第20話「ゴースト俺、オークの日常に触れる」
オークたちの村に招かれた文哉とエリスは、村の一角にある小屋を提供された。
簡素な造りだが、雨風はしのげる。
エリスにとっては、地面で野宿するよりも遥かにありがたい寝床だった。
「ありがとう……」
エリスが、オークたちに何度も頭を下げた。
「ブモ」
オークが、優しく頷いた。
けれど――文哉は、警戒を解いていなかった。
(エリスの光の能力が正しいのは分かる)
(オークたちに悪意がないことも……おそらく、本当だろう)
文哉は、小屋の隅に立ちながら――村の様子を観察していた。
(でも……相手は魔族だ)
(何が起こるか分からない。油断はできない)
エリスが、毛布にくるまって横になった。長い一日の疲れが、どっと押し寄せてきたようだった。
「おやすみ、フミヤ……」
「ああ。ゆっくり休んで」
文哉が、優しく言った。けれど、その目は――小屋の外を警戒していた。
やがて、エリスの寝息が聞こえてくる。文哉は――静かに、小屋の外へ出た。
◆
夜の村は、静かだった。
月明かりが、木造の家々を照らしている。文哉は、透明な姿で――村の中を見回り始めた。
(何か……怪しい動きはないか)
文哉が、『鑑定』を使いながら慎重に進む。けれど――オークたちは、ただ静かに眠っているだけだった。
一軒の家の中を覗くと――親子と思われるオークたちが、小さな部屋で身を寄せ合って眠っていた。
「ブモ……ブモ……」
子供のオークが、寝言を呟いている。
その姿は――どこか、人間と変わらなかった。
(……普通に、生活してるだけなんだな)
文哉の胸に、わずかな安堵が広がった。襲ってくる様子も、何かを企んでいる様子もない。ただ――家族で、静かに眠っているだけだった。
文哉は、さらに村を巡った。そして――いくつかの問題点に気づき始めた。
村の倉庫らしき建物があった。中を覗くと――食料が雑然と積まれていた。
【狩った獣の肉:鮮度70% / 保存処理なし】
【腐った肉:危険度20% / 保存処理なし】
【採取した野菜:鮮度50% / 傷み始めている】
(食料が……そのまま放置されてる)
(保存の仕方を知らない……?)
さらに奥を見ると――
人間が使っていたと思われる道具が、そのまま放置されていた。
【農具:埃をかぶっている / しばらく使用されてない】
【調理器具:埃をかぶっている / しばらく使用されてない】
【保存用の樽:空】
(人間の道具……何も使われていない)
(使い方が分からないのか……)
文哉の脳裏に、サラリーマン時代の記憶が蘇った。
◆
――あれは、入社三年目の冬だった。
文哉が配属された倉庫管理部門は、慢性的な在庫不足に悩まされていた。商品の発注ミスが頻発し、必要なものが足りず、不要なものが溢れている。
「中田、この在庫状況、何とかならないか?」
上司が、困り果てた様子で言った。
「はい……ちょっと、見てみます」
文哉は、倉庫の隅から隅まで調べ上げた。そして――問題点を見つけた。
在庫の配置が非効率だった。頻繁に使うものが奥に、使わないものが手前にある。さらに、消費期限の管理もずさんだった。
文哉は、在庫を全て見直し――使用頻度順に配置し直した。そして、消費期限が近いものから使うように、ラベルを貼った。
その結果――発注ミスは激減し、在庫不足も解消された。
「中田、すごいな! よくこんなこと思いつくな」
上司が、感心したように言った。
「いえ……ただ、整理しただけですよ」
文哉は、謙遜した。けれど――心の中では、少しだけ誇らしかった。
(誰かの役に立てた)
その時の満足感を――文哉は、今でも覚えていた。
文哉は、小屋へと戻った。エリスは、まだ静かに眠っていた。
文哉は、その横に座り――朝が来るのを待った。
◆
翌朝。
朝日が、小屋の窓から差し込んできた。エリスが、ゆっくりと目を覚ます。
「ん……おはよう、フミヤ……」
「おはよう、エリス。よく眠れた?」
「うん……すごく、ぐっすり……」
エリスが、伸びをした。久しぶりの、屋根のある場所での睡眠だった。
「そろそろ、出発しようか」
文哉が、言った。
「セレスティア村まで、まだ距離がある」
「うん……」
エリスが、頷きかけた――その時。ハッとした表情で、立ち上がった。
「待って!」
「どうした?」
「何か……お返ししなくちゃダメっ」
エリスが、真剣な表情で言った。
「オークさんたち、泊めてくれたんだもん。何もしないで行くなんて……」
「それは……そうだね」
文哉も、その気持ちは理解できた。
エリスが、慌てて自分の荷物を開けて――中身を一つ一つ取り出し始めた。
保存食、水筒、短剣、地図、そして――母の形見の鍵。
「これは……私たちの食べ物だから、渡せない……」
「水筒も必要だし……」
「短剣は、護身用だから……」
「地図がないと、道に迷っちゃう……」
「鍵は……絶対に、渡せない……」
エリスが、一つ一つ確認しながら――困った表情を浮かべた。
「渡せるもの……なさそうだね……」
文哉が、静かに言った。
「うん……」
エリスが、肩を落とした。必要なものばかりで、お礼に渡せるようなものは――何一つなかった。
「何か……何かないかな……」
エリスが、必死に考えている。けれど――何も浮かばない。
そしてエリスが、文哉の方をじーっと見つめた。
その目は――「何か考えて」と言いたげだった。
文哉は、その視線に少し気圧された。
「え、えっと……」
エリスの視線が、さらに強くなる。
「……分かった」
文哉が、観念したように言った。
「一つだけ、お返しできそうだよ」
「本当!? 何? 何を渡せばいいの?」
エリスが、パッと顔を明るくした。
「物を渡すんじゃない」
文哉が、微笑んだ。
「僕たちにしかできない――恩返しをしよう」
「恩返し……?」
「ああ。この村の、困りごとを解決するんだ」
文哉の目に、決意の色が宿っていた。
エリスが、嬉しそうに微笑んだ。
「私も手伝う!」
「ありがとう、エリス」
文哉が、頷いた。
「じゃあ、まずはオークたちに――話を聞いてみよう」
二人は――小屋を出た。
新しい――見えない存在の、恩返しが始まろうとしていた。
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【オークの村の問題点】
- 食料の保存処理がされていない(狩った獣や野菜がそのまま)
- 在庫管理が非効率(配置が乱雑、分類されていない)
- 人間の道具が活用されていない(使い方が分からない様子)
【文哉の観察】
- サラリーマン時代の実務経験が活かせそう
- 整理・管理の知識で村を助けられる可能性
魔物も普通に生活することに驚く文哉、恩返しとは何をするのか?
次回もお楽しみに!明日更新予定です!
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