10青い髪の少女
「ああーもうっ!アランのバカッ!バカバカバカ!アホッ!」
リリアは自室にある天蓋付きの大きなベッドにボフッという音を立てて飛び込んだ。
ああ、どうしてこう世の中うまく行かないものなのか…
アラン…あの男はいつだって食えないキザな笑顏で私と対峙して、そのつど私を不快にさせる。
ベットの感触は柔らかく、疲れを癒してはくれるけれど、怒りを消し去ることはできないし、角張った心を丸くすることも出来ない。
こんな時、ハワードがいればと思うのに、肝心のハワードはまだハワードではなかった。
その上、きっと完全になることはできないだろうと思われる。
あの青年の精神はかなり、鍛え上げられているとわかったからだ。
たいていの場合、人の目を見ればその人の精神の強さは図りとることが可能だ。
推測でしかないのだが、どうしてかこの方法が結構当たるのだ。
あの、恐ろしいことに動じながらも、それを嬉々として見つめる黒い瞳は人を引き込み、離さない不思議な魅力と強さを持っていたと思う。
私はそのことであの青年に八つ当たりしてしまった。
きっと彼は今、私のことを暴力女だとか、狂った女だとか思っているのだろう…ああ、もう最悪だ。
彼とハワードの意識はつながっているはずだからハワードも私のことをそんな風に…
まあでも、無事にここに戻ってこれたというのはかなり幸いなのだけれど…
なにせ、あの第七ブロックは普段ならどこに行っても見張りだらけで、入り込める隙など、針の穴ほどもない。
その上入り込んだとしても、すぐさま民間人と接触することとなるのだ。
それだけ人口が多く、それだけ重要な場所なのだ。
だけれど、何故かあの廃ビルの集まりである通称ビルの墓場は、雨の日だけ警備が薄くなるという情報を手に入れ、上手く侵入することに成功したのだ。
「それにしても、本当に上手い話よね…まるで私に入ってもらうのを狙っていたかのような…?」
今更ながら上手くいきすぎたと思う。
できすぎて、腑に落ちない。
私はわざと人と接触して遊んでいたのに…ここに戻ってくることができた。
それに本当なら彼が学校から出てくるまで待つべきだったのだ。
そんな重大なミスをしてしまったにも関わらず、無事にことが運んだ。
普通に考えればあり得ない。
私は欲張りなのだろうか?
これでボスに喜んでもらえると、嬉しい反面、なんとも言えないこの違和感を無視することができなかった。
しかし、疲れた身体はすぐにベッドに飲み込まれ、頭は深い眠りへと落ちて行った。