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the third  作者: 深雪
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0千年戦争

 古くから私たち、人族は光という強大な力を持ち、他の種族のほとんどを圧倒していた。

 光とは物質を創造する力のことで私たちはそれを駆使し、自然界のほとんど頂点に君臨した。

 しかし、ある時、魔人と呼ばれる種族が突如として現れた。

 その容姿は人族に非常によく似たものだったが、一点だけ決定的な違いがあった。彼らはその背に、自らの丈くらいはある、大きな黒い翼を持っていたのだ。

 当時の私たちは欲深く、彼らのその背に生えた大きな美しい翼に嫉妬し、自分たちも空という新しい世界を知りたいと願った。

 それから始まったのが魔人狩りである。魔人を見つけては、翼を無理矢理にもぎ取り、研究の材料とした。

 魔人族はこれに怒り狂い、私たちに真正面から戦いを申し込んだ。それが今から千五十年前、戦記一年のことだ。

 人族が魔人族を屈服させることは困難を極めた。

 なぜなら彼らが、光に匹敵する力、闇を持っていたからである。

 闇は物質を破壊、消滅する力。

 魔人はそれをまた駆使し、人と渡り合った。また、その能力を考えなくとも、数はほぼ対等、基礎的な肉体的強さも互角であった。

 消えない怨恨。戦争は一年から十年、百年、だんだんと長いものとなって行く。私たちは長い戦争の中で、光の開発により、急速に文明を発展させていった。

 魔人族はそれらをより正確かつ効果的に破壊、消滅できるように、闇の力をより深く理解していった。

 どちらも一歩も引かず、互いに被害だけが増していき、国は荒れ果てた。

 街中にはたくさんの廃墟とそこに住まう浮浪者とその悪臭で満たされ、まともな生活ができたのはごく一部の位の高いものと兵士、それから名の知れた光の研究者くらいのものであった。

 そうして皆がみな終わらない戦争を恨み、戦争の意義を問い、戦争の終わりを待ちわびていたのだ。

 そんな中、戦記千年、光と闇の力の関係の研究を大成した研究者、ロイ・ハワードがある一つの可能性を発見し、こう発表した。


「光は闇によって、闇は光によって存在を保たれているのだ」


 この発表は両種族を動揺させ、この戦争を終結へと導く鍵となって行く。千年もの間対立してきた両種族には和解など不可能に近かった。しかし、同時に長い長い戦争に人も魔人も疲れていたのもまた事実であった。

 簡単に言えば、人からすると


「翼は欲しいが、戦争にはもう疲れてしまって国力もない。」


 魔人からすると


「先祖の怨みを果たしたいのはもちろんだが、兵も物資ももう底をつきそうだ。」


と言うのが両種族の当時の状況であった。

 そこで、戦争を終えるきっかけが必要だった。その上、これを唱えたのが光の研究の大権威ロイ・ハワードであったことも、その効力を大きくしたのである。彼は国際的な人間で、魔人側でも研究成果の発表(軍の規制の範囲内ではあるが)などを行っていたのだ。

 すぐにこの意見は様々な形で両種族に伝わり、一種の宗教の様な働きまで持つこととなり、人々の心を簡単に戦争の終わりへと導くこととなった。

 それから両種族間での会談がものの二週間程度で開かれ、そこで光の持つ性質のひとつ絶対に破ることのできない約束『誓い』を利用した講和条約の文書が作成され、それぞれの代表者が調印をした。これが世に言う『終戦の誓い』と言われる会議であり、戦記千一年のことであった。

 こうして、千年もつづいた戦争はいとも簡単に終結したのである。

 これが、千年戦争のあらましだ。

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