第29話「ゴースト俺、廃墟となった生家を探索する」
森の中を、エリスと文哉は歩き続けていた。
木々の間から差し込む光が、二人の道を照らしている。エリスの足取りは、少し重かった。村での出来事が、まだ心に残っているのだろう。
「フミヤ……」
エリスが、不安そうに呟いた。
「大丈夫だよ、エリス。僕がそばにいる」
文哉が、優しく答えた。
その言葉に――エリスは、少しだけ笑顔を見せた。
◆
森の奥へ進むにつれて、道は次第に荒れていった。
草木が生い茂り、もう何年も人が通っていないことが分かる。
「あれ……」
エリスが、立ち止まった。視線の先には、崩れかけた石垣があった。
「ここ……だと思う」
エリスの声が、震えていた。
文哉が、『鑑定』を使った。
【古い屋敷跡:築年数 約20年 / 状態:廃墟 / 居住者:なし】
【特記:かつてヴァランティエール家が住んでいた】
「ああ……ここだ」
文哉が、確認する。
二人は、石垣を越えて――敷地の中に入った。
◆
そこには――崩れかけた家が、静かに佇んでいた。
壁は崩れ、屋根は穴だらけ。窓ガラスは割れて、扉は外れかけている。風が吹くたびに、ギシギシと音を立てていた。
エリスは――その光景を見て、立ち尽くした。
「ここが……私の、家……」
エリスの目から、涙がこぼれた。
幼い頃の記憶が、ぼんやりと蘇る。温かい日差し、優しい声、笑顔――だが、それも今は、遠い夢のように感じられた。
「エリス……」
文哉が、心配そうに声をかける。
「大丈夫……入ろう」
エリスは、涙を拭いて――家の中へ足を踏み入れた。
◆
家の中は、荒れ果てていた。
床には、落ち葉や埃が積もっている。家具は倒れ、食器は割れ散らばっていた。壁には、苔が生えている。
だが――それでも、確かにここは「家」だった。
エリスは、ゆっくりと部屋を見て回った。リビング、台所、寝室――どの部屋も、ボロボロだった。
「ここが……お父さんとお母さんが、住んでいた場所……」
エリスが、小さく呟いた。
文哉は――エリスの気持ちを思うと、胸が痛んだ。
(エリスは……こんなにも、寂しい思いをしてきたんだな)
◆
奥の部屋に入ると――エリスの足が、止まった。
そこには――奇跡的に、一枚の写真が残っていた。古い木製の額縁に入った、家族写真。
エリスは、震える手で――その写真を拾い上げた。
写真には――若い夫婦と、赤ん坊が写っていた。夫婦は優しい笑顔を浮かべ、赤ん坊を大切そうに抱いている。
「お父さん……お母さん……」
エリスの声が、震えた。
涙が――写真の上に、ぽたぽたと落ちる。
「私……覚えてない……ほとんど、覚えてないの……」
エリスが、写真を胸に抱きしめた。
「でも……この写真を見たら……温かい気持ちになる……」
エリスは、泣きながら――それでも、笑顔を作ろうとしていた。
文哉は――その姿を見て、何も言えなかった。ただ、そっと――エリスのそばにいることしかできなかった。
◆
しばらくして、エリスは涙を拭いた。
「ごめんね、フミヤ……泣いてばっかりで」
「謝ることないよ。エリスは、よく頑張ってる」
文哉が、優しく答えた。
エリスは、写真を大切にしまうと――再び、部屋を探索し始めた。
古い日記、手紙、記録――様々なものが、散乱していた。エリスは、それらを一つ一つ拾い集めていく。
「これ……お母さんの日記かな……」
エリスが、古びたノートを開いた。
そこには――エレナという名前と、日付が書かれていた。
「お母さんの名前……エレナ……」
エリスが、ページをめくる。
日記には、日々の出来事や、家族への想いが綴られていた。エリスを抱いた時の喜び、成長を見守る幸せ――温かい言葉が、並んでいた。
「お母さん……」
エリスは、日記を読みながら――また涙を流した。だが、今度は――温かい涙だった。
◆
その時――文哉が、何かに気づいた。
「エリス……ちょっと待って」
