第34話「ゴースト俺、再びシルフィアと遭遇する」
魔族領に足を踏み入れて――数時間が経っていた。
エリスと文哉は、慎重に森の中を進んでいる。周囲の気配に、常に神経を尖らせていた。
「フミヤ……本当に、大丈夫かな……」
エリスが、不安そうに呟いた。
文哉も――正直なところ、不安だった。
魔族領に無断で侵入している。見つかれば――殺されても、おかしくない。
「エリスの力なら――魔族とも対話できる」
文哉が、できるだけ冷静に答えた。
「その可能性に――賭けるしかない」
エリスは――髪留めに触れた。オーク村でもらった、花模様の髪留め。
魔族の魔力が込められている――これが、唯一の希望だった。
「そうだね……これしか、道はないもんね」
二人は――緊張しながら、さらに奥へと進んだ。
◆
その時――
バサッ――
突然、上空から何かが降りてきた。
エリスの心臓が――凍りついた。
「!」
文哉も――『鑑定』で素早く確認する。
【シルフィア / 種族:ハーピー / レベル:64】
【役職:魔族軍第四軍団長 / 警戒度:高】
(シルフィア……!)
そこには――大きな翼を広げた、ハーピーの姿があった。オレンジ色の髪をポニーテールにした、若い女性――シルフィアだ。
エリスは――思わず、後ずさった。
「シルフィアさん……」
◆
シルフィアは――地面に降り立つと、鋭い目でエリスを見た。
「人族が――魔族領に、勝手に入ってきた」
その声には――明確な警戒心があった。
「無断侵入は――死罪に値する」
エリスの体が――恐怖で震えた。
だが――その時、シルフィアの目が、エリスの顔をしっかりと捉えた。
「……あんた、か」
シルフィアの表情が――少しだけ、変化した。
「お早い再会だったな」
その声には、驚きと――わずかな警戒が混じっていた。
◆
エリスは――震える声で答えた。
「シルフィアさん……」
「セレスティア村には――着いたのか?」
シルフィアが、腕を組んで尋ねた。
「はい……でも……」
シルフィアは――エリスの様子を観察した。
ボロボロの服、疲れ切った表情、傷だらけの手足――前回会った時とは、明らかに違う。
「……人族に、追われたか」
シルフィアが、低い声で言った。
エリスは――静かに、頷いた。
「はい……村で、いろいろあって……」
シルフィアの目が――鋭くなった。
「それで――魔族領に逃げ込んだ、と」
「無謀だな」
エリスの顔が――青ざめた。
「あの……お願いが……」
「言ってみろ」
シルフィアが、冷たく言った。
◆
エリスは――震える声で、話し始めた。
「魔王城に――文献が、あるかもしれないんです」
「受肉の儀式について――書かれた文献が……」
シルフィアの目が――興味深そうに光った。
「受肉の儀式……?」
「はい……」
エリスが、必死に説明する。
「私の一族――ヴァランティエール家には、その儀式の記録がありました」
「でも――詳しいことは分からなくて……」
「魔族の方が――詳しいと聞いたんです」
シルフィアは――少し考え込んだ。
「確かに……魔王城の資料庫には、古い文献がたくさんある」
「受肉の儀式の記録も――もしかしたら、あるかもしれない」
エリスの目に――希望の光が宿った。
「本当ですか……!」
「だが――」
シルフィアが、厳しい表情で言った。
「お前は、人族だ」
「魔王城に入れるわけがない」
◆
シルフィアは――エリスの髪留めを、もう一度見た。
(オーク村の髪留め……まだ、つけてるのか)
シルフィアの頭に――オーク村での光景が蘇った。
整理された倉庫、綺麗な水路、そして――あの浴場。
(あの浴場……本当に、気持ちよかった)
