行間 個別シャワー室
二樹です。
こちらの話は行間。ちょっとした箸休めです。
個別シャワー室。
脱衣所と個別のシャワーが隣接しており、短時間に済ませたいのであれば、こちらを利用したほうが良い。
かくいう紗希も長風呂は好まないため利用する。
量的にはそこまで多いわけではないため、混雑することもしばしば。今日は比較的空いている方だった。
そんな中、一人の少女がシャワーを使っている。
「ふんふん、ふふんふん~♪」鼻歌交じりにシャワーを浴びる、少女の髪は長く膝ぐらいまで伸びている。
どこからどう見ても戦闘するには不向きな長さ。また、戦闘などとは無縁な美しさを秘めている。
一方、その髪にそぐわぬ体型は中学生というよりかは小学校高学年に近い。
出るところも出ておらず、子供という感じの体格だ。
顔もそれに見合った、美しいというよりは可愛いとされるような顔立ちで、あどけなさが残る。しかしながら、万人に受けるだろう顔立ち。
身長はそこまで小さいわけではない。中学女子の平均身長ぐらいか。
シャワーを浴びているその少女だが、演習には参加していなかった。
基本、すべての生徒が参加するはずの演習。体調等の理由で訓練を休む生徒がいないわけではないが、鼻歌を歌う少女。とても具合が悪いようには見えなかった。
「・・・随分と呑気ですね」いつの間にやら現れた紗希が扉越しに声をかける。制服をすでに脱いでいて、下着に入ろうというところで、少女を見つけたのだろう。
紗希の身体もその長髪少女ほどではないにせよ、中学生らしいといえばそれらしい体つきだった。
「まるで、私がサボったーみたいな言い草だね」少女の声はやはり子どものそれだ。元気のいい、活発な声だった。少女は、気配でも感じとっていたのかもしれない、特に驚きもしなかった。
「そんなことは言ってませんよ」紗希はスポーツブラを脱ぎ、下にも手をかける。
聞きながら少女はシャンプーを手に取る。髪に見合ってその量は多い。
「え~、どうだろ。そういえば、勝てた?」手で泡立てながら少女は尋ねる。
「聞かなくてもわかってるのでは?」一糸纏わぬ姿となった紗希は少女の左隣の個室に入る。少し、皮肉げな口調。
対し、少女は笑う。
「それもそっか。でも、一応形式的に・・・さ?」
「心外ですね。一人欠けても問題なく機能しますよ、第九分隊は」紗希もシャンプーを泡立てる。
「そうだね、うん。そうだ」少女は頷いて、続ける。
「ごめんね、いっつもめーわくかけて」少女は謝る。
それを聞いて、紗希は溜息。謝罪が聞きたいわけではなかった。
「だったら早く戻ってこれるように努力してください」少し、怒る。
「え、なんで怒るの」少女は焦る。
「怒ってません」紗希は拗ねる。
「うそ、明らかに怒ってるもん」髪を洗い終わった少女は扉を開けて、紗希の個室を開ける。
紗希は髪を洗い流して、振り向く。
「心配、だったに決まってるでしょう」打って変わって暖かい声で言う。
「へ?」少女は、唖然。口を開けて固まる。
はぁ、溜息をついて紗希は少女を抱きしめる。
「あなたが遅れて、演習に姿も見せないで」言うたびに強く、優しく抱きしめる。
「え、っちょ、さっちゃん?」少女はどうすることも出来ない両手を泳がせる。
「心配、したんだから」紗希は、抱いたまま続けた。
そして訪れる、唐突な静寂。流しっぱなしのシャワーの音が妙に響く。
「・・・、ごめん」少女が謝る。
「ごめんね。わたし、気付かなかった」そうして、離れる。
「こんなに、愛されてたんだ」少女は続けて、紗希を見つめる。
そうして、笑う。満面の笑みで。
「ありがとう、さっちゃん」
その小さな少女の笑顔は、誰にも真似出来ない本物の笑顔だった。