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DEFENDER ~京葉学園防衛記録~  作者: 二樹霖
第一章 防衛校
2/13

第二節

二節です。

一節改稿から時間が空いてしまいました。


そんな二人のやりとりを聞きながら不敵な笑みを浮かべる少年が一人。

巧たちとは変わって制服、ワイシャツの上にジャージを着る。これも学園指定のもので、緑のラインが迷彩柄になったどことなくおしゃれ・・・ではあるがジャージだ。迷彩効果としては制服と大差ない。

「楽しそうで何よりだぁっと・・・」間延びする独特の声。催眠効果がありそうな感じだ。木に小型の装置を取り付ける。

それは道を挟んで反対側の木にもすでに取り付けられていた。高さ的にちょうど同じ位置。よく見ると細い糸のようなものが張っている。

『罠』。それは、おそらく戦争というものがあるのならばどこにでもありふれた兵器。ならば罠に長けた兵科があっても不思議はない。

彼が、佐藤真治がそれだ。俗に『罠師トラッパー』と呼ばれる。そこまでメジャーなわけではない。学園にも多くて数人。実際にはもっと少ないのだろう。

今回使用した罠は機能としては何の変哲もない、ワイヤーに人が触れるとピンが抜けて作動、起爆。ここで使う必要も感じない。

「よし。こんなもんか?」ひと通り確認した真治が一息つく。その傍には果たして真治が背負えるのか、大きなリュックが置かれていた。真治いわく商売道具、なのだとか。大量の罠が入っているというわけだ。

「終わったぞ」インカムを操作して、紗希に繋ぐ。紗希は慌てて一つ咳払い。

『…巧さんもそろそろなので真治は撤収を』あくまで冷静を装う紗希だがバレバレである。

真治が仕掛けた場所は巧の進行ルート上。ヘタすると巧が巻き込まれる。だから正確な指示が必要となる。その役が真治だ。

わかった、一言返すと腰のベルトから巻取り式のワイヤを引っ張り手頃な木へと投げかけた。先端には三角形の塊がつき、対象に当たると展開して鏃型になる。

一回二回三回転して木の幹に固定される。真治は軽く引いて固定具合を確かめるがびくともしないようだ。ふと、インカムを触ると通信が切れていないことに気づく。

「…、大丈夫だ何も聞いてない」真治なりに気を使ったつもりのようだが、地雷原に飛び込んでいる。罠師が地雷原に飛び込んでいたら洒落にならない馬鹿だが真治は正真正銘のそれだ。

無線越しに紗希の怒りが心頭しているのにどうして気づけないのか。いいや、気づけたら真治ではないのだが。

『何も言ってないじゃないですか!』紗希らしからぬ大声で返す。

「いや、言ってみただけだ」言って笑うと通信を切る。

「・・・ばか」そう言って、行き場のない怒りを近場の木にぶつける紗希。

デリカシーのなさには定評がある真治だった。


巧は余裕のない中苦笑い。このやりとりはいつもの事だった。

(あと二〇〇ってところかな)頭のなかにある地図と道を照会する。おそらくそんなところだろう。

後ろを走る他分隊も必死に付いてくる。

なぜ追うのか。

追わずに別の分隊を追えば良い所を、執拗に巧たち第九分隊を追うのには理由があった。

この演習は各箇所に設置された定点カメラ、空中を浮遊するドローン積載カメラなどで録画、放送されている。

生徒一人ひとりを把握、とまでは行かないまでもどの分隊が活躍したとかの情報を確認することができる。

それらは教員室や待機室に設置された大型ないし小型モニタで中継リアルタイムされるがそこに映し出される情報はそれだけではない。

残存分隊数、隊員数、交戦箇所、現在交戦中の分隊等々、様々な情報が表示される。

注目したいのは残存分隊数、二分隊。巧たち第九分隊とその交戦相手分隊のみなのだ。だからフォックスハウンド状態、と言う訳だ。ハウンドがいつまでも静かに追ってくるというわけではない。