(魔王城にも――いや、第四軍の拠点全体に、あの知識を導入できれば……)
シルフィアは――内政がボロボロの第四軍領域のことを思い出していた。
(村々の生活水準も低い……兵站も不十分……)
(だが――こいつらの知識があれば……)
シルフィアは――エリスを見つめた。
「なあ、エリス」
「はい……」
「お前――オーク村でやったこと、他の場所でもできるか?」
エリスは――文哉の方を見た。文哉も――シルフィアの意図を理解した。
「できる……と思います」
エリスが、答えた。
(フミヤと一緒なら……)
◆
シルフィアは――取引を持ちかけた。
「いいだろう。取引だ」
「魔王城内にある――第四軍の区画を、立て直せ」
エリスが――驚いて顔を上げた。
「魔王城……内……?」
「ああ」
シルフィアが、説明した。
「魔王城には――各軍団の区画がある」
「第四軍の区画も――当然あるが……正直、内政はボロボロだ」
シルフィアの表情が――少し苦々しくなった。
「倉庫は散らかり、物資管理もずさん……兵站も不十分だ」
「お前がオーク村でやったこと――それを、第四軍の区画でもやれ」
エリスは――その条件を聞いて、考えた。
(魔王城の中を……修繕する……)
文哉が――エリスに語りかけた。
「エリス――やろう」
「魔王城に入れるなら――資料庫にも近づける」
エリスは――頷いた。
「分かりました……やります」
◆
シルフィアは――満足そうに頷いた。
「いい返事だ」
「お前を――第四軍に配属する」
エリスが――驚いた。
「配属……?」
「ああ。人族のお前を魔王城に入れるには――理由が必要だ」
シルフィアが、真剣な表情で言った。
「第四軍の一員として――お前を招く」
「人族だが――特殊な能力を持つ者として……」
シルフィアは――少し言葉を濁した。
「しぶしぶだが――受け入れることはできると思う」
エリスは――緊張しながらも、頷いた。
「分かりました……」
◆
その時――シルフィアが、ふと思い出したように言った。
「……それと、もう一つ」
「気になることがある」
エリスの体が――少し強張った。
「何……ですか?」
シルフィアは――鋭い目で、エリスを見つめた。
「あんた――誰かと、話してるよな」
エリスの顔が――青ざめた。
「えっ……」
「オーク村でも――村長が言ってた」
シルフィアが、続けた。
「見えない誰かと話してるって」
「それに――今も、感じる」
シルフィアが、エリスの隣を見た。
「確かに――何か、気配がある」
「それは……気のせいか?」
◆
エリスは――文哉の方を見た。
文哉も――観念していた。
(嘘はつけない……ここは、正直に言うべきだ)
「エリス――正直に、言おう」
エリスは――震える声で答えた。
「シルフィアさん……実は……」
「私の隣には――ずっと、幽霊さんがいるんです」
シルフィアの目が――鋭くなった。
「やはり……か」
「その人の名前は――文哉……フミヤって言います」
エリスが、自分の隣を指差した。
「フミヤは……ゴースト族なんです」
その瞬間――
シルフィアの目が――キラキラと輝いた。
「ゴースト族……!?」
◆
シルフィアの態度が――一変した。
さっきまでの警戒心が消え――まるで、目上の者に接するような、恭しい態度になった。
「ゴースト族……本当に、ゴースト族なのか……!」
シルフィアが、エリスの隣――文哉がいるであろう場所に向かって、深く頭を下げた。
「ゴースト様……こんな辺境の地まで、お越しくださるとは……」
エリスは――その変わりように、驚いた。
(シルフィアさん……すごく、態度が変わった……)
文哉も――その反応に、戸惑っていた。
(様……? 僕が……?)
