第11話「ゴースト俺、復讐の準備を始める」
エリスと出会ってから、数日が経った。
文哉は、毎日のようにエリスと会っていた。彼女と話すことで、復讐だけに囚われていた心が――少しずつ、和らいでいく。
けれど、復讐の炎は消えていない。むしろ――エリスという守るべき存在ができたことで、文哉の決意は、より強固になっていた。
◆
ある日の午後。
文哉は、いつもの路地でエリスと会っていた。木箱の上に座るエリスと、その隣に浮かぶように立つ文哉。二人だけの、静かな時間。
「ねえ、フミヤ」
エリスが、ふと文哉を見上げた。
「何か――すごく怒ってるよね?」
文哉は、少し驚いた。
「……分かるの?」
「うん。光の色が、時々すごく暗くなる。赤と黒が、混ざってる」
エリスの言葉に、文哉は少し考えた。そして――話すことにした。隠す必要はない。エリスには、正直でいたかった。
「実は……僕を殺した奴らがいるんだ」
エリスの目が、大きく見開かれた。
「殺した……?」
「ああ。僕は、元々勇者として召喚されたんだ。でも、一緒に召喚された三人に――裏切られて、殺された」
文哉が、静かに語る。エリスは、黙って聞いていた。その瞳は、悲しげに揺れていた。
「だから、僕は――その三人に、復讐したいんだ」
「復讐……」
エリスが、その言葉を繰り返した。
「でも、フミヤ。復讐って――悲しくならない?」
文哉は、その問いに――すぐには答えられなかった。エリスが、心配そうに続けた。
「光の色、もっと暗くなっちゃうよ。そしたら、フミヤ――消えちゃうかもしれない」
「消える……?」
「うん。すごく暗い光は、いつか消えちゃうの。それ、嫌だな……」
エリスの声が、寂しそうだった。文哉は――その言葉に、胸を突かれた。エリスは、自分のことを心配してくれている。それが――嬉しかった。
「……大丈夫だよ、エリス」
文哉が、優しく言った。
「僕は、消えない。君がいるから」
エリスが、文哉を見上げた。
「本当?」
「本当だ。約束する」
エリスが、小さく微笑んだ。
「うん……信じる」
けれど、文哉の心の中では――複雑な感情が渦巻いていた。復讐と、エリスへの想い。二つの感情が、せめぎ合っていた。
そして――文哉は、決めた。復讐は遂行する。けれど、エリスを悲しませるようなことは、しない。そのバランスを、取らなければならない。
その時、文哉の頭に――一つのアイデアが浮かんだ。
「ねえ、エリス」
文哉が、尋ねた。
「君が見えている光を使って――何かできないの?」
「何か?」
エリスが、首を傾げる。
「うーん……時々、できるよ。光に頼むと、物が動いてくれることがある」
「物が……動く?」
文哉の目が、輝いた。
「うん。死んでる人の光は、お願い聞いてくれるの。『これ、動かして』って」
「それは……いつでもできるの?」
「ううん。夜だけ」
エリスが、答えた。
「夜になると、光たちが強くなるの。だから、お願いも聞いてくれやすくなる」
「夜に……光が強くなる……」
文哉は、その言葉に――何かを感じた。魂の力が、夜に強まる。それは、ゴーストである自分にも当てはまるのではないか。
「エリス……今夜、試してみたいことがあるんだけど――手伝ってくれないか?」
「手伝い?」
「ああ。僕一人じゃできないことが、君となら――できるかもしれない」
エリスは、少し考えて――頷いた。
「うん。フミヤの手伝い、する」
文哉が、微笑んだ。
「ありがとう、エリス」
◆
その夜。
文哉は、エリスと一緒に――人気のない路地裏にいた。月明かりが、二人を照らしている。
「じゃあ、試してみようか」
文哉が、言った。
路地の隅には、小さな木箱が置かれていた。文哉は、その木箱に手を伸ばす。
けれど――やはり、手は通り抜けるだけだった。
「やっぱり、触れられない……」
「フミヤ、諦めないで」
エリスが、励ますように言った。
「夜は、光が強くなるって言ったでしょ? だから――もっと、頑張ってみて」
文哉は、頷いた。そして――もう一度、木箱に手を伸ばした。今度は、ただ触れようとするのではなく――「動かそう」と、強く念じた。
(動け……動け……!)
