第12話「ゴースト俺、クズどもに復讐を始める」①
復讐の夜が、始まる。
文哉は、城の廊下を――誰にも見えない姿で、静かに進んでいた。
月明かりが、石造りの窓から差し込んでいる。
数日間の訓練で、文哉は自分の能力を磨き上げていた。
小さな物を動かすこと。音を立てること。今夜、その全てを――復讐のために使う。
(まずは……森川からだ)
文哉の目に、冷たい光が宿った。
◆
森川大輝の部屋は、城の東棟にあった。広い個室に、豪華な家具が並べられている。
ベッドの上で、森川は眠っていた。文哉は、部屋の隅に――静かに立っていた。
(コイツは……小心者で、臆病だ)
文哉は、この数日間の観察で――森川の本質を見抜いていた。
表向きは、傲慢で自信満々に振る舞っている。けれど、その内側は――深い恐怖と不安に満ちていた。
夜になると、必ず明かりを消さずに眠る。ビビりなのだ。
(なら……その恐怖を、何倍にもしてやる)
文哉が、部屋の机に目を向けた。そこには――インク壺とペンが置かれていた。そして、羊皮紙の束。
ゆっくりと机に近づく。そして――ペンに手を伸ばした。全神経を集中させる。
(動け……!)
ペンが――わずかに、揺れた。文哉が、さらに念を込める。ペンが――宙に浮いた。
そして――ゆっくりと、羊皮紙の上に降りていく。インクを吸い上げたペンが――羊皮紙に、文字を書き始めた。
カリカリと、ペンが羊皮紙を削る音。静寂の中で、その音だけが響く。
『森川大輝』
文字が、滲むように広がる。そして、その下に――
『呪ってやる』
文字が、完成した。文哉は、次に部屋の隅にあった花瓶に手を伸ばす。
(動け……!)
花瓶が――ガタリと音を立てた。
「……ん?」
森川が、目を覚ました。寝ぼけた目で、周囲を見回す――そして、机の上の羊皮紙に気づいた。
「……え?」
森川が、ベッドから降りて――机に近づく。
羊皮紙を手に取り――その文字を、読んだ。森川の顔が、青ざめた。
「な……何だ、これ……? 俺、寝る前に……こんなもの、書いてない……!」
声が、震えている。森川が、周囲を見回す。誰もいない。けれど――何かが、おかしい。
その時――文哉が、再び花瓶を動かした。ガタン! 花瓶が、床に落ちて割れた。
「ひっ!?」
森川が、悲鳴を上げた。森川は、慌てて部屋の扉に駆け寄り――外へ飛び出した。
(一人目、開始)
◆
翌朝。森川の部屋の「怪奇現象」は、城中の噂になっていた。
「森川様の部屋で、勝手に文字が……?」
「嘘だろ……?」
「いや、本当らしいぞ。森川様、今朝は顔色が真っ青だった」
城の使用人たちが、ひそひそと囁き合っている。文哉は、その様子を――透明な姿で、観察していた。
森川は、朝食の席にも現れなかった。部屋に引きこもり、誰とも会おうとしないという。
(まだまだ、これからだ)
文哉の復讐は、始まったばかりだった。
◆
その夜。文哉は、再び森川の部屋を訪れた。
森川は、ベッドの上で――目を見開いたまま、じっと天井を見つめていた。眠れないのだ。昨夜の恐怖が、脳裏に焼き付いている。
部屋の明かりは、全てつけられていた。それでも――森川の恐怖は、消えなかった。
文哉が、再び机に向かう。ペンを持ち上げ――新しい羊皮紙に、文字を書く。
『黒森で……何をした?』
カリカリと、ペンが羊皮紙を削る音。その音に、森川が反応した。
「……!?」
森川が、ベッドから飛び起きる。机を見る――そこには、新しい文字が書かれていた。
「な……何を……?」
震える声。文哉が、続ける。ペンが、再び動く。
『人を……殺した』
文字が、羊皮紙に刻まれる。
『囮にして……見捨てた』
森川の目が、見開かれた。
「ち、違う……! 俺じゃない……! 俺は……!」
森川が、叫ぶように否定する。けれど――文哉は、容赦しなかった。部屋中の物が、一斉に動き始めた。本棚から本が飛び出す。椅子が倒れる。
「やめろ! やめてくれ!!」
森川が、悲鳴を上げた。その時――森川の魔力が、暴発した。
パン!
