18結果発表
「で、これってどういう結果なんですか?」
スノウの血を一滴だけ垂らした皿は、明らかに自らより重い石の入っている方の、皿を釣り上げてしまっていた。
「まあもう少しだけ待ちましょう。そうしたら結果も分かりますから。石に注目していてください」
アランは暇そうに見事な金髪をいじっている。
そうは言われてもなあ…一応もう一時間はこうして待っているし…。
そう、僕の『検査?』が終わったあと、すぐさま隣にあった天秤でスノウの『検査?』を始めたのだ。
まあその内容は至ってシンプルで、あらかじめ一方の皿に宝石のように輝き、見る角度によって色が違って見えてしまう、奇妙な石が乗せられている、金ぴかの天秤のもう一方の皿にスノウの血を一滴だけ垂らすというものであるのだが、なにぶんどうやって結果を出すのかわからない上に、何も起こらないので非常に退屈なのだ。
それが、数分ならまだしも、もう一時間は待っている。
「まあまあそう言わずに、気長に、気長に」
アランはそう言うけれど、そもそもなんでこんなことしなくちゃいけないのかもわかっていないのだから、少しばかり無理がある。
右脇に立っているスノウはなんだかあたふたしているし…て、なにに対してそうしているのかはわからないけれど…
とそうこうしているうち、石に待望の変化がで始めた。
といってもまあもともと見る角度が変わるとその分だけ色が違って見えるという特殊な性質をもつ石であるから、その変化といっても特別判断が難しいのだが、この場合、僕の視点は変わっていないので、石本体の色が角度とは別の要因で変化しているのは間違いない。
また、あの時とおんなじだ。
だけれど、その速度が違う。
くるくるという速度ではない。
もうめまぐるしく。
ガーっと。
「これって…かなりすごいことなんじゃないですか?なんかもう、色が一々確認できないのですけれど…?」
「そうですね…まさか、こんな怪物がこれまで頭角を現さなかったということに驚きですよ。カイ、君もかなり素晴らしい力を持っているのですが…スノウさんはその倍、いやそれ以上ですよ。これ…こんなの…おかしいです…数字…異常ですよ。20colorsなんて…普通じゃない」
「20colors…それってつまり、アランさんの五倍…⁉」
「ええ、そういうことになりますね」
「ええと…アランさんは幹部なんですよね?その十人の幹部のうちの一人だとか」
「ええそうですよ。つまり、あなたとスノウさんの二人だけで、幹部六人を相手取って対等に戦えるだけの力を持っているということです」
アランは悔しそうに白く輝くその歯をギリギリと食いしばり、不満そうな顔をした。
それはそうだろう。
何も知らない僕らのような子供に、ずっと組織のために働いてきた幹部が負けるなどというのはかなり理不尽である。
こんな時、なんと答えたらいいものなんだろう?
もし僕がそんな立場だったらなにを言われたって嫌だろうと思う。
だってそこには必ず同情か哀れみが欠片でも入ってしまうから。
だから、黙っていよう。
そう思って口を閉じた時、あまりにも空気の読めない声が嫌な空気の中を凛と響いた。
「あの!これってどういう結果なんでしょう?」
当然ながら、当然のごとく、スノウの声であった。
どうしてこのタイミングで?
もっと他にあっただろうに…
それに…僕が受けてた説明が全く耳に入ってないようだし…
なんでそれで僕より成績良かったんだよ!
と僕が頭を抱えて間もなく、アランは答えた。
「うーん、そうですねえ…言ってみると、あなた方二人の幹部入り決定!ということになります」
思いの外普通で、思いの外感情の込もっていない声だった。
芝居がかった感じもなければ、傷ついた感じもない。
さすが、人の心を読んでいるだけあって、自らの心も屈強なのだろうか?
「しかし、それにしても、お見事ですよ。お二人とも。本当に驚きました。こんな数字を連続して見られるなんてそうそうないですから、まあ漫画とかでいう百年に一人、みたいな逸材というべきでしょう。これからの鍛錬によっては元帥も夢ではありませんよ」
「あの…お言葉ありがたいのですけれど…もし私があの卵の方に手を入れてたら…どうなってたんですか?」
「ああ、それは言うまでもなく、死にますね。それに少なくとも、カイのように半身食われるだけでは済まなかったでしょう。それにカイだって危うかったのですよ?あと少しで、噛みつかれるだけではなくて、本当に食いちぎられるところでしたから」
「そそそ、そんな恐ろしいことやってたんですか⁉」
スノウがすかさず悲鳴を上げた。
驚きのあまり口元を両手のひらで抑えるくせが出ていた。
よくみると、左手の親指の爪の近くに少しだけ血の滲んだ部分があり、そういえば血を使って検査していたことを思い出した。
そうしてから、自分の右半身(苦労の末、なんとか卵?を取り終えた)を眺めると、ホッと一息つく。
ようやく終わったのだ。
にしても、はじめからこんなに波瀾万丈な感じだけれど…今後僕らは大丈夫なのだろうか?
「大丈夫ですよ。カイ?私が精一杯守りますから」
アランは満面の笑みを浮かべて、長い長い金髪をさらっとながした。
だからそこが心配なんだと言いそうになるのを必死に我慢する。
「ひどい。そんな風に私を見ていたなんて…」
ああそうだ!意味ないんだった!
ていっても、ホントにこの人がなに考えてるのかわからないしな…今だってわざとらしい泣き顔だけど、心では笑ってるのかもしれないし…。
「そんなに言うなら君も心を読めばいいんですよ!ほら、私の二倍の『夕』持ってるんですから!」
「そんなことできません!」
ていうか、うわあ…根に持ってる、根に持ってるよ…この人。
「まあそんなのはどうでもいいとして!さ、次は作戦会議ですよ~!」
「切り替え早っ⁉どんな精神力ですか!」
思わず突っ込んでしまった。
「フッフッフ、私を甘く見ない方がいいですよ。なにせ4colorsですから!」
「や、やっぱり根に持ってる?」
「気にしないでください。独り言です。じゃ、会議室へ行きましょうか」
「独り言にびっくりマークつけないでください!」
「カイ、大きくても独り言、小さくても独り言ですよ」
アランはしてやったりという得意げな顔で言った。
腰のあたりに手を置いてビシッとこちらを指差しているあたり、本当に偉そうである。
まあ、偉いんだけれど…。
「なあにいいこと言ったような顔してるんですか!マナーとして独り言は小さい声で言ってくださいよ!」
「うーん、今の…独り言ですか?」
「違います!」
「いや、そもそも独り言かどうかなんていう判断はとても難しくありませんか?かくゆう私の今の発言とて独り言かもしれませんし」
「何を突然、今度は哲学ですか?」
「ははっ!さっきの独り言ですよ」
なんて言う会話をずっと聞いていたスノウ・ラクサーヌは、この二人…なんでこんなに仲いいんだろ?とこの状況を疑問視せずにはいられなかった。




