第九節
電子音が鳴る。
胸ポケットの端末の着信音。
巧はそれを取り出して見る。
「メール・・・小森先生」差出人を見て微笑む巧。
認めてくれたのだ。巧の作戦参加を。
タップして、中身を見る。
件名は無く、本文は添付ファイル一件、とある。
よく見ると、一番下に『仕方なくだ』と一文添えてあった。
実に小森らしかったから、また笑った。
添付ファイルを開くと作戦の概要が一斉に表示される。
携帯端末では見づらかった。
走って、教室へ。自分の鞄を見つけると中からタブレット端末を取り出す。
クラウドでの同期済みのため、同様のメールが来ていた。
『作戦概要』と書かれた一枚目の見出しをめくる。
作戦内容はこうだ。
倉庫街に多数の不審人物の出入りがある。
トラックの出入りも頻繁で、運び込まれている積み荷の中身はおそらくのところ麻薬らしかった。
不審人物たちは銃火器で武装している模様。
この調査を行っていたところ、そのころ付近で頻発していた防衛関係者の襲撃事件との関係性が高いことがわかった。
これに対して、防衛校側は一斉摘発を実施。
乗じて行方不明となっている関係者の捜索をおこなう。
巧は、これに参加することになる。
頁をめくる。
何頁かいったところに気になる文字があった。
『別働隊の可能性』
倉庫街から少し離れた場所にある今は使われていない公民館。
ここへ倉庫と同時期に不審人物一人の出入りが認められた。
『一人』。
わざわざ、そう書くあたり間違いはないのだろう。
倉庫の人間とは別、あるいは単に単独行動をしているだけなのか。
どちらにせよ関係がないわけではなさそうだった。
「・・・倉庫の方は、ファーストと先生たちに任せてもよさそうかな」
心配、ではある。が、ここは仲間を信じるところだ。
巧は頷いて、タブレットを閉じる。
位置情報を端末に打ち込みそこまでの経路を表示する。
遠い。
車両を使って数十分といったところ。
実際、画面には目的地までの距離と時間が表示されている。
ふと、時計の表示を見るとすでに時刻は十七時を回ろうとしていた。
日もすっかり落ちかけ、厚い雲のせいもあって外は暗い。
今から行動するわけもない。
作戦開始時刻は、明朝五時。
「今日は家に帰る、か」そうつぶやいて鞄を背負う。
逸る気持ちを抑えつつ巧は帰路を歩く。
真治がいるかと思ったが、警戒態勢が引かれているのだ。
帰っていて不思議はない。
そうだ、とスーパーに寄ることを思い出した巧はスーパーで食材を買ってそうしてまた帰路につく。
一層真っ暗になった外。あまり出歩きたい時間ではない。
少し早足気味に歩いて帰る巧。
ふと、道端の草むらに目が行く。
この付近は元々は田舎だった。
開発が進んだ今でも『緑との共存』というコンセプトのもとこうやって旧町並みを残しつつ、学園街としての発展を遂げた。
ちなみに、巧が今立ち寄った店は学園が誘致される前からここにあったもの。好んで利用していた。
そのとき、
茂みが音を立てて揺れた。
咄嗟に身構えようとするが、やめた。
どうせネコか何かだ。いちいち驚いてはいられない。
そうして、立ち去ろうとする巧の前に、それが姿を現す。
大きい。
決してネコというサイズではない。なにせ、二足歩行している。
やがて、街灯の下に姿を表したのは、
「・・・・おん、なのこ?」驚いた。驚いたせいでつい口に出してしまう。
きれいな瞳の女の子だった。
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