第25話「ゴースト俺、浴場を作るも入浴は叶わず」
オーク村に滞在してから一週間が経っていた。
倉庫の整理、保存食作り、そして水路の修繕――
文哉とエリスは、村の復興のために――様々なことを成し遂げてきた。
村人たちからは、深い感謝を受け続けていた。
その朝――
エリスが、文哉に話しかけた。
「ねえ、フミヤ」
「どうした?」
文哉が、エリスの方を向いた。
「村のみんな、すごく喜んでくれてるし……感謝の気持ちも、たくさんもらったよ」
エリスが、優しく微笑んだ。
「そろそろ、セレスティア村に向かおうかって……思うんだけど」
文哉は――少し黙り込んだ。
エリスの言う通りだった。
村の主要な問題は、ほとんど解決できた。
もう、この村を出る時期なのかもしれない。
だが――
「エリス――もう少しだけ、待ってほしい」
文哉が、静かに言った。
「えっ……?」
「実は――まだ、修繕すべき場所があるんだ」
文哉が、ある方向を指し示した。
「あそこに――もう一つ、村の人たちに必要な場所がある」
エリスが、不思議そうに首を傾げた。
「必要な場所……?」
「ああ」
文哉が、真剣な表情で説明する。
エリスの目が――少し見開かれた。
「浴場……お風呂?」
「そうだ。水路を探していた時に――井戸の近くに、浴場の跡を見つけたんだ」
文哉が、説明を続ける。
「恐らく――数年前、この村を占領していた人間たちが作ったものだと思う」
「その時に――色々な設備を作ったんだと思う」
エリスが、納得したように頷いた。
「修繕すれば――使えるようになる」
エリスは――少し考え込んだ。
確かに――この旅では、水で体を拭くことしかできていなかった。
お風呂――温かいお湯に浸かること。
それは、エリスにとっても――恋しいものだった。
「お風呂……入りたいな……」
エリスが、小さく呟いた。
「それに――村の人たちにとっても、きっといいものになる」
文哉が、続けた。
「体を清潔に保てるし――疲れも取れる」
エリスが、頷いた。
「うん……じゃあ、作ろう!」
◆
村長オークに――浴場のことを尋ねた。
「ブモ……? ブモモ……?」
村長が、首を傾げている。
「えっと……浴場って、知らない?」
エリスが、訳す。
「ブモ……ブモモ……」
村長が、困惑した様子で答えた。
「浴場って何か――分からないんだって……」
エリスが、文哉に伝えた。
(そうか……オークたちは、浴場を知らないのか)
文哉は、少し考えた。
(人間が占領していた時――オークたちは村にいなかった)
(だから、人間が作った浴場のことを――知らないんだな)
「エリス――こう伝えてほしい」
文哉が、エリスに説明を始めた。
「浴場っていうのは――温かいお湯に、体を浸ける場所なんだ」
「体の汚れを落として――疲れを癒す」
「それに――気持ちも、すごくリラックスできる」
エリスが、一生懸命――村長に説明する。
「ブモ……? ブモモ……?」
村長は――よく分かっていない様子だった。
「必要なものなのか――分からないって……」
エリスが、困った様子で文哉に伝えた。
だが――
「大丈夫。絶対に、いいものになる」
文哉の声には――強い確信があった。
その熱量が――エリスにも伝わってきた。
(フミヤ……すごく、本気だ)
エリスは――文哉の気持ちを、村長に伝えることにした。
「あのね、村長さん――」
エリスが、真剣な表情で言った。
「きっと、みんなの役に立つから――信じて」
村長オークが――エリスの真剣な表情を見て、頷いた。
「ブモ……ブモモ」
「分かったって……作ってみようって」
エリスが、嬉しそうに笑った。
◆
浴場の修繕が――始まった。
村の外れ――森に近い、少し開けた場所。
