第28話「ゴースト俺、エリスの故郷に到着する」
オーク村を出てから――数日が経っていた。
文哉とエリスは、シルフィアと別れた後――ひたすら、セレスティア村を目指して歩き続けていた。
エリスの髪には、オーク村でもらった花模様の髪留めが――二つ結びの両側で、可愛らしく揺れている。
「もうすぐ……かな」
エリスが、少し緊張した様子で呟いた。
「ああ……あの丘を越えたら、村が見えるはずだ」
文哉が、地図を見ながら答えた。
エリスは――故郷に戻ることに、複雑な感情を抱いていた。
(どんな村だったか……もう、ほとんど覚えてない)
(でも……私の力のことが、分かるかもしれない)
期待と不安が――エリスの胸の中で、せめぎ合っていた。
◆
丘を越えると――そこに、セレスティア村が広がっていた。
小さな村だった。
木造の家々が、点々と並んでいる。
畑があり、井戸があり――のどかな風景。
エリスは――その景色を、ぼんやりと見つめた。
「ここが……私の故郷……」
エリスが、小さく呟いた。
文哉は――エリスの横顔を、静かに見守っていた。
(エリス……緊張してるな)
◆
村の入口に――二人は立った。
すると――畑仕事をしていた村人が、こちらに気づいた。
「おや……?」
村人が、不思議そうにこちらを見る。
そして――他の村人にも、声をかけた。
「誰か来たぞ!」
数人の村人が、集まってきた。
皆――エリスと文哉(文哉は見えていないが)を、珍しそうに見つめている。
「久しぶりじゃのう……旅人が来るなんて」
年配の村人が、笑顔で言った。
「どこから来たんじゃ?」
エリスが――少し緊張しながら、答えた。
「遠くから……来ました」
「そうか、そうか……」
村人たちは――戸惑いながらも、歓迎の態度を見せてくれた。
「まあ、せっかく来たんじゃ……ゆっくりしていくといい」
「水でも飲むかい?」
村人たちの優しさに――エリスは、少しほっとした。
(よかった……悪い人たちじゃ、なさそう……)
文哉も――村人たちの様子を、『鑑定』で確認していた。
【村人A:レベル3 / 性格:温厚 / 警戒度:低】
【村人B:レベル5 / 性格:好奇心旺盛 / 警戒度:低】
(今のところ――敵意はなさそうだな)
◆
エリスは――意を決して、尋ねた。
「あの……この村のこと、少し教えていただけますか?」
「ほう、何が知りたいんじゃ?」
村人が、優しく尋ねた。
エリスが――ゆっくりと、口を開いた。
「ヴァランティエール家について――教えてください」
その瞬間――
村人たちの表情が、凍りついた。
さっきまでの笑顔が――一瞬で、消えた。
「……ヴァランティエール……?」
村人たちが、小さく呟いた。
そして――
冷たい視線が、エリスに向けられた。
「……なぜ、その名を知っている」
村人の声が――低く、警戒に満ちていた。
エリスは――その変化に、戸惑った。
「えっと……その……」
「お前――あの一族と、どういう関係だ?」
村人が、一歩前に出た。
他の村人たちも――明らかに、警戒している。
エリスは――慌てて、誤魔化した。
「あ、いえ……ただ、その……昔、この村にそういう家があったと聞いて……」
「……そうか」
村人は――まだ疑わしそうな目で、エリスを見つめている。
「あの一族のことは――知らん方がいい」
村人が、冷たく言い放った。
「もう、この村にはいない。それだけだ」
そう言って――村人たちは、背を向けて去っていった。
残されたのは――冷たい沈黙だけ。
エリスは――その場に、呆然と立ち尽くしていた。
(何……? どうして……?)
