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the third  作者: 深雪
17/83

14再会とグダグダ

石造りの狭く、暗い部屋。


そこを照らすのは少し時代遅れのランプからの小さなオレンジ色の光。


その淡い光に照らし出されたぼんやりとした影は三つ部屋の中央にある円形のテーブルを囲んでいる。


「どうやら上手く話を済ませることができたみたいですね?ボス?」


金髪を肩まで伸ばした、中性的で端整な顔立ちの男が口を開いた。


言い終わってから、片手にもったカップいっぱいに入ったコーヒーをズズッとすする。


「ああ、なんとかなあ…そんなことよりリリアはどうした?」


赤髪が目に簾のようにかかった男が反応した。


イライラとした様子で囲んでいる石でできたテーブルの端を指先で叩いている。


トントンという軽い音が部屋中に響く。


「口ではあなたのことを悪く言いませんけれど、昨日あなたにされた拷問にも近い言及のせいで信用されてないと悩んでいるようで…あなたに会うのはまだ嫌なのだそうですよ。まあ、私がそんなことをされたら一生会いたくないと思いますが…ていうか、私のリリア嬢にそんなにひどいことをするなんて…一生恨みますよ?ボス?」


金髪の男がボスと呼ばれた男を睨みつけた。


わざわざ言う必要もなく、このリリアに対する気遣いと、組織のボスよりもリリアを優先するあたり、すぐにわかる。


この男はアランだと。


どうしてこうなっているかといえば…


僕があの洞窟でボスに命を救われたあとすぐに先ほどまでいたこの部屋に戻ってきた。


もちろん、この組織についてもっと詳しい話を聞くために。


そうして戻った時すでにアランが席についていたというわけだ。


なんでも、僕の世話係を任じられたらしい。


で、肝心のアランは…今、よく研がれた刀剣の刃先のように鋭い視線でボスを射抜いていた。


そこには対象への恨みがありありと感じられた。


「むう…済まんな…俺はもともと感情で走ってしまうタイプであるから、ついついそういう事態になってしまうのだ。それにあいつは…不死だしな」


ボスはアランの鋭い視線を受け、困ったように唸ってから言い逃れ様とした。


「いつも、そうなんですよ!あなたは彼女が不死だから、不死だからって大変な任務ばかりやらせて!それでいて上手くやって帰ってきても褒めてやったりしたこともない!ここまでくるともう嫌なやつ以外の何物でもないですよ!いいえ、この際はっきりと言わせてもらいますが、あなたは嫌なやつですし、あなたのような言っていることと思っていることがほとんど同じ人はからかい甲斐がなくてやなんですよ!嫌いなんですよ!もう!」


アランはテーブルから乗り出し、正面に座るボスを大声で一気にまくしたてる。


顔を真っ赤にさせているあたり、本気でそう思っているのだろうが、侮れないし、そもそもこんな風に組織の責任者に本音をぶちまけてもいいのだろうか?


途中から自分勝手な話に変わっているし…。


それに…不死ってどういうことだろう?


それも例の『夕』なのだろうか?


ハッ!


僕がアランは心が読めるのだと思い出した時にはもう遅かった。


「いいんですよ!だいたいカイ!あなたはよくこんな男のしたにつけますね!私なら絶対自分が一番上になってリリア嬢とイチャイチャするのに!」


予測通りいい感じに僕の方に飛び火してきた…ていうか、本音をぶちまけ過ぎだし、それになにより、イチャイチャするために組織のボスになりたいって…ダメだ…この人…。


「人じゃない!ハーフです!」


アランがバンっと音を立てて、テーブルを拳で叩いた。


依然として体は乗り出したままの前傾姿勢である。


「突っ込むポイントそこですか⁉」


「いや、他にも突っ込むところたくさんありましたけど…とりあえず私はハーフです!」


「だからそれはもうわかりましたって…で、本題に戻りたいのですが…いいですか?お二人とも?」


二人の顔を見回しつつ、場を取りまとめてやる。


それにしてもどうして新入りの僕がこんなことしなくちゃいけないんだ?


こんなんで組織として大丈夫なのか?


「うむ。そうだったなあ、アラン、彼女をここへ」


「リリア嬢はきませんよ」


「リリアではない!スノウ君の方だ!」


ボスの雷鳴のような声と共に僕の耳に新たな情報が入った。


ていうか、今までで一番重要な情報だ。




「はい。では連れてきます」


とアランは席を立ち、部屋の奥へと向かう。


どうやらここには他にも部屋があったようだった。


壁が隠し扉となっていて、アランが壁に背中を合わせ、何かを唱えると、その扉はアランごと一回転し、アランを向こう側へ送り出した。


とても不思議な光景だが、今はそんなことどうだっていい!


