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the third  作者: 深雪
23/83

20惨劇の終わり

「本当に…無くしてしまったのか…ハワードも…ハワードのしてきたことも…全て…」


男は頭を抱えた。


男の目に映っていたもの…それは…惨劇だった。


現状において最も予測のつかなかった自体。


もっとも起こり得ないはずの事象が今、目の前で起こっていた。


男は目にかかる赤髪を振り払い、その琥珀色の双眸で現実を観察しようとする。


男の目が捉えた者は、空を駆ける、黒き翼を背に負った男…あれは…どう見ても…魔人…。


それから、目の前に広がる、血とガレキ、破壊と死の色で塗り潰された、第四ブロックだった。


そして、魔人の男が、闇によって人の心臓を抉り取る場面…これは…一体…?


どう解釈しようとしても、魔人の襲撃にしか見えない。


だが、それはどうあがいてもありえない。


魔人は誓いによって人と完全に切り離されたのだ。


来訪までも禁じあった。


だから、ここに魔人がいるはずがない…それにいたとしたって、こんな風に破壊活動なんてできないはずなのだ。


『終戦の誓い』…ハワードが命がけで達成した偉業。


それがある限り人は魔人を、魔人は人を傷つけることができないのだ。


それなのに…なぜ?


こうして目の前で魔人が暴れまわっているところを見れば…答えは一つ…


「『終戦の誓い』が…壊されるだと…」


それが意味するのは…平和の終わりだ。


どんな手を使ったかはわからないが、『終戦の誓い』がなくなった以上、争いは確実に起こる。


もともと和解したわけではなかった両種族はなんとか『終戦の誓い』という鎖で押さえつけられていたが、精神的な面では国力が回復するに従ってどんどん敵対心は増すばかりだった。


そんな彼らから、鎖を外してしまったが最後、戦争の始まり始まりというわけだ。


なにより、たとえ和解していたとしても、今この時起こっている、この魔人の襲撃を見た人々が黙っているはずがない。


世界はまた戦場になってしまう。


どうすれば止めることができるだろうか?


なぜ止めようとするのかって?


決まってる、人と魔人が戦争をおっぱじめたりしたら、ハーフが独立できる条件のほとんどを失うこととなる。


「騒がしいと思って出て見たものの…まさかこんなことになってるとはな…」


男は頭を起こすと…ぐるぐると肩を回す。


「どうしたもんかなあ…ハワードよ…」


とつぶやくように言うと、そのままもときた方へと戻って行く。


対策を、考えなければなるまい。


だが、そのためにはまず内部の問題を解決しないとなあ…ったく…どうしてこう運が悪いものか…。


その足取りは重く、男を追いかけるように轟音が響く。


見上げれば空はとっくに暗くなっていて、月だけが異様なまでに存在感を示していた。


そうして男はふと気がついた。


「そうか…存在感だ!俺たちの存在感を示すいい機会じゃないか!」


男は歓声にも似たこの場には最も不相応と言える声を発した。


そうだ。


ここであいつを倒し、捕らえれば、ハーフの独立に一歩近づけるかもしれない。


男はくるりと方向転換をすると例の空を飛んでいる悪魔に焦点を合わせる。


「ここからなら、届くか」


赤髪の男、ボスは前方の上空およそ三メートルの高さを浮遊している魔人との位置を目で測る。


だいたい十メートルというところだろう。


この距離であれば忘却の12で届く。


忘却…それがボスの持つ『夕』の力だった。


それはただ自らの記憶を無くす、または他者の記憶を無くす能力などではない。


そんな陳腐な能力であったなら、彼は今、組織『夕暮れ時』の元帥など務まらないだろう。


彼の『忘却』は自らの記憶と引き換えに力を得るというものだ。


その力はあまりに強大であるため、制御できず、代償として記憶喪失になってしまいかねない。


だから、彼はその力を分類し、番号により分けた。


そのおかげで代償を最小限に抑え、力をより細やかに使えるようになったのだ。


カイ・ルートを救った時に使った力は身体を硬化する力。


番号によれば4番である。


そして、今使おうとする力、浮遊は12番。


浮遊は実用の場面こそ少ないが、そのかわりあまり力を必要としない力であった。


うまいことに今は喉から手が出るほど欲しい力である。


硬化には一年という多大な記憶を必要としたが、こいつにはそんなに必要ない。


「忘却の12!浮遊!代償は十歳の初日!」


そう叫ぶと、ボスの身体からぱあっと青色の光が放たれ、その小柄な身体がふわふわと中に浮き出した。


当然同時に記憶は消えた。


パッと、簡単に。


もう思えば九歳までの記憶は無い。


どんな風に小学校の低学年を生活したのかも、それまでどんな風に親に愛されたかも忘れた。


それはとてもさみしいことだが、それによって仲間を助けることができたのだから問題はない!