◆
シルフィアは――興奮した様子で話し始めた。
「ゴースト族は――伝説の希少種……」
「世界に1体生まれるかどうかの――高貴な存在……」
シルフィアの声が――震えていた。
「肉体の檻から解き放たれた――純粋な魔力体……」
「強い意志を持つ魂だけが――ゴースト族になれる……」
そして――再び、深く頭を下げた。
「お会いできて――光栄です、ゴースト様……」
エリスは――通訳する。
「フミヤ……シルフィアさんが……」
「ああ……聞こえてる」
文哉が、困惑した様子で答えた。
シルフィアは――顔を上げて、エリスを見た。
「お前――ゴースト様と、話せるのか」
「協力関係に……あるのか」
エリスが――頷く。
「はい……フミヤは、いつも私を助けてくれます」
シルフィアの目が――さらに輝いた。
「それなら……!」
「人族を魔王城に招くのは――普通では無理だ」
「だが――ゴースト様と話せ、協力関係にある者なら……」
シルフィアが、興奮気味に言った。
「魔王様も――きっと、お会いになりたがる……!」
「これなら――お前を魔王城に招くことができる……!」
エリスの目に――希望の光が宿った。
「本当ですか……!」
◆
だが――シルフィアは、急に真剣な表情になった。
「だが――本当にゴースト族がいるのか、証明しろ」
エリスが――文哉の方を見た。
「フミヤ……」
文哉は――少し迷った。だが――ここまで来たら、見せるしかない。
「分かった……」
文哉は――ポルターガイストの能力を使った。
近くに落ちていた小石が――ふわりと、宙に浮いた。
そして――ゆっくりと、シルフィアの前に運ばれる。
シルフィアの目が――さらに輝いた。
「これは……すごい!」
石は――空中で回転しながら、優雅に動いている。
そして――静かに、地面に降りた。
シルフィアは――感動した様子で、両手を合わせた。
「ゴースト様……!」
「本物だ……本物のゴースト族だ……!」
シルフィアが、エリスの隣に向かって――深々と頭を下げた。
「ゴースト様……! お会いできて、本当に光栄です……!」
その姿は――さっきまでのクールな軍団長とは、全く違っていた。
まるで――憧れのアイドルに会ったファンのようだった。
エリスは――その様子を見て、少し笑いそうになった。
(シルフィアさん……すごく、女の子っぽい……)
◆
しばらくして――シルフィアは、ハッと我に返った。
自分の態度に気づいて――少し恥ずかしそうに、軽く咳払いをした。
「コホン……」
シルフィアの表情が――いつものクールな雰囲気に戻った。
「そ、それでは――魔王城に向かうぞ」
だが――声は、少しだけ上ずっていた。
「準備は、いいか?」
エリスが――頷く。
「はい……」
シルフィアは――エリスを抱えた。
「しっかり掴まってろ」
そう言って――翼を大きく広げた。
バサッ――
シルフィアが、空へと飛び上がった。
文哉も――浮遊能力で、シルフィアとエリスに並んで飛んだ。
三人は――魔王城へと、向かい始めた。
空を飛びながら――シルフィアは、時々エリスの隣を見ていた。
そこには――見えないが、確かにゴースト族がいる。
シルフィアの心は――高揚していた。
(ゴースト様を――魔王様にお会いさせられる……!)
(これは――第四軍にとって、大きな功績になる……!)
だが――それ以上に、シルフィアは純粋に嬉しかった。
(伝説のゴースト族に――会えた……!)
遠くに――魔王城の姿が見えてきた。
黒い石で作られた、威厳のある城。
エリスと文哉の――新たな日々が、始まろうとしていた。
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【名前:中田文哉 / 種族:ゴースト / 年齢:28歳(死亡)】
【スキル:鑑定 / ポルターガイスト(中) / レベル:2】
【ステータス:HP??? / 攻撃力??? / 防御力???】
【特性:物理無効 / 視認不可 / 壁抜け / 浮遊】
【名前:エリス・ラ・ヴァランティエール / 種族:人族 / 年齢:16歳】
【特殊能力:魂の視認 / 霊体との意思疎通 / 霊体使役(小)/ レベル:5】
【ステータス:HP115 / 攻撃力+6 / 魔力??? / 精神力:大】
【装備:短剣(攻撃力+2)/ オークの村からの贈り物(お花模様の髪留め)】
【名前:シルフィア / 種族:ハーピー / 年齢:24歳】
【役職:魔族軍第四軍団長 / レベル:64】