小さな爆発音と共に、森川の手から火花が散った。
「うわあああああ!!」
森川が、自分の手を抱えて――床に倒れ込んだ。魔法の制御が、できなくなっている。
恐怖で、精神が不安定になっているのだ。文哉は――その姿を、じっと見つめていた。
(これでいい。恐怖で、魔法が使えなくなる。お前は――もう、勇者じゃない)
文哉が、部屋を後にした。背後で、森川の泣き声が――小さく聞こえた。
◆
同じ頃。葛城隼人の部屋でも――異変が起きていた。
葛城は、ベッドの上で――侍女を抱いていた。
「ん……」
葛城が、侍女に顔を近づけようとした――その時。部屋の明かりが、一斉に消えた。
「……ん? 何だ?」
葛城が、顔を上げる。暗闇の中――窓の外から、月明かりが差し込んでいた。机の上に、何かが書かれた羊皮紙が置かれていた。葛城は、それに気づかなかった。
けれど――次の瞬間、葛城の剣が――勝手に鞘から抜け出した。
ガシャン!
剣が、宙に浮く。そして――葛城に向かって、斬りかかってきた。
「うわああああ!!」
葛城が、咄嗟に侍女を突き飛ばして――身を翻す。剣が、壁に突き刺さった。
「くそ……! 何なんだ、これ!!」
葛城が、剣を掴もうとする――けれど、剣は再び宙に浮いた。そして――葛城を追いかけるように、部屋中を飛び回る。
「やめろ! やめろ!!」
葛城が、部屋の外へ飛び出した。廊下を、全力で逃げる。侍女は、部屋に残されて――恐怖で震えていた。
文哉は――その様子を、冷たい目で見ていた。
◆
翌日。城内は、騒然としていた。
「森川様と葛城様の部屋で、怪奇現象が……!」
「呪いか……?」
「いや、魔物の仕業かもしれない……」
噂が、広がっていく。そして――その噂は、やがて王の耳にも届いた。
謁見の間で、王が――不安げな表情で葛城と森川を見つめていた。
「勇者たちよ……本当に、そのようなことが……?」
葛城と森川は――二人とも、憔悴しきった顔をしていた。特に森川は、目の下に深いクマができていた。
「はい……陛下……本当です……」
森川の声が、震えている。
「部屋に……勝手に文字が……現れるんです……」
「そして、物が勝手に動いて……」
葛城も、苦しそうに言った。
「私の剣まで……勝手に動いて、襲ってきました……」
王が、深刻な表情で頷いた。
「……これは、何かの呪いやもしれん。すぐに、聖職者を呼べ。部屋を浄化するのだ」
「はっ!」
側近が、駆け出していく。文哉は――その様子を、透明な姿で見ていた。
(聖職者……か)
◆
その夜。聖職者たちが、森川と葛城の部屋を訪れた。
白い法衣を纏った神官たちが、聖水を撒き、祈りを捧げる。
「邪悪なる存在よ、この場を去れ……!」
神官の声が、部屋に響く。聖水が、部屋中に撒かれる。文哉は――その様子を、少し離れた場所から見ていた。
(……効くのか?)
