第8話「ゴースト俺、クズたちの本性を知る」①
文哉は、ずっと城の中に潜んでいた。
壁を通り抜け、天井裏を這い、誰にも見つからない場所で――
じっと、葛城たちの帰還を待っていた。
そして――
ついに、その日が来た。
城下町には、朝から人だかりができていた。
老若男女、身分の隔てなく、誰もが同じ方向を見つめている。
「帰ってくるんだって……勇者様たちが」
「あの黒森を攻略したって話、本当だったんだな」
ざわめきは、やがて――歓声へと変わった。
勇者たちが帰ってきた。
「来たぞ……!」
誰かの声をきっかけに、歓声が爆発した。
「勇者様だ!!」
「お帰りなさい!!」
「ありがとうございます!!」
紙吹雪のように、花びらが宙を舞った。
誰かが用意していたのか、子どもたちが小さな旗を振り、必死に背伸びをして叫ぶ。
「すごい……本物の勇者だ……!」
「この人たちが、私たちを守ってくれたんだよ!」
年老いた男が、深々と頭を下げた。
「本当に……ありがとうございます。
あなた方のおかげで、また安心して眠れます」
誰もが、疑っていなかった。
誰もが、信じ切っていた。
彼らは英雄だ。
この日から国の希望そのものになっていた。
◆
城門が開く音が聞こえた。
文哉は、城の窓から外を覗いた。
そこには――
葛城、森川、梨花の三人が、騎士団に守られながら城へと入ってくる姿があった。
三人とも、疲れた様子だったが――無事だった。
文哉の胸に、黒い感情が湧き上がる。
(……生きてるんだな)
(僕を囮にして、逃げ延びて――)
(ちゃんと、生きてるんだな)
怒りが、込み上げてくる。
文哉は、透明な体で――三人の後を追った。
◆
謁見の間。
王が、三人を出迎えていた。
「おお、勇者たちよ! 無事に戻られたか!」
王の声は、喜びに満ちていた。
葛城が、疲れた表情で頭を下げる。
「はい……何とか、生きて帰ってこれました」
「黒森の魔物の巣は、見事に討伐できたと聞いております。さすがは勇者様方!」
王が絶賛する。
けれど――
葛城の表情は、暗かった。
森川も、梨花も――どこか沈んだ様子だった。
騎士団長が、重い口調で報告する。
「……しかし、陛下。報告せねばならないことがあります」
「何かね?」
「黒森の最深部にて……ランドドラゴンと遭遇しました。レベル32の、強大な敵でした」
王の顔が、強張った。
「ランドドラゴンだと……!?」
「はい。激しい戦闘の末、何とか撃退しましたが……その戦いで、我々は……」
騎士団長が、言葉を詰まらせる。
「勇者の一人、中田文哉殿を……失いました」
静寂。
謁見の間に、重い沈黙が降りた。
王が、驚愕の表情を浮かべる。
「なんと……中田殿が……」
「はい……彼は、我々を逃がすため……自ら囮となり、ランドドラゴンに立ち向かいました」
騎士団長の声が、震えていた。
「彼の犠牲がなければ……我々は、全滅していたでしょう」
王が、深く頷いた。
「そうか……中田殿は、英雄として散ったのだな……」
「はい……」
文哉は、その光景を――透明な体で、見ていた。
(……囮に、なった?)
(自ら、立ち向かった?)
怒りが、爆発しそうになった。
(嘘をつくな!!)
文哉は、叫んだ。
けれど――
その声は、誰にも届かなかった。
(僕は……お前たちに、やられたんだ!)
(森川が魔法で足を縛って、お前らが囮にしたんだ!)
(なのに……なんで、そんな嘘を……!)
文哉は、必死に叫び続けた。
けれど、誰も――文哉の声を聞かなかった。
王が、三人に向かって言った。
「中田殿の死は、痛ましい。しかし、彼の犠牲は無駄ではなかった。彼は、真の勇者として――この国の英雄として、歴史に刻まれるだろう」
王の表情には、悲しみと共に――微かな安堵の色が浮かんでいた。
(戦闘能力の高い三人が無事で良かった。中田殿は……まあ、鑑定しかできなかったし……)
王の小声は、文哉に聞えた。
けれど――その表情を見れば、十分に分かった。
(……王様も僕の死を、そんな風に……)
文哉の胸に、新たな怒りが湧き上がる。
「……ありがとうございます」
葛城が、神妙な面持ちで頭を下げた。
けれど――
文哉には分かった。
葛城の目には――罪悪感など、微塵もなかった。
ただ、「面倒な報告が終わった」という安堵の色があるだけだった。
文哉の拳が、震えた。
けれど、その拳は――何も掴めなかった。
◆
その夜。
文哉は、まず【葛城の部屋】に忍び込んだ。
葛城は、ベッドに横たわっていた。
疲れた様子で、目を閉じている。
文哉は、葛城のすぐ横に立った。
そして――
これまで溜め込んできた、すべての怒りを――叫んだ。
「葛城ぃぃぃぃ!! お前が……お前が僕を殺したんだ!!」
けれど、葛城は微動だにしない。
「聞こえないのか!? 僕の声が!!」
文哉は、さらに叫ぶ。
「お前は……クズだ! 最低のクズだ!!」
「僕を利用して、捨てて、殺して……それで英雄面してるのか!?」
「ふざけるな!!」
文哉の声は、虚空に消えていった。
葛城は、穏やかな寝息を立てている。
文哉は、葛城の顔を睨んだ。
そして――
試しに、葛城の頬を殴ろうとした。
けれど――
文哉の拳は、葛城の顔を通り抜けた。
何も、触れられない。
何も、できない。文哉は、歯を食いしばった。
(くそ……!)
次に、文哉は【森川の部屋】へ向かった。
森川は机に向かって、何かの本を読んでいた。
「森川ぁぁ!! お前もだ! お前も僕を殺した!!」
文哉が叫ぶ。
「呪文で僕の足を縛ったよな!? 逃げられないようにして!!」
「お前の魔法が……僕を殺したんだ!!」
けれど、森川は本のページをめくり続けている。
何も聞こえていない。
文哉は、机の上のインク瓶を掴もうとした。
けれど――手は、すり抜けるだけだった。
(駄目だ……何も、できない……)
最後に、文哉は【梨花の部屋】へ行った。
梨花は、ベッドで眠っていた。
穏やかな寝顔。
けれど――文哉には、その顔が悪魔のように見えた。
「梨花さん……あなたもだ……」
文哉の声は、静かだった。
けれど、その静けさの中に――深い怒りが込められていた。
「『最後くらい……役に立ってくださいね』……そう言いましたよね」
「あなたも……僕を見捨てた」
「三人とも……僕を殺した」
文哉は、三人の部屋を回って――
何一つ、成果を得られなかった。
叫んでも、殴ろうとしても、物を動かそうとしても――すべてが、無駄だった。
文哉は、廊下に膝をついた。
(くそ……くそ……!)
(何もできない……!)
悔しさが、胸を焼いた。
けれど――
文哉は、諦めなかった。
(必ず……方法を見つける)
(必ず、お前たちに……復讐してやる)
3人の勇者たちの少しずつクズさが露呈してきました……
文哉の復讐心もふつふつと混みあがってきました。
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