勇気
「なに、あのバケモノ……」
スズキ(女性)はあまりの恐怖から足を震わせて、立ち上がることもできなくなったようだ。
「とにかく、ここから投げましょう! さあ、早くっ!」
過去の俺をダメな奴だと思っていたけれど一応男らしいところがあったんだな。まあ、そうでなければ俺もけもままを庇ったりはしないか。
「もしかしたら、ランさんたちも私たちのことに気づいているかもしれませんっ!」
あまりの状況に思考が停止して呆然としているお客さんやウェイトレスを無視して、俺たちはお店を出た。まだ何も頼んでないから食い逃げではないだろうなんて……そんな呑気なことを何故か考えていた。
「本当の本当に未来人なんですね。実はまだ心のどこかで疑っていたんです」
「あ、あたしも……。ゲームの世界みたい……」
過去の俺とスズキ(女性)は命の危機にあって、ようやく心を開いてくれたみたいだ。
「アイ、天使は人間を守るものじゃないのか?」
「え、えと、そのはずなんですが……どうなっているのでしょう。こんなことになっても大天使さまも出てきてはくれませんし……」
天使というものは、意外とサボり癖があるのだろうか。ただ、魔王を倒すためならなんでもするという感じではある。
「とにかく、この街から逃げましょう! どこかいい場所はあるかな?」
過去の俺も必死に走っていた。
「なら、あたしの家なんてどうでしょうか……電車で移動するし……」
相手は宇宙レベルで捜索可能なのだから、電車で逃げたところであまり意味がないと思った。だけれど、代案があるわけでもない。羽もなくしてしまったからここから逃げ出すこともできない。
「巻き込んでごめんね……」
俺がそう言うと、スズキ(女性)は何故か顔を赤くした。
「気にしないでください。一生に一度くらい……こんな冒険をしてみたかった気持ちもあるんです」
喫茶店を出て走っていると、すれ違うようにしてパトカーが何台も天使の方へ向かっていった。警察官が天使に余計な刺激をしなければいいけれど。
逃げ出しているのは俺たちだけではない、大勢の人々が駅に向かって逃げていた。ちょうどいいカモフラージュになる。けもままのピンクの髪はどうしても目立つけれどね。それでも魔王になったせいか、ケモミミとしっぽはなくなって、人間と同じ顔になっていた。
「何も逃げなくても、わっちが下っ端の天使ごとき全部返り討ちにしてやるというのに……」
駅前にやっと到着すると、巨大なエキシビションに日本の総理大臣が映し出されていた。
『みなさま、大変なことになりました……信じられないかもしれませんが聞いてください。我々にコンタクトを取っている宇宙外生命体から連絡がありました。彼らは天使と呼ばれる存在です……』
なんだかとんでもないことになっているぞ。総理大臣まで巻き込むのかよ。まあ、天使レベルならアメリカの大統領だって手下にできるんだろうけれど。
『その天使が言うには……地球の日本に住む、W県T市に住む伊藤正義という男性とその仲間である悪魔と魔王を差し出さなければ……日本を滅ぼすと言うのです……』
映像には俺の顔写真が映し出されている。当然、一発でバレるわけだ。なにしろピンク色の髪をした美少女とならんで歩いているんだから、こんなに目立つことはない。
「おい、これって、あいつらなんじゃないか?」
ざわざわと駅前が不穏な空気に包まれる。ただ、そこは平和な国日本だけあって、突然鉄砲で撃たれるとか、集団リンチに合うなんてことはない。それでも人々は警戒するように俺たちを囲んでいた。
「アイっ! 時間停止をつかってくれっ! 大事になる前にっ! それなら、これ以上一般人を巻き込まないで済む」
「わ、わかりました!!」
どうやらアイの力を使うと天使たちに位置がバレるらしい。でも……もしかしたら……仲間のヤヨイやランたちも俺の居場所に気がついてくれるかもしれないっ!




