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the third  作者: 深雪
22/83

19『夢』

どこまでも広がる…荒野。


センスの悪いオブジェのような廃墟の群れ。


あたり一面に撒き散らされた、死の破片。


そこにはどんな声もなくて…ただ、腐臭と埃の混じった風だけが…ヒューヒューとあたりに吹き付けるだけ。


誰も…生き残ってない…。


全てが…死に絶えた…。


どうして私だけが生き残ってしまったの?


でも…わからない…もしかしたら…もう死んだのかもしれない…ここは死後の世界…いわゆる、地獄…なのかもしれない…。


でも、そんなこと…どうでもいいんだ…。


私は…無力だった…。


だから、こうして私は…終わった戦いの残骸を見てるんだ…。


不死であるがゆえに生き残り、不死であるがゆえに見届け、不死であるがゆえに涙をこぼさずにはいられない。


何回、急所を得物で突き刺されたのか、数えてなどいられなかった。


何回、首を締め上げられたか、数えられなかった。


何回…何回…何回…私は…死んだだろう?


そして、何回…死にぞこなったのだろう?


さっきのは嘘だ。


まやかしだ。


ここが死後の世界だなんて嘘だ。


私に死は訪れない。


望んだって…叶えられはしない。


返ってくるのは痛みだけ。


だから、知ってる。


ここは…現実だ。


それは逃がれようのない事実であり、決定的な真実だった。


だから…こんなに…あとからあとから溢れてくるんだ…涙が…痛みが…。


ねえ…痛いよ…私は…どうしたらいいの?


お母さん、お父さん…一言で…いいから…一文字でいいから…声…聞かせてよ…


それで、それだけでいいから…私…それで…いいから…


でないと…もう、無理、なんだ…


私はお母さんの柔らかい笑顔、お母さんの作ったシチューと、背中に生えた綺麗な黒翼が大好きだったのに…人に殺された。


私はお父さんのスコップを力いっぱい地面に叩きつけている時の背中が、優しく髪を撫でてくれた大きい手が、大好きだったのに…魔人に殺された。


大好きな仲間も…みんなみーんな、人と魔人に殺されちゃったよ。


もう、私…壊れちゃうよ…。


だって…私の中には忌まわしい種族の血が…ドロドロって流れてるんだ…。


私から全てを奪った者たちと同じ血で、私はできてるんだよ?


こんなことって…ないよ…ははは…はははは…笑っちゃう。


「笑っている場合なのか?青い髪の少女よ」


男が、顔を覗き込んでいた。


年齢は…三十…前後くらい。


目鼻立ちは整っていて、爽やかな雰囲気だが…身にまとうモスグリーンのマントがボロボロな上に、その下に着ている白衣にところどころ焦げたあとのようなものがついているせいで台無しだった。


「だ…れ?」


「我はロイ・ハワード。お前の名は?」


「…リリア」


「そうか、良い名だな。してリリア、どうしてお前はここにへたり込んでいるのだ?じきに、次の戦闘が始まるぞ?」


「つ…ぎ?また…また…こんなことが起こるの?」


「そうだ。というより、これまでもそれを繰り返してきたのだよ。忌まわしいことにな。我はそれを止めるために、ここへ来た」


「止め…られるの?」


「…わからん。だが、やって見る価値のある実験なのでな。しかし、その前にお前を家まで送り届けなくてはな…。家は、どこなのだ?」


「あれ…」


私は廃墟の群れの一つを指差した。


それだけで…心が…痛む。


涙が…頬を伝ってくる…。


喉が震えて…視界が歪んで…座り込んでいる足が…さらに崩れ落ちそうになる。


男はそんな私を驚ろくほど優しい瞳で見つめ、とても自然な動作で私の肩を抱いた。


「すまない。我がもっと早くあれに気づいていれば…こんなことにはならなかっただろうに…」


その瞳はブラウン。


優しげで、救いがあって、光があって、だけれど…どこか奥底で悲しみを知っているような、そんな色。


「あなたの…せいじゃない…悪いのは、人と魔人よ…絶対に、絶対に許さない」


「いいや、それは違うな。お前はなにも見えていない。目先の悲劇にその青い瞳の光を奪われてる」


そんなんじゃない。


だって、お父さんとお母さんはあいつらに…


「もっと広い目で見てみろ。誰が悪いのか、なにが原因か、わかってくる。お前ならそれができるはずだ。せっかくの綺麗な瞳を怒りや憎しみに曇らせてはダメだ。そうでなければ、お前は成長できない」


「私が…成長したって…お父さんもお母さんも帰ってこないじゃない!」


私は男の腕の中でもがいた。


必死になってその拘束を解こうとした。


でも、力の差は歴然で決して抜け出せやしなかった。


「離して!離してよ!」


「断る。リリアよ。確かにお前の両親は帰ってこない。何をしたってな。だが、それに憤ったお前はこれから何をするつもりなのだ?」


「復讐よ!人と魔人、両種族を滅ぼしてやるの!」


「やはりそうだろうな。では聞くが、おまえの両親は魔人か人ではなかったのか?」


「…それ…は…」


「図星のようだな。もちろんのこと悪人ではなかったはずだ。そんな両親のようなまともな者たちも殺すのか?自らの復讐のために?そんなことじゃあ、お前の両親を殺した者たちよりもお前の方がよっぽどたちの悪い犯罪者だな」