文哉が、部屋の床を見つめている。
「どうしたの?」
「この床……何か、おかしい」
文哉が、『鑑定』を使った。
【床板:通常の木材 / 特記:一部に隠し扉あり】
【隠し部屋:地下に存在 / 魔力の痕跡あり / 重要な書物が保管されている可能性】
「隠し部屋……!」
文哉が、驚いた。
「隠し部屋?」
エリスも、床を見つめた。
「ああ……この辺りに、隠し扉がある」
文哉が、床板を指差す。
エリスは、その場所に近づいて――床板を調べ始めた。埃を払い、木材を押してみる。
すると――
カチッ――
小さな音がして、床板の一部が少し浮き上がった。
「あった……!」
エリスが、床板を持ち上げる。
そこには――階段があった。地下へと続く、古い石造りの階段。
「地下室……」
エリスが、階段を見つめた。
「慎重に降りよう」
文哉が、先に階段を降りていく。
エリスも――文哉に続いて、ゆっくりと階段を降りた。
◆
地下室は――思ったよりも広かった。
石造りの壁と床、そして――棚には、大量の書物が並んでいた。古い本、羊皮紙、巻物――どれも、長い年月を経たものばかり。
「すごい……こんなに、たくさん……」
エリスが、驚いた様子で見回す。
文哉も――『鑑定』で書物を調べていく。
【古文書:ヴァランティエール家の歴史 / 保存状態:良好】
【魔法書:魂の視認に関する記述あり / 保存状態:良好】
【日記:エリスの祖母の記録 / 保存状態:やや劣化】
「これは……ヴァランティエール家の、資料だ」
文哉が、興奮気味に言った。
「ここに――エリスの力のこと、家族のことが――全部、書かれているかもしれない」
エリスは――棚に近づいて、一冊の本を手に取った。
表紙には――『ヴァランティエール家の歴史』と、古い文字で書かれていた。
「これ……」
エリスが、本を開く。
最初のページには――こう書かれていた。
『我らヴァランティエール家は、生と死の境界を司る聖女の一族なり』
エリスの目が、見開かれた。
「聖女の……一族……?」
「ああ……これを読めば、全てが分かるかもしれない」
文哉が、期待を込めて言った。
エリスは――本を胸に抱きしめた。
「フミヤ……私、知りたい」
エリスの目には、強い決意が宿っていた。
「この力が、何なのか」
「どうして、フミヤだけが見えるのか」
「私の家族に、何があったのか」
「全部――知りたい」
文哉は――エリスの決意を、しっかりと受け止めた。
「分かった。一緒に、読もう」
二人は――地下室の床に座り込んだ。エリスが本を開き、文哉がそれを覗き込む。
古い文字が――ページいっぱいに綴られていた。
◆
エリスは――ゆっくりと、声に出して読み始めた。
『ヴァランティエール家は、数百年前より――生と死の境界を司る力を持つ』
『我らは、魂を光の粒として視認し――死者と対話する能力を持つ』
『この力は、代々受け継がれ――村の守護者として、人々を導いてきた』
エリスの声が――地下室に響く。
文哉は――その言葉を、一言一句聞き逃さないように集中していた。
『しかし――この力は、時に恐れられ、時に利用されてきた』
『我らの歴史は――光と影が、常に隣り合わせであった』
エリスが、ページをめくる。
そこには――家系図が描かれていた。何世代にもわたる、ヴァランティエール家の系譜。
そして――その最後に、エリスの名前があった。
「私の名前……」
エリスが、家系図を指でなぞる。
「エリス・ラ・ヴァランティエール……」
その上には、両親の名前。エレナとダリア。さらにその上には、祖母の名前。
「私……本当に、この家の子なんだ……」
エリスの目から、また涙がこぼれた。
だが、今度は――悲しみだけではなかった。自分のルーツを知ることができた、という喜びも混じっていた。
◆
エリスは、さらに読み進めた。
『聖女の力――それは、魂を視認する能力』