僕は目を男に戻し、


「スノウって…まさか…スノウ・ラクサーヌという名ではないですよ…ね?」


とすぐさま男に疑いをかける。


そんなはずがないと思いながら…


だが、男の顔は腑に落ちないという表情になった…どういうことだろうか?


「おお、やはりスノウを知っているのだ?」


「どうして?スノウがここに⁉」


「何を言っているのだ?彼女も我々の仲間であるが?」


頭がクラクラしてきた。


あれ?なんだろう…頭の中で一気に記憶の引き出しが開けられていく感覚…。


どんどん空白だった記憶が戻って行く。


そうだ…僕は、あの時、確かにスノウと一緒にいたのだ!


それで…スノウは階段から…


「って、仲間ってどういうことですか!」


そうだ!仲間だって?おかしいじゃないか!


まあ何がおかしいのかわからないのだけれど…でも!


「それに、どうなったんですか?スノウは確か、リリアというあの女の子に階段から落とされて…それで…」


「無事だ。まあ怪我を負ってはいるが」


「良かった!でも、どうして仲間ならスノウは攻撃されたのですか。その…リリアさんに…?」


仲間を攻撃するなどありえない。


仲間という定義を疑うべき行為だ。


「ああ、あの時彼女はまだ仲間ではなかったのだ。なんでも、気を失ってでも君を助けようとしたらしく、リリアは彼女が気の毒になって連れてきたのだそうだ。そうしたら彼女もハーフだったってわけだなあ。そうして話をしたら、我々が君に危害を加えないという約束を条件に『夕暮れ時』へ入ることとなった」


「そう…だったのですか…ここにきた以上は彼女も戦いに巻き込むこととなるのですね?」


そう考えると自然と気が沈む。


今更ながら、スノウは最後まで僕の味方をしてくれた…それなのに、命の危険のあるこちらの世界に引き込んでしまった。


「戦い?ああ、やむをえん場合はなあ。だが、我々は基本的に言論での解決を望むから今のところは心配ない。それに…」


男は一瞬言葉を止め、扉の方を指差した。


「どうやら本人から聞いた方が良さそうだなあ」


男の指の先にはさっきアランが消えた壁があり、そこにアランともう一人、白い髪をポニーテールにした女の子が立っていた。


女の子は腕や足、頭など、肌が露出している場所のほとんどを包帯でぐるぐる巻きにしていた。


本当に大丈夫なのだろうか?


しかし、そう思いながらも僕は無意識に女の子の元にかけより、そのまま抱きついた。


「良かった…本当に良かった…スノウ!」


女の子…スノウの身体はほっそりとしていながら、温かく、柔らかくて、心地の良いものだった。


上質な抱き枕のよう。


ひっついた身体を通して聞こえてくる鼓動が生きてるということを教えてくれる。


スノウと僕の鼓動がまるでシンクロしているかのような錯覚に陥る。


それだけ、スノウの無事なことに、再会できた喜びに心が歓喜していたのだ。


一方、スノウの方は…


「ちょ、ちょっと!痛いし、暑いから離れなさいよ!」


とバシバシ僕の背中を叩き、僕を引き剥がそうとした。


その動作には色気も味気もない。


あるのは拒絶反応だけ。


だが、離れない。


離れてやるものか!


何も僕はアランみたいな変態じゃないけれど…でも…今はこうしていたい…。


「バカっ!どうして離れてって言ってるのに逆に手に力が入るのよ!ああ…もおっ…!」


スノウが甲高い声で僕を怒鳴りつける。


きっと顔をポストみたいに真っ赤にしているのだろうと思う。


というか、絶対にそうだ。


でも、別段声の調子が不機嫌なわけではなかった。


きっとスノウも無事に会えたことを心のどこかでは喜んでくれているのだろう。


「もう、絶対に、離さないから…だから…今はこうさせて…」


僕が素直にそう言うと…。


数秒間、スノウは何を思ったかフルフルと身体を震わせた。


そうしてから、スノウは一瞬動きを止めて、


「そ、そこまで言うなら…しょうがないわね…少しだけよ!少しだけっ!変なとこ触ったりしたら承知しないんだからね!」


と言った。


大丈夫、もう胸とか触っちゃってるから…。


「どうやら、カイも変態みたいだねー」


誰かの独り言が聞こえた気がした。


明らかに僕に対して向けられたものだ。


きっとアランだろうから心で念じておく。


僕はあなたみたいな変態じゃない!今回は特別なのだ!


