暑くて静かな夏
悲しみの日々のさなか、文字の持つ力に何かをみいださん。
心が、静かに小さく震えていた。自分でも気付かなかった。それは、恋の足音だった。
とても、悲しい事だと思う。自分の心に無頓着であることは。
彼女は、いつも笑いかけてくれていたんだ、その握り締めた拳は見せぬ様に。
僕は、先に書いたように気付かぬうちに恋に落ちた。彼女は、特に気にする事も無く、僕の気持ちを受けとめた。受けとめた…?
手を差し伸べ、気持ちを受け入れてくれた。
どこからでも海が見える小さな街。僕がそこに訪れた理由は失恋旅行だった。
歩いてるだけで心は孤独になるけど、その孤独は輪郭がはっきりとしていて心地よささえ感じさせた。
孤独を愛せるようになった時にまた出会いは訪れる。
出会ったのは、浜辺でした。やっと浜風が涼しいと感じられる夕刻。僕は、海に近い草むらを散歩していた。初めは散歩気分だったのが、だんだん山道の様になり、足と手、首筋にまで藪蚊に刺されていた。もうすぐ、海に出る。
根拠のない自信があった。そして、根拠のない自信は、実を結んだ。
15分以上は山道を進んだだろう。そこには、小さく美しい浜辺があった。歩いたかいがあった。
とりあえず僕は、腫れあがった腕を海につけた、掻きむしったあとがヒリヒリと痛んだけど、それがまた心地よかった。
誰もいなかったら、裸になって泳いでやろうかと思って周りを見渡すと、一人の少女がこちらをずっと見ていた。
目が合った瞬間に、待ってましたと言わんばかりに、声を張り上げて少女は言った。こんな所で何してるの?
別に何をしてる訳でもない自分に、驚いた。何もしてないよ、ただここに来たかったんだ。と彼女に言った声は久々に出した声だったから、自分でも違和感を感じた。彼女は頭をかしげてから。そのまま、言葉を探しながら、こちらを見ていた。脱ぐわけにはいかなくなった服を肌に感じながら、僕は彼女の方に歩いて行った。何をしてるの?同じ質問を歩きながら少しはずんだ息に合わせて言った。
近くで見る彼女は、予想以上に可愛らしく、そして若かった。木陰でくるくる光る瞳は、もうすぐ30にかかる男に警戒心を隠さなかった。
警戒の顔から、親しみになるのに時間はかからなかった。暇を持て余していたろう彼女は、日常に起こっている様々な事をこと細かに語り始めた。話は、だいたい彼女の夏休みの話だった。
そして、彼女は入院生活を余儀なくされているらしかった。
暮れかかる夕日を見て帰ると言った彼女の背中は、夏でウキウキしているはずの15才の少女の背中とは、あきらかに違っていた。
明日も会えるかな?
明日もここにいる。最近、毎日いるよ。
確かに、彼女の話の日常に浜辺があった。僕は、彼女を