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食パンくわえて走ったら、フガフガなりました!

作者: 葉桜 笛
掲載日:2026/11/04


「寝坊した!!」



 もう、泣きそう!


 中学生になって初めての球技大会。

 クラスのみんなで放課後練習して、この日に備《そな》えてきたのに、練習の疲れがたまって起きられなかった。

 私はバレーボールに参加する。毎日のように腕が赤くなるまで練習したのに、なんてこと!!


 今は、8時。

 いつもは余裕を持って、7時30分に家を出る。

 急げば何とかならないかな?

 考えながら急いでシャツを着ようとして……やめた。



「ボタンなんか、とめてられないわ!!」



 シャツとブレザーとスカートとリボンタイをカバンの中に押し込んで、体操服を着た。


 さすが運動するための服。

 体操服は、少し伸びるので着やすかった。

 その勢いのまま、ジャージも着た。

 これで、学校に着いてから着替える必要がなくなった。

 これは、良い時間短縮なんじゃないだろうか?

 ジャージも制服だもの。いいよね?



「…………ぐぅ」



 急いで顔を洗って家を出ようとしたとき、お腹がなった。

 朝はしっかり食べる派なので、食べなきゃ通学途中に貧血で倒れるかもしれない。



「ほら! お弁当と、パンよ!!」



 玄関で靴を履いている私に、母がお弁当と食パンを持ってきた。こんがりと焼けた食パンにはバターがたっぷりぬってあり、とてもおいしそう。


 でも、お弁当はわかるけど、食パン?

 玄関でパンを食べてから学校に行けと言う事?

 そんな時間はないよ?

 いつもなら、もう学校に着いてる時間だもの。



「走りながら、パンを食べなさい。

 よく、漫画やアニメで主人公が寝坊したとき、食パンをくわえて走ってるでしょ? あれをやるのよ!」



 このときは、何の疑問も持たなかった。

 あぁ、確かにそんなイメージあるなぁとしか思わなかったので、私は食パンをくわえて家を出た。

 そして通学路を全力で走った。






「……ふ、フガフガ……フガ、フガ…………」






 い、息がしづらい!!


 口が塞《ふさ》がっているため鼻で呼吸するしかないんだけど、走っているせいか鼻では追い付かない。

 鼻で呼吸しているのに、まるで息を止めているみたいに苦しい!


 今、私の鼻は、小さい男の子が読むギャグ漫画の主人公みたいに、大きく、まん丸に開いているに違いない。




(走りながらパンを食べるなんて無理!!)




 このままでは息が出来なくて死んでしまう。

 そう思って走るのをやめ、食パンを手に取り、くわえるのをやめた。




「もう! どうやって食べるのよ!!」




 そういえば、食パンをくわえて走るシーンはあっても、その食パンをムシャムシャするシーンは見たことがない。いったい、いつ、どのタイミングで食べるのが正解なのだろう?

 めちゃくちゃ腹が立ってきたそのとき、男の子の声がした。



「パンの食べ方がわからない人、初めて見た」



 この近くにある男子校の制服を着た彼は、私の食パンをひょいとつかんで一口食べて見せた。



「かじりつけば良いんだよ?」



 ドキッとした。

 スポーツをやっていそうな短めの髪。

 人懐《ひとなつ》っこい笑顔。

 とても、距離を近く感じた。


 そういえば、こんなに近くで男の子が何か食べるのを見たことがない。給食の時は机の分だけ離れてる。



「あ、ごめん。返す」



 彼は、食パンを半分にちぎって、かじりついてない方を私に返してきた。


 漫画やアニメで、貴族がお忍びで町に出かけたとき、ハンバーガーの食べ方がわからなくて「ナイフとフォークは?」って聞くシーンは確かによくあるけれど、私は貴族じゃない。

 食パンの食べ方ぐらい知っている。

 なのに、ドキドキして抗議の言葉がでなかった。



「今度、あんぱんの食べ方おしえてあげるよ」



 ……あんぱんの食べ方って何だろう?


 食パン同様かじりつけばいいんじゃないの? そう思うのに、「うん」って返事するのでせいいっぱいだった。

 球技大会には完璧遅刻だけど、明日が楽しみで、スキップしながら学校に行った。


 明日は、アンパンをくわえて走ろう。


お読みくださり、ありがとうございました!


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