フーコーの本
いったい、いつから誰とも話をしていないのだろう? 一昨日、三日前、それとも一週間か・・・・・・
僕のまわりにあるものが現実感を失っている。パソコン、システムキッチン、テレビ、ボールペン、etc
それらのものは、透明な薄い膜に覆われていて僕を拒絶している。ここにあるけど、本当はここにない。
僕はうんざりして外に出る。
大きなマンションの前に広い駐車場がある。その駐車場には自動車が一台も停まっていない。何もない。ひょっとして、ここは名もない戦士たちの墓地かもしれない。アスファルトの下に無数の兵士の死体が埋められているかもしれない。
夜空を見上げると小さな星が2つ光っている。薄い雲が信じられない速さで空を駆けている。雲の隙間から僕の知らない星が顔を覗かせる。
ショッピングモールでは本屋だけが開店している。4階のその一角だけが、ぼんやりした灯りの光がある。
僕はそこで麦色の本を見つける。
ミシェル・フーコーはニーチェに耳元でこう囁かれた。「人生の楽しみ方を教えよう。いいか、人生は危険なほど楽しいものだ」
フーコーは考える。「自由ほど抑圧的なものはない」
僕はその本の重みを手の中で感じる。