「………」


言い返すことなどできなかった。


それはあまりに正しくて…あまりに厳しい言葉だったのだ。


「それでいい。お前はそのようにしてればいいんだ。我が守ってやる。責任を持ってな。そして、我はお前に約束しよう。必ずこの戦争を終わらせて見せると。だから、我と共に来い。リリアよ」


男は私の肩を抱く力を強め、まるで自らに言い聞かすように言った。


その声は優しくて、温かくて…強い。


耳に入ったその声は体の内側から私をホカホカさせる。


その時、私は壊れかけた心が少しだけ元気になった気がした。


「…はい」


この人なら信用できる。


この人ならきっと私に良くしてくれる。


そんな気がしていて、気がつくと何時の間にか返事をしていた。


彼のブラウンの瞳が決して人を傷つけるようなことはしないと私を信じ込ませ、彼の優しい声が、私の心の隙間を埋めてしまっていたのだ。


「そうか。我とくるか!」


彼は私の肩を放してから、心底嬉しそうに笑うと、私をいとも簡単に持ち上げた。


正確には腰当たりを持ってそのまま肩に担ぐように持ち上げてしまったのだ。


「あ…あわわわ…」


私は何がなんだかわからなかったけれど…悪い気はしなくて…そのまま彼に身を預けたのだった。


そのまま彼は…私を担いだまま、何処かへ向かってズンズンと歩いて行く。


速歩きだ。


私はこんなことして疲れないのだろうかと疑問に思うのだけれど…なぜか降りたくなかったのでその疑問をあえて無視した。


「どこに行くの?」


「………」


彼は答えない。


ただその足が速くなっただけだった。


それはやがて、私が普通に走るよりも早い速度になって…そして、ある時私は不安になった。


当然である。


彼がどこに住んでいるのか?


どこに行こうとしているのか?


全くわからないのだから。


だけれど、先に進むにつれてなぜかだんだんとゆるくなる彼の腕の拘束のせいで、必死に彼にしがみついていないといけなかった私は、直ぐに彼に対する疑問を忘れた。


しかし、それから何時間歩いても、彼の目的地へはつかなくて、二つくらいの街を突っ切った、広い草原にでたところで…不意に振り落とされた。


「…っ!?」


私が驚いている間にも彼はズンズンと進んで行って…ついにその背中も見えなくなった。


私はそれを追いかけようとしたけれど、身体がうまく機能してなくて…ただ、壊れた人形みたいに声を張り上げた。


「ハワード!ハワード!ハワード!置いていかないで!ねえ、ねえ、ねえ!」



「ハワードーーーー!」


「…ハッ!」


気がつくと、ベットから跳ね起きていた。


「また…あの夢…」


目が覚めた今でも、はっきりと意識に残っている。


荒れ果てた戦場と、ハワードの温かな声を、振り落とされた草原の鼻に付く青臭さを…。


もう会えない。


分かっているのに、あの夢でだけは会える。


ずっと…自分はあの夢に甘えている。


会いたくてたまらないという欲求を夢で満たそうとしているのだ。


だからこんなにもリアルに記憶に残っていながら、最後の別れ方はいつも辛いものだった。


皮肉なものだ。


彼との初めての出会いと、最後の別れを同時にする夢だなんて…。


「あーあ…成長できてないな…私は…」


なんて呟いてみるけれど…彼を忘れることで成長できるって言うのなら、私は成長なんか一生できなくてもいい!とも思う。


つくづく、矛盾してしまっているけれど…それでも…私、リリアにとってロイ・ハワードという男の存在は大き過ぎて、とても離れることのできない過去の人なのであった。


天蓋付きベットからすぐ脇にある鏡をぼやけた視界で見つめた私の目に映ったのは…青い髪の毛がボサボサで、青色のはずの目が赤く腫れてしまっている女の子だった。


今も、悲しそうで…それでいてどこか…いや、なんだかもう言葉では表現できないような顔をしていた。


「私は…ナルシストか…」


なんて自分の行動を皮肉ると、少しだけ楽になった心。


そのまま、ひょいっといつものように布団を跳ね除けて、天蓋付きベットから数歩の近さにある窓を開ける。


そうすると、清々しい…というより、少しだけ寒いくらいの風が私の身体を吹き抜けた。


それでようやく自分が下着をつけていないことに気がつく。


「きゃあ!忘れてた⁉」


せっかく開けた窓をバンッ!と勢いよく閉めたのだった。


だけれど、経験上自分の力が強過ぎるのはわかっていたわけで…急いで下着をつけて、いつものワンピースを身にまとったあと、恐る恐る振り返ると案の定閉められた窓のガラスにはところどころに不吉な亀裂が入っていた。


「はぅ…またボスに怒られちゃう…」


窓の向こうにあるのは、『夕』による空調システムだけだというのにわざわざ取り付けたこの窓はお気に入りだったし、備品管理の関係上、補修すれば、嫌でもボスに事実が伝わるのだ。


がっくりとうなだれるしか、できなかった。


誰の手にもかからない存在になるのは、まだまだ難しいみたいです…はい。


呟いてから、顔をあげると、亀裂が誰かの笑った顔の形に見えてきた。


はああ、と吐き出した深いため息も、しっかりと、空調システムによる風に吸い込まれていった。


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