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となりの場所と交わるとき  作者: 西野了
19/24

Y・3 宇宙の底にあるけん玉

 Yは部屋の中を歩き回り僕に言った。

「宇宙はこの部屋にあるんだよ」

「ふーん?」僕は彼の言っている意味が分からなかった。

「どんな、宇宙なんだ?」僕が訊くと彼はしばらく何も言わず、おもちゃで遊んだり本を読んだりした。

「だからね、ここが宇宙の底なんだよ」

 僕はますます彼の言っていることが分からなくなった。

「宇宙の底って、こんなに平凡なのかい?」

「そうだよ、宇宙の底はこの部屋さ。ここには宇宙のすべてがあるじゃないか!」彼はゲームをしながら笑った。

 僕はこの部屋が何もかもあるとは思えなかった。

「だってこの部屋にあるものはテレビと本とゲーム機と木のおもちゃしかないじゃないか?」

「あははははー!」彼は大きな声で笑った。どうやらゲームで相手を打ち負かしたらしい。

「君には見えないのかい。ここにこの世界のすべてがあるってことが。すべての音が響いているってことが」

 彼は哀れそうな目で僕を見た。

「君も昔は見えていたし聴くことも出来てただろうに・・・。そんなに急いで大人になるからつまらなくなるんだ」

「だって、いつまでも子供のままでいられないだろう?」僕は少しムキになって言った。

「そうかな、ゴワゴワした形あるものだけ見て、騒音ばかり聞いて、それが大人になるってことだろ。つまんないじゃないのかな?」君は手のひらをヒラヒラさせて踊った。

「僕は君みたいにいつまでも少年の心を持っていられないよ。そんなの疲れるだけだろ。いつかは深淵に飲み込まれて自分をなくしてしまうんだよ」

「だからいいんじゃないか。ここがロゴスだ、飛べ!」

「ここがロドスだ、ここで跳べだろ」

「アハハ、いいじゃないか。それとも清水の舞台から飛び降りるだっけ?」

「どっちでもいいよ。僕はもうそんなことしないし、できないもの」

「そうかな?明日になったらわからないよ。まだ君は17歳の心を持っていると僕は思うんだけど」

 彼はけん玉を不器用に扱っていた。全然玉が皿に乗らない。

「それって面白い?」

「面白いよ、できないから」

 僕は彼の部屋から出ていこうとすると「かちッ」という音が響いた。

 彼のけん玉が棒にはまっていた。

 彼は嬉しそうに言った。

「いつかそのうち、できると思っていたんだ」

 僕は彼を眩しそうに見て「ちぇっ」と言った。

 外の風は少し冷たかった。

 

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