放置自転車管理引渡所
彼女の自転車はすぐ見つかった。登録番号が1234でピンクの自転車だからそれは当然だ。
係員がその自転車の施錠を外して、こちらへ持ってくる時だった。何かが整然と並べられた自転車の間をかなりのスペードで走っている。目を凝らしているとそれは段々と輪郭がハッキリとしてきた。
「見えますか?」
初老の係員が楽しそうに聞いてきた。
「ええ、何かトカゲのようなものが自転車の間を走り回っています」
「お客さんによっては、あれを小型恐竜に見える人もいればエイリアンに見える人もいます。あなたは何に見えますか?」
「僕には普通のトカゲに見えるのですが」
「ホーッ」彼は感心したように頷き、もう一人の係員を読んだ。
「オイ、ジョン、この人見えるんだって」
「オー、ソウデスカ」
緑色の瞳を持った長身の若者がどこからか現れた。
「ソレデハ、アノ、チャリンコノ奴モミエマスカ?」
彼の指差した自転車はいわゆるママチャリでシティサイクルと呼ばれているものだ。その後部座席には小さなおさげ髪の女の子が座っていた。
「ええ、見えます。可愛い女の子が後ろの座席に座ってます」
「お兄ちゃん、あんた素質あるよ」
初老の男が僕の右肩を叩きながら言った。
「なあ、あんた、ここで働かないかい。あんただったら一ヶ月の研修でモノになるよ」
「ソーデスネ」ジョンも納得している。
「えっ? どういうことですか?」求職中の僕は思わぬ展開に驚いた。
「放置自転車を管理して引き渡すのは表向きの仕事で、本当の仕事は自転車にくっついてるややこしい奴らを取り除くのが俺たちの本業だ。だから、そのややこしい奴らを正確に見えて、彼らとちゃんと話ができる人間が欲しいんだ。場合によっちゃあ力仕事になるけどな」
「ケッコウ、コノシゴトタイヘンデース。ヒトデブソク」
「どうだい、兄ちゃん、ここで働いてみないか? 給料は思ったよりいいぜ。あんたが入ってくれたら、俺たちも余裕ができて有給休暇もとりやすくなるし」
「オーッ、ユウキュウ、ホシイデス」ジョンが叫んだ。
「あっ、前向きに考えておきます」
「うん、なるべく早くいい返事を聞かせてくれ。詳しいこと知りたかったら、いつでもいいぞ」
「あっ、ハイ。明日にでもまた伺おうと思います」
「ゼンはイソゲデース」ジョンが握手してきた。
「ところで、。この自転車・・・・・・」僕は彼女のピンクの自転車を見て呟いた。
「そうなんだよな~」
「コイツ、シツコイデース」
彼女の自転車の前にあるかごに薄毛で分厚いメガネをかけた小太りの男がちょこんと座っていた。
「まあ、たいした力はないから大丈夫だろう。お兄ちゃんからもこいつにどっか行くように言ってくれよ」
「はあ」僕はその小太りの男を見ながら力なく答えた。