アイドル
今日はお仕事を休んで、獣人美少女のけもままと一緒に市場で遊ぶことになった。
地球と違って時計もカレンダーもない世界。
なんとなく起きて、寝たい時に寝て、食べたい時に食べる。そして、おっさんたちに命懸けで無償の愛を注ぐのがけもままたちだ。
けもままは見たいものがあるみたいだった。
なんだろう?
市場でけもままの友達、ぱいぱいちゃんと合流する。
「おはようございます〜〜スズキさんとけもままさんもステージを見に来たのですか〜〜」
「ステージ?」
この世界に来て1ヶ月ほど経過したが初めて聞いた言葉だ。
「うんっ!」
けもままは元気よく返事をする。
ステージの上ではフリルのついたピンクのドレスに身を包んだ獣人の美少女たちがおしりとしっぽを軽快にふりふりしている。
「アイドルか……」
地球では推しのアイドルがいた。それは美少女が大勢出てくるアニメだったり、現実の女の子のグループだったりした。
「アイドルってなに?」
けもままたちは好奇心旺盛なのか、知らない言葉を聞くと反応して学習する。
「ステージの上で歌ったり踊ったりする人のことかな。それで、みんなを元気にするんだよ」
「それは素晴らしいですわね〜〜あの子たちもアイドルと呼べるのかもしれませんわ〜〜」
ぱいぱいちゃんはステージを見つめている。
けもままもダンスに夢中になって興奮していた。
年齢不明の生物だが、外見は10から13歳くらいなのでアイドルに夢中になる年頃だろう。
ステージは地球のアイドルと比べたらずいぶんとのんびりしているというか、おっとりしたテンポのもの。まるで小学校の学芸会のようだった。
ステージに合わせてけもままたちもダンスを始める。ほほえましいものを見ている気持ちになる。
俺は邪魔にならないように後ろの方でけもままたちの踊りを見守っていた。
「わたしたちもステージで踊りたいね!」
「それは良いアイデアですわ〜〜」
しばらくすると、おっさんたちがステージの周辺に集まり出した。スーツを着たおっさんではなくて、赤ちゃんみたいなおっさんたち。
「みんなー!! おじさま優先だから席を譲ってあげてね!!! おじさまにみんなの踊りをみせてあげようね!!!!」
美少女の踊りを見ていた最前列でおっさんたちがはしゃぎ出した。
「かわっ! かわっ!! きゃあっっ!!!」
地球とは真逆だ。おっさんが子ども向けのステージで興奮したら警備員に連れて行かれるのが地球。
でも、この世界ではおっさんが優先されていた。
微笑ましいものを見るかのようにおっさんたちを見守るけもままたち。
俺は複雑な気持ちでその光景を眺めている。
「おじさまも可愛かったね! やっぱりステージはおじさまのものだし!」
「ですわね〜〜」
常識ってなんだろう。それは思い込みとかイメージなんじゃないのか。そんなことを考えさせられたのだった。