そこには――崩れかけた石造りの建物があった。
文哉が、『鑑定』で状態を確認する。
【浴場跡:建造時期 約5年前 / 建造者:人族】
【広さ約40平方メートル / 浴槽:2つ(男湯・女湯)】
【排水設備:機能あり / 給水設備:地下水路に接続可能】
【修繕必要度:中】
文哉が、エリスに説明する。
「浴槽が二つある――男湯と、女湯に分かれてる」
「排水も、ちゃんと機能してる」
「それに――地下水路から、水を引けるようになってる」
エリスが、目を輝かせた。
「すごい……ちゃんとした、お風呂だ……!」
◆
修繕作業は――丁寧に進められた。
崩れた石壁を――オークたちが修復していく。
浴槽の底に溜まった土砂を――きれいに取り除く。
文哉が、給水設備を調べて――地下水路との接続方法を考える。
エリスが、オークたちに――作業内容を伝えていく。
そして――
火を焚いて、お湯を沸かす設備も作った。
石を積み上げて作った簡易的なかまど――
そこで薪を燃やせば――お湯が沸く。
数日後――
ついに、浴場が完成した。
◆
村長オークが――恐る恐る、男湯に入った。
石造りの浴槽には、温かいお湯が満たされていた。
湯気が――ゆっくりと、立ち上っている。
「ブモ……?」
村長が、お湯に手を入れてみる。
温かい――
村長が、ゆっくりと――浴槽に入っていく。
そして――
「ブモォォォォォ――――ッ!!」
村長の叫び声が――浴場に響き渡った。
エリスが、驚いて駆け寄る。
「村長さん!? 大丈夫!?」
「ブモモモ……! ブモ……! ブモモモモ――ッ!!」
村長が――感動した様子で、お湯に浸かっている。
エリスが、笑いながら訳した。
「すごく気持ちいいって……!」
「こんなに素晴らしいものは――初めてだって……!」
他のオークたちも――次々と、浴槽に入っていく。
「ブモ!」
「ブモモ!」
「ブモォォォ――ッ!」
オークたちの感動の叫び声が――浴場中に響き渡った。
文哉は――その光景を見て、満足そうに微笑んだ。
(やっぱり……お風呂は、いいものだ)
◆
その夜――
エリスが、女湯に向かおうとした時。
「フミヤ――」
エリスが、少し恥ずかしそうに言った。
「壁、通り抜けられるからって――覗いちゃダメだよ?」
その瞬間――
文哉の光の色が――ふっと、変化した。
普段の優しい白い光が――ほんのりと、ピンク色に染まる。
エリスが、その変化に気づいた。
「……あれ? 光の色、変わった」
エリスが、じっと文哉を見つめる。
「え、えっと……!」
文哉が、少し慌てた。
光の色が――さらに濃いピンク色に変化する。
「……エッチ」
エリスが、少し頬を膨らませて言った。
「ち、違う! これは……!」
文哉が、必死に弁解しようとする。
だが――光の色は、正直だった。
エリスが、くすっと笑った。
「冗談だよ――でも、本当に覗いちゃダメだからね」
「わ、分かってるよ……!」
文哉が、真剣な声で言った。
エリスが、にっこりと笑って――女湯へと入っていった。
◆
エリスが女湯に入った後――
文哉は、一人――浴場の外で、途方に暮れていた。
(……やばい)
文哉の光は――まだ、ピンク色に染まったままだった。
(覗くつもりなんて――全くないのに……!)
だが――壁を通り抜けられる、という事実。
エリスが、今――お風呂に入っている、という事実。
それだけで――文哉の心は、妙にざわついていた。
(落ち着け……落ち着くんだ、文哉)
文哉は、必死に自分に言い聞かせる。
(覗いたら――犯罪者だ)
(覗いたら――信頼を裏切ることになる)
(覗いたら――エリスに、嫌われる)
文哉は――自分を律しようと、必死だった。
(絶対に――覗かない)
(僕は――そんなことをする男じゃない……!)