一瞬、不安がよぎる。けれど――文哉の体には、何の変化もなかった。
聖水が、文哉の体を通り抜けていく。けれど、痛みも、違和感も――何もない。
(……効かないのか)
文哉は、少し驚いた。ただの水であった。
(なら……このまま続けられる)
文哉は、静かに――部屋の隅に立っていた。神官たちが、浄化の儀式を終えて――部屋を出ていく。
「これで、大丈夫でしょう」
神官が、森川に告げた。
「ありがとうございます……」
森川が、安堵の表情を浮かべる。けれど――その夜。文哉は、再び――森川の部屋を訪れた。
そして――机の上に、ペンで文字を書いた。
『無駄だ』
翌朝、その文字を見た森川は――完全に、絶望した。
「……嘘だろ……? 聖職者の浄化も……効かないのか……?」
森川の声が、震えた。森川の顔が、恐怖で歪んだ。
◆
その日の夜。文哉は、今度は梨花の部屋を訪れた。
梨花は――ベッドの上で、日記を書いていた。文哉は、その日記を――じっと見つめた。
(あれか……)
文哉は、数日前――梨花の部屋を覗いた時に、その日記の存在に気づいていた。
そして、『鑑定』で――その内容を、読んでいた。日記には――梨花の本音が、書かれていた。
表向きは優しく、控えめに振る舞っている梨花。けれど、その日記には――信じられないほど醜い言葉が、並んでいた。
『葛城って、本当に頭悪いわよね。筋肉バカ。でも、利用価値はあるから、適当に持ち上げておけばいいわ』
『森川も同じ。調子に乗りやすいから、扱いやすい。私が一番賢いのよ』
『中田さん? あんな無能、どうでもいいわ。最初から、邪魔だったのよ。死んでくれて、むしろ助かったわ』
『騎士も国民もバカばっかり、人生楽勝ね』
文哉は――その言葉を、何度も読み返していた。怒りが、込み上げてくる。
(そうか……梨花、お前も――僕を、最初から見下していたんだな)
文哉の心に、黒い炎が燃え上がった。
(なら――お前の本性を、全員に晒してやる)
文哉は、梨花が眠りにつくのを――じっと待った。
◆
深夜。梨花が、深い眠りについた。
文哉は、静かに――梨花の日記に手を伸ばす。そして――日記を、掴んだ。ポルターガイストの力で、物を動かす。日記が、宙に浮いた。
文哉は、日記を――部屋の窓から、外へ運んだ。そして――城の中庭へと、そっと落とした。
朝になれば――訓練に向かう騎士たちが、この中庭を通る。その時、この日記を――見つけるだろう。
(これで……いい)
文哉は、静かに――その場を離れた。
◆
翌朝。中庭を通りかかった騎士が――地面に落ちている日記を見つけた。
「ん? 何だ、これ?」
騎士が、日記を拾い上げる。
「日記……?」
騎士が、ページを開く。そして――騎士の顔が、みるみる変わっていった。
「これ……白石様の日記か……?」
「何て書いてあるんだ?」
別の騎士が、覗き込む。
「……ちょっと、見てみろよ……」
騎士たちが、日記を読み始める。そして――全員の顔が、引きつった。
「……嘘だろ……?」
「白石様が……こんなことを……?」
日記の内容が――騎士たちの間で、瞬く間に広がっていった。
◆
数時間後。城中が、梨花の日記の話題で持ちきりになっていた。
「白石様が……そんなことを……」
「信じられない……あんなに優しそうな方だったのに……」
「裏では、あんな風に思っていたのか……」
使用人たちが、ひそひそと囁き合っている。梨花は――部屋に引きこもり、誰とも会おうとしなかった。
けれど――噂は、止まらなかった。そして――その日記は、やがて勇者たちの手にも渡った。
◆
葛城と森川が――梨花の日記を読んでいた。
二人の顔は――怒りと、裏切りの色に染まっていた。
「……梨花、お前……俺たちのこと、こんな風に思ってたのか……?」
葛城の声が、低く響く。
「筋肉バカ……? 利用価値……?」
「俺も……調子に乗りやすい……だと……?」
森川の声も、震えていた。梨花は――二人の前で、ただ震えていた。
「ち、違うの……! あれは……!」
「言い訳するな!」
葛城が、怒鳴った。
「お前の字だろうが! お前が書いたんだろうが!」
「そ、それは……でも……!」
梨花が、必死に弁解しようとする。けれど――二人は、もう聞く耳を持たなかった。
「……もういい。お前とは、もう一緒にやれない」
葛城が、そう言って――部屋を出ていった。森川も、梨花を冷たい目で見て――後に続いた。梨花は――一人、部屋に残された。
葛城は、廊下を歩きながら――苛立ちを隠せなかった。
(くそ……! 何なんだ、最近は……!)
今まで、全てが順調だった。勇者として崇められ、女にもモテて、思い通りの生活だった。それが――この数日で、全てが崩れ始めている。
夜な夜な襲ってくる怪奇現象。森川の魔法は使えなくなり、梨花の本性は暴かれた。そして、自分も――毎晩、得体の知れない恐怖に襲われている。
(何が……どうなってるんだ……!)
葛城の苛立ちは――日に日に、増していった。
文哉の復讐劇が幕を開けました!ここからどのように展開していくのか!?
②も本日更新予定ですのでお楽しみに!!
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