一人が銃を構え引き金を引く。セレクタは連射位置にある。

巧の周囲を掠めるも、惜しいというレベルの狙いではなくただ乱雑に撃っているように当たらない。走りながら、それも呼吸もおぼつかない状態でそうそう当たるわけはない。

すぐに射撃音は収まる。弾倉が空になったのだろうが変えずに腰に下げる拳銃に切り替えるトランジション。発砲、先程に増して狙いがそれている。

それでも引き金を引き続けるのはついにやけくそになったからか。巧はこういう集中力の切れを狙っていた。

(罠は、人の隙を突く悪魔の兵器だからね)半ば賭けだった。巧の体力が尽きるのが先か、それとも相手か。本来ならばこういった作戦展開はよろしくない、寧ろ悪い。

『巧、見えるな。残り一〇、』ノイズが入り真治によるカウントが始まる。

真治は木の上で中型の銃に載せた単眼鏡スコープで巧の姿を確認して、正確に導く。罠師の、こと真治の空間把握能力は伊達ではない。

『三、二…今』

合図とともに、巧はスライディングをしてみせ一回転。ワイヤを避けた。

しかし、後続は

「っ!待って!」最後列の女生徒の一声はあったが、遅かった。

先頭を走る生徒がワイヤに触れる。刹那、短い電子音が鳴る。

木に括りつけられた装置から一斉に桃色の蛍光塗料が散布される。模擬弾に使用される塗料と同じもの、すなわちこれがダメージ判定。

本来ならばこの装置は起爆し辺は焼け野原。しかし訓練用は散布されるだけで、痛みはない。巧が罠を使った理由だった。

見事に巧以外の全員に塗料が付着。会場に鳴り響くブザー音により終局を迎えた。

罠の展開方向とは逆側から紗希が顔を出す。巧と目があって、ため息混じりに銃を構えている。

真治は無線からグッキル、とだけ言って音沙汰なし。

「おつかれさま」巧は立ち上がって、塗料まみれの生徒たちに声をかける。

頭から、足まで塗料まみれ。変な匂いなどはないが、粘性があるため不評だ。

「うぇ…おつかれ」塗料のついたジャケットを脱いで苦笑いする少年。続けて、「負けてしまったね…」いやあ敵わない、塗料の付いた手で頭をかいて不快な表情。

「ちぇ。もう少し周りを見ることにするわ、あいつみたいに」別の男子生徒が銃についた塗料を拭いながらそう言って自分の分隊の少女を見る。

べたべたぁ、と言いながらスカートを払う少女。制服の背中には半分桃色になっているが大きな赤十字が刻まれていた。

「あはは、僕もちょっと驚いたよ。あの距離から気づくなんて」僕ならかかってたね、巧は率直に感想を述べるが、実のところあれに反応できるのは相当な訓練を積んでも難しい。ずっと神経を尖らせておく必要がある。

「うちのメディックはそこが自慢なんだよ」そう言って自慢気に巧を肘でつつく。巧のチームには明確にメデックは存在しない。それには理由があるのだが。

「巧さん、そろそろ戻りますよ」ふと、後ろから声が掛かる。制服を気怠そうに引っ張っているところを見ると、汗が気になっているのだろう。そういうところは女の子なのだから、戦闘とのギャップに巧はさんざん驚かされた。

「ごめん、今行くよ」巧はそう言うと、「じゃあメデック自慢はまた今度」と別れをつげて紗希たちに合流した。

「・・・ああ、また今度」微笑み、分隊員を見る少年。二人とも楽しそうにしている。

「『優しい天田君』に感謝、だな」そうつぶやいて、二人の元へ駆け寄った。

ご覧頂きありがとうございます。

わからない点等あればご指摘いただけると助かります。


※インカム

オペレーターなどが耳につける通信機材のこと。

体の何処かにつける無線機本体の送受信機。

ここで使われているものは、Bluetoothを介したワイヤレスモデルになっています。


※罠師

実際には存在していないはずです。少なくとも私は聞いたことがありません。

罠を使う兵士はいますが、専用の兵科までは設けられていなかったと記憶しています。

罠自体にあまり良いイメージがなく、人道的とは言えないものが多いです。


※二〇〇

200。ここではm単位のこと。


※ドローン

空中を浮遊できたり、地面を闊歩できたりするロボットのこと。

上空からの撮影でラジコンを使うようなもの。


※フォックスハウンド

ここではキツネ狩りのことを指しています。第九分隊(狐)を敵分隊(犬)が追っているということです。


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