そうだ。
この会話の流れでいくと全然問題はないはずだと思ったが…あ、そうか⁉考えてみると、スノウが人を呼び捨てで呼ぶ場面なんて見たことなかったな…。
それどころか、学校で僕以外と話しているの見たことがないような?
つまり、友達づきあいがまだよくわからないのだろう。
そんなスノウにリリアはなんだか不満そうな表情だ。
ついさっきまでやってた扉をバンバンと叩く行為を再開しているし、この人は非常に感情表現が豊かである。
「もう!敬語も禁止!スノウ!私達もう仲間っていう前に友達なんだから!ね?」
「…友達かぁ…」
スノウはリリアの言葉に心酔したように顔を紅潮させ、洞穴の天井を見上げた。
それから、
「うん!ありがとう!これからよろしくね?リリア!」
と今にも飛び跳ねそうな感じでいった。
「うんうんそうこなくっちゃ!」
リリアも満足げな笑みに口元を綻ばせた。
なんだかいい雰囲気である。
「なあに、言ってるんですか~。カイと私だって仲良しですよね~!」
アランが不気味なことを言ったかと思うと、何時の間にか僕の肩に手を回して肩を組む形になってしまっていた。
「なっ⁉…ちょ、ちょっと…」
不本意だ。
近いし、近すぎるし…ていうかアランの髪サラサラだし、めっちゃ艶々してて、金色に光ってるし…めっちゃいい匂いしてるし、顎スッキリしてるし、頬には無駄な肉なくて、透き通りそうなくらい白いし、なんかもうすごく美男子だけど!
僕は男色家じゃない!
てなわけで大変不本意だけど…そう思ってアランの方に向くと…なんかすごい怖い顔されたのでもう、いいです、はい。
そうですよ~僕ら、仲良しでーす。
「まあ、そんなシャレは置いて置いて、して、リリア嬢?ボスはどこに行ったんでしょうか?何か用事でも?」
アランはまたもものすごい早さで話題を切り替えた。
なんか仕事モードとふざけモードを嫌な意味で使いこなしてるというか、なんというか…。
でも、肩はまだ外してくれない。
おかげでスノウとリリアには完全に仲良しだと思われてるよ…きっと…はぁ…。
そんなこと考えたら、肩を組む力を強くして締め付けられた。
はいはい、僕はあなたと仲良しですよーだ。
さらに強くなったので、さすがに軽口は控えた。(まあ、心の中だけど)
ていうか、今回の話…僕がまだ一言もしゃべってないような…気がする…いや、確信だ。
なんか、アランのキャラが濃すぎて僕の主人公性が失われつつあるような?
という僕の思考を遮るようなタイミングでリリアが答えた。
「さあ?私は帰ってからまだ一度もお会いしてないし…さっぱりわかんない」
「自由な人ですからね~全く、なんであんな人が元帥なんですかねえ?私、時間にルーズな人嫌いなんですよ。イライラしますね~、ホント。もういっそ私が元帥になっちゃおうかなあ~なんて考えたりもしますよ?まあ、冗談ですけれど」
あの…なんかもう、本音ぶちまけ過ぎ…ていうかそんな真剣な顔で冗談て言われても…ごまかしにしか聞こえないんですが…。
前々から思ってはいたが、アランはボスに個人的な恨みでもあるのだろうか?
なんだか、一言一言に棘があるというか、容赦ないと言うか…一言でいえば冷たいのだ。
もし、こんなことが聞かれてたら…なんて想像すると、聞いているこっちの方が気がきではない。
「ボスのことを悪く言わないで!どうしてあなたはそんな風にボスのことを平気で馬鹿にするの?もっと敬意を払うべきでしょ?普通!あなたにとっては恩人なんだから!」
リリアがアランに反論した。
どうやら、リリアはボスを尊敬しているようである。
顔を真っ赤にして怒るあたり、本気だとわかる。
「まあ、あなたには一生わかりませんよ…私の気持ちなんて…私がどれだけあなたを愛しているか、わかりますか?この私の海よりも深い愛情はあなたにはどうせわからないんですよ!」
アランが端整な顔を歪みに歪めて、悲痛な叫びをあげる。
だが、僕は経験上、アランの心情は表情からは基本的に読み取れないというのがわかっていたので、真には受けないでおく。
食えない男なのだ。
趣味は?と聞かれたらきっと人をからかうことと答えるであろう人間なのだ。
「話を逸らさないで!もう!すぐに話題を変えようとするんだから!本当のことを言ってよ。アラン」
リリアはそんなアランをズビシッと指差し、その海のように澄んだ青の瞳でまっすぐに彼を貫く。
「本当のことしか私は言いません」
アランは引き下がらない。
「いいえ。私にはあなたのような人の心を覗き見る力はないけれど、そのくらいわかるわよ!」
「わかりました。結局あなたには何も見えていないということがですが。私の負けですよ。負け。ボスに対して言葉が過ぎました。以上、解散です」
そう言い放つと、アランは踵を返し、赤い扉に背を向けた。
あの…肩に手が回ったままなんですが…?
