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野井琅世のコメディー短編置き場

お前は著作権が怖くないのかっ⁉

作者: 野井琅世
掲載日:2026/09/20

 割とギリギリのネタだと思います。



「殿下。例の令嬢と会うのをお止め下さい」


 婚約者である公爵令嬢の言葉に、王太子が少し困った様な表情を浮かべる。

 そして、暫(しば)しの間、言葉を探す様に視線を彷徨(さまよ)わせた後、王太子は口を開いた。


「……彼女との関係に、私には後ろ暗い事は何もない」


 王太子のその返答に、公爵令嬢は悲し気に視線を伏せる。


「……殿下は、彼女がどういう人物か分かっておられるのですか?」

「分かっている」

「なら! それならば! 何故、彼女と関りを持つのです⁉」


 公爵令嬢の言葉が悲痛な叫びとなる。

 その目には涙をいっぱいに溜め、祈る様に組まれた手は微(かす)かに震えていた。


「彼女はサバサバ系を自称し、男友達の様なものだと言って、令息達と過剰に接しているのですよ⁉」

「知っている」

「分かっているなら……!」


 そう叫んで、公爵令嬢は言葉を詰まらせる。

 そんな公爵令嬢を目の前に、王太子は気まずげに視線を逸らし、僅(わず)かに俯(うつむ)いた。

 そして、絞り出す様な小さな声で言い訳の様な言葉を発する。


「仕方がないだろう……」

「何が仕方がないと言うのです⁉」


 責める様な公爵令嬢の言葉に王太子は顔を上げる。

 僅かに逡巡(しゅんじゅん)。

 その後に、王太子は決意を込めた様な面持ちで叫んだ。



「彼女は、サバサバの実を食べたサバサバ人間を自称しているのだぞ! 放っておく訳にいかないだろう!」



 ………………


 は?


「だから関わらないで下さいと言っているんです!」

「そうは言うが! この間など、彼女に苦言を呈(てい)した令息に向かって拳を振り上げ、『サバサバのぉっ!』とか、叫び出したのだぞ! 私が止めなかったら完全にアウトだったはずだ!」


 いやぁ……、まぁ……、何と言うか……。


 ………………


 ……うん。そうだね。アウトだっただろうね。

 黙らせて正解だったと思うよ。


「そもそも! サバサバの実って何なんですか⁉」

「本人が言うには、見た目はしめ鯖だったらしい……」

「……味は?」

「しめ鯖だったらしい」

「香りは?」

「しめ鯖だったらしい」

「……しめ鯖じゃないですか⁉ ただ、しめ鯖を食べただけの人ですよ!」

「そうだよ! それでも、本人はサバサバの実だって言い張っているのだ!」


 中々に酷い話だった。

 しめ鯖を食べただけでサバサバ系になるなら、居酒屋の飲兵衛共の大半はサバサバ系だ。


「それに、彼女が男爵家の養子なのは知っているか?」

「……はい。確か……、一年ほど前に男爵家に入ったとか」


 公爵令嬢の返答に、王太子は小さく頷(うなず)いて見せる。

 そして、苦々し気な表情で、再度口を開く。


「その際、義理の姉と兄が出来て、ひたすらに『義妹』を強調していた時期がある」

「? それで……?」

「彼女は、その時期に『流派・東方義妹』を名乗っていた」

「何ですか、それ⁉ 何が東方なんですか⁉」

「分からん! 分からんが、彼女が『超級! 義妹!』と叫んだ瞬間に私は止めた! 我ながらファインプレーだったと思う!」


 それは……。

 確かにファインプレーだったと思う。

 最後まで言わせていたら危なかった。


「もう、いっそ、何処(どこ)かに隔離した方が良いのではありませんか⁉」

「無理だ! 彼女は無駄に戦闘能力が高く、騎士団でも取り押さえられん!」

「じゃあ、どうするのですか⁉」

「彼女が穏当な属性を見つけてくれるまで待つしかない!」

「穏当な属性に、ギリギリの属性を付け足してくる気しかしないのですが⁉」

「私もだ!」


 王太子と公爵令嬢。二人して叫び合い、そして、二人は互いの顔を見合わせて深々と溜息を吐いた。

 何というか、とんでもない危険人物がいたものである。

 何が危ないって、この作品が消し飛びかねない爆弾だった。

 王太子が居なかったら完全にアウトだっただろう。

 現状で、既(すで)に危ないが。


「……それでは、どうするおつもりですか?」

「……王家の者として、可能な限り止めて見せるつもりだ」


 王太子の言葉に、公爵令嬢が静かに涙を流す。

 そんな公爵令嬢に向かって、王太子は決意に満ちた表情をしていた。


「そこまでの……、そこまでのお覚悟なのですね?」

「ああ。私が止めなければ、私達の存在そのものが消し飛びかねない」


 大分メタい話になって来たな。

 まあ、内容的に、最初からメタい話だった気もするがな。


「殿下……。御武運を御祈りいたします」

「ああ……、必ずやり遂げて見せる」


 そう言って、二人は無言で見つめあい、手を握り合う。

 まるで戦場に向かうかの様だった。

 だが、実際には著作権的に危うい存在を止めに行くだけである。

 そんな訳の分からない状況で、よくも二人の世界を作れるものだ。


「殿下……」

「公爵令嬢……」


 二人が互いを呼び合う。

 このまま抱き締め合いそうな空気になった。

 だが、その時だった。


「殿下ぁぁぁぁぁっ!」


 そう叫びながら、二人が居る部屋に、一人の男性が転がり込んで来た。

 かなりの慌てようで、王太子達が作り出した二人の世界になど気づいてもいなさそうだ。

 そんな男性を見て、王太子と公爵令嬢は握っていた互いの手を離し、僅かに距離を取る。

 そして、何事も無かったかの様に取り繕(つくろ)って男性に声を掛けた。


「どうした? 何かあったのか?」


 王太子の問いに、余程急いできたのだろう、男性が息を切らせながら答える。


「例の……、例の男爵令嬢が……!」

「っ! 彼女がどうした⁉」


 男性の言葉に、慌てた様に王太子が男性に詰め寄る。

 そんな王太子に、男性はどうにか息を整えて続きを話し始める。


「男爵令嬢を『妹の様な者』と言う者が現れ……」

「何だと! それで⁉ どうなった⁉」

「男爵令嬢はサバサバ人間の設定を捨て、妹的存在に属性を変更させました」

「くっ! 妹的存在か! 先が読めん! 何か、まずい事は言っていなかっただろうな⁉」


 男性は、王太子の言葉に顔を青褪(ざ)めさせ、震える唇で答える。


「それが……! 突如、『疑似妹(ギッジ マイ)アタック!』と叫んで、手から謎の光線を放ちました!」


 その言葉を聞くなり、王太子は走り始める。

 部屋から飛び出し、走り去っていく。

 行く先は決まっていた。

 そう、危ない発言をした男爵令嬢の下である。

 走りながら王太子は叫ぶ。

 何処までも憤った様に。

 何処までも悲嘆した様に。

 その叫びは、聞く者全ての心に響いた。

 聞いた者は、皆、我が事の様に憤り、悲嘆する。

 その叫びが響く。



「お前は著作権が怖くないのかっ⁉」




 私は怖いです。

 なので、この作品が消えたら、そういう事だと思ってください。

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