仲間の命に比べれば記憶など屁でもない。


そうしてボスは青く光る身体をものの数秒で浮遊するという感覚に慣れさせた。


今やボスは地に立った時と同じ、いやむしろその時よりも自由に空を歩き回ることができる。


「いくぞ!」


そう気合を入れて文字通りに空を蹴って走った彼の速さは異常なまでだった。


まさに電光石火。


魔人に気どられる間もなく、その漆黒の翼の根元に鉄拳を叩き込んだ。


「オラよ!」


「……っ!がぁ!」


その勢いをうまく生かした通常の何倍もの威力となった右腕のパンチは魔人の翼に釘のように突き刺さり、奴を数メートルほどぶっ飛ばした。


しかし、魔人も一撃ノックダウンとはならず、一メートルほど降下したあたりで体制を立て直し、ボスへと視線を向けた。


血のような赤い瞳は人への恨みの色が伺えた。


魔人はらんらんと、いや、ギラギラとその瞳を闇に光らせ、ボスへと殺気を込めて睨みつける。


見れば魔人はジーンズを履いているだけで他は何も身につけていなかった。


破壊活動の邪魔になったのだろう。


「ハァッ…ハァッ…ハァッ!」


やつの息は上がっている。


当然だ。


あれだけの破壊活動を行ったということはかなり闇を使っていること、つまり、身体が持つはずがない。


その上、生来の特徴であり、最大の武器であり、何よりも最大の弱点である黒翼に拳を入れてやったのだ。


きっと息が上がるどころかまともに動くこともできないだろう。


「自己紹介前に殴りつけてしまって済まないなあ。しかし、俺は今、そんなことは気にならないくらい憤っているものでー」


とボスはそこで言葉を切ると、体制を立て直したばかりの魔人の眼前に一気に距離を詰め、上空からの容赦のないかかと落としを黒翼に叩き込む。


「なあ!!」


「ウガァァァァ!!」


魔人は痛々しい悲鳴と共に今度こそ地面に叩きつけられた。


ぐしゃりという嫌な音と共に黒翼の潰れる音がした。


これで奴は空を飛ぶことができない。


これで俺の勝ちは確定…な⁉


何時の間にやられていたのか、左脚の感覚がなかった。


だが、不可解なことに痛みもない。


これは…消滅…。


まさかかかと落としをかます瞬間、脚を振り上げた際のわずかな時間に見上げた俺の脚を消し飛ばした…のか…。


恐ろしい奴だ。


だけれど、そんなものは世間的に見てというものだ、俺に言わせれば対して怖くもない。


何故なら…


「忘却の7!再生!代償は十歳の思い出すべて!」


これがあるからだ。


ボスの身体が言葉と共に緑色の光を発したかと思うと、その無くなってしまった右脚が文字どうり再生していた。


これぞボスを元帥たらしめるものである。


あらゆる場面に対応し、いかなる事態にも応用の効く能力とそれを操る冷静な思考。


それこそこの男、ボス・の真骨頂なのだ。


「テンメェ…よくも不意打ちなんて食らわしてくれたじゃねえか!おかげさまで使命が台無しだぜぇ…それによぉ…なんだぁ?その忘却とかいうやつはよ…反則じゃねえのかよ…それに空は俺たちの…聖域なのによぉ…ハハッ!ここまで圧倒的だとよぉ…負け惜しみしかできそうにねぇなぁ…」


魔人は折れた黒翼を愛おしそうにさすりながら、ボスを見上げ、弱々しい声を発した。


「そうか。ならば負け犬はおとなしく死になあ!」


ボスは一言だけ言うと電光石火の速さに重力(分類してしまったおかげで他の番号の力の併用はできないから戻ってきた)をプラスしたその拳を魔人の頭に思い切り叩き込んだ。


あたりにドンッ!という音が響き…それと同時に惨劇の演出者の命が絶たれたのだった。


「案外あっけないものだなあ…魔人など…」


こんな程度の者に、ハワードの遺品となってしまった『戦争終結の誓い』を壊されたかと思うと反吐がですぎて困るような気分だった。


なんでこんな…そもそも人の管理が甘かったのだ!とも思う。


ボスは一言だけ呟くと、やつの首根っこを引っつかんで、第七ブロックの中央を目指し、その場をあとにした。


「ハワード…お前の命がけで作った平和は壊されちまったがなあ、その代わりよお、これをハーフが力を得るための第一歩としてしっかり利用してやるからなあ!見ててくれ」


ボスの雷鳴ような声が高らかに闇を切り裂いた。


だが、この時彼はまさか、自分のことを恨みのこもった視線で見つめる第三者がいたことには全く気がつくことなどできなかっただろう。


「鬼ごっこのターゲットを奪うとは…そこまでして鬼ごっこに入りたいんですね?わかります。今度はあなたが私のターゲットです!!」


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