襲来
アイの瞳が光ると、再び時間が動き始めた。ものすごく不思議な感じがする。停止していた人や車が動き出して、街の喧騒や店内のリラックスするBGMが流れ始めるのだ。
「嬉しいっ! 願いが叶っちゃった! どうしよう!? ねぇ! かわいいっ?」
女性にとって外見は大事だからな。同意を求められている過去の俺は美人に生まれ変わったスズキ(女性)にどう接したらいいか悩んでいるみたいだった。
「あ、でも……これだと家族があたしだって気が付かないかも……」
「大丈夫です。家族の認知にも影響を与えておきました。天使ですから」
まあ、物理法則完全無視できるんだからな。この世界の完全な上位生命体。それが天使だ。
「お客様、メニューが決まりましたか?」
ウェイトレスが席に近づいて微笑んだ。
「わたしはパンケーキが……きゃっ!!」
けもままが言いかけた時、窓の外で大爆発が起こった。地響きがあったかと思うとビルからは灰色の煙が立ち登り、衝撃で車が吹き飛んだのだ。
とっさにアイがみんなの周りにバリアを張った。
過去の俺は情けない奴かと思いきや、体をはってスズキ(女性)の盾にもなっている。俺は俺でけもままのことを抱きよせて守った。
「天使の力を確認……この世界の異分子を排除します」
のんびり地球でのスローライフを楽しみたいのに、天使はそうさせてくれないみたいだ。アイにそっくりな金髪碧眼の美少女が、羽をつけたままこちらに突撃してきた。
「なんでそんなに俺たちを狙うんだよ……関係のない人まで巻き込んで……」
「……我々は魔王からこの世界を守るために動いているのです。ヒトの犠牲などなにも問題ありません」
天使はアイやヤヨイとは違って本当にロボットだ。人々が泣き叫ぼうが眉ひとつ動かさない。
「わたしも戦うっ! 怪我してる子がいっぱいいるもんっ!」
けもままは爪を伸ばして、天使に立ち向かって行った。無茶だ。死んじゃうよ……。
「愚かな獣人よ……」
天使の手のひらからビームが放たれた……俺は、とっさにけもままを庇ってビームを喰らっていた。痛いなんてもんじゃない、感覚がない。痛すぎるとこうなるのか? 体の半分が痺れている感じ。俺の左腕が吹き飛んだ。
「あっ! スズキさんっ!!!」
「まずは一人……」
天使が無機質な声で宣告した。俺、死ぬのか?
「嫌だよっ! スズキさんっ!! わたし、スズキさんのために地球へ来たのに……っ……」
ピンク色だったけもままの瞳が紅くなる。
「うわあああっあっあっぁぁぁぁっ!!!!!」
けもままが大人になった?
幼さを若干残しているものの、大人らしさもある妖艶な微笑みを浮かべてもいた。
「わっちのスズキさんをこんなにした天使よ……許さぬぞ……」
わかる……けもままも魔王になったんだ……。
「なぜ魔王が!?」
初めて天使が動揺した。
「わっちの前から消えろ……」
けもままが軽く天使を押しただけで、天使は隣のビルへと吹き飛んでいった。
「めいっぱい手加減してやったぞ……優しいスズキさんに感謝するんだな……」
良かった、俺以外は無事なんだ。なら、もう、このまま……。
「地球でなら治療できます! スズキさんは地球人なので!」
アイが俺の体に触れると傷がみるみる癒えていく。物理法則を無視してくれてありがとうってやつだな。




