食パンくわえて走ったら、フガフガなりました!
「寝坊した!!」
もう、泣きそう!
中学生になって初めての球技大会。
クラスのみんなで放課後練習して、この日に備えてきたのに、練習の疲れがたまって起きられなかった。
私はバレーボールに参加する。毎日のように腕が赤くなるまで練習したのに、なんてこと!!
今は、8時。
いつもは余裕を持って、7時30分に家を出る。
急げば何とかならないかな?
考えながら急いでシャツを着ようとして……やめた。
「ボタンなんか、とめてられないわ!!」
シャツとブレザーとスカートとリボンタイをカバンの中に押し込んで、体操服を着た。
さすが運動するための服。
体操服は、少し伸びるので着やすかった。
その勢いのまま、ジャージも着た。
これで、学校に着いてから着替える必要がなくなった。
これは、良い時間短縮なんじゃないだろうか?
ジャージも制服だもの。いいよね?
「…………ぐぅ」
急いで顔を洗って家を出ようとしたとき、お腹がなった。
朝はしっかり食べる派なので、食べなきゃ通学途中に貧血で倒れるかもしれない。
「ほら! お弁当と、パンよ!!」
玄関で靴を履いている私に、母がお弁当と食パンを持ってきた。こんがりと焼けた食パンにはバターがたっぷりぬってあり、とてもおいしそう。
でも、お弁当はわかるけど、食パン?
玄関でパンを食べてから学校に行けと言う事?
そんな時間はないよ?
いつもなら、もう学校に着いてる時間だもの。
「走りながら、パンを食べなさい。
よく、漫画やアニメで主人公が寝坊したとき、食パンをくわえて走ってるでしょ? あれをやるのよ!」
このときは、何の疑問も持たなかった。
あぁ、確かにそんなイメージあるなぁとしか思わなかったので、私は食パンをくわえて家を出た。
そして通学路を全力で走った。
「……ふ、フガフガ……フガ、フガ…………」
い、息がしづらい!!
口が塞がっているため鼻で呼吸するしかないんだけど、走っているせいか鼻では追い付かない。
鼻で呼吸しているのに、まるで息を止めているみたいに苦しい!
今、私の鼻は、小さい男の子が読むギャグ漫画の主人公みたいに、大きく、まん丸に開いているに違いない。
(走りながらパンを食べるなんて無理!!)
このままでは息が出来なくて死んでしまう。
そう思って走るのをやめ、食パンを手に取り、くわえるのをやめた。
「もう! どうやって食べるのよ!!」
そういえば、食パンをくわえて走るシーンはあっても、その食パンをムシャムシャするシーンは見たことがない。いったい、いつ、どのタイミングで食べるのが正解なのだろう?
めちゃくちゃ腹が立ってきたそのとき、男の子の声がした。
「パンの食べ方がわからない人、初めて見た」
この近くにある男子校の制服を着た彼は、私の食パンをひょいとつかんで一口食べて見せた。
「かじりつけば良いんだよ?」
ドキッとした。
スポーツをやっていそうな短めの髪。
人懐っこい笑顔。
とても、距離を近く感じた。
そういえば、こんなに近くで男の子が何か食べるのを見たことがない。給食の時は机の分だけ離れてる。
「あ、ごめん。返す」
彼は、食パンを半分にちぎって、かじりついてない方を私に返してきた。
漫画やアニメで、貴族がお忍びで町に出かけたとき、ハンバーガーの食べ方がわからなくて「ナイフとフォークは?」って聞くシーンは確かによくあるけれど、私は貴族じゃない。
食パンの食べ方ぐらい知っている。
なのに、ドキドキして抗議の言葉がでなかった。
「今度、あんぱんの食べ方おしえてあげるよ」
……あんぱんの食べ方って何だろう?
食パン同様かじりつけばいいんじゃないの? そう思うのに、「うん」って返事するのでせいいっぱいだった。
球技大会には完璧遅刻だけど、明日が楽しみで、スキップしながら学校に行った。
明日は、アンパンをくわえて走ろう。
お読みくださり、ありがとうございました!