さっきまでの優しさは――どこへ行ってしまったのか。
ヴァランティエール家の名前を出した途端――まるで、悪魔でも見るような目で見られた。
エリスの胸に――鋭い痛みが走った。
(本当に……悪魔として、扱われていたんだ……)
文哉は――その光景を見て、胸が締め付けられた。
(エリス……)
エリスの肩が――小刻みに震えている。
涙を、必死にこらえているのが分かった。
だが――幽霊の自分には、何もできない。
ただ――エリスの隣にいることしか、できなかった。
「フミヤ……」
エリスが、小さく呟いた。
「大丈夫だよ、エリス」
文哉が、優しく答えた。
「僕が、そばにいるから」
エリスは――文哉の声を聞いて、少しだけ――心が落ち着いた。
(フミヤが……いてくれる)
◆
その時――
「待ちなさい」
背後から、声がした。
エリスが振り向くと――そこには、杖をついた老人が立っていた。
白い髭を蓄えた――村の長老のような人物。
文哉が、『鑑定』を使った。
【村の長老:レベル8 / 年齢:82歳 / 性格:慎重だが公正 / 感情:複雑】
(長老……か)
「あなたは……?」
エリスが、尋ねた。
「わしは――この村の長老じゃ」
長老が、ゆっくりと近づいてくる。
そして――エリスの顔を、じっと見つめた。
「……やはり」
長老が、小さく呟いた。
「その髪の色……その顔立ち……」
長老の目が――何かを思い出すように、細められた。
「お前――もしや……」
エリスは――長老の視線に、少し怯えた。
だが――長老の目には、敵意はなかった。
あるのは――複雑な、何とも言えない感情。
「ヴァランティエール家について――知りたいのか?」
長老が、静かに尋ねた。
エリスは――迷った末に、頷いた。
「はい……」
長老は――深く、息を吐いた。
「……ついて来なさい」
◆
長老に案内されて――エリスは、村の外れにある小さな家に入った。
文哉も、壁をすり抜けて――中に入る。
質素な部屋だった。
長老が――椅子に座るよう促す。
エリスが、緊張しながら座った。
「ヴァランティエール家――」
長老が、ゆっくりと語り始めた。
「この村では……良い存在ではない」
エリスの胸が、ぎゅっと締め付けられた。
「昔――この村で、恐ろしいことが起きた」
長老の目が――遠くを見つめている。
「多くの命が、失われた」
「村人たちは――今でも、あの日の恐怖を忘れていない」
長老が、エリスを見つめた。
「だから――ヴァランティエール家の名を聞けば、皆――怯える」
エリスは――ただ、黙って聞いていた。
涙が――ぽろぽろと、こぼれ落ちた。
(やっぱり……私の家族は……)
長老は――エリスの涙を見て、表情を和らげた。
「じゃが――」
長老が、続けた。
「お前の目を見れば――分かる」
「お前は――何かを、知りたがっている」
エリスが――顔を上げた。
「……はい」
エリスが、涙を拭いながら答えた。
「私は――自分の力のことを、知りたいんです」
「ヴァランティエール家に――何があったのか」
「どうして――こんな力を持っているのか」
エリスの目には――強い意志が宿っていた。
長老は――その目を見て、何かを決意したようだった。
「……分かった」
長老が、立ち上がった。
「お前に――教えよう」
長老が、窓の外を指差した。
「あの森の奥――廃墟になった家がある」
「それが――ヴァランティエール家の、生家じゃ」
エリスの目が――見開かれた。
「生家……!」
「そこに行けば――お前の知りたいことが、分かるかもしれん」
長老が、エリスを見つめた。
「じゃが――」
長老の表情が、厳しくなった。
「村人たちには――気をつけるのじゃ」
「お前が、ヴァランティエール家の者だと知られれば――」
長老は、それ以上言わなかった。
だが――その意味は、十分に伝わった。
「……ありがとうございます」
エリスが、深く頭を下げた。
長老は――静かに、頷いた。
「気をつけて――行くのじゃ」
◆
長老の家を出ると――エリスは、森の方を見つめた。
「フミヤ……生家があるって……」
エリスの声が――少し震えていた。
「ああ……行こう」
文哉が、優しく答えた。
「きっと――そこに、答えがある」
エリスは――決意を固めて、歩き始めた。
文哉も――エリスに寄り添うように、一緒に歩く。
村人たちの冷たい視線が――背中に突き刺さる。
だが――エリスは、もう振り返らなかった。
(私は――真実を知りたい)
(この力が、何なのか)
(どうして、フミヤだけが見えるのか)
エリスの心には――強い決意が宿っていた。
二人は――森へと、足を踏み入れた。
木々が生い茂る、薄暗い道。
だが――その先に、答えがある。
エリスは――そう信じて、歩き続けた。
文哉も――エリスを守るように、そばを離れなかった。
(エリスを――絶対に、守る)
文哉の決意も――より強くなっていた。
森の奥――
そこに、ヴァランティエール家の生家が――静かに佇んでいた。
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【名前:中田文哉 / 種族:ゴースト / 年齢:28歳(死亡)】
【スキル:鑑定 / ポルターガイスト(中) / レベル:2】
【ステータス:HP??? / 攻撃力??? / 防御力???】
【特性:物理無効 / 視認不可 / 壁抜け / 浮遊】
【名前:エリス・ラ・ヴァランティエール / 種族:人族 / 年齢:16歳】
【特殊能力:生者と死者の境界視認 / 霊体との意思疎通 / 霊体使役(小)/ レベル:5】
【ステータス:HP115 / 攻撃力+6 / 魔力??? / 精神力:大】
【装備:短剣(攻撃力+2)/ オークの村からの贈り物(お花模様の髪留め)】




