行間 一人の女の子の話
お久しぶりです、二樹です。
どこで生まれたのかといえば、忘れてしまったと答える。
どこで育ったのかといえば、笑って首を横にふる。
どうして『こう』なったのかといえば、決まって困った顔をする。
名前はなくて、番号がある。
三十六番。
その桁に意味は無い。
六と六を"カケル"とそういう数になるのは知っていたけど、それだけ。
自分が女なのは知っている。
でも、そんなことどうでも良かった。
男でも、女でも、やることに変わりはなかったから。
でも胸は邪魔だった。
どうして男にはないのに女には、自分にはあるのかわからなかった。
年齢は、覚えている。
でも、やっぱり、忘れた。
若いと下に見られてこき使われるし、
逆に年をとっていると下のものの面倒を見なくてはいけないから。
歳はわからないほうが良い。
学校に行きたいとは思わない。
けれど、行けるに越したことはない。
数学はできなくてもいいけど、算数は出来ないと困るから。
国語も必要だった。
敬語が出来なくて殴られたことがあった。
だから勉強はした。
いまは昼間だ。
でも、暗い。
暗いことが怖いなんていうことはなかった。
どうして自分はこんなところにいるのか。
考えた事はあったけど、もうやめた。
考えたって、それは意味がなかったから。
しばらくすると、夜になるとわたしの時間が始まる。
黒い、金属の塊を握らされる。
嫌ではない。
けれど、好き好んでやることじゃないんだって、どこかで知った。
知ってから。
いつかは、やめなきゃいけないんだって。
わたしはこれから、褒められるようなことをするんじゃない。
だから、悲しい顔をする。
でも、考えられない。
考えると怖いから。
鉄砲を持って、人を襲う。
幸い、殺さなくてもいい時がある。
その人の人生を奪わなくてもいい時がある。
そんな時、わたしは、ほんの少し。
本当に少しだけ幸せだった。
次に、わたしがここから出るのはいつだろう。
明日か、明後日か。
それとも、もう、今日なのか。
できれば、もっと後がいい。
そのほうが、誰も。
誰も傷つかないで済むのだから。
そのほうが、いい。
ずっといい。