「もう、二人とも素直じゃないんだからん!」


アランが追い打ちをかけてくる。


何故かおかま口調だし、2人ともって…どういう意味なんだろうか?


そうしているうちに、何かを忘れているような感覚がした。


それがあまりに重要だった気がして…ふいにスノウから身体を離し、腕組みをして考える。


考え事をするには腕組みが一番だ。


まあ、正直なところ、急に恥ずかしくなったというところもあるのだが…。


はて…なんだったか…?


いくら腕を強く組んでも頭を捻ってもわからない。


半ば諦めて、見上げると何故かスノウは予測の以上に真っ赤な顔に物足りないというような表情を貼り付けていたが、その意味はよくわからないので流し、そのまま後ろを振り返る。


すると、仏頂面でたたずんでいるボスと、テーブルの上のコーヒーからはまだ冷めていなかったようでカップの中から盛大に湯気を立ち上らせているのが見えた。


ちょうど不機嫌そうなボスの顔に湯気がもくもくとかかっている光景はとてもシュールなものだった。


「ど、どうしたの?カイ…」


スノウが胸の前で両手の人差し指の先をすり合わせながら、赤い顔をそのままに僕の顔を覗き込んできた。


「うわぁ⁉どどどどうしたの?」


僕としてはかなりの不意打ちだったわけで、口を出た言葉は噛みまくりのどもりまくりになってしまった。


「ええと…その…真剣な顔で頭を捻ってるから…何か考え事かなぁ~なんて…思ったり思わなかったり…?」


とんでもなく曖昧な言い方だ。


最早質問の答えにすらなっていない。


「いや、そんなこと聞かれても…僕は心を読めないからね?」


言葉の半分くらいまでいったところで、意味ありげにアランを睨んでやった。


「そ、そうだよね?私ったら、なに言ってるんだか…」


スノウがどうやら自分で答えを見つけたらしく、仕切りに頷いている。


なんだかさっきまで、身体的な意味でも精神的な意味でも密着していたはずのスノウがとても遠い存在に感じた。


もともと僕に人の心を読むなんてことはできないし、むしろ他の者よりも人の考えを読み取る能力が欠けているのだ。


だから…


スノウの考えなんてわからない。


スノウの行動なんて読めない。


わかっているつもりだったのに、わからない。


「…て、そんなことはどうでもよくてっ!!」


混乱した思考回路をなんとか元どおりにして…


「そろそろ本題に入りませんか?」


と切り出すことに成功した。


そうして切り出してから気がついた。


そうだ、忘れてたのは本題に入ることだったんだ!と。


見渡すとボスがもともと迫力のある顔をイライラとさせてさらにその迫力を増していた。


「何を今思い出したと言うような顔をしているのだ!こっちは君がスノウ君とイチャつくのを見物させられて、ずっとさみしい思いをしていたのだぞ!」


ああー怒ってる。


非常に怒ってる。


声が雷鳴に近づいてるよ…


でも、やっぱりコーヒーの湯気が顔にかかってるの面白いし、怒ってるポイント違うし、正直すぎて思ってることそのまま言っちゃってるし、本当面白すぎです、はい。


だけれど、この考えは僕のツボにはいる前に消滅することとなった。


「言っちゃっていいですか~?」


という後ろに立つアランの独り言によって…。


ごめんなさい。


僕、何かあなたに悪いことしましたか?


と心で念じながら振り返ってアランの方を向くと、彼はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていた。


「いいえ、ボスと違ってからかいがいがあるのでつい…ね?」


その声はすこぶる明るい調子で、楽しそうで、悪びれた様子など欠片もなかった。


「アランさん、本当に性格変えた方がいいですよ?」


「アランでいいですよ?カイ。大丈夫、あと二百年はこの性格で行きますから」


アランはにこやかに軽口を叩いた。


挑みかかってみたものの、どうやら向こうになんのダメージもなかったようだ。


まあ、手の内が読まれてるんじゃあはじめからどうしようも無いのだけれど。


「あの…私はどうしたらいいんでしょうか?」


スノウが心細そうな小さな声をあげた。


「うむ、そうだな、遅くなったが、本題に入ろうではないか。アラン!カイ!好い加減に静かにできないのか!」


今度こそこの部屋に雷が落ちた。


僕の頭には威力絶大で、無意識にボスの顔を正面にしていた。


アランにはというと、威力は絶大…とは言わないまでも、なんとなく、真剣な空気となったようではあった。


男の一声で薄暗い部屋は突然会議の場へと変わり、やっとのことで本題に入ることとなった。


でも…気がかりは一つ…本題の内容…って聞いてないのですけれど…?

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