お前は著作権が怖くないのかっ⁉
割とギリギリのネタだと思います。
「殿下。例の令嬢と会うのをお止め下さい」
婚約者である公爵令嬢の言葉に、王太子が少し困った様な表情を浮かべる。
そして、暫しの間、言葉を探す様に視線を彷徨わせた後、王太子は口を開いた。
「……彼女との関係に、私には後ろ暗い事は何もない」
王太子のその返答に、公爵令嬢は悲し気に視線を伏せる。
「……殿下は、彼女がどういう人物か分かっておられるのですか?」
「分かっている」
「なら! それならば! 何故、彼女と関りを持つのです⁉」
公爵令嬢の言葉が悲痛な叫びとなる。
その目には涙をいっぱいに溜め、祈る様に組まれた手は微かに震えていた。
「彼女はサバサバ系を自称し、男友達の様なものだと言って、令息達と過剰に接しているのですよ⁉」
「知っている」
「分かっているなら……!」
そう叫んで、公爵令嬢は言葉を詰まらせる。
そんな公爵令嬢を目の前に、王太子は気まずげに視線を逸らし、僅かに俯いた。
そして、絞り出す様な小さな声で言い訳の様な言葉を発する。
「仕方がないだろう……」
「何が仕方がないと言うのです⁉」
責める様な公爵令嬢の言葉に王太子は顔を上げる。
僅かに逡巡。
その後に、王太子は決意を込めた様な面持ちで叫んだ。
「彼女は、サバサバの実を食べたサバサバ人間を自称しているのだぞ! 放っておく訳にいかないだろう!」
………………
は?
「だから関わらないで下さいと言っているんです!」
「そうは言うが! この間など、彼女に苦言を呈した令息に向かって拳を振り上げ、『サバサバのぉっ!』とか、叫び出したのだぞ! 私が止めなかったら完全にアウトだったはずだ!」
いやぁ……、まぁ……、何と言うか……。
………………
……うん。そうだね。アウトだっただろうね。
黙らせて正解だったと思うよ。
「そもそも! サバサバの実って何なんですか⁉」
「本人が言うには、見た目はしめ鯖だったらしい……」
「……味は?」
「しめ鯖だったらしい」
「香りは?」
「しめ鯖だったらしい」
「……しめ鯖じゃないですか⁉ ただ、しめ鯖を食べただけの人ですよ!」
「そうだよ! それでも、本人はサバサバの実だって言い張っているのだ!」
中々に酷い話だった。
しめ鯖を食べただけでサバサバ系になるなら、居酒屋の飲兵衛共の大半はサバサバ系だ。
「それに、彼女が男爵家の養子なのは知っているか?」
「……はい。確か……、一年ほど前に男爵家に入ったとか」
公爵令嬢の返答に、王太子は小さく頷いて見せる。
そして、苦々し気な表情で、再度口を開く。
「その際、義理の姉と兄が出来て、ひたすらに『義妹』を強調していた時期がある」
「? それで……?」
「彼女は、その時期に『流派・東方義妹』を名乗っていた」
「何ですか、それ⁉ 何が東方なんですか⁉」
「分からん! 分からんが、彼女が『超級! 義妹!』と叫んだ瞬間に私は止めた! 我ながらファインプレーだったと思う!」
それは……。
確かにファインプレーだったと思う。
最後まで言わせていたら危なかった。
「もう、いっそ、何処かに隔離した方が良いのではありませんか⁉」
「無理だ! 彼女は無駄に戦闘能力が高く、騎士団でも取り押さえられん!」
「じゃあ、どうするのですか⁉」
「彼女が穏当な属性を見つけてくれるまで待つしかない!」
「穏当な属性に、ギリギリの属性を付け足してくる気しかしないのですが⁉」
「私もだ!」
王太子と公爵令嬢。二人して叫び合い、そして、二人は互いの顔を見合わせて深々と溜息を吐いた。
何というか、とんでもない危険人物がいたものである。
何が危ないって、この作品が消し飛びかねない爆弾だった。
王太子が居なかったら完全にアウトだっただろう。
現状で、既に危ないが。
「……それでは、どうするおつもりですか?」
「……王家の者として、可能な限り止めて見せるつもりだ」
王太子の言葉に、公爵令嬢が静かに涙を流す。
そんな公爵令嬢に向かって、王太子は決意に満ちた表情をしていた。
「そこまでの……、そこまでのお覚悟なのですね?」
「ああ。私が止めなければ、私達の存在そのものが消し飛びかねない」
大分メタい話になって来たな。
まあ、内容的に、最初からメタい話だった気もするがな。
「殿下……。御武運を御祈りいたします」
「ああ……、必ずやり遂げて見せる」
そう言って、二人は無言で見つめあい、手を握り合う。
まるで戦場に向かうかの様だった。
だが、実際には著作権的に危うい存在を止めに行くだけである。
そんな訳の分からない状況で、よくも二人の世界を作れるものだ。
「殿下……」
「公爵令嬢……」
二人が互いを呼び合う。
このまま抱き締め合いそうな空気になった。
だが、その時だった。
「殿下ぁぁぁぁぁっ!」
そう叫びながら、二人が居る部屋に、一人の男性が転がり込んで来た。
かなりの慌てようで、王太子達が作り出した二人の世界になど気づいてもいなさそうだ。
そんな男性を見て、王太子と公爵令嬢は握っていた互いの手を離し、僅かに距離を取る。
そして、何事も無かったかの様に取り繕って男性に声を掛けた。
「どうした? 何かあったのか?」
王太子の問いに、余程急いできたのだろう、男性が息を切らせながら答える。
「例の……、例の男爵令嬢が……!」
「っ! 彼女がどうした⁉」
男性の言葉に、慌てた様に王太子が男性に詰め寄る。
そんな王太子に、男性はどうにか息を整えて続きを話し始める。
「男爵令嬢を『妹の様な者』と言う者が現れ……」
「何だと! それで⁉ どうなった⁉」
「男爵令嬢はサバサバ人間の設定を捨て、妹的存在に属性を変更させました」
「くっ! 妹的存在か! 先が読めん! 何か、まずい事は言っていなかっただろうな⁉」
男性は、王太子の言葉に顔を青褪めさせ、震える唇で答える。
「それが……! 突如、『疑似妹アタック!』と叫んで、手から謎の光線を放ちました!」
その言葉を聞くなり、王太子は走り始める。
部屋から飛び出し、走り去っていく。
行く先は決まっていた。
そう、危ない発言をした男爵令嬢の下である。
走りながら王太子は叫ぶ。
何処までも憤った様に。
何処までも悲嘆した様に。
その叫びは、聞く者全ての心に響いた。
聞いた者は、皆、我が事の様に憤り、悲嘆する。
その叫びが響く。
「お前は著作権が怖くないのかっ⁉」
私は怖いです。
なので、この作品が消えたら、そういう事だと思ってください。