『生者の魂は、体内に光の塊として存在し』
『死者の魂は、光の粒として浮遊する』
『我らには、その違いが――はっきりと見える』
エリスの手が、震えた。
「光の粒……」
エリスが、小さく呟いた。
「私が、ずっと見てきた――あの光の粒は……」
「魂だったんだ……」
文哉が、静かに言った。
エリスは――驚いて、文哉の方を見た。
「そう……魂……」
エリスの目が、潤んでいた。
「だから、フミヤが見えたんだ」
「フミヤは――ゴーストだから」
「魂だけの存在だから――私には、見えた……」
全てが――つながった。
エリスの能力の謎が、ついに解けた瞬間だった。
◆
エリスは――本を抱きしめて、泣いた。
「私……おかしくなかったんだ……」
エリスの声が、震えていた。
「ずっと……変な子だって、言われ続けて……」
「頭の病気だって、思われて……」
「でも……これは、呪いじゃなかった……」
「聖女の力だったんだ……」
文哉は――エリスの涙を見て、胸が熱くなった。
(エリス……よかった)
(ようやく、自分を肯定できたんだ)
「エリスは、特別なんだよ」
文哉が、優しく語りかけた。
「素晴らしい力を持ってる」
「だから――僕を、見つけることができた」
「エリスの力は――奇跡なんだ」
エリスは――文哉の言葉を聞いて、泣きながら笑った。
「ありがとう……フミヤ……」
二人は――しばらく、そこにいた。
地下室の静寂の中で――エリスは、ようやく自分を受け入れることができた。自分の力を、誇りに思えるようになった。
◆
涙が止まると――エリスは、再び本を開いた。
「もっと……読みたい」
エリスの目には、強い探究心が宿っていた。
「ああ。他にも、たくさん書物がある」
文哉が、周りの本を見回す。
エリスは――次の本を手に取った。
それは――さらに古い、羊皮紙の巻物だった。
「これは……」
エリスが、巻物を広げる。
そこには――こう書かれていた。
『禁忌の儀式』
文哉とエリス――二人の視線が、その文字に釘付けになった。
「禁忌の……儀式……?」
エリスが、不安そうに呟いた。
「読んでみよう」
文哉が、促した。
エリスは――ゆっくりと、巻物を読み始めた。
そこに書かれていたのは――恐ろしくも、魅力的な内容だった。
受肉の儀式――死者を、再び蘇らせる方法。
二人は――その言葉に、息を呑んだ。
「これは……」
文哉の声が、震えた。
(もしかしたら――僕が、人間に戻れる方法が……)
エリスも――同じことを考えていた。
「フミヤを……蘇らせることが、できるかもしれない……」
二人の心に――希望の光が、差し込み始めた。
だが――その光の裏には、まだ見えない影が潜んでいた。
巻物の続きを読めば――その影の正体が、明らかになるのかもしれない。
エリスは――震える手で、巻物を読み進めようとした。
(次は……きっと、もっと重要なことが書かれている)
月明かりが――地下室の中に、静かに差し込んでいた。
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【名前:中田文哉 / 種族:ゴースト / 年齢:28歳(死亡)】
【スキル:鑑定 / ポルターガイスト(中) / レベル:2】
【ステータス:HP??? / 攻撃力??? / 防御力???】
【特性:物理無効 / 視認不可 / 壁抜け / 浮遊】
【名前:エリス・ラ・ヴァランティエール / 種族:人族 / 年齢:16歳】
【特殊能力:魂の視認 / 霊体との意思疎通 / 霊体使役(小)/ レベル:5】
【ステータス:HP115 / 攻撃力+6 / 魔力??? / 精神力:大】
【装備:短剣(攻撃力+2)/ オークの村からの贈り物(お花模様の髪留め)】
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