文哉の手が、木箱に触れる――いや、触れようとする。その瞬間――
木箱が、わずかに揺れた。
「……動いた!?」
文哉が、驚きの声を上げた。
「すごい! フミヤ、動いたよ!」
エリスが、嬉しそうに笑った。
文哉は、もう一度試した。今度は、もっと強く念じる。
(押せ……!)
文哉の手が、木箱を――押した。木箱が、数センチ動いた。
「できた……!」
文哉の声が、震えた。できた。物理干渉が、できた。ゴーストになってから、初めて――現実世界に、影響を与えることができた。
「やっぱり、夜は魂の力が強くなるんだ……!」
文哉は、興奮を抑えきれなかった。これで――復讐の方法が、見えてきた。
「エリス、君の力も試してみよう」
「うん!」
エリスが、周囲を見回した。そして――虚空に向かって、小さく呟いた。
「ねえ、光さんたち。あの石、動かしてくれる?」
エリスが指差した先には、小さな石が転がっていた。
数秒後――
石が、ゆっくりと動き始めた。まるで、見えない何かに押されているかのように。
「すごい……」
文哉が、感嘆の声を上げた。
「でも、これも夜じゃないと難しいの。昼間は、光たちが弱いから」
「そうか……夜限定か……」
文哉は、考えた。夜にしか使えない力。けれど、それでも十分だ。夜にしかできないことは、たくさんある。
「エリス、ありがとう。君のおかげで――道が開けた気がする」
「本当? 良かった!」
エリスが、嬉しそうに笑った。
けれど、その笑顔は――すぐに曇った。
「でも……フミヤ。復讐、本当にするの?」
「……ああ」
文哉が、静かに答えた。
「あいつらを、許すことはできない。僕を裏切って、殺して――それで平気な顔をしてる。そんなの、許せない」
エリスが、じっと文哉を見つめた。
「……分かった」
「じゃ、待ってるね。フミヤが帰ってくる場所として」
「だって、フミヤは私の味方だから。私も、フミヤの味方になる」
エリスの言葉に、文哉は――胸が熱くなった。
「ありがとう……エリス」
「うん」
二人は、月明かりの下で――静かに微笑み合った。
◆
翌日の夜。
文哉は、一人で城の中を彷徨っていた。自分一人で、できることを探す。
文哉は、葛城の部屋に忍び込んだ。葛城は、ベッドで眠っている。
その横には――昨夜、酒場から連れ込んだであろう女性が寝ていた。
(……クズが)
文哉の怒りが、再び湧き上がる。けれど――今は、それを抑える。
文哉は、部屋の隅にあった花瓶に手を伸ばした。そして――強く念じる。
(動け……!)
花瓶が、わずかに揺れた。けれど――まだ、動かない。
(もっと……もっと強く……!)
文哉が、全神経を集中させた。その瞬間――
花瓶が、ガタリと音を立てた。
「……ん?」
葛城が、目を覚ました。
文哉は、慌てて手を引っ込めた。葛城が、周囲を見回す。
「……何だ、風か?」
葛城は、そう呟いて――再び眠りについた。
文哉は、静かにため息をついた。
(まだ、うまく制御できない……練習が必要だな)
けれど――確かに、できた。物を動かすことが、できた。
文哉は、部屋を後にした。
◆
数日後。
文哉は、毎夜のようにポルターガイストの練習を重ねていた。
小さな物を動かし、音を立て――次第に、制御が上達していく。
「地球にいたとき、ポルターガイストなんて信用してなかったけど、まさか自分が当事者になるとはな……」
そして、ある夜――
文哉は、ついに確信した。
(これなら……復讐が、できる)
文哉の目に、冷たい光が宿った。
葛城、森川、梨花――あの三人を、社会的に、精神的に、追い詰める。殺すのではない。生きたまま、絶望させる。それが、文哉の復讐だった。
そして――その第一歩を、踏み出す時が来た。
「じゃあ、行こう。まずは――森川から」
月が照らす。
文哉の――復讐の夜が、始まろうとしていた。
三人の勇者たちは、まだ知らない。自分たちを狙う、見えない復讐者の存在を。
文哉の復讐は、ここから――始まる。
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【スキル習得】
文哉:ポルターガイスト(小)
- 夜間に物理干渉可能
- 小型の物体を動かせる
- 制御には集中力が必要
エリス:霊体使役(小)
- 夜間に周囲の霊体に依頼可能
- 軽い物体を動かせる
- 霊体の協力が必要
次回は待望の「ざまぁ」展開となりますのでお楽しみ!
本日あと3話、16時・18時・20時更新の予定です!!
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