それから、ひらひらと手を振りながらもときた道を帰って行く。
その速度は非常に早い。
歩くというよりは早歩きという方が正しいくらいに。
なんとか食らいつくようにして歩くが転びそうになってしまう。
ていうか、
「待ってくださいよっ!アランさん!」
ともつれそうな足をなんとか前に繰り出しながら言う。
全く、これでよく自由な人だなんて人にいえたものだ。
そんなことを思いながら歩いていると、スノウがあとを追ってきた。
僕やアランはなれた風ですでに意識しなくとも頭を下げていたが、スノウは体制を変えずに進もうとして低い天井に少しだけ時間を取られている。
アランの足はそんなことは気にせず最高速まで達してしまい、もはや走っている。
僕もやっと二人三脚のようなこの状態に慣れてきて…って、さすがにきついけれどなんとか並ぶように走る。
体制を下げながら走ると言う行為は案外キツイもので腹筋が痛かった。
前から降りかかって来る風は冷たくて、始めて入った時はこのひんやりした空気が不気味に感じたけれど、今はなんだか心地よかった。
冷水のシャワーみたいに僕の身体を冷ましてくれる。
それにしても…どこに向かうつもりなのだろう?
ここには九千人と言う数のハーフの方々を収容するだけのスペースがあるはずだから、すんごく広いのだけは確かなんだけど…その中にどんな設備がどれだけあるかわからない僕にとっては迷ったら最後…て感じだろうと思う。
だから、絶対にこの人から離れちゃいけないのだ。
まあ、それはもちろんスノウも同じなわけで。
「スノウ!急げー!おいてかれたらまずいぞー!」
と言いながら後ろを振り返ったら…案の定スノウがすぐ後ろにつけていた。
あれ…?
それに、青い髪の美少女も一緒である。
名前はえーと、リリアだっけ?
って、なんでついてきてんだ!
なんて突っ込むよりもっと反応すべきポイントがあった。
組んでるよ…ガッチリ組んじゃってるよ…肩。
「どうしてそちらも肩組んでいるんですかっ⁉」
「成り行きよ!な・り・ゆ・き!それより前向かないと危ないぞ?少年」
いたずらっぽく笑って答えたリリアの言うとおり前を向くと、忠告通り僕の前方に大きな岩があった。
こんなのあったっけ?
と思いながら、なんとか身体をアランの方へそらしてかわした。
かなりギリギリだ。
かわしてからホッと胸を撫で下ろすと、無意識に拳の親指を立てて、それを後ろに向けていた。
「ありがとう!助かった!」
なんか、今回の件ですごくリリアがいい子に見えてきた僕の頭は大丈夫だろうか?
そして、なんとか、二人三脚に近い状態のまま洞窟を走り終えてアランに今度こそどこに行くのかと聞こうとした時…突然アランの足が止まった。
ズザザザッ!と言う音と共に無理やり僕の身体にストッパーがかかる。
しかし、当然のことながら、そんな突然に身体の走る勢いを止められるほど僕のボディコントロールはよろしくないので、前に数メートルほどぶっ飛ばされることになった。
「……ッ!いったぁ!急に止まらないでくださいよ!もう!」
身体中擦りむいた。
顔も、腕も、膝も、痛くてたまらない。
打撲はもっとたくさんだろう。
だから精一杯恨みを込めて、見上げる形でアランを睨んだ。
だけど…その視線の先には…驚いた顔で立ち尽くすアランがあった。
それはもう、驚くの最上級系だ。
そのさらにアランの視線の先には男が立っていた。
モスグリーンのボロボロのマントの下に、清潔感の感じられないほど汚れた白衣を着ている男だ。
うーん…まあ、組織の人なのは確かだとおもうけど…誰?
「……⁉う…そ…なん、で?」
リリアも信じられないと言った様子でただ立ち尽くしている。
そんな中、アランがようやく口を開く。
「なぜ…あなたが?ロイ・ハワード…?」
ロイ・ハワード…ロイ・ハワード…うーん…どっかで聞いたような…。
て、終戦の使者じゃないか!
光研究の大成者であり、英雄であり、僕の間違えられた人じゃないか。
でも…あれ?まてよ…何かがおかしい。
何かが…確か僕がトランスして乗っ取られる予定だったんだよな…今更ながら胸糞悪いけれど…で、トランスは魂を呼び込むんだよな…つまり…この人は…すでに…死んでる⁉
気がついた時にはもう遅い。
なんてことにはならなかったけれど…この状況、どう見たものか?
夕に生き返らせる力なんてのがあった?
いやいや、そうしたらわざわざ僕をさらう理由がないし…て言うことはその人物を真似た誰かによるいたずら?または罠とか?
わからない。
もしそうだとしても、なんのために?
そもそも、僕はこの人物についてあまりに知らな過ぎた。
そんなこの場の緊張感は凄まじい。
誰もが目の前に現れた男がいつ口を開くかと耳をそばだてるなんてレベルじゃなくて…もっとこう、圧迫するような、威圧するような空気があった。
なんとも息を吸うことすら難しい嫌な沈黙の中でなんとか僕の吸った空気は地面に転がる塵の味がして、身体の一部みたいになった地面の感触は硬く、ザラついていた。




