正体
「ふ、ふふふっ……これが1000億年ぶりのおじさまの魂かっ!!! 実に美味っ!!! ああっ、きみの子どもが産みたいよ………!!!!」
ヤヨイの声色が変わった。大人のお姉さんって感じだ。
そのまま、俺はヤヨイに押し倒される。
「イイ!! 実にイイヨっ!!!」
なんというか、発情している感じすらする。ヤヨイはロボットのはずなのにメスのフェロモンが出ているような気がするくらいだ。
「みろっ!! こいつは大天使じゃないっ!!! 魔王だ!!! 天使たちは魔王に騙されているんだっ!!!!」
俺の言葉に、さすがの天使たちも動きを止めた。
「バレてしまっては仕方がない。そうだよ。ワタシは大天使との一騎打ちで相打ちした魔王だ。だが、意識だけは宇宙を漂い、感情エネルギーを食べながらチャンスをうかがっていた。天使たちに復讐をするチャンスをねっ!! 手始めに大天使の意識を乗っ取り、天使たちに命令をすることにしたんだ。ワタシにとって都合の良い宇宙になるようにねっ!!」
天使たちは戸惑っていた。ヤヨイを攻撃すべきなのか、俺たちを攻撃すべきなのかわからないのかもしれない。
「なるほどね……だから宇宙の木は最初から枯れていたのか」
ランの言葉で思い出す。そういえばけもままたちと宇宙の木を見たとき、既に宇宙の木は枯れていた。魔王が感情エネルギーを吸い取っていたからか。
「おっと、ワタシを攻撃しない方がいいぞ。ワタシを殺すということは大天使を殺すことにもつながる。ワタシと大天使の意識は一つになっているからなっ、はーっはっはっはっ!! もういい、天使どももそこの魔王どもも皆殺しにしてくれるわっ!! ワタシにはおじさまさえいればよいのだっ!!」
けもままもランも天使たちも、みんなが、ヤヨイ体から放たれるオーラのようなもので吹き飛ばされた。天使たちは故障して機械の部品を体からさらけ出し、けもままたちはとっさのバリアで防いではいたもののぱいぱいちゃんやふつうの人間の過去の俺やスズキさんは気を失っている。
「みんなっ!?」
無事なのは俺だけ。おっさんの俺だけはこの魔王にとって理想の生殖相手だから攻撃をしなかったのだろう。
「相当な感情エネルギーを蓄えておる……わっちたちが勝つのは難しいかもしれぬな……」
けもままも珍しく弱気だ。感情エネルギーというのはそんなにけもままたちにとって大切なエネルギーなのか。絶体絶命のピンチだ。せっかく、正体が魔王だって突き止めたのに……。くそっ……。
「諦める必要はありませんよ……」
ヤヨイの瞳が輝く。青く光っていた。黒髪だったはずなのに、長い金髪に変わっている。
「ここまで841型を連れてきてくれてありがとう。スズキさん」
母性に満ち溢れた女性の声だ。現実に聖母がいるならこんな感じかもしれない。
「ど、どういうことっ!?」
「841型、あなた方がヤヨイと呼んでいるのは大天使のスペアボディだったのですよ……今、大天使のワタシもまた目覚めました」
ヤヨイの意識の中には大天使と魔王がいる。どうしたらいいんだ?
「あなた方のおかげで大天使であるワタシも力を取り戻しました。今こそ、物理法則を正しましょう!」
大天使になったヤヨイの言葉と共に光の粉が空から降り注ぐ。怪我をしたはずの天使たちは修復されていった。もちろんアイもだ。よかった。アイのことはロボットだけれど、とても心配していたから。
そして、それだけじゃない……天使や魔王が暴れて破壊された街も、怪我をした人々も元に戻っていった。まさに神の奇跡だ。
「そして! ワタシの体の中の魔王よっ! 姿を現しなさいっ!」
ヤヨイの体から黒いモヤのようなものが立ち上る。体を失った意識だけの存在か……なんだか可哀想な気もした。同情するのは変なのかもしれないけれど。
「さあっ! 魔王を討つのですっ!!」
天使たちが一斉にビームを魔王の意識という霧に向かって放とうとする。俺は、なぜだかわからないけれど……無意識のうちに魔王を庇っていた。
「ま、待ってくれ!」
「スズキさんっ! あなたはバカですか? 相手は魔王なのですよっ! 相手は人間たちの感情エネルギーを食べるのですっ!」
「そうかもしれない。けれど……その魔王も昔はごくふつうの獣人少女だったんだ。恋をしたんだろ? それが原因なんだろう?」
俺の言葉に魔王の意識が答える。
「……もういい、それは遥か昔の出来事だ。こうしておじさまに優しくしてもらっただけで十分だよ。もう年貢の納め時なのかもしれないね」