だが――
(……まあ、幽霊なんだけどね)
文哉は、自虐的に呟いた。
(男ですらない……幽霊だ)
(犯罪者になりようもない……だって、僕は存在していないんだから)
そう考えると――少し、虚しくなった。
(ああ……僕は、幽霊なんだな)
文哉は――静かに、ため息をついた。
その時――女湯の方から、エリスの楽しそうな声が聞こえてきた。
「はぁ……気持ちいい……」
文哉の光が――再び、ピンク色に染まりかける。
(ダメだ――!)
文哉は、慌てて――浴場から離れた場所へと移動した。
(距離を取ろう……そうしよう……!)
文哉は――村の広場まで、逃げるように移動した。
そして――夜空を、ぼんやりと見上げた。
(僕は……幽霊だから)
(エリスと――そういう関係には、なれない)
文哉は――静かに、呟いた。
(でも――それでいいんだ)
(エリスが、幸せでいてくれれば――それで……)
月明かりが――文哉の光を、優しく照らしていた。
◆
女湯――
エリスは、ゆっくりと服を脱いだ。
この旅の間――ずっと、水で体を拭くだけだった。
久しぶりの、お風呂――体を流してから
エリスが、恐る恐る――お湯に足を入れてみる。
「……っ」
温かい――
そして――気持ちいい。
エリスは、ゆっくりと――浴槽に体を沈めていった。
「はぁ……」
思わず、ため息が漏れた。
お湯が――体を優しく包み込んでくれる。
旅の疲れが――ゆっくりと、溶けていくようだった。
エリスは、肩までお湯に浸かって――目を閉じた。
(気持ちいい……)
髪を洗う――
お湯で、丁寧に流していく。
体も――きれいに洗った。
久しぶりに――ちゃんと体を洗えた。
エリスは、再び――お湯に浸かった。
湯気が――ゆっくりと、立ち上っている。
石造りの天井――そこから、微かに月明かりが差し込んでいた。
(ああ……幸せ……)
エリスは――心の底から、リラックスしていた。
この村に来てから――色々なことがあった。
倉庫の整理、保存食作り、水路の修繕――
そして、浴場作り。
文哉と一緒に――たくさんのことを、成し遂げてきた。
(フミヤ……ありがとう)
エリスは――静かに、微笑んだ。
(フミヤのおかげで――みんな、幸せになれた)
お湯の温かさが――体の芯まで、染み渡っていく。
エリスは――ゆっくりと、目を閉じた。
◆
しばらくして――
エリスが、女湯から上がってきた。
文哉は、すでに――平常心を取り戻していた。
光の色も――元の優しい白色に戻っている。
「フミヤ――すっごく、気持ちよかった……!」
エリスが、嬉しそうに言った。
髪が――まだ少し、湿っている。
ほんのりと上気した頬――
リラックスした表情。
「それは、よかった」
文哉が、優しく微笑んだ。
「フミヤも――入りたかった?」
エリスが、少し申し訳なさそうに尋ねた。
「いや……僕は幽霊だから、お風呂は必要ないんだ」
文哉が、穏やかに答えた。
「でも――エリスが喜んでくれて、それで十分だよ」
エリスが――嬉しそうに笑った。
「ありがとう、フミヤ」
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【名前:中田文哉 / 種族:ゴースト / 年齢:28歳(死亡)】
【スキル:鑑定 / ポルターガイスト(中) / レベル:2】
【ステータス:HP??? / 攻撃力??? / 防御力???】
【特性:物理無効 / 視認不可 / 壁抜け / 浮遊】
【名前:エリス・ラ・ヴァランティエール / 種族:人族 / 年齢:16歳】
【特殊能力:生者と死者の境界視認 / 霊体との意思疎通 / 霊体使役(小)/ レベル:5】
【ステータス:HP115 / 攻撃力+6 / 魔力??? / 精神力:大】
【装備:短剣(攻撃力+2)/ オークの村からの贈り物(お守り)】
村の復興編もそろそろ終盤になってきました!
次回も明日更新